暁の分析が進み、妙高の能力、『ジャミング』の曲解の詳細がある程度判明した。妙高を中心としたある程度の範囲、妙高の視認出来る攻撃は全て外れるようになってしまう。逆に言えば、妙高が
その1つが、神風の放った神業、鎌鼬。見えない刃であったため、その頬に傷をつけることに成功したものの、それは既に修復されてしまっていた。さらに、神風のそれはもう警戒されてしまっているため、次に同じことはやらせてもらえないだろう。神風を近付かせること自体をさせないようにしつつ、そもそものジャミングが強まれば鎌鼬も届かなくなる。その辺りの制御が出来るかもまだわからないが。
「見えない攻撃なんて言われてもな……っ」
相変わらず妙高に狙われ続ける深雪は、この暁の分析結果を聞いて、どうしたものかと考えながら砲撃を回避し続ける。
避ければ避けるほど、その流れ弾は修復途中のうみどりに向かっていき、余計な傷をつけていくことになってしまう。深雪としては心苦しいが、しかし今は回避を続ける以外に選択肢はない。
「電達の煙はダメなのです!?」
「多分今は出そうと思ってもただの煙幕になっちまいそうじゃないか?」
「うっ……否定出来ないのです。そんなの出しちゃったら……」
「ああ、あの米野郎は確実にここから逃げるぜ。あたし達の煙幕を頼りにしてな」
視認出来ない攻撃が避けられないのならば、その全ての攻撃が視認出来ないようにしてしまえばいい。それが最もやりやすいのは、煙幕である。こちらの行動が見えなくなるならば、全てが不意打ちになるのだから。
しかしそれはこちらも一緒。あちらの姿が認識出来なくなった途端、攻撃も何もなく、その隙をついて撤退を優先するだろう。米駆逐棲姫のついさっきまでの目的は、この港から複数人のうみどりの艦娘を
「くそ、どうする……っ」
考えながらもチラリとグレカーレの方に目を向けた。先程神威の一撃を受けたことで吹っ飛ばされており、現在朦朧とした意識の中で自己修復を待つ状態。1人でいるのはまずいため、今は川内が護衛についてくれていた。
川内の戦闘力も相当なものなのだが、その力を攻めではなく無防備な味方に使う。攻撃は最大の防御ではあるのだが、妙高の力がある限り、強力な攻めも今は意味がない。川内が
「見えない攻撃……見えない、あっ!」
ここで深雪が思い出した。かつて経験した戦いの中でこの状況を打開出来そうな戦術を。しかし、今ここで出来るかはわからない。故に、攻撃を回避しながら、イヤホンに対して小さく合図を送る。
『戦場は見えている。深雪、どうした』
「小声でも聞こえるか」
『ああ、そいつのマイクは高性能だ。砲撃の音が喧しいが、それでもお前の声くらいは聞こえる』
イヤホンの向こう側にいる保前提督、そしておそらく聞いているであろう伊豆提督などにも、自分が経験した戦いを伝えた。
その案を聞き、さらには暁もその会話に参加させて、今の状況に合っているかを分析してもらう。その深雪の思い出した策が今、この戦いを終わらせるために有効か否か。
猛攻は止まらない。話しながら避けるのは至難の業だ。だが、それをどうにかするために、まだ動けるものがあちら側からの砲撃と艦載機の邪魔立てを食い止める。それが何かいい策だと信じて。
「いろいろとっ、試してやるっぽい!」
ここで夕立は奇策に出る。取り出したのは、洗浄液の詰まった魚雷。サポートのために主砲は装備しているが、それだけでは足りないとこういった高火力の武器も用意していた。
爆発すれば当然周囲が水浸しになる。しかも、爆発する際にその破片が周囲に飛び散り、微々たるモノかもしれないが物理攻撃にもなる。一粒で二度美味しい武器として、かつ夕立自身が得意とするトリックプレー。電との演習でも見せた、魚雷投擲&空中爆破。
「んーっ、ぽいぽいぽーい!」
夕立が魚雷を投げる。その投擲の先は神威──ではなく、最初から神威よりも外れた場所。ノーコンと言われたら否定出来ないような場所。
だが狙いは神威ではない。
故にそこに投げた。妙高の能力の規模が何処まで及んでいるかを確認するため。実際に見るのは暁なのだが、察してくれると信じたのは夕立である。
答えは、夕立の狙い通り、魚雷が射線上に飛んだ。
「余計なことを。その程度で私の砲撃が止められるとでも?」
神威は気にせず砲撃を放つ。当然ながら魚雷は爆発するが、神威の言う通り、その程度で砲撃が食い止められるようなことはない。その高すぎるくらいの火力のせいで、魚雷に詰め込まれていた洗浄液が蒸発してしまうほど。
とはいえ、先に別のモノに当たっているということには変わりなく、砲撃の弾速は少しだけでも落ちていた。そのおかげで、暁は分析を止めることなく、深雪達との相談にも耳を傾けながらでも回避することは可能。
