後始末屋の特異点   作:緋寺

428 / 1160
無意識な無理

 大半の艦娘が療養中ということで、深雪達は少しだけ自由に動けるようになっている。しかし、艦娘がそれだけいないということは、軍港都市の見回りや、鎮守府防衛のための人員もほとんどいないということに他ならない。よって、そのどちらかに身を置こうと考えた。

 軍港都市の見回りに関しては、丸一日の休養によって復調した暁と綾波が人一倍回ることによってある程度はカバーするつもりの様子。他にもいないわけではないため、一応の人員確保は出来ていた。そのため、深雪達は鎮守府防衛と称した待機を命じられることになる。

 

 本当は深雪達にも軍港都市の見回り、ある程度の息抜きをしてもらいたいというのがあるのだが、被害者が鎮守府から自宅へと戻っていることを考えると、深雪という特異点を目にすることによってショックを受けるかもしれない。市民への配慮のためにこうなっている。

 

「本当は、深雪に対しての配慮を一番にしてやりたい。戦いの時から我慢させ続けているだろう」

 

 保前提督も常々申し訳なさそうに説明する。相変わらず一番の被害者なのに今もまだ他者のために割を食っているのは深雪だ。あまりにも理不尽である。

 

 しかし、既に被害者から文句が出たということもあるため、深雪を特異点と認識出来てしまっている者がその姿を見た場合、悲しむどころか『()()()()()()』と逆恨みを起こす者も出てくる可能性がある。被害者意識がどうしても膨らんでしまい、それを救えなかった者に八つ当たりをする者というのは一定数いるのだ。

 そうなってしまったら、一番ショックを受けるのは深雪だ。ただでさえ妹にされた者は脳死状態で特異点のせいでこうなったと言い続けてきた。それをそんなことはないと証明してくれた面々がいたからこそ深雪はまだ平然としていられるようになったが、事件が終わった軍港都市で、その被害者からそんなことを言われたら、流石に心が折れる。

 

 被害者に特異点は刺激が強すぎるのと同じで、今の被害者は深雪にとっても刺激が強すぎた。

 勿論、そんなことを深雪に言う輩は周りから咎められるだろう。深雪はみんなを救うために尽力してくれた。忌雷に蝕まれた者ですら治療してのけた。だとしても、被害者にとっては『そんなこと知らない』の一言で済ませることが出来てしまう。

 当然、みんながみんなそんなことを言うわけではない。10人いたら1人いるかいないかかもしれない。とはいえ、その1人の言葉は深雪に対して回避不能の刃を突きつける。

 

「わかってるよ。あたしだって自分からそこに飛び込もうなんて思っちゃいないさ」

「……すまない。人間ってのは、()()()()生き物なんだ」

「大丈夫大丈夫。あたしだっていろいろとわかってきたつもりだから。そうやって忠告してもらえるだけでも充分だってさ」

 

 心配してもらえていることに感謝しながら、深雪は保前提督の言う通り鎮守府待機の任につくことを是とした。

 そもそも上官からの指示なのだから文句の言いようが無いのだが、深雪は嫌々ではなく、その真意も理解した上で、その指示を快く受け入れている。

 

「あたしだって嫌な思いしたけどさ、他のみんなは実際に身体まで変えられてんだ。言われただけのあたしよりキツイだろ。だったら、やっぱそっちをまず優先してくれりゃあいいよ」

 

 ニカッと笑ってサムズアップ。そんな深雪に、保前提督には精神的な疲労が少しずつ蓄積されているようにも見えた。

 

 表情からは悲観も何も感じられない。深雪は本気で発言通りの感情、自分以外の被害者を優先してくれればいいと思っている。だからその笑顔は本物だ。

 しかし、無意識に我慢を続けていることで、嫌でもストレスは溜まっている。自覚が無いだけで、その心は悲鳴を上げていると言えよう。

 

「とりあえず、セレスに甘いモンでも貰ってくるかな。なんか食いに行こうぜー」

「な、なのです!」

 

