艦娘達が投書に悩む中、トップ陣の1人である昼目提督は修復が完了しているおおわしに戻ってきていた。流石に1人でここに来るのはどうかということで、一部の艦娘を連れて。
うみどりは米駆逐棲姫との戦闘でまたダメージを受けてしまったため、そろそろ終わりそうであるとはいえ修復中ではあるのだが、おおわしは既に出航可能の状態。中に入ることも可能である。
「おう、
執務室に入ると、そこにあったのは筒状の容器。中に入っているモノは勿論、
流石にこれを軍港鎮守府に持ち運ぶことはやめた方がいいと、昼目提督だけでなく伊豆提督やイリスからも意見を受けたことによって、おおわしに置いていくことになっている。
当然ながら、その本体である首から下の身体、そして鶴棲姫としての艤装は、この生首に近付かないように隔離し、艤装側は凍結、身体は拘束した状態で保管されている。このどちら共を破壊した時、この生首も機能停止すると考えられるからである。
深海鶴棲姫──第二次深海戦争の際の元帥である原から、何かしらの情報を聞き出せるかと思って、始末することなく生かしている。今のところ役に立ったことは一つも無いのだが。
「おおわしを修復してくれた妖精さんは、テメェを見てビビってたか? 本当にいるだけで迷惑なクソババアだぜ」
筒状の容器の前に椅子を持ってきてどかっと座る。怖がられる人相を、さらに強張らせて、いわゆるガンをつけた状態で、生首を見つめる。
あまりここに長居をすることも出来ないので、時間がわかりやすいように容器の隣に時計を置いた。予定の時間はおおよそ1時間弱。カチカチと秒針が進む音が響く中、昼目提督は生首を睨み付ける。
「静かだったか、それとも修復の時は喧しかったか。どちらにしろ、テメェには拒否する権限なんて無ぇんだ。文句は何一つ言わせねぇぞ」
昼目提督が話していても、その生首は無視を決め込んでいた。目を瞑り、何も聞こえないような素振りで。
そもそもこの生首、一度瀬石元帥相手に少し話をした程度。その時ですら高圧的であり、この状況にあっても自分の方が立場が上であると思っているかのような口振りだった。
あくまでも自分に刃向かう者は下等生物くらいに考えていそうである。昼目提督としても、それが非常に気に食わなかった。
「おう、ババア、聞きたいことがある。答えろ」
筒状の容器をガツンと殴り、大きな音を立てた。生首が、少し不快そうに眉を顰める。だが、それだけで反応がない。
「起きろ。そもそもテメェはこちらの捕虜なんだ。オレが質問したら答えろ、あ? 首だけになった
原元元帥を煽るような物言いを続ける昼目提督。
「テメェは元々元帥だったらしいし、今の元帥であるオジキが一応敬意を持ってるっつーのは知ってる。ハルカ先輩だって多少は謙ってるのもわかってる。だけどな、オレにはそんな礼儀なんて無ぇ。テメェは人様に迷惑をかけるだけかけて、それを正しいと思っている正真正銘のクズだ。頭だけになっても自分が偉いと思っているようなゴミムシが、人間様よりも優れているわけないだろババア」
話しながらもガンガンと容器を叩き、不快感を与え続ける。原元元帥と話をするため、無視をさせないためにも、悪態をつき続けた。
「もう一度言うぞ。起きろババア、介護してもらっている分際で、それを当たり前だと思っているような害悪クソババア、目を開けろ。オレの話を聞け」
一際大きな容器を殴りつける昼目提督に、いい加減鬱陶しくなったか、生首が目を開いた。眼前には人相の悪い昼目提督が、超至近距離で顔を見合わせていた。明らかに不快感を示す舌打ちを見せた。
『喧しい
「敬意を持てるようなことをしてくれや。オレらを始末しようとするヤツにどうやって頭下げるんだよ」
そして第一声がコレである。昼目提督は流石に見せつけるような溜息を吐いた。
対する昼目提督は、これもまたデカデカと溜息を吐いてみせた。心底面倒臭そうに。
「つーか、すげぇなテメェ。この状況でその言葉が出るっつーのは、この状況でも勝ち目があると思ってるってことかよ。それか、もうどうにもならねぇからヤケになってんのか?」
答えない。しかし、昼目提督が言うように、原元元帥はこの状況においても、まだ自分の方が立場が上であると思っているようにしか見えなかった。勝ち目があるのかヤケになっているのかはわからない。
自身が高次の存在であり、人間を超越した者であるという自覚がある上に、元々が元帥という海軍でトップの地位にいたこともあり、自尊心だけは凄まじいと思われる。選民思想を持っており、自分は
「まぁいい。ちゃんと話せる口がついてるなら、オレの質問に答えろ」
『調査隊風情が何を』
「テメェ、阿手を知ってるか。阿手 峰葉だ。テメェが元帥なんていう大それた立場にいた第二次ン時に提督やってた女だ」
その名前が昼目提督の口から出た瞬間、生首はほんの少しだけ反応を見せた。
「知ってるようだな。知らないわけがないんだが」
『……彼女が何か?』
「あのクソが送り込んできたクソガキ……米駆逐棲姫に、鎮守府が滅茶苦茶にされたからな。奴の情報が欲しい」
『何故私がそれを話さなくてはいけないの?』
あくまでも敵対。阿手を庇っているとかではなく、昼目提督が気に入らないから話さないというイメージ。
