後始末屋の特異点   作:緋寺

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厄介な問題

 時間は夜に差し掛かろうと行ったところへ。夕食時となり、深雪達は食堂に向かう。ちょうどこのタイミングで、神風を師事しトレーニングを受けている白雲とグレカーレも合流。廊下で合流したため、制服に着替えることもなく、トレーニングウェアのままというのは、なかなかに新鮮である。

 

「申し訳ございませんお姉様。一度戻る(いとま)もなく、このような姿で」

「謝る必要なんてないだろ。今まで鍛えてたってことだもんな」

「はい、神風様に鍛えていただいております。お姉様と電様を守れるよう、精進しとうございます」

 

 白雲は別行動をとっていたものの、別にそれを深雪に隠す必要がないため、素直にやっていたことを話した。

 神風に鍛えてもらうというのは初耳だったため、深雪も電もそんなことを始めたのかと驚く。しかし、白雲の決意は固く、かつ今の時間までその格好で深雪達から離れていたのだから、神風も鍛えてあげようという気持ちがあることがわかる。

 

「そっか。あたしと電を守るため……っつってるけど」

「はい。お姉様の心の安寧は、電様のお役目。ならば白雲は、その安寧を守るために、今以上に鍛え、その御身を守護しようと思い至ったのです。無論、()()()()()()()()()()()()。自らの身を守ることも視野に入れております故、ご安心を」

 

 それは神風からも言われていること。深雪と電を守りたいという気持ちは汲むが、命懸けで守り、その命を落としたとなれば、深雪も電も精神的に大きすぎるダメージを受けてしまう。それは白雲も避けたいことだろう。

 そこから出たのが、身体は張れども命は張らず。死ぬことなく、全員無事に戦いを終わらせることこそが使命として、自身を守り、仲間を守るための鍛錬としていた。

 

「あたしもシラクモと一緒にやってっからさ、無茶な方向に行こうとしたら、ちゃんと軌道修正するから安心していーよ」

 

 グレカーレも一緒にやっていると聞いて、そちらも驚いてしまった。流石にグレカーレ自身から危機感を持ったからと語られることはないが、お目付役として少しの間は白雲と共に行動すると伝えた。

 自分達は鍛えているから絶対別行動というわけではなく、気が向いたら見に来てくれてもいいと付け加えて。

 

 深雪も電も、特異点として今より強くなれるならなっておきたいとは思っているところだ。メインは精神的なところだが、当然身体的にも強くなっておきたい。単純な膂力も、戦術的な部分も。

 軍港都市から離れ、後始末屋に戻ったとしても、戦いはまだ続くだろう。それを乗り越えるためには、まだまだ足りない部分が多い。精神的な成長を遂げたならば、次は身体である。

 

「じゃあ、また見させてくれ。あたしも鍛えたいし」

「電もなのです。せめて基礎の部分だけでももう少し強くなりたいのです」

 

 健全なる精神は、健全なる身体に宿る。心を強くするためには、身体も強くしておきたい。白雲のように神風から技まで教えてもらうようなことはなくとも、神風直伝の鍛錬をすることが出来れば、また基礎を伸ばすことも出来よう。

 これもまた、メンタルトレーニングの一環として2人は望んだ。白雲やグレカーレもそこに参加しているのならやりやすいというものである。

 

 

 

 

 4人は揃って食堂へ。昼まではどうしても療養中で外に出ることが出来なかった者達も、深雪に対して感謝の言葉を贈ることが出来たおかげで、ちょくちょくと食堂に集まりつつあった。

 深雪達が食堂に入ると、実際に代表としてその気持ちを伝えた長門を筆頭に、次々と顔を合わせては言葉を交わしていく。何気ない日常的な会話であり、過去を振り返らず今を見据えている言葉は、それだけでも以前までの関係に戻れたと実感出来る瞬間である。

 

 とはいえ、まだまだ全員が揃っているわけではない。既に名前が挙がっている酒匂と伊26、その2人を宥める者達は、どうしても食堂には来ることが出来ていない。

 そこへは、既にセレスが食事を運んでいた。一緒に食べることが出来ずとも、同じモノを食べることが出来れば、仲間意識は失われないはずだと。間宮と伊良湖もそのやり方に賛同し、カートまで使ってしっかり完璧な状態で運んでいる。

 

