後始末屋の特異点   作:緋寺

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やるべきことは

 米駆逐棲姫を巡る結論を求めて、軍港鎮守府の艦娘達は悩む。提督達ですら結論が出せなかった、納得の行く答えがあるとは思えないこの問題に対して、艦娘がどうにか出来るかと言われたら何とも言えない。

 

「あたしはもう投書してくるぜ。もうみんなの前で考えを話したようなもんだからな」

「なのです。電ももう決まっているので、一緒に行くのです」

「では白雲も。理由もはっきり書かせていただきました」

 

 深雪、電、白雲の3人は、既にどの案を推すかを考えてあったため、悩み続けることもなく、その意見を書いて投書をしに向かった。

 

 意見を受け付けている投書箱は、軍港鎮守府執務室前に設置されていた。そこにはしっかりと受付時間が記載されており、翌日の正午までと決められている。ここまでに投書していなかった場合でも、誰にも咎められない。それだけ難しい問題なのだから、投書出来なくてもおかしいことではない。

 

「あたしは逃げたようなものだねぇ。自分の意見が無いんだからさ」

 

 グレカーレは今はまだ投書しない。むしろ、このまましないつもりである。判断がつかないため、他の者の選択に身を委ねるとして、自身の意見はあえて無しとした。

 決定されたことに対しての文句を言うつもりもない。決めあぐねているのではなく、決めないという選択をした。

 

「いや、仕方ねぇよ。そのためにハルカちゃんは無記名でいいって言ってくれたんだろ。誰が入れなかったかがわからないようにさ」

「多分ね。ホントやっさしーねぇ」

「あたしもそうだし、他のみんなもそうだと思うけど、投書しなかったからって責められるようなことは無ぇよ。今回はそれだけの大事だ」

 

 仮に軍港鎮守府に滞在している投書の権利を持つ全員が投書を放棄したとしても、提督陣は誰も文句なんて言わないだろう。そもそも提督陣だけで決定しなければならないものを、艦娘にも意見を貰いたいと願ったくらいなのだ。提督に決められないものが艦娘が決められるかと言われたら、そんなわけがない。

 

「でもまぁ、まだ時間はあるからね。何かあったら投書するよ。ミユキ達とは違う意見になるかもしれないけど」

「構わねぇって。何度も言うけど、あたしはみんなの前で意見を言うことになっちまったが、その意見で縛りつけるつもりはさらさら無ぇんだから」

 

 それだけは何度も伝えて、投書箱を後にした。

 

 

 

 

 この話は、その時に食堂に来ていなかった者にも既に伝わっていた。

 

「あたいはCapital punishment一択だ。言うまでも無ぇよ」

「きゃぴ……なに?」

「テメェらの言葉で、()()だ。あんなヤツ、ぶち殺しちまえばいい」

 

 酒匂の部屋で語るスキャンプは、思ったことを口にしながら投書のための紙に理由まで含めて自国語でサラサラと書いていく。その言葉の意味がわからずに睦月が聞き返していたようだが、提督陣には英語が読めない者がいないため問題ない。

 

「あたいもそうだが、()()()()()喰らった奴らのことを考えれば、どんなBackboneがあったところで関係無ぇだろ。こっちはずっとこのクソみたいな記憶に悩まされねぇといけねぇのに、あのクソをのうのうと生かしてやる義理なんて何処にも無ぇよ」

 

 自分にも植え付けられてしまっている記憶に怒りを見せながら、スキャンプはそう語る。

 勿論、それが間違いとは誰も言えない。あの事件はそれだけ被害者の心に強く突き刺さってしまっており、いつもならば何が何でも救うと言う者ですら、本当に救うべきなのかと考えさせられてしまうような状況になっている。

 

 最大級の優しさを持つ救護班の面々ですら、スキャンプのその言葉には否定的な意見が出せない。

 今は秋月以外の救護班に属する者が酒匂のために集まっているものの、睦月も子日も、その言葉に考えさせられていた。

 

「……睦月はそれでも、反省してもらえるなら反省してほしいぞよ。死んだらおしまいなのね」

 

