後始末屋の特異点   作:緋寺

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落とし所

 米駆逐棲姫のやってきたことは、極刑に値する程の重罪行為。被害者の数も多く、そのほぼ全てが心に傷を負っているという笑えない状況。街への被害もあるため、お世辞にも減刑には至らない。

 しかし、米駆逐棲姫へと至った経緯は、当人が先生と呼んでいる元提督、阿手による洗脳教育の成果でもある。なるべくしてなったのではなく、なるように仕向けられた被害者でもあった。

 

 そこから考えた伊豆提督の落とし所は──

 

「米駆逐棲姫()()を消して、元の人間に戻す……出来ないかしら」

 

 人間と深海棲艦を別枠として考え、前者は保護、後者は死罪とすること。米駆逐棲姫を人間に戻した時点で、深海棲艦としての存在は消滅。つまりは死罪を執行することになる。残った人間としての当人は、保護観察として洗脳から解き放たれるための生活に移される。

 一部屁理屈は交じっているものの、人間は救う、深海棲艦は殲滅する、罪人には処罰を与えるという段階を全てクリアしていると言えよう。

 

 しかし、それが簡単に出来れば苦労はしない。米駆逐棲姫はカテゴリーY。それが出来れば、今保護されている数人の善良なカテゴリーYの姿も元に戻せることになる。

 これまでいろいろと手を打ってきたものの、これだけはどうしていいかがわからない。伊豆提督も案だけは出したが、それが出来るかどうかは一旦二の次にしている。落とし所を提示しただけにすぎない。

 

「もしそれが出来たなら、刑を執行したとは言えるだろうな。本人は死罪により終了。その被害を受けていた人間は保護される。だがな」

「ハルカ先輩、まず米駆逐棲姫になってる人間が、そこまで反省してるからっつーのもありますよ」

 

 昼目提督の発言通り、大きな問題点はこれである。そもそも米駆逐棲姫はかなり深い洗脳を受けており、自分は落ちこぼれであり、それを救ってもらったという恩義を持っているのだ。それに報いようとここまでの大事を起こしたと言っても過言ではない。

 もし何かしらの手段を使って人間に戻れたとしても、頭の中身までどうにか出来るとは到底思えない。それに、もしその間違いに気づけたとしても、ここにいる面々と同様、罪悪感に押し潰されて何をしでかすかもわからなくなる。安易に治療をすることも実際難しいと言える。

 

「それに、お前のところの艦娘がそれを受け入れられるか? 那珂は大丈夫だろうが、あいつと同じことを全員が全員言えると思うか」

 

 保前提督の話すこれも、避けては通れない道だ。自分達を陥れて、深い心の傷を負った者を、理屈を並べて生かして保護することを許すかどうか。その人間の考え方があちら側から戻ってきておらず、人間の身に戻ったとしてもまだ陥れたことを反省していないようならば、いくら温厚な者であってもいい気分にはならない。

 それでも望みを捨てないのは、言ってしまえば那珂くらい。バケモノと思えるほどのメンタルで無ければ、米駆逐棲姫を許すことなんて到底出来ない。

 

「……正直、難しいと思う。だから、手段として1つ提示しただけ。無理なら……もう極刑とするしかないと思うわ。アタシだって、この街の被害がどれほどのモノかは理解しているし、あまりにも傷が深すぎる」

「ああ、お前は自分とこの艦娘が4人やられてんだ。まずはそっちのことを考えた方がいい。今丹陽が見てくれてるが、相当……酷いらしいぞ」

 

 まだ伊豆提督は目を覚ました梅達の現状を見ていない。神風の看病もあったが、それ以外にもやることが多かったので、そちらに手を貸してくれると名乗りを上げた丹陽に任せることにしていた。伊豆提督としても怖くて見に行けないと思ってしまう。

 

「勿論、後から見に行かせてもらうわ。その時に、丹陽ちゃんともこの件を話すつもり。あの子なら……何かいいアイディアを出してくれるかも知れないし」

「お前とは違う落とし所をか?」

「ええ。私の出した案は、どちらかといえば屁理屈でしょ。最後は多い人数が納得出来るところに落ち着かせたいと思ってる。丹陽ちゃんはそういうところ鋭いから」

 

 本人曰く、年の功。しかしながら、心を見透かしているような物言いは、それだけでは済まない()()がある。今のこの難しい状況だと、頼りたくなるくらいに。

 

 そんなことを話している間、瀬石元帥は保前提督から提供された昨晩の戦闘の実際の映像を確認していた。暁に持たせていたカメラによって録画されたそれは、詳細とまではいかずとも、その戦場で起きたこと、その結末までをしっかりと記録している。

 残っていないのはまさに深海棲艦化する瞬間の映像だけ。実際、戦場で深雪達の目の前で変化したのは梅だけであり、それ以外は既に深海棲艦化が済んでいた。強いて言えば、妙高は川内の前で変化を遂げたようだが、そちらも映像として残してはいない。

 

『この映像を見るに、深雪と電は治療が出来そうに見えるんじゃが』

 

 瀬石元帥がそう言うのもごもっともである。残された映像の中で、梅を除く3人がまさに治療されているのだ。全裸になってしまう弊害はあれど、深海棲艦から艦娘の姿に戻っているのは間違いない。

 しかし、これには簡単にはいそうですとは言えなかった。

 

「特異点の力でどうにかしているらしいんですが……これにはまだ謎が多すぎます」

 

 保前提督がしっかりと説明。まだ実際に治療を施した深雪や電、また治療を受けて元の姿に戻った梅達とキチンと話せているわけではないので、若干憶測が加わっている状況でのわかっていること。

