後始末屋の特異点   作:緋寺

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謝罪の気持ち

 翌朝。米駆逐棲姫の処遇を考えるために睡眠不足の者も何人かいる中、深雪達はグッスリ眠って食堂へ。もう自分の意見は投書したのだから、あとはもう提督陣の決断を待つしかない。

 やはりまだ一部の者が食堂に来ていなかったものの、深雪達との接し方は昨日以上に滑らかになっており、深雪としても安心することが出来た。顔を合わせても、悲しい顔をするでもなく、謝罪の言葉が出るでもなく、おはようから始まり、ちょっとした世間話をする、そんな日常的な風景も、今の深雪にはとても嬉しいものである。

 

「もう少しで元通り……だよな」

「なのです。まだ何人か来ていないですけど、前と変わらない感じなのです」

 

 その光景が本当に久しぶりに思えて、ようやくここまで戻ってこれたんだと実感する。まだ足りない者も時間の問題だろう。

 みんなが力を合わせて、ああなる前の状態に戻るために努力している。深雪達が謝罪を拒んだのだから、罪悪感は持てど表に出さないように。辛い顔も見せない。あくまでも日常を提供する。それが仲間達の共通認識。

 当然、それでストレスを感じて身体を壊していたら意味がない。深雪だってそれは理解出来ているのだから、やめてほしいとワガママを言ったのは、謝らないでほしいというところだけ。そこから空気を良くしようというのは、被害者一同の総意。

 

「あとは米をどうするかだけだな。泣いても笑っても、昼には決まるはずだ」

「どうなるだろうねぇ。投書してないあたしが言うのはなんだけど」

「天命を待つってヤツだな。それもまた選択だろ。悪いことじゃないと思うけどな」

「ミユキがそう言うなら、それでいいや。他にもあたしと同じようにしそうな子いるしね」

 

 食堂では朝食を食べながらも投書用の紙と睨めっこしている者がいたりする。時間はまだあるものの、自分の意志を示すならばしっかりここで書いておかなければならない。

 グレカーレのように流されるのを良しとするのもまた選択だが、自分の意志で少しでも流れを変えようと考えることも選択。誰もそれに対して文句を言うわけがないし、どのような選択をしたとしても、それが間違っているわけがない。

 

「今どうなってんのかはわからないけどな。後からハルカちゃんとかに聞いてみるか」

「そうですね。懲罰房に近付くのはよろしくはありませんが、今の彼奴の状況を知ることは悪いことではございませぬ。一度投書したとしても、その後に考えを変えるかもしれぬことなど、あちらも考慮していらっしゃるでしょう」

 

 白雲は既に投書したものの、深雪の考え方が変わるのならば、それに準じて自分も考えを変える可能性を示唆している。

 今でこそ第三案、米駆逐棲姫としての存在を殺し、被害者である人間を生かす、最も難易度が高い道を選択しているが、米駆逐棲姫が今でも反省しておらず、拘束を解いたらまた少し前のように仲間達に危害を加えるというのならば、情状酌量の余地も無いとして、何も考えずに極刑となるだろう。

 

「みんな、集まってるわね」

 

 そんな食堂に、伊豆提督と保前提督が入ってくる。少々疲れた顔をしているものの、徹夜で作業をしていたというわけではなく、睡眠時間が少々短いと言ったところ。

 米駆逐棲姫の処遇を考えて寝不足気味な艦娘がいる中、提督ですら同じ状態になっていることを考えると、最終的な決断が本当に難しい状況なのがわかる。

 

「トシちゃん、説明してもらっていいかしら」

「ああ、いろいろやってくれたのは丹陽だが、ここの管理者は俺だからな。俺の口から話さないとダメだろ」

 

 欠伸を噛み殺した保前提督が、全員の前に立つ。伊豆提督が話し出すよりも緊張感が強く、食べる手を止めてその話に耳を傾ける。

 