原元元帥の性格上、昼目提督はおそらく最も下等に見ているタイプの人種。人間至上主義である中で、その人間を貶めるような存在を特に嫌っている。実際の中身を知らずに見た目だけで判断している時点で程度が知れているのだが。
あくまでも自分が上であるという態度に、昼目提督は再び大きく溜息を吐いた。
「阿手は第二次の時から艦娘に洗脳教育をヤってたらしいな。自分の思い通りの手駒にして、死ぬことも厭わない兵器にしてやがった。純粋種は、人間よりも下だから、何やってもいいってことか?」
昼目提督の言葉に、原元元帥は無言。
「そんなふざけた奴が、テメェらの言う高次の存在っていう下等生物に成り下がったことで、余計に調子付いて人間すら道具にしてやがる。力を持ってただ増長してるだけのバカが、自分は誰よりも上だと酔って平和だ正義だ言いながらやりたいことやってるだけだ」
高次の存在に対しての考えを、煽りと乏しめを含めた強い言葉でぶつける。口が悪いのは昼目提督だからであり、むしろこの方が煽りとしては効くと考えてのこと。
昼目提督がやりたいのは、原元元帥を感情的にすることである。簡単に上手くいくとは思ってはいなくとも、やらないよりはやってみようという策。原元元帥が特に下等だと思っているであろう昼目提督から
とはいえ、何をされても冷静にいられるからこそ、一度は軍のトップにまで昇り詰めているのだ。信念は歪んでいるとしか思えないが、事実、第二次深海戦争を終わらせているという実績を持っているのだから、昼目提督は言葉ほどなめてかかってはいない。
「高次なんて名乗っておきながら、やってることは二流三流だぞ。人間の幸福を自分の利益のために奪い取って何が平和だ。弁解は無ぇのか。言ってみろやクソババア。自分が正しいってなら、納得出来ること言え」
そんな昼目提督の悪態に、生首が溜息を吐く。
『貴方のような愚か者に話したところで、到底理解出来ないでしょう』
「ほんっとうにテメェらはそれしか言わないんだな。高次っつっても、自分の目的をろくに説明出来ねぇ。感情で動いてるだけのアホであることがよくわかるな。そんな奴が人間様を下等生物だと思ってるとか、ちゃんちゃらおかしいぜ。テメェらの方がよっぽど下等だ。そんな奴らに本来の人生をぶっ潰された連中が可哀想で仕方ねぇよ。米野郎も含めてな」
愚かだと思っている相手に逆に愚かだと言われ続け、やってきたことを全て否定されて、昼目提督の言っていることは曖昧さが殆ど無い。
いくら冷静に努めてきた原元元帥にも、少しずつ苛立ちの色が見えてくる。だが、ムキになって反論してくるようなことはない。
「ちゃんと説明しやがれ。まず何であの阿手のやり方を良しとしてやがる。普通に暮らしてりゃ、まともな人間になれたってのに、テメェらが巫山戯た教育をしたから、自分のことを落ちこぼれと思うようになっちまったんだろうが。人様の才能を潰して、自分の手駒にすることの、何処が平和のためなんだ。言ってみろや」
ダンと容器が置かれた机に拳を叩きつける昼目提督。
『それによって、その子は高次の存在へと至れたじゃない。彼女──阿手さんにはその才能を見抜く力があったということよ』
少しだけでも芽生えた苛立ちと、昼目提督の質問が結局のところ出洲一派の理念を聞く
「本人はそこに行きたくてそうなったわけじゃねぇだろ。そうなるようにテメェらが仕込んだんだろうがよ」
『その結果、今が幸せでしょう。本来持つ才能より、より世界の平和に近付ける才能を開花させてあげただけ。阿手さんの手腕は、ハッキリ言って素晴らしいわ。平和の担い手になれる者を選別させたら、彼女の右に出る者はいないもの』
「そうするために人生をぶっ潰してもいいと思ってんのか」
『その分、それ以上に幸せな高次の存在へと至ることが出来たじゃない。貴方はまだ理解出来ないのかしら』
昼目提督の度重なる煽りに対して、原元元帥もほんの少しだけヒートアップしており、いつまでも高次の存在による高潔な思想を理解しないことを憂い、真相に辿り着けない程度の思想を話している。
「……そうなるように、求めてもいない教育でわざわざ落ちこぼれを作ったってのは、否定しねぇんだな」
『落ちこぼれとは失礼な言い方ね。私達の思想、平和に向かうために、本来あるべき才能を気付かせてあげただけ。そのおかげで高次の存在に至れたんだもの。感謝されてもいいくらいじゃない。実際感謝していたようだけれど』
「結局のところ、テメェらはテメェらのために動く駒を作るために、そういう教育をしたってことを、今認めたってことだよな?」
昼目提督が小さく口角を上げた。原元元帥はまだわかっていなかった。
「だそうだ。
もう昼目提督は生首に向かって話していない。その言葉は、ここにはいない者に向けられていた。
昼目提督の後ろに控えていた秘書艦鳥海が、徐に容器の横に置かれた時計を手に取り、内側を弄る。すると、
『……まさか』
「洗脳教育の洗脳を解く方法って知ってるか? 洗脳をしてた連中からその真意を聞かされることだぜ」
通信の向こう側は、軍港鎮守府の懲罰房に繋がっている。ここまでの一部始終を全て、米駆逐棲姫は聞いていた。
調査隊本領発揮