後始末屋の特異点   作:緋寺

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彼女の知ること

 投書の内容を受け、伊豆提督達は米駆逐棲姫の元へと向かう。その理由は、情報収集。今ならば洗いざらい話すだろうと思い、まずは知っていることを全て聞き出す方向で進むこととした。

 

 未だに決断までは出来ていないものの、うみどりの修復が完了したため、明日には出港ということになりそうだった。長い休みとなってしまったものの、それ以上に長く感じるほど辛く苦しい戦いを仕掛けられた。

 少しだけでも娯楽を楽しめたのは良かったのだが、その思い出そのものを壊されたようなものでもある。今後、この軍港都市に対しては()()()のようなモノを感じざるを得ない状況に追い込まれてしまった。

 

「……悪いな、ハルカ。かなり来づらくなっただろ」

 

 その点を少々気にしている保前提督から言われ、伊豆提督は大丈夫と笑みを浮かべる。

 

「アタシ達は戦争をしているんだもの。それが善行とは思っていないし、どうであれ否定的な意見というのは出るモノよ。それが一つ二つ増えたところで気にすることじゃあ無いわ」

「今回はお前達のせいじゃないんだ。理不尽には抵抗してもいいんだぞ」

「勿論、言えることは全部言うわよ。嘘偽りなく包み隠さずね」

 

 伊豆提督もその辺りはハッキリしているらしく、理不尽な文句に対してはそれ相応の返しをしているとのこと。ここは保前提督と同じ。

 言い返されないからと好き勝手言う輩というのは一定数いるため、そういう相手に対しては毅然とした態度で挑むらしい。多少は強い言葉も使う。

 

「今回の件でよくわかったからな。うちの市民にも、案の定こういう時ばかり大きな声を上げるような奴ってのはいる。とはいえ、抑えつけているだけじゃ、ストレスも溜まるだろうから、たまには発散させてやってるんだ。その後どうなるかは俺の知ったことじゃないがな」

「トシちゃん、悪い顔してるわよ」

「んー? そうかぁ? 度が過ぎた奴を告訴するのが楽しみってわけじゃあないぞ?」

 

 あまりに酷い場合は、艦娘達の戦意喪失を促す行為をしたということで違法扱いに出来る。都市の管理者はその辺りを重々承知しているため、どうにかする手段も心得ているわけで、あまりに酷い言葉を使う者がいそうならば、簡単に制裁を加えることも出来る。

 全てはこの都市のため。戦争を終わらせるためである。相手が守るべき人間であっても、安全圏から文句だけを垂れる、口だけ達者な輩に関しては、鎮守府の敵として認定する方針だ。保前提督もコレだが、綾波辺りも一切容赦が無い。街を悪い空気にする者は、何人たりとも容赦しない。

 

「被害者だったら宥める。無関係なら後悔させる。それだけだ。街の空気を悪くする奴は、人間だって許さん」

「だからこの雰囲気が出来てるんだものね」

「ああ、そういうのがわかってるからこそ、忠犬みたいな人相が悪い奴が徘徊してても受け入れられるんだよ」

「突然の流れ弾酷くないっスか」

 

 軽く笑い話になりつつ、懲罰房へと到着した。

 

 

 

 

 反省の気持ちを持ってから、米駆逐棲姫は懲罰房の中ではじっとしている。勿論両手は塞がれたまま、しかし最初に比べると随分と拘束が緩んでいる状態ではあるのだが、自分から何かしようとする気配は何処にもないため、それで良しとしている。

 現に米駆逐棲姫は何をするでもなく、静かに目を閉じて座っているだけ。それこそ、この後待ち構える運命がどうであっても受け入れる覚悟を見せている。死ぬことになっても文句はない。生かされるならばどうすれば世の人のためになれるかを考える。

 

「お疲れ様です、提督。これまでの時間も、何もありません」

 

 見張りをしている能代も、米駆逐棲姫の態度には太鼓判。丹陽との一件の後は、本当に人が変わったと言えるほどの変貌っぷり。それこそ、丹陽が米駆逐棲姫を()()()()()()()と不謹慎なことを考えてしまうくらいに大人しい。