 睦月の選択はどちらかといえば3つ目の案。死んでしまったら反省の時間すら与えられない。むしろ、好き勝手にやって何の反省も後悔もなくはいおしまいというのは、どうしても引っかかるものがあった。

 

 睦月は自分の命を繋ぐために、ほとんど選択肢もないまま、否応無く艦娘となった者。命に対しては他の者よりも敏感に反応しているため、どういう理由があれど、どんな存在であれど、その命は尊ぶべきだと思っていた。

 戦争で家族も何もかも失い、自分すら死の淵に立たされたことで生まれたその価値観。そんな思いがあるからこそ、敵でも味方でもなるべく生かしたい。

 

「……反省する気が無いなら、もう終わらせちゃうのも選択なのかなぁ」

 

 対して子日は少しだけ非情な意見を口にした。

 

 子日も睦月と同じで、自分の命を繋ぐために艦娘となった者。しかし、この2人の価値観は、同じ境遇でも別のものである。

 睦月は救う側、これ以上身内を失わないように、仲間の命を尊ぶ方に傾いている。対する子日は、これ以上身内を失わないように、()()()()()()()()()方に傾いていた。

 勿論、救護班という仕事は仲間が大切だからこそ喜んで所属しているし、後始末屋であることと同時に、その仕事に対して誇りも持っている。命を救うことはとても良いことだし、これ以上失いたくないという気持ちから、やる気も人一倍あった。

 だが、根幹にそれがあるからこそ、こういう選択の場面では、こういう非情さも見え隠れした。敵に反省をするつもりがないのだから、このまま置いておいても時間と資源の無駄だと考えるのも間違いでは無い。それがあれば、他にも救いを待つ者を救えるのでは無いかと。

 

 子日は、思った以上に割り切るのが上手い。仲間には親身に。しかし、敵には非情に。

 

「まぁ、誰だって何かしら考えってもんがあるだろ。あたいはアイツの命に何の興味も無ぇ。生かしておく価値があるかって言われりゃ、ぶっちゃけ無ぇとしか言えねぇんだよ」

「……スキャンプちゃん、あんまり強い言葉は使わない方がいいと、酒匂は思うよ」

 

 落ち込んでいるために基本聞き専だった酒匂が重い口を開いた。

 

「酒匂は……あんなことをされたけれど……誰だって救われるべきだって思う。酒匂も全部失った後に救われたんだもん。誰だって救われる権利はあるよ……」

「でもなサカワ、アンタだってこんなに酷いことされたんだぞ。アンタだって、あのクソにブチギレてもいい権利があるんだ。誰も止める権利は持ってねぇ。あたいだって後押ししてやる」

「そこで酒匂が怒っても、何も変わらないなら怒らなくてもいいんだよ。怒るだけが救いじゃないもん。みんなが救われる方法を、酒匂は選びたいな」

 

 とはいえ、そんな理想論はあるわけがない。全てがメリットで出来ている選択肢は、何処にも無いのだ。

 

「サカワ……甘すぎるのも考えもんだぞ。あたいが言うのも違うかもしれねぇが、そうやって甘く見たら、ああいう奴はつけ上がるぞ」

「……それでもいいよ。反省出来るチャンスはあるんだもん。死んだら反省も出来なくなるよ」

 

 死とは考える時間すら奪う行為だと、酒匂は語る。だから、その罪は償うべきではあるが、それを命を以て償うのではなく、時間を使って考えさせることの方が大切だと語った。

 

「……はぁ、アンタはマジで優しすぎる。それで報われないのはどうかと思うぞ」

「酒匂はそれでいいよ」

「もっと図太くなっても誰も文句言わねぇよ」

 

 酒匂の悲しい笑みに、スキャンプは溜息しか出なかった。

 

 

 

 

 一方、もう一人の篭る者、伊26の部屋。そこには伊203と桜がついている。

 

「ごめんね、心配かけちゃって」

「いい。ニムが早く回復するのは、これが一番だと思ってるから」

 

