忌雷によって深海棲艦化した妙高が得た高次の力、『ジャミング』の曲解。距離と方位に対しての欺瞞を、生身に齎すことが出来る力である。
以前うみどりを襲撃した『迷彩』の曲解を持つ戦標船改装棲姫に近しい、敵対する者に対して影響を与える力。距離感が狂い、当てたくても当たらないというジレンマ。距離感が狂っているのなら、距離など関係ない砲撃を当てようとすれば、今度は方位を狂わされてあらぬ方向へ飛んでいく。
「もう少し分析するから!」
それに真っ先に気付いた暁は、攻略法を考えるために自分からも砲撃を放つ。見ているだけでは気付けるものも気付けないと考え、その距離感と方位が狂う正体を探し出そうとしていた。
「懲りませんね。わかったとしても、貴女達の攻撃は当たりません」
暁の砲撃は、やはりあらぬ方向へ。暁だって、しっかり狙いを定めて距離も見定めて砲撃を放っている。それなのに、それは見当違いの方に飛んだ。方位欺瞞が暁に働いて、妙高がそこにいるとわかっていても、照準が寸前でブレた。しかもそれが、完全な無意識である。
攻撃の意思に反応して妙高自身がコントロールしているのか、それとも見ている範囲に対して無差別に反応する初期の深雪の煙幕タイプか。まずはそれがわからねば策を立てようが無い
「ごめん、もう少し情報をちょうだい! 分析が──」
「貴女が邪魔をしていることはよくわかっていますよ」
しかし、これだけのことをしているのだ。暁が狙われない理由が無い。妙高もそうだが、そこからさらに火力が高い神威が、下半身に備えた主砲を再装填させていた。
深雪と電の煙幕を邪魔したこの攻撃、一撃一撃に装填と構えが必要ではあるのだが、その際は隙だらけになる。しかし、それを『ジャミング』の曲解によって完全に消し、その砲撃を止めようにも攻撃が当たらない届かないで妨害が一切通らないと来た。
妙高の力は、自らだけでなく、神威も守れてしまっていたため、厄介極まりなかった。当の本人もその力を使いながらウツボ型生体艤装に接続された三連装砲を牽制に放ち続けるのだから、より近付けない。
「特異点も重要ですが、貴女を始末することも優先順位は高いですね。では、ここで死んでください」
誰も妨害出来ず、神威から再び砲撃が放たれた。暁ならば回避は可能ではあるが、深雪と電の時と同様、距離的にどうしても紙一重になってしまう。弾速が通常よりも速いというのが思った以上に厄介であり、妙高の砲撃と共に繰り出されると、その感覚が狂わされるように思えた。
「っぐ……大丈夫よ。まだ喰らってない」
直撃は避けられても紙一重で避けたということはその衝撃を身体に受けたということにもなる。暁は今この戦場にいる中でも小柄な方であるため、ただ避けただけでも身体が軋んだような痛みを感じてしまう。
電はまだ身体を鍛えていたおかげでここまで苦しいことにはならなかったが、暁は
これまでの梅や秋月は、妹達を連れてきていたとはいえ、単体での戦いだった。そのため、わかってしまえば対策もしやすく、全員で集中的に攻撃することで一気に決めることが出来た。
しかし、今回は2人。しかも、妙高の能力が神威すらも守る対象に出来ているのが非常に面倒くさい状態となっている。そして神威は未だにその能力を披露していない。妙高がいれば不要とでも言いたいのか、手に入れた深海棲艦の力を存分に発揮するのみである。
「しぶといですね」
再装填の間は艦載機を発艦。さらには妙高も甲板を持ったために艦載機を発艦し、相当数のそれが暁に襲いかかる。
ここまで来ると、妙高の力だけで自分達は安全であると確信しているかのようだった。
「っざけんな!」
「暁ちゃん!」
それを守ろうと腕を振るったのは深雪。その左腕から煙幕が発生し、暁を包み込む。同時に電の右腕から溢れた煙幕が混じり合い、煙としての性質が変化する。
この煙幕、秋月との戦いで覚醒した、触覚のある煙。暁に向かう攻撃を押し退け、煙なのに壁のように守る。その中の暁には一切影響を与えないという、既に煙とも言えるかわからないモノ。
