後始末屋の特異点   作:緋寺

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治すにしても

 丹陽の暗い過去、潜水艦勢すらも知らなかった闇の部分を知ることとなった一同。あれだけのことをした米駆逐棲姫であっても更生させたいと願っているのは、その丹陽の過去──姉を阿手のせいで失ったからである。

 艦娘を道具としか思っていない阿手は、今や人間すら自分のやりたいことをするための道具としてしか見ておらず、用が無くなった米駆逐棲姫も捨て駒にしてしまった。それが丹陽にとっては姉と同じように使われた存在として映った。

 

「じゃあさ、さっき会った米駆逐棲姫があんなに頭を下げてきたのは……」

 

 この中でも深雪と電だけは丹陽からの説得に応じている米駆逐棲姫の姿を見ている。土下座までして謝罪し、何があっても構わないとまで言い切ったそれは、反省などを超えた何かを感じる。

 

「はい、昼目提督が先程の言葉を引き出したのを聞き、自分の罪を自覚しました。ですが、彼女はその罪の償い方も知らなかった。なので、私が少しだけ方向性を作ってあげました。死しか望まないところから、せめて死なない方向へ。あまり褒められた手段ではないですが……少なくとも彼女はそれまでは謝罪という道に向かってくれました。事が済んだらまた何を言うかはわかりませんが……今は命を以て償うとは言わないでしょう」

「どんなことすりゃあ、あそこまで……」

「……阿手の終わりを見るまでは生きてみませんかと。皆さんが、私達の恨みを晴らしてくれるのを見届けませんかと」

 

 丹陽のそのやり方は、あまりにも想定外。復讐心を煽ることで死を回避するというのは、彼女らしくない荒い策としか思えなかった。しかし、そうしたことで米駆逐棲姫は死しか望まなかったところから、少しは生きるという考えに至るようになっている。

 勿論、それを待つ間に極刑に処せられその命を失うかもしれない。しかし、米駆逐棲姫はそれを受け入れた上で、それまでの時間を謝罪に使おうと思えるようにはなっている。

 

 丹陽のそれは、褒められたものではなくても、1人の命を確実に救っている。

 

「丹陽……お前いつもと違うな。やっぱり……姉妹がやられるのは」

「当然じゃないですか。初風さんは私の大好きなお姉ちゃんだったんですから。お婆ちゃんにも1つや2つ、恨み言くらいありますとも」

 

 いつもの調子に戻っている丹陽だが、それはそれで悲痛なモノを感じる。これまでずっと穏やかに事の顛末を見ていただけの丹陽が、初めて内に秘める黒い思いを曝しているのだ。

 

「おう、1ついいか」

 

 ここで手を挙げるのはスキャンプ。いつもなら許可を得ることなく文句を言うものだが、丹陽の重く暗い過去を聞いたことで、少しだけ礼儀を見せて意見を述べる。

 

「Bossの言い分はわかった。わかったっつーか、まぁ一応だ。あたいとしては、どうあってもクソ米の言い分なんて関係なくぶち殺しちまえばいいと思ってる。でも、Bossはそれでもクソ米を生かしたいんだよな」

「はい、出来れば、ですが。何度も言うように、私は私の願いを誰にも強要しません。私自身が被害を受けたわけではないので、何をしようと説得力はありませんから。貴女達の思いを最優先にしてください。彼女を殺したい気持ちもわかります。それを止めることは出来ません」

 

 自分の意見はあくまでも参考にというのが丹陽のスタンスである。事前に米駆逐棲姫と接触し、せめて自ら命を絶たないように心持ちを変化させることまではしているが。

 

「でもな、痛みもなく生かしてやることをあたいは許さねぇ。心だけ苦しむのはあたいらも同じだ。だったら、そこにPlusして身体でも苦しんでもらわないと割に合わねぇだろ」

 