「懲罰房に捕らえている米駆逐棲姫のことだ。昨日いろいろあったんだが……丹陽の説得の結果、奴は自らの行いの罪深さを認めた。今では知ることを洗いざらい話してくれている」

 

 この心境の変化はあまりにも意外だった。深雪達は米駆逐棲姫のバックボーンも知っているため、逆に改心の道が狭いようにも思えていた。洗脳教育がしっかりと行き届きすぎており、何があっても出洲一派の理念から外れそうにないとすら。

 しかし、今の米駆逐棲姫は非常に素直で、丹陽と話をしたことで本来の人間としての人格を取り戻したのではないかと思われるくらいに変化しているという。

 

「だが、罪悪感はとても強い。最初は自ら死を望んだくらいだった。だが、奴らの教育のせいで、償い方を知らなかっただけということもわかった。今頃こんなことを言うのは申し訳ないが、今の奴は、()()()()()()()()という判断になっている」

 

 保前提督の言葉に、流石に騒ついた。アレだけのことをしでかし、何人もの被害者を生み出した米駆逐棲姫に更生の余地があると言われても、ハッキリ言ってピンと来ない。

 

「深雪、電、この後また米駆逐棲姫に会ってやってほしい。奴はお前達に心の底から謝罪したいと話している。それだけじゃない。被害を受けた者達全員に謝罪をしたがっている。それで許されるはずがないのとわかっているが、それでもだ」

 

 それに驚きを持つ者もいれば、()()()()()()()()()()。今更謝ったところで許してもらえると思っているのかと、聞こえるくらいの声で呟く者もいたくらいである。

 誰だってその気持ちはわかる。やられた者は特にそう思って当然。謝られたところで許すつもりなんて何処にも無い。そんな気持ちを持ったとしても、やったことは失われないのだから、結果的に極刑で構わない。そう思う者も沢山いる。

 

「いいぜ、会いに行くよ。どれだけ変わってか見せてくれ」

「なのです。救えるものなら救いたいと、電も思っているのです」

「ああ、頼む。死罪とするにしても、ケジメのために謝罪を望んでいるからな」

 

 意外性もあったものの、ひとまずは会ってみなくてはわからない。深雪も電も、どういうことがあってそこまで変わったかを知りたくなった。

 

 

 

 

 朝食後、懲罰房。そこにはやはり、見張りとして能代が。そして、米駆逐棲姫の更生を担っている丹陽の姿も。

 一応イリスが常に彩を見ており、誰にも量産化が施されていないことも確認している。勿論、イリス自身がやられてしまったら終わりなので、そうならないようにギリギリまで離れたところで観察中。

 

「深雪さん、電さん、こちらです」

 

 にこやかな表情の丹陽に手招きされ、2人は米駆逐棲姫と面と向かえる場所にまで移動。そこで驚くことになる。

 これまで拘束具をつけられ、身動き一つ取れないようにされていた米駆逐棲姫は、拘束を解かれて懲罰房の中心で正座していた。爪は流石に危険であるため、絶対に貫通しないラバー製のグローブをつけることでカバー。モノは持てるものの、量産化は絶対に出来ない状況。勿論、自分から外すことが出来ないようにロックされている。

 

「さぁ、特異点のお二人が来てくれましたよ」

 

 丹陽に促されたことで、米駆逐棲姫はビクッと震えたものの、確固たる意志を持った瞳で2人を見た。そこには敵意も無ければ殺意も無い。罪悪感に澱んでいるものの、泣くこともせず、すぐに土下座の前振り。

 

「……私はとんでもないことをしてしまいました……洗脳されていたとはいえ、取り返しのつかないことばかり。死んで詫びるくらいしなければ、誰も納得しないと思うのですが、謝ることもせずに死んで逃げるのは良くないと皆さんに言われ、この場を設けてもらいました」

 

 丁寧に、その気持ちを隠すことなく、ラバーのグローブに包まれた手を床に付ける。

 

