後始末屋の特異点   作:緋寺

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どの道に向かうか

 現在、軍港鎮守府の懲罰房に捕らえられている事件の主犯、米駆逐棲姫。その処遇について、提督陣だけでは結論が出せなくなってしまったため、実際に被害を受けている艦娘達も交えて、今ある3つの案を伝えてそれに意見を貰う方向で進めていた。

 

 1つ目、米駆逐棲姫のやらかしたことはあまりにも大きいため、本来のやり方に則り始末、すなわち極刑。

 2つ目、裏側に更なる元凶がいることがわかり、米駆逐棲姫自身も被害者であることが判明したため、罪を償わせるために生かす。

 3つ目、罪を持つのは米駆逐棲姫であり、素材にされている人間ではないとし、深海棲艦と人間を分離させることで死と生を両方与える。

 

 どれもこれもメリットとデメリットがあるその案は、確かに決定するには難易度が高かった。食堂でその話を聞いた誰もが、どれがいいかを悩んでしまっていた。

 

「電は、深雪ちゃんの意見に賛成するのです。やっぱり、救える命なら救いたいと思うのです」

「あたしの言葉に縛られるなよ?」

「自分で考えた結果なのです。深雪ちゃんを一旦置いておいたとしても、電はお米さんにはこの世界を正しく知ってもらいたいと思うのです」

 

 深雪が長門に促されて語ったのは、3つ目の案、深海棲艦の力を奪い、人間として改めてこの世界を知ってもらうこと。加害者である米駆逐棲姫は始末、被害者である人間は救うという折衷案。

 電は、救えるモノがあるのなら、出来ることならば救いたいと考えている。米駆逐棲姫がやったことは許せないことであるため、極刑でも仕方ないと電も思っていたものの、そういうカタチで救えるのならば、是非ともそれを推したい。

 だが、その時深雪が言っていた通り、電のその意見も、自分がそう思っているというだけで、誰かを縛り付けようとは思っていない。電も心を痛めたが、仲間達のように実害があったわけではないのだから。

 

「難しいところだよねぇ確かに。こんだけのことやっておいてさ、実はあのお米も巻き込まれただけの先導者で、本当はその後ろ側にいた姿もわからない誰かさんが指示してたってことだもんね」

 

 グレカーレも今回の話はなかなか答えが出ないと天を仰いだ。誰もが納得する答えなんておそらく無い。誰かがある程度譲歩しないと進めない。共通の敵が後ろにいるのがわかっていても、すぐそこに()()()がいるのならば、まずはそれをどうにかしないといけないのだから。

 直接手を出された者、例えば梅や秋月ならどう考えるか。他の者よりも恨みは強いだろうから、3つ目より1つ目を選ぶ可能性はあるだろう。むしろ私怨も含めて、そうする可能性が高いとすら感じる。

 

「白雲は……お姉様の意思は尊重いたします」

「だから縛られてほしくないんだって」

「しかし、彼奴に対しての白雲の持つ感情は、お姉様の侮辱と冒涜が許せないということのみ。無論、仲間が侮辱されたことに対しても憤りを感じておりますが、今回白雲が重く見ているところはそこなのです。ですので、お姉様が彼奴をどうしたいかが、白雲にとって最も重要なのです」

 

 白雲は自分の意思を以て深雪と同じ選択をすると告げる。仲間達も当然含むが、今回の事件の被害者はあくまでも深雪であり、その深雪が米駆逐棲姫を許すというのならば、自分もそれを許そうと考えている。深雪の慈悲に感謝し、(こうべ)を垂れよと。

 無論、そこから米駆逐棲姫がまたやらかしそうならば、姉の許しを得たのにもかかわらず何も反省をしていないと考えて、完膚なきまでに叩き潰すつもりではいる。

 

「……本当に難しい問題だな。あたしにはもう何も出来ねぇや」

「だねぇ。あたしはもう考えるのやーめた。成り行きに任せることにするよ。どれだけ考えても、最後は自分の思ってることとは違う展開にもなるかもしれないしね」

 

 グレカーレはついに思考放棄。どんな展開になっても、それを受け入れるしかないのだから、難しいことに頭を捻るのはもう嫌だと投げ出した。

 これが民主主義に則った投票制ならばもっと考えなければならないことだが、最終的な決定は結局提督達の裁量になる。極端なことを言えば、艦娘全員が3つ目の案を推しても、提督が1つ目の案に決定したならば、もう文句は言えないのだ。結局のところ、これが提督と艦娘の立場の違い。責任を取るのも提督なのだから、決定権も提督にある。艦娘の意志を尊重した結果失敗しても、その責任は全て提督のモノ。

 だから誰も文句は言えない。今回のように、艦娘達に意見を求めて、それを加味するという事態も異例中の異例なのだ。

 

「どうなるんだろうな……ハルカちゃん達、今頃頭抱えてるんだよな」

「なのです……胃薬ガブ飲みしていると思うのです」

「マジで心配だよ」

 

 もう自分達のことよりそちらの方が心配になっていた。

 

 

 

 

 今回の提督陣からの相談は、各々が持ち帰って答えるということとなっている。それこそ目安箱のように意見を無記名で投書させて、それを集計しつつ参考にする。

 投書は全員に──カテゴリーYやセレスにも──それをする権利が与えられており、そこには端的にどの案を推すかだけでなく、どうしてそれを選んだかも書いてよい、むしろ推奨する方向で進めている。

 無論、与えられているのは権利であり、強制では無い。嫌なら投票をしなくてもいい。グレカーレのように考えるのをやめたとなっても、誰も文句は言わない。

 

「夕立、君はどうするつもりだい?」

 