 加害者が被害者と同じであることはバランスが取れていないとスキャンプは語る。

 確かに米駆逐棲姫はこれまでの人生を壊されて精神的にはこれ以上ないくらいの悲惨な目に遭っている。だが、それによって及ぼした被害は、人1人でどうにかなるようなものではない。誰も死者が出ていないだけで、ここから何十人もの被害者が一生今回の件を背負って生きていかねばならないのだ。

 その何十人の心の痛みを受けるには、米駆逐棲姫の精神的な痛みだけでは足りない。身体にも苦痛を味わわせなければ気が済まない。極論はそれで死に至らしめることなのだが、生かすにしても痛み無しでは納得は出来ない。

 

 スキャンプのこの言い分に、誰も文句は言わない。そう思うのも無理はないし、声には出さないが賛成する者も多くいる。拷問にかけろとは言わずとも、このままただ何もせずに生きていますというのに納得がいかない。

 

「スキャンプさんの言い分は納得出来ます。それを私がどうこう出来るわけではないですが、罰は受けなくてはならない。温情ばかりが彼女の為になるわけがないですね」

「わかってんじゃねぇか。だから、あたいは1つ思いついたことがある」

 

 そう言いながら、スキャンプの視線は深雪と電の方に向く。

 

「特異点から()()()()()()()を与えられながら治されるってのはどうだ」

 

 スキャンプが言うのは、挟んでひっくり返すことをしてやればいいが、その時に悲鳴をあげるほどの痛みを与えてやるということ。

 それは例えば、軍港都市で変貌した梅との戦いの結末。首四の字とアンクルホールドを仕掛けられ、激痛の中で治療されるという一種の拷問。それこそ優しさなんて何処にもない、()()()()()を施せと。

 

「死ぬほど痛みを与えて、米駆逐棲姫としての彼女を殺し、その結果、人としての彼女を取り戻す……ですか」

「おう、それでチャラにしてやろうっていう、あたいなりの優しさだぞ。これで譲歩してやってんだ。生かすならそれくらいやってもらいてぇな」

 

 それに、と続ける。

 

「あたいはそれでもいいと思ってやったが、ここのCitizen(市民)はどう思うかだ。多分殺せって思うんじゃないか? 例えば……そうだな、アヤナミ、テメェはどう思うよ」

 

 ここでこの街を最も愛する者であろう綾波に話題を振った。まだ朝である為、都市内の見回りには行っていない。この話も最初からちゃんと聞いている。

 スキャンプとしては、綾波に対してもトラウマがあったりするのだが、ここで腰が引けていては説得力がなくなる。そのため、あえてここで名指しした。街を愛する者であることは誰もが理解しているのだから。

 

「そうですねぇ、綾波としては、手っ取り早いのは極刑なんですよねぇ。ここまで滅茶苦茶にしておいて、生きていられると思っている方が不思議ですしぃ?」

 

 相変わらずのノリである。しかし、隣に控える暁が何も言わないのだから、綾波のこの発言はそこまで悪意のあるものではない。

 

「精神的に疲弊しているとしても、罰は受けてもらわないと割に合いません。それが極刑、すなわち死が一番適しているとは思いますよ? ただ、前に誰かさんには言った覚えがあるんですが、汚い血で街が汚れるのも綾波的には嫌なんですよぉ」

 

 時雨が小さく反応したようだが、気にせず話を進める。

 

「死罪では足りないと思っていましたが、まぁそんな背景があるというのなら、本当に死罪では足りないのが誰かというのが明確ですからねぇ。なので綾波は、お米ちゃんではなく、その裏側でせせら笑ってるであろう阿手とかいうゴミクズさんを殺す方がいいと思います。お米ちゃんからは徹底的に情報を引き出せばいいんじゃないですかぁ?」

 