「本当に……本当にごめんなさい。こんなことで許されるとは思っていません。罵ってくれても、蔑んでくれても、気が済むまで殴ってくれても構いません。ですが、謝らせてください」

 

 そして、床に額を擦り付ける程の土下座。今はそれくらいしか出来ないと、米駆逐棲姫はこの姿勢を貫いた。

 

 対する深雪は、複雑な心境だった。謝られても被害者の心が元に戻ることはない。一度ヒビが入った石は、接着したところでヒビが入ったままであることと変わらない。むしろ、そのヒビのせいで脆くなり、より壊れやすくなってしまっているまである。それを一生背負っていかねばならないのだから、謝られたところで許すわけにはいかない。

 だが、その行いそのものが洗脳教育によって正しいものであると誤認させられていたことを考えると、それを実行させた米駆逐棲姫の裏にいる者が真の悪であり、米駆逐棲姫が謝ること自体がそもそもおかしな話なのかもとすら思えてしまう。殺人に使われた包丁に謝罪させているようなもの。使った者は素知らぬ顔というのも許せないところである。

 

「……謝るのはあたしじゃない。あたしも理不尽に無茶苦茶言われたけどさ、本当に傷付いてるのはお前に直に被害を受けたみんなだ。特に、人間辞めさせられちまった4人は、特に辛い思いをしてるぞ」

「勿論、いくらでも謝らせていただきます。それで何をされようとも構いません。殺されてもいいです。それだけのことを私はしてきました」

 

 深雪は何も言えなかった。これが()()()()米駆逐棲姫としての感情。彼女もまた、量産化を受けたように本当の心を書き換えられて事件を起こしたのではと思えるほど。

 

「深雪さん、電さん、投書までは時間がありますが、私の意見も聞いてもらっていいですかね」

 

 頭を下げ続ける米駆逐棲姫を見つめながら、丹陽は呟く。

 

「私は彼女を救いたいと思いました。でも、そのままだとどうしてもその力と姿が足を引っ張る。なので、第三案……米駆逐棲姫としての彼女は極刑、人間としての彼女は更生としたいです。貴女と同じですね」

「ああ、そうだな」

「冬月さんと涼月さん、それにウチの明石さんも、今頑張って身体を元に戻す方法を研究していますが、やはり難しいと考えているようです。諦めているわけではないのですが」

 

 今の米駆逐棲姫の身体は、忌雷に改造されたのではなく、手術によって書き換えられたモノらしい。つまり、グレカーレのような変化ではなく、白雲のような変化。上っ面に張り付いているのではなく、完全に染み込んでしまっているために、分離させることが不可能。

 ここから人間に戻すということは、深海棲艦の要素を取り去るのではなく、()()()()()()()()()()()()()()何かが必要。しかし、それが身体にどのような影響を与えるかはわからない。

 

「私は、この姿でさえ無くなれば、より前を向けると思います。なので、最悪の場合……お二人にお願いすることになるかもしれません」

「挟んでひっくり返す……をか?」

「はい。それで……今の貴女達の心境で、この子をひっくり返そうと思えますか?」

 

 なかなか鋭い言葉に、深雪も電も顔を顰めた。真に救いたいと思えるかと言われたら言葉に詰まる。

 

「最後は貴女達の思いです。勿論、手を煩わせないようにこちらでもやれることは全てやります。なので、最終手段としてです」

「……わかった、考えておく」

「よろしくお願いします。辛いことをお願いしているのは重々承知していますが……心に置いておいてもらえると幸いです」

 

 

 

 

 

 復讐心の話はせず、ただ見えているところだけで伝えた。米駆逐棲姫の謝罪と、その気持ちを見たことで、深雪達は未だ複雑な心境だった。

 




米駆逐棲姫はここまで変わりましたが、加害者の気持ちが変わったところで被害者の気持ちが変わるかと言われると。
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