むしろ、神威の砲撃と同時に撃ち返すような芸当までやってのけた。そちらはジャミングのせいであらぬ方向へ飛んでいくのだが、暁の腕前をこの中でも特に信じている綾波が、今の砲撃の
「あらあらあらぁ、見ぃつけちゃいましたぁ♪ 妙高さぁん、貴女の能力、
「ほう?」
「まぁあーんな自分で戦うつもりもないおバカさんの妹に成り下がっている時点で、それが持つ能力も木っ端も木っ端でしょうけど? うふふ、厄介だと思っていましたが、わかっちゃえばこっちのモノですよねぇ」
安い挑発ではあるのだが、量産化による思考の劣化は、このような煽りにも反応してしまう。普通の妙高ならあり得ない苛立ちを見せていた。右目しか見えていなくとも、その感情が非常にわかりやすかった。
綾波はそんな中でも、試してみたいことのために武器が必要だった。今の綾波は近接戦闘用の武器しか持っていない。神風も同様。伊203は裏技的な拳銃を持っていたが、それでは届かない。
ならばサポーター。夕立は主砲と魚雷を持っているがどちらも手放すことは出来ない。グレカーレと白雲は深海の仕様に転化されているために扱えない。そうなると深雪と電になるのだが──
「綾波、コレ使いなさい!」
その前に暁が察していた。深雪と通信での相談をしながらも、恐ろしいほどの視野の広さで綾波が欲するモノに気付き、すぐさま自分の艤装に接続されている主砲をパージ、蹴り飛ばすことで綾波に譲渡した。
本来ならこんな無茶な装備なんて出来やしない。しかし、これは暁だから出来ること。綾波を御するために綾波の欲するモノをすぐに気付くことが出来、自分ではなく綾波にやらせるために、
暁は自ら攻撃することは出来なくなるものの、今は分析に全力を出しているので、そこまでの問題ではない。
「さっすが暁ちゃんですねぇ♪ 綾波がやりたいことをすぐにわかってくれますぅ♪」
その主砲を受け取った瞬間、妖精さんのサポートによってすぐさま自分の装備へと変更。
そして、徐に
「狙ってくださいと言っているような」
「そのジャミング、視覚情報に影響を与える能力ですよね。綾波は、貴女達
さも当然のように背面撃ち。しかも、無茶な体勢なのにもかかわらず、反動なども完璧に抑え込んでの砲撃。
その砲撃は神威に向かって飛んでいく。先程までならば、それはあらぬ方向に向かうはずだった。だが、綾波の砲撃は、神威の顔面に向けて逸れることが無かった。
「っ!?」
妙高の能力に頼り切っていたところもあるが、逸れずに顔面に向かってくる砲撃は、流石に回避を選択せざるを得なかった。
何もかもをやめて回避に専念することで、その砲撃は残念ながら命中しなかったものの、ジャミングが効かない砲撃が放たれたということに意味がある。
これには神威だけでなく妙高も、そしてそれを数歩後ろから見ていた米駆逐棲姫すらも驚いていた。
「これで完璧にわかりましたねぇ。妙高さんの能力のタネが」
綾波が暁に代わって突きつける。
「貴女の周囲の貴女の認めた存在に対する貴女が視認出来る攻撃を逸らすことが出来るのはわかりましたけれど、そもそもその力、空間的なものでは無く、攻撃する側に影響を与える能力ですよねぇ。
妙高のジャミング環境下で攻撃を当てる手段の2つ目が提示された。それが、『見ずに攻撃する』というモノ。綾波としては、意識しながら攻撃すること自体がジャミングの対象になるのだという認識。
故に、背面撃ちという敵を意識していない攻撃を放つことで、今は命中させようとしたのだ。殺気を感じ取るとか、そういったことすらしていない。さっきまでそこにいた程度の認識下で、そこに向けて敵対すら考えず、照準すら合わせずに撃っただけである。
見ながら攻撃したら当たらない。故に、接近戦はまず届かない。神風の鎌鼬は意図して発生させたモノではあるものの、妙高の想定の外から飛んできたために傷をつけることに成功した。
綾波が言うように、この『ジャミング』の曲解、非常に穴が多い。『見えない』攻撃と『見てない』攻撃、この2種類が潜り抜けることが出来る攻撃。
とはいえ、後者が当たり前のように出来るのは、この戦場では綾波の他だと神風くらいしかいないのだが。
「当たりみたいなので、どんどん行かせてもらいますねぇ。神威さん、本気出さないと殺しますよ。早く能力見せてくださいよ。それとも、
言われたことで、神威がピクリと反応する。
「まぁいいです。ちゃんと戦わないと死ぬということだけ肝に銘じておいてください。それとも、充電時間でもあるんですかね。どちらでもいいですけど」
妙高の能力の穴は指摘出来た。このまま行けば勝ち目は見える。しかし、神威の力がまだ見えない。
その力は、この中でもより凶悪な力だからなのだが。