 狂犬の妹に聞く時雨は、紙とペンを持って悩んでいた。時雨は洗脳被害者、夕立は救出組。考え方が大きく変わるところであるため、投票する案も変わりそうである。

 しかし、夕立はこの街にそこまでの思い入れがまだ無い。同じ狂犬でも、綾波はこの街に対しての愛が深すぎるくらいなのだが、夕立は今日来たばかりなので怒りを向ける場所が全く違う。

 

「んー、難しいっぽい。夕立は別にあんな奴どうなってもいいっぽい。ぶっ殺しても悲しくも何ともないし」

 

 かなりの暴言ではあるが、そういう考えもあるというのは参考になるところ。何の気持ちもないから、生かそうが殺そうが何も感じない。夕立は表情ひとつ変えずにそういうことが言える。

 

「そう言う時雨は?」

「僕は正直気に入らないよ。あんなのを姉だと思い込まされていたんだからね。人間の悪いところを嫌というほど思い知らされた。だから、どんな過去があろうとも極刑でいいと思ってる」

 

 時雨はまさに被害者なのだから、それだけのことを言っていい権利を持っている。他の被害者にも同じくらいの考えをする者はいるだろう。例えばスキャンプ。

 

「レーベ、君はどうだい?」

「え、ぼ、僕かい?」

 

 話を振られたZ1はビクッと震えた。治療されてからある程度前を向けるようになっており、街での散策と同じように時雨や夕立と共に行動することが多いZ1は、今も2人と一緒に投書用の紙を前に悩んでいた。

 ちなみに、4人組として行動する時の最後の1人、子日は、救護班として酒匂についている。スキャンプに人数は多い方がいいからお前も来てくれと依頼されていたこともある。

 

 Z1も当然被害者。しかも、ギリギリまで米駆逐棲姫の壁として活動していたこともあり、おそらく被害者の中ではトップクラスに米駆逐棲姫の近くにいた者。

 

「……()()()()()()()()()、というのが今の答え、かな」

「わからない、かい?」

「うん。姉さんだと思い込まされていたのは、シグレの言う通り気分がいいものじゃないよ。死んでくれても多分悲しいとは思わない。そもそも僕は長女だから、姉さんと言われても今はピンと来ないし」

 

 元々の恨みが非常に濃かったZ1は、米駆逐棲姫に極刑が科されても、それに対して可哀想だとか同情をすることは無いと語る。また人間という時点で情が湧かない。今でこそ一極化が出来ているが、米駆逐棲姫はその対象側なのだから。むしろ自分の手で殺していいと言われたら、躊躇なくやれるくらいには考えている。

 それでもわからないと言うのは、やはりそのバックボーンを聞いたから。米駆逐棲姫に同情をしたのではなく、そういう存在を作っている真の黒幕がいるというところが引っかかっていた。

 

「生かしておいて、情報を引き出す方がいいんじゃないかい? あれが改心するとは思えないけれど」

「……確かにね。どうせ殺すにしても、話せることは全部話させてから始末したいというのはあるね」

「拷問っぽい? 拷問っぽい?」

 

 夕立が目をぎらつかせたようにも見えたが、時雨はあえて無視をした。

 

「だから、僕は生かすという理由でも2つ目か3つ目に投票するつもり。ミユキが言ってることもあるから、3つ目が一番妥当かなとは思ったけど」

「なるほどね、レーベ、君の言い分はとても筋が通ってる。納得が出来たよ。深雪のことは関係なしにしても、生かしておくことに利がありそうなら、そっちにするという考え方も捨てがたいね」

 

 1つ目の案に投票する気満々だった時雨だが、Z1と話をすることで揺らいでいた。納得の出来る言葉が出たならば、そちらに傾倒するのも間違ったことではない。

 感情で動いているわけではなく、思考で動いているからこその揺れである。艦娘の人間味が嫌というほど出ている瞬間。

 

「……そうなると、途端に悩ましくなるね。怒りも憎しみもある相手を殺す手段も持ち合わせているけど、後のために生かす、か……。しかもそれが、本当に向かいたいところにいけるかもわからない選択肢なわけだし」

「そこ、だよね。僕もそれがちょっと引っかかってて。やってることがやってることだから、情報のために生かすにしても、それがそこにいるだけで気に入らないっていうのもあるよね」

「ああ、僕はどちらかと言えばそちら寄りだ。あんな愚か者のお笑い要員にされた恨みは割と深いよ」

 

 時雨は普通でもお笑い要員だと夕立が突っ込むが、やはり無視である。

 

「まぁ、時間はまだあるんだ。投書は明日の昼までだったね」

「ぽい。うみどりがあと少しで直るから、それまでにって感じっぽい」

「一晩悩むしかないかな。これで眠れなくなるのもいるんじゃないかな」

 

 事実、翌朝に寝不足気味で投書する者もいるのだが、この時には予想くらいしか出来ない。

 

 誰がどの案を選んだとしても、その上で提督達がどの案を結末として選択したとしても、誰も彼も恨みっこなし。自分の案とは違う道となっても文句は言わない言ってはいけない。

 

「よし、それじゃあもう少し悩もう。どれが一番いいと思えるか」

「だね。今日は寝られるかな……」

「別に明日もお休みだから徹夜でもいいっぽい。夕立、トランプでも借りてくるっぽい」

「遊びじゃあないんだけど……まぁ、そういうカタチで息抜きも必要かもしれないね」

 

 この3人はそうやって考えを纏めながら、明日の投書まで過ごすようである。眠くなったら眠ればいい。悩み続けるなら寝なければいい。

 

 

 

 

 このような考え方をする者ばかり。悩みに悩んで、最後の選択に一石を投じる。

 




生かすことにもメリットがある以上、悩みはかなり深いものになるでしょう。そしてハルカちゃんも含めて提督陣は胃薬ガブ飲み。
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