 艦隊全員が元通りになるための最速を考えたら、今は伊26の側にいるのが一番速いと考えたのが伊203。桜がここにいるのも伊203の案である。伊26の気持ちを落ち着かせるために必要なモノとして、桜の存在は不可欠だと考えた。

 その桜も、伊26の手を握って伊203の言葉に同意するように頷いていた。心配はしているものの、何も気にしていないと表すように。

 

 桜は事件については詳しく知らない。ただ、うみどりの面々が酷い目に遭ったということだけを聞いている。洗脳を受けて敵対した、一部のものは人間すら辞める羽目になった、伊26もその洗脳を受けてしまったことで罪悪感でいっぱいになってしまっていることは、何も知らない。簡単に、その酷い目によって辛い思いをしたという抽象的なことだけを聞いている。

 教えた方が早いかもしれないが、いくらスピード狂の伊203であっても、桜に負担をかけることは控えた。むしろ、そうした方がこの後の展開が遅くなるだろうということで自重している。知らなくてもいい者に、余計なことは言わない方が、結果的に速くなる。

 

「ありがとう、桜ちゃん。お茶、美味しいよ」

 

 桜が持ってきてくれたお茶を飲みながら笑顔を見せる伊26に、桜は少し安心した表情を見せた。

 

「ニム、投書の話、どうする。別に絶対に出さなくてもいい」

 

 期限は翌日正午までとはいえ、一旦の考えを聞いておいた伊203。ちなみに伊203は既に投書済み。速さを求める者は、その考えを纏めるのも最速。いの一番に投書した第一号である。

 

「……ニムはね、やっぱり憎めないよ。あんなことをしでかしたかもしれないけど、そうなっちゃう理由があったんだよね」

「背景はそう」

「ニムは、子供が駄々を捏ねていろんなことをするところを、艦娘になる前に何度も見てきた。あの子は、ちょっとそれに近いところも感じたんだ」

 

 自分が育ってきた孤児院を存続させるため、出稼ぎに来ているのが伊26だ。孤児院では自分よりも歳下の子供達が数多くおり、伊26自身も子供のためにいろいろ学んだり、むしろ教えることも多くあった。

 そんな中、子供達が悪いことをすることだってあった。その都度叱ることもしている。子供はそれでちゃんと反省して、二度と同じことをしない。そうやって子供は成長していく。

 

 伊26はアレだけのことをされても、米駆逐棲姫はその子供達と近しい存在なのではと、罪悪感と共に疑念も抱いていた。

 米駆逐棲姫が阿手という狂った先生から間違った教育を受け、落ちこぼれに仕立て上げられた上に洗脳教育がしっかりと行き届いてしまっているために、あんなことを当然と思ってやってしまった。

 

「やるべきことは……()()()()()()()()だと思うんだ」

「……そうかもしれない。アレは、正しく叱られたことがないんだと思う。理不尽ばかりで壊されたと思う」

 

 この話の内容を、桜は何もわかっていない。だが、()()()()()()()()、という言葉を聞いて何か思うところがあったのか、小さく頷いた。

 

「桜ちゃんもそう思う?」

 

 もう一度頷く。悪いことをしたら、叱られなくちゃいけない。そうやって悪いことを悪いことと知る。桜も幼いながら、それは理解していた。

 こうなる前、まだ人間だった頃に、姉から叱られたことを思い出していた。叱られた後、もうしないと約束して、その後は褒められた。そうやって成長した。そんな過去を。

 

 まだ失語症は治っていないが、口を少しだけパクつかせて、意思を伝えようとしているのがわかるその行動。

 伊26にも伊203にも、それで桜の言いたいことはわかる。

 

「そうだね、悪いことをした子は、ちゃんと叱らないと、ね」

 

 ちらりと伊203にも目を向ける。それだけでその意を汲み取った。

 

「後から」

「うん、お願いね」

 

 

 

 

 各々の思いは組み上がっていく。そこから導き出される答えは、まだわからない。

 




落ち込んではいるものの、話が出来るくらいには回復しています。これもまた、仲間のおかげ。
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