 深雪が電と食堂に向かうのを見て、グレカーレと白雲は2人を先に行かせて保前提督と話をするために残った。

 

「ミユキ、空元気な感じするよね」

「はい……我々には心配させまいと、気丈に振る舞っておられるかと」

 

 2人とも、深雪のそれには気付いている。勿論、深雪の隣にいる電も、口に出さないだけで把握している。

 

「あたし達がひとまず見ておくから、心配しなくていいよ」

「提督様は、己の出来ることをお願い致します。お姉様のことは我々にお任せを」

「頼んだ。身近なお前達の方がよくわかるだろ」

 

 それがベストであると保前提督も納得し、深雪には深雪に最も詳しい者に任せることにした。白雲が言う通り、保前提督にはまだまだやることが多い。そちらに専念してもらわねば、事後処理も終わらない。

 

「何かあったら、俺かハルカに伝えてくれ。俺は執務室、ハルカは動き回っているだろうが、大概は艦娘のメンタルケアで顔を合わせることもしやすいはずだ。忠犬は徹夜作業の疲れで寝てるだろうから、今はそっとしといてやってくれ」

「あーい、それじゃあシラクモ」

「行きましょうか」

 

 深雪の精神的な疲労は簡単には失われないだろう。だからこそ、仲間が支えなければならない。グレカーレも白雲も、勿論電も、そのケアに全力を尽くすつもりだ。

 

 

 

 

 治療を受けた者はほぼ全員が自室に篭っている状態。しかし、1人でいさせるのは不安ということで、2人から4人で集められている。

 秋月のように死を望むような言動をした者もいないわけでは無かった。罪の意識に苛まれ、今も泣いている者もいる。そんな者達を1人にした場合、最悪の結末は容易に予想出来た。

 

「すげぇ量作ってんな」

 

 食堂では、そんな被害者達の気持ちを少しでも落ち着かせようと、甘味という最もわかりやすい手段を準備していた。

 その主導者は勿論セレス。そして、軍港鎮守府の食堂を仰せつかっている給糧艦、間宮と伊良湖である。

 

「全員ガ満足出来ルクライニハ用意スルツモリヨ。大量生産デモ味ガブレナイモノヲ目標ニシテイルノ」

 

 相変わらずセレスの目指しているところは凄まじい高み。あらゆる食に関することを実際にやってみて、その全てを吸収していく。

 手伝っている間宮と伊良湖も、このセレスの熱意には驚きを通り越して笑いまで起きており、ここまでするのならば全力で応援し、手を貸そうと思えるほど。ツノが見えなくなっていることもあり、セレスが深海棲艦であることを忘れてしまっているレベルだった。

 

「ミンナ、味見シテモイイワヨ」

「お、じゃあ貰うぜ」

 

 3人がかりで大量生産しているのは、心身共に疲労を取ろうという気持ちが見えている甘味、マカロン。1人3つくらいを目安に、どれもこれもが均等に作られていた。カタチも殆ど差異が無く、それこそ既製品ではないかと思えるほどの精度。

 

「美味っ。ホントにセレスの作ったのは全部美味いな」

「なのです。本当に美味しいのです」

 

 味見として摘んだそれを口に放り込んだ深雪と電は、その甘さに顔を綻ばせる。

 

「疲レテイル時ハ、ヤッパリ甘イモノナノヨ。食ベスギハ良クナイケレド、コレクライナラ丁度イイデショウ?」

「確かに、3つくらいが丁度いいかも」

()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり、セレスは深雪が疲れていると看破している。見た目ではそこまで変わらずとも、心が疲れていることをしっかりと見て理解している。

 

「あたしに……か?」

「エエ。私ダッテ、貴女ガココマデニ受ケテキタ仕打チハ聞イテイルワ。ソレガ、1日ヤ2日デドウニカ出来ルモノデモナイコトクライワカルモノ」

 