「やっぱり、みんなでワイワイ食べると美味さも変わる気がするぜ」

「なのです。賑やかだと美味しいモノがもっと美味しく感じるのです」

 

 少しでもいつもの感覚が味わえているおかげで、深雪も電も表情は明るい。気にしていることはあっても、そればかりではないことを実感する。

 ここで食べている者達も、悲観的な表情はしていない。久しぶりの大人数の食事に、こうなる前を思い出しながら、前を向こうと決意出来た。

 

「疲れた身体に染み渡るねぇ」

「まこと、セレス様の食事は美味しゅうございます。神風様より課せられる鍛錬の疲れが、嘘のように消えていく感覚」

「ホントね。でも、カミカゼはまだ甘くやってくれてる方だと思うよ。ぶっ倒れてないもん」

 

 白雲とグレカーレは、一緒に神風を師事しただけあり、この短期間でもこれまで以上に仲良くなっているように見えた。話題はついさっきまでやっていたトレーニングのことになるのだが、共通の話題で盛り上がっているところを見ると、仲の良さがわかるというもの。

 

「スタミナのトレーニングなら那珂ちゃんのアイドル活動がオススメだぜ。何せ、あたしは初っ端にやってぶっ倒れたからな」

「なんと、そのようなことが」

「でも、そのおかげでいろいろ出来るようになったしな。あとあの足捌きは馬鹿に出来ねぇんだ。戦闘にも役に立つしさ」

「あー、アレね。確かにアレはめっちゃくちゃハードだけど、やる価値はあるんだよねぇ」

 

 こんな世間話も、前にしたのが遠い昔のように思えてしまう。全員のメンタルが崩されている証拠である。

 

 

 

 

 だが、気分良く一日が終わるかと言われれば、そうではない。当然ながら先に進めるためにはここで話をしなくてはならないこともある。

 今は食堂が大人数集まれる最適な場所。何か意見を募るのならば、ここで話すのが一番適している。

 

「美味しい食事を戴いた後にこんな話をしなくちゃいけなくなるのは本当に申し訳ないのだけれど、ここでみんなに聞いておきたいことがあるの。だから、ここで話をさせてもらうわ」

 

 何人かは姿を現すことが出来ていないものの、おおよそ意見が聞ける者がここにいるということで、ついにあの話を切り出すことになる。

 

「米駆逐棲姫の処遇について、みんなに意見をもらいたい」

 

 米駆逐棲姫という名前が出た瞬間、食堂の中は一気に静まり返った。ある者には恐怖を、ある者には怒りを、ある者には悲しみを呼び起こす名前。少なくとも正の感情には結び付かない。

 

 ここから話されるのは、米駆逐棲姫の境遇。那珂が聞き出した、そうなってしまった経緯。本人が望んでああなったのではなく、意図して落ちこぼれに扱われ、世界に対しての悲観と憎悪を植え付けられてからの洗脳教育。

 本来ならばそんなことがあってはならない、人心掌握によって生み出された悲しい手駒。そしてそうされていることに本人が気付いてもいないという歪み。

 

「実際に被害を受けているアナタ達の気持ちを、真に汲み取ってあげることは、アタシには難しいこと。今だって辛い思い、悔しい思いをしているとは思うけど、それを理解することは出来ていないと思う。それでも、米駆逐棲姫への処遇は、いくつか提案したいことがあるの」

 

 伊豆提督から話される処遇の案は、1つだけではない。

 

 1つ目はやはり極刑。境遇はどうであれ、やったことがやったことである。何人もの被害者を出し、心に消えない傷を負わされた者もここにいる者も含めて数多くいる。洗脳されていたからやりましたということから裁きを逃れるなんてことは許されない。

 故に、米駆逐棲姫は従来通り、死罪として命を以て償わせる。深海棲艦なのだから、これまでのカテゴリーYと同様、戦闘で命を奪うようにここで命を奪う。これまでやってきたことなのだから、苦もない。

 

 2つ目は同情によって極刑を免れさせること。今でこそそういう考え方をしているが、それ自体が敵の思惑であるために、米駆逐棲姫も被害者であるとして、罪には問うが極刑までは行かないのではないかという考え。許されないことをしているが、精神的に考えれば罪は大元にあるのであって、彼女にはないとする。

 しかし、これは1つ大きな問題点がある。『量産』の曲解をそのまま残すことになるのだ。米駆逐棲姫がしっかりと改心したとしても、その能力があるだけで脅威はつきまとう。

 