 敵の一員だった者がこちらにつくのは初めてのこと。つまり、知る限りの情報を全て抜き出せることに他ならない。

 本当に反省し、命を捧げるほどの覚悟があるのならば、何もかも隠すことなく全てを話すだろう。それだけやって初めて、米駆逐棲姫は償いが出来る。少しでも隠し事をするようならば反省していないとして、極刑に処せばいい。

 非情かもしれないが、綾波の言葉はここにいる者全てを納得させる。スキャンプもそれでいいと頷いた。

 

「まぁそれはそうとしてお米ちゃんには痛みを知ってもらわないとダメだとは思いますけどねぇ。ただ、殴る蹴るだと程度が知れてるので、スキャンプちゃんがさっき言ってたのがいい感じだと思いますよぉ。死ぬほどの痛みを与えながら治療するがいいと思いますねぇ。それこそ、麻酔無しで開腹手術でもしてみますかぁ?」

 

 恐ろしいことを言い出すが、誰も否定しない。それくらいの痛みを味わってもらわないと、今の怒りが収まらないというのもある。

 

「最終的な決断は提督達にお任せすることになりますが、私達の意見はそういう方向性になったということでいいですか。少なくとも私は、今ここで出た案で問題ないと思います。投書もそのように書いておきます」

 

 ここで丹陽がこの場を締めた。市民の声も必要だというのはごもっともであり、少し時間が経って落ち着いたであろう街中の意見も聞いてみるべきではというところに向かった。

 

 

 

 

「丹陽、少しいいか」

 

 食堂から人がいなくなっていく中、深雪は丹陽に話しかける。それを予期していたかのように、丹陽は最後まで動くことはなかった。

 

「はい、なんでしょう」

「……お前にしては珍しく、感情が剥き出しだったように思えてさ。大丈夫かなって」

 

 深雪に心配されたことで、丹陽はいつもの笑みを浮かべる。

 

「大丈夫ですよ。むしろ皆さんに話すことが出来たので、少しスッキリしました。何事も溜め込むのは良くないですね」

「そりゃあそうだけどよ……あたしは何て言ったらいいかわかんねぇけど」

 

 そんな深雪の態度に、丹陽は一層笑みを深くする。

 

「初風さんは、私のことを特に気にかけてくれていたお姉ちゃんなんです。同じ駆逐隊で戦ってきましたし、私がケッコンカッコカリする時は全力で祝福してくれたり……本当に、本当に優しいヒトだったんです。だから、あんなことになったのが本当に辛くて。でも、今は大丈夫。仇討ちが出来るかもしれないと思ったら、俄然やる気が出てきました。いや、私自身は戦場には出られないんですけどね」

 

 その笑みはいつもの調子ではあったが、とても悲しいものに見えた。これだけ本心を曝したからか、手も震えているように見えた。深雪はそんな丹陽の手を取り、ガッと握る。

 怒りか、それとも悲しみか、丹陽の手はやはり震えていた。それを無くしてやるかのように両手で包んで、深雪は宣言する。

 

「絶対に仇を取ってやる。ここまでされて黙ってられるか。その阿手ってヤツ、聞いてる限りじゃあ出洲よりクズだ。思い通りにさせちゃダメなヤツだ。だから、必ずぶちのめしてやるからな」

「……はい、ありがとうございます。でも、決して無理だけはしちゃダメですよ。特異点がそういうことやると、あちらの思うツボですから」

「ああ、わかってる。もっと冷静にならなくちゃな。神風あたりに冷静になれる方法を聞いてみるよ」

 

 深雪も阿手のやり方は気に入らない。それこそ、直接相対した出洲よりも気に入らないとすら感じていた。

 

 

 

 

 米駆逐棲姫の処遇はもう少しで決定することになる。この丹陽の話、そしてスキャンプが筆頭となったことで生まれた別の落とし所は、提督陣にどのように思わせるか。

 




比較的民度の高い軍港都市ですが、ここで米駆逐棲姫の処遇についてアンケートを取ったらどんなことになるか。
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