 間宮と伊良湖と共に、作ったマカロンを仲間達に手渡せるように梱包していきながら、深雪に対しての考えを包み隠さず伝える。

 深雪が受けた仕打ちは、誰がどう聞いても同情しか出来ないことだ。気丈に振る舞っていても、心はゆっくりと確実に蝕まれ、空元気を出し続けても無理が祟って壊れていくのがオチ。それをまず自覚するべき。

 

「……あたし、そんなに無理してるような見えるか?」

 

 深雪の問いに、ほぼノータイムで頭を縦に振る仲間達。電ですら、深雪の無意識な無理をもう隠すことはしなかった。

 

「そんなつもりは無かったんだけどな」

「ミユキはさぁ、なんだかんだ鬱憤晴らしてないでしょ」

 

 それを知っているグレカーレは、それを知らない者がいても容赦なく、少しボカしつつも話す。辛い時は泣き叫んで発散するようなことをしてもいいと。

 しかし、この戦いの後、深雪は未だにそんなことが出来る時間が取れていない。周りに迷惑をかけてしまうと思ったか、それとも今こういう時だからこそ弱みを見せたくないと思ったか、とにかくストレスは溜め続けている。

 

「……電達がいるから発散出来ないのです?」

 

 そんな電の言葉に、深雪は慌ててそんなことはないと話す。事実、自分にストレスが溜まっているとは思っていなかったわけで、今だって疲労感が残っているわけでもない。

 しかし、心の疲れというのは自覚が難しい。深雪が思っている以上に、周りにはそれが一目でわかるほどになっていた。海賊船の戦いの後みたいに、明らかに表情や態度に出ているわけではないのが余計に厄介ではあるのだが、しかし見る者が見れば確実に疲れていると言えるくらいにはなっている。

 

「お姉様、白雲から見ても、お姉様は心がお疲れだと思います。これまでの彼奴等の所業に心を痛めていることはわかっております故、何処かで大きく発散した方がよろしいかと存じます。何をしても、誰も咎めませぬ。無論、白雲もお姉様が何をしたところで、幻滅など致しませぬ」

 

 白雲もここまで来たら心配を顔に出して訴える。深雪には無理をしてもらいたくない。それに、この状況に文句を言う権利が一番あるのは深雪だ。

 

「それじゃあ、ミユキ。ちょっと動いて発散しない?」

 

 そんな深雪に、グレカーレが1つ提案する。

 

「思い切り暴れてさ、ストレスを発散しようよ」

「暴れる……ってお前、今のこの状況で何をしろってんだよ」

「そりゃあもう、()()()()()

 

 そんな言葉を聞いて、深雪は訝しげな表情を浮かべる。

 

「あたし、相手するよ? なんだかんだミユキとはまだやりあえてないからね。偶にはガチで殴り合いとかした方が」

「いや、お前は流石に殴りづらいんだが。敏感肌とか言ってるような奴だし、それに……まぁ、ほら、結構気ぃ遣ってくれるだろ。正直、なぁ」

「えー、あたしのこと考えてくれてるの? やっさしー♪」

 

 冷やかすように戯けるが、グレカーレは深雪の気遣いに少しキュンと来ている。深雪は電とくっついてくれるのが一番だと思いつつ、ちょっと自分の方も向いてくれているのは嬉しい。

 

「それに、やらなくてもいい喧嘩はやる必要無ぇよ」

「なのです。喧嘩なんて痛いだけなのです」

「でも心が痛いより身体が痛い方が楽だよ。()()()()

 

 だとしても、と深雪が言い返そうとした時、食堂に入ってくる者がいた。今のこの話が聞こえていたのか、ククと笑みを浮かべて、都合がいいと前に出る。

 

 

 

 

「じゃあ、あたいとやろうぜ、ミユキ。Revenge matchだ」

 

 スキャンプが、深雪に再戦を挑む。傍には丁型海防艦がいたものの、その眼光は鋭かった。

 




確実な精神的疲労を溜め続けている深雪の鬱憤晴らしをしてくれるのは、やはり一度やり合っているスキャンプでしょう。時雨でも良かったけれど、あちらはあちらでやることがある。スキャンプもあるけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。