 そして3つ目。これが一番出来そうで出来ない困難な道。米駆逐棲姫を深海棲艦から人間へと戻し、能力だけを奪い、人間として真っ当な道を歩かせる。罪は罪ではあるが、死を与えるのでは無く、更生させる方向で進める。

 当然ながらこれにはまず、どうやって人間に戻すかというところがついて回る。今それが可能なのは、深雪と電が挟んでひっくり返すくらいではあるのだが、本当にそれでいいのかはわからない。そのため、やるならば冬月達の健闘に期待するしかない。

 

 提示された3つの道。これを、提督陣だけでは決定することが出来なかった。どの道を選んでも、何かがよろしくない。

 

「アタシ達だけでは決めきれない。提督がこんなことを言うのは本当に申し訳ないと思ってる。でも、さっき言った通り、本当に被害を受けたアナタ達の思いも汲み取りたいの。加害者より被害者に寄り添うのが当然だもの」

 

 それだけは絶対だと念を押した。とはいえ、これは多数決で決めるとか、誰かが一方的に決めるとか、そういうことは出来ない話。

 

「1つ、質問をさせてもらえるか」

 

 そんな伊豆提督に、長門が挙手をして問う。

 

「この事件の一番の被害者であろう特異点──深雪はどう思っているかを知りたい」

 

 その言葉に、全員の視線が深雪に向いた。そんなことをされたら流石に驚いてビクッと震える。

 その答えによっては、全員の考え方がそれに寄ってしまう可能性もあるため、非常に重要な場面になってしまった。

 

 だが、今の深雪は精神的にも成長している。ストレスを溜めないため、無遠慮に口を開いた。

 

「あたしだって迷ってる。クソみたいなことをされて、何もしてないのに全部あたしのせいだって言われて、今までにないくらい腹が立った。みんながやられた時に泣きそうなくらい苦しかった。でも、あいつ自体も真のクソの被害者だって知ったら、嫌でも同情しちまった」

 

 淡々と、しかし見えないところで拳を握りしめて話す。その手は電が手を添えて、落ち着けるように尽力。

 

「死んでほしいくらい憎いけど、ただ殺すのは何か間違ってる気もしてるんだ。だからといって、そのまま生かすのも違う。あいつはまだ、本当の世界を知らない。普通に生きてりゃ絶対知ってるはずのモノを、全部奪われたせいでああなっちまってる」

 

 深雪から言えるのはそんなことくらい。感情論を極力取っ払いたいのだが、憎悪と同情が入り交じって、非常に厄介な感情に繋がっている。

 

「だから、あたしとしては、やれるなら3つ目を選びたい。悪いことをした()()()()()()()()()()()は殺す。でも、何も知らない()()()()()()()()()は生かして、本当の世界を教えてやる。一番難しい道だとは思うけど、あたしとしては納得出来るとは思ってる。思ってるんだけど……それを正しいとは思わない。だって、あたしはみんなの気持ちが全部わかってるわけじゃないんだから」

 

 深雪自身が洗脳を受けていたら、間違いなく極刑一択だった。だが、それがない状態での精神的苦痛を受けただけだから、憎悪一辺倒にはなりきれなかった。

 

「あたしの意見はこれだけど、みんなの意見は当然尊重するよ。あと、ぶっちゃけ一番の被害者はあたしじゃない。多分保前司令だよ。なんだかんだで実害無いし。だからさ、参考にしてくれてもいいけど、参考にするだけにしてほしい。あたしの言葉に引っ張られるとかやめてくれ。あたしはさ……みんなと対等にいたいだけなんだから」

 

 深雪からはこれで終わる。その質問をした長門は一言、ありがとうと、全員に聞こえる声量で締めた。

 

 

 

 

 非常に難しい問題に直面した艦娘達。どの選択をしたとしても、大きなデメリットがついて回る今回の問題に、どのような答えを出すのか。

 




提示された3つの選択肢。深雪は深海棲艦化を治療してこの世界を学ばせると言っているけれど、どれが正しいのかはわからない。というか正しいなんてあるのか。


明日4/30は、所用によってお休みさせていただきます。今作3回目のお休みですがご了承ください。いろんなイベントの抽選に悉く当選してくれるので、GWの旅行を堪能します。
再開は5/1となります。感想への返信も遅くなるかと思いますので、ご了承ください。
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