今回も意図的にではなく、暁のことしか考えずに
暁はそれを自分を守るのではなく妙高の能力の打開策に使ってほしかったのだが、深雪も電もそんなことをするはずが無い。確実に仲間を助けるために行動する。
むしろ、それを咄嗟に出来るから、煙幕にそういう才能が付与されたのだろうと分析した。それが当たっていようが外れていようが、助けられたことには変わりないため、今は一旦考えるのをやめる。
「助かったわ!」
「でも逆に、特異点は無防備ですよ」
暁への艦載機からの攻撃は全てシャットアウトしたかもしれないが、煙幕を暁に使っているため、深雪も電も今は無防備。そこをしっかり見ていた妙高が三連装砲を2人に向ける。
深雪は既に体勢を変えていたが、電は深雪よりもほんの少し後に行動を。
「電、ちょっと我慢してくれ!」
「深雪ちゃ……っ」
それを見ていた深雪は、すぐに缶とタービンをフル回転させてダッシュ。電を優しく抱きかかえると、その場から跳ぶように退避。砲撃が放たれた時にはもうその場からは離れており、辛うじてではなく余裕を持って回避成功。
ここは港なので、最悪の場合、ここから海に降りるという手段もある。艤装を装備しているのだから、海面に立つことだって出来るのだ。だがここは港。工廠のように艦娘が海と陸を行き来するのには若干難がある。あくまでも船のための場所であり、艦娘のための場所では無いからだ。
「逃げ回るのだけはお上手なようで。ですが」
「ですが何よ」
妙高がさらに深雪達に照準を合わせようとした時、神風がもう一度間合いを詰めていた。先程はジャミングにより近付けているようで近付けていなかったため、暁に情報を提供するためにも、本来よりもさらに近付くように数歩踏み込む。
近付きすぎるとウツボ型生体艤装に薙ぎ倒される可能性もあるが、そこは神風も考えており、むしろ
「神風さん、貴女がうみどりの中でも最強格であることは当然理解しています。ですから貴女には、
「そういうことを言うことくらい予想出来たわ。貴女達だけでは深雪を──特異点を始末することが出来ないから、生身でも強い私かフーミィが欲しいんでしょ。誰がそんなの受け入れると思ってるわけ?」
ここで刀を抜いた。強い踏み込みと共に風を起こす居合を放つ。路地で放った時は握っていたのがただの鉄の棒だったが、今は真剣。殺傷力は当然ある、本当の兵器。それで同じことをやった場合、意味合いが大きく変わる。
「っ……流石と言っておきましょうか」
妙高の覆面に小さく傷がついていた。すぐさま修復されてしまうものの、その一撃が妙高に届いたということが重要である。
実際に届いたのは刃ではない。強靭な足腰が艤装のパワーアシストでさらに強化され、神風の技量で風を巻き起こしたことにより、鎌鼬が発生していた。目に見えぬ刃が妙高を襲った結果、ジャミングを突き抜けて僅かに届いたようである。
刀自体はジャミングで届いていなくても、その先から放たれた目に見えない攻撃に対してはジャミングは通用しない。
「……私にはこれが限界かしらね。首を落とすまでは出来ないか」
それがわかっただけでも充分と、即座にバックステップでウツボの攻撃範囲から離れ、再び納刀。居合の構えを貫いた。神風にとってはそれが一番の技。先程の鎌鼬を何度も起こすことが出来るかはわからないし、一度見せてしまっているのだから警戒もされている。二度目は無いと考えつつも、狙えるタイミングがあれば狙う方向で戦いを進める。
「妙高さん、そちらは任せましたよ」
「ええ、神威さんは厄介な暁さんを優先してください」
「了解です」
やはり、特異点の次に厄介なのは暁であるという認識が敵側には広まっているようで、神威は優先的に暁を始末する方向で考えていた。特異点は結局何も出来ない。煙幕は面倒だが、
現在の暁は、煙幕に包まれて簡単な砲撃射撃なら弾くことが出来る状態。その煙幕がどれだけの時間維持されるかはわからずとも、煙幕では弾けないほどの高火力な一撃を叩き込めば、一切関係なく始末出来ると考えた。