 

「イリスが言うには、治療された者は元に戻っているのではなく、カテゴリーがW……特異点と同じモノになっているらしいんです」

『……ならば、この治療は姿だけをこうされる以前にしているだけ、ということかの』

「そうですね。それが俺は正しいと思います。少なくとも頭の中は艦娘の時に戻っていて、そのせいで罪悪感が酷いことになっているそうです。それに、精密検査をしてみないとわかりませんが、もしかしたら()()()()()()()()()()()()()()()()可能性があります」

 

 純粋種とは同じようで違う、人ではない艦娘。しかも、カテゴリーWということは、深海棲艦の要素も含まれたまま。忌雷のそれ自体は完全に取り払えているわけではないことの証明。

 深雪と電の救いたいという共通の願いを叶えるために、忌雷を取り払うのではなく()()()()()()()()ことで元の姿に戻しているにすぎない。結果として、それは人間に戻っているとは少々言いにくい状況でもある。

 

 カテゴリーCの艦娘達は、この戦いが終わったら人間に戻ることが出来る保障があった。それがいわゆる、この第三次深海戦争での『解体』という処置。艦娘であることを辞め、一般社会に戻ることを表す。その姿形も、艦娘になる前にある程度は戻せるため、特異な目で見られることもない。しかし、当然機密を知っている者であるから、社会に戻ったとしても少々面倒臭いことも起きるため、基本は海軍管理下での解放となる。

 しかし、深雪と電に治療された者達は、それが叶わなくなっている可能性があるのだ。正気を取り戻し、元の姿に戻ったとしても、()()()()()()()()()()()姿()()()()()()ため、解体した後の姿が失われてしまっている可能性が非常に高いのだ。

 結果、戦いが終わったとしても解体が出来ず、一生を艦娘としての姿で過ごす必要がある。それが嫌でも、治しようがない。人間から艦娘になったという情報が上書きされ、カテゴリーKがカテゴリーWにひっくり返ったという情報のみになってしまったから。

 

「それに、深雪ちゃんと電ちゃんが、米駆逐棲姫を治したいと思うかも問題です。あの力は、2人の心に大きく依存していると思われますので」

『ふむ……アレだけのことをやらかした輩を保護するために元に戻すことを拒むかもしれんと』

「はい。あの子達は優しい。でも、優しい分、今回の事件を許せない。割り切ることが出来るかと言われると……」

 

 伊豆提督の言う通り、ここも重要なところ。特異点の2人が、米駆逐棲姫を人間に戻したいと思うかどうか。ここも問題である。ここにいる者は知らないが、2人とも米駆逐棲姫に対して同情はしていた。だが、それを治すか、普通の人間としての生活に戻してやることを是とするかは別問題。

 それにもう一つの難点。2人とも、()()()()()()()()()姿()()()()()()。ひっくり返したところで、どんな姿になるかが見当もつかないのだ。ただ同じ姿のままでカテゴリーだけ変わるなんてことすらあり得る。それは望んでいない結末だ。米駆逐棲姫が消えるという極刑の執行が出来ていないのだから、治療した挙句に死罪を求刑することになる。

 

「問題点ばかりですよ。そもそも米駆逐棲姫がどういうカタチであの姿になったのかもわかりませんし。忌雷を使われたのか、手術で変えられたのか」

『ふぅむ……それは精密検査をするしか無いのだろうな』

「はい。可能になれば進めるつもりです。うちの冬月がやる気満々ですので」

『君のところの定係工作艦は、何処かネジが外れておらんか』

 

 保前提督は苦笑するしかなかった。

 

「ともかく、調査を進めない限り先には進めません。阿手のこともそうですが、直近は被害者達のメンタルケアが優先ですかね」

『うむ、そうしてくれ。米駆逐棲姫を裁く時は、大本営の全員に召集をかける。今回起きた全てのことを伝えてもらうが、よかったかな?』

「大丈夫です、そのつもりでしたので。ここで何が起きたのか、関係者にしっかり知ってもらいたいですから」

 

 完全な決着はつかなかったが、言いたいことは言えたと、瀬石元帥との通信はここで終わる。

 執務室に残った伊豆提督と昼目提督は、そのあと深々と溜息を吐く保前提督に同情した。軍港都市の揉め事の責任を取ることはとても大きなこと。心労も凄まじい。それを一手に引き受けているのだから、労いくらいはしたくなる。

 

「トシちゃん、今晩くらい息を抜いたら? 奢るわよ?」

「いいっスね。美味いモン食って、言いたいこと言いましょうぜ、トシパイセン」

 

 未だに仕事が多いことはわかっているが、張り詰めすぎると心が壊れかねない。だからこそ、こうやって提督仲間、いや、友人と心休まる時間を作ることもアリ。

 提督だって人間だ。偶には休まねば先に進むことは出来ないだろう。

 

「……そうだな、今日くらいは呑ませてもらおう。後から能代にも話しておく」

「そうね、そうしておきなさいな。能代ちゃんだって付き合わせてもいいのよ? お疲れでしょ」

「そう……だろうな。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぞ」

 

 この日の夜は、提督全員で外で呑むということで決まった。誰もそれを咎める者なんていない。その疲労については理解しているのだから。艦娘達だけでも、今ならば充分に運用できる。

 

 

 

 

「そういう時に限ってまた侵入者が入り込んでるとか無いわよね……」

「ハルカ、フラグ立てんな。俺はもう嫌だぞ」

「トシパイセン、お疲れ様っス」

 




ネタバレ:流石にもう戦いは起きない
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