「そろそろその煙も邪魔ですからね。吹き飛ばしてしまいましょう」
相変わらずクレーンと剛腕を使い、自らの身体を支えながら砲撃を放つ。眼前で放っているのだから暁だって避けることは出来るが、そうすると群がる艦載機が回避の邪魔をする。
「アカツキ、逃げなよ!」
その回避を助けるのがグレカーレ。暁を始末しようと飛ぶ艦載機がかなりの低空飛行であることをいいことに、剛腕を振り回して蹴散らしていた。最悪、剛腕を使えば多少の耐久性によって壁にもなれる。
実際、ワンパンチ決めるだけでも艦載機は破壊出来る。爆発の余波はどうしても出てしまうが、グレカーレにも自己修復があることもあり、多少なり無茶は出来た。
「ごめん、ありがと!」
「逃がすとお思いで?」
しかし、神威がここで異様な行動を始める。砲撃を放った直後、自らを支えていた剛腕とクレーンで激しく地面を叩いたかと思うと、その衝撃を使って大きく跳躍。ただの一跳びだけで、回避した暁の眼前へと降り立った。
「なっ!?」
「グレカーレさんも我々と同じ力を戴いているのに、何をしているのです。貴女の力は特異点のために使うモノではないでしょう」
そのまま身体をグルリと回し、クレーンと剛腕を思い切り振り回す。神威の剛腕はグレカーレのそれよりも太く頑強であり、それもあってか攻撃力も数段高い。その上クレーンまで同時に繰り出されたのだ。それで殴り飛ばされたら、怪我では済まない。
「こ……のぉ……っ!?」
その一撃は、グレカーレが両方の腕を使って強引に止めた。暁が直撃を受けることはなくとも、グレカーレはまともに受けることになる。
2本の剛腕にヒビが入り、音を立てて破壊された。衝撃で吹き飛ばされたものの、ギリギリ暁を巻き込むことは避けることが出来た。
グレカーレが飛ばされた先は海の方ではなく街の方。地面をゴロゴロと転がされる羽目に遭い、頭も強く打ったせいで意識が朦朧としている程に。ラバースーツのおかげで身体に傷がつくことはなかったものの、ただこれだけで艤装は大破状態。自己修復にも時間がかかるだろう。
「おっと、すぐに退避させてもらいますよ」
「逃がしませんよぉ。暁ちゃんを傷つけようとしましたよねぇ?」
そんな神威に肉迫する綾波。しかし、神威はあろうことかその剛腕に魚雷を握りしめてその突撃を牽制。陸の上だというのに、当たり前のように魚雷をばら撒いた。
爆発したら致命的。しかし神威には自己修復がある。ある程度の数ならば別に問題ないと言わんばかりである。
「暁ちゃん!」
この時、綾波は神威への攻撃よりも暁を守ることを優先した。強靭な足腰を使って無理矢理ステップを踏むと、魚雷が爆発するよりも前に暁を抱きかかえてその場から離れた。
そして、背後で爆発。魚雷数本分の爆発が陸で起きてしまったため、とんでもない音と風が吹き荒れる。
「大丈夫ですね?」
「ええ……綾波は?」
「大丈夫ですよぉ。そんなことで死ぬような鍛え方はしてませんからぁ♪」
爆発の衝撃に押し出されたもの、綾波は小破程度。暁は無傷で済んでいる。これは暁を包む煙幕の効果が、抱きかかえた綾波にも影響を与えていたおかげ。
爆発の衝撃はそのままでも、火力に対してはその質量でどうにか軽減してくれたようである。代わりに、煙幕がこれによって晴れてしまったが。
「妙高さんの力、多分範囲が関係してるわ。あの人の周囲……まだどれくらいかはわからないけれど、その中に入った攻撃……うん、多分妙高さんが
これで暁は『ジャミング』の曲解のおおよその力を分析し終わった。鎌鼬が当たったことから、見えない攻撃はその影響を受けない。グレカーレを殴り飛ばした後すぐに妙高の側に戻ったことから、ある程度妙高の近くにいないとジャミングによって守られない。
それでも危険を冒してまで神威が前に出てきたのは、
しかし、それがわかったところで、どう打開するかはまだ思いついていない。戦力はまだまだいるとはいえ、神威の得た能力はまだ披露されていないくらいなのだ。