 こちらから話しかけることもないが、米駆逐棲姫から話しかけられることもない、非常に静かな空間。逆に気まずくなりそうなものだが、能代は能代で淡々と仕事をしているため、この空気でも難なく過ごしている。

 

「……さて、そこまで落ち着けていることから見て、お前からはいろいろと話が聞けるだろうと思ってここに来た」

 

 保前提督が前に立つと、閉じていた目を開く。

 

「はい、話せることであれば全て話します。それが私が傷付けた皆さんのためになるのなら、いくらでも」

 

 大きすぎる心変わりに戸惑いつつも、素直に話してくれるならそれでいいとした。その奥に、自分の人生を破壊し、最後は捨てた阿手への復讐心がチラついていることにも気付いている。

 

「これから俺達は……というよりは、他の部隊だが、お前をこうした元凶を終わらせるために行動していくことになる。勿論最終的には組織そのものの壊滅が目的なんだが、今の見えている目標は、人間を深海棲艦に改造する島だ。そこについて何か知っているか」

「はい、勿論。私は()()()()()()()()()()()()()()。私の思っている島が、そちらの言う島と一致しているなら、ですが」

 

 少なくとも米駆逐棲姫が島と言われてピンと来るのは、自分が落ちこぼれという烙印を押された上に、阿手に見染められたことで人間を辞めることとなり、考え方を全て出洲一派のそれに染められた場所。

 そこでされていることも、カテゴリーYとなってからある程度は把握しており、自分だけでなく他の人間も深海棲艦に改造されていることは知っていた。

 

 流石にそれが誰かなどは知らない。見たら知っているかと言われれば、わからないとなるだろう。黒井兄妹を見せたところで、おそらく何も言えない。

 

「改造自体は、何をどうされたらこうなっているかはわかりません。麻酔で眠らされ、目が覚めた時にはこの姿でした。その時は昂揚感でいっぱいでしたが……今は恐ろしくて仕方ありません」

「やはりそこは秘匿……というか、眠らせていないと施術出来ないんだろうな。忌雷に寄生されての変化とは違うか」

「忌雷……というのは、『神の導き』のことですか?」

 

 元々は一般人だった米駆逐棲姫には、深海忌雷という名前は知られていない。あれも軍が決めたコードネームのようなもの。

 その名前を使ったことでピンと来たのは、()()()()()()()()昼目提督。

 

「忌雷のことをそんな名前で呼んでるのは、海賊船の時に1人だけ逃げ果せやがった奴だけだ。グレカーレやあん時の外南洋に使ったそれのことを、神の導きっつってましたぜ」

「つまり、お前達が戦った海賊船でアナウンスだけで参加していた最後の1人というのが、阿手である可能性は高いということか」

「そうだと思いますぜ。よくよく考えてみりゃ、あの話し方はこういうことやっていてもおかしくないモンだった。話してるだけで気分が悪くなるような奴だ」

 

 あの時のことを思い出して、昼目提督は嫌な顔をする。海賊船最奥の戦いは、グレカーレの件もあり、いいことが一つもない。

 

「あれは教えを理解出来ない愚か者に理解してもらうために先生が作ったと話していました。それでも理解出来ないのなら、身体を内部から崩壊させると。思えば、そんなことを肯定していた自分が恥ずかしいです……」

「……そうだな。どうであれ、その教えってヤツを強制していたということだろう。自分が正しいから従えとやる奴は、どう考えても碌な奴じゃない」

「はい……そんなことすらわからなかっただなんて……」

 

 今でこそ阿手に裏切られたという気持ちから本来の考え方を取り戻しているため、阿手のそのやり方がおかしいということは理解出来ている。自分の考えを押し付けるどころか、洗脳までして従順にしている時点で、それは間違っていると断言出来るだろう。

 

「私がこの街に送り出されたのも、特異点がここで休息を取るからと言われたからです。島から夜の内に向かい、ご存知の通り人間の姿に化けて入り込みました」

「その力もよくわかってないのよね。化けるというのも貴女の力の一環なのかしら」

「はい、私の持つことになった量産の力をより上手く活用するためにと、先生に()()()()貰った力になります。それがあるから、私が量産した者にも同じ力が一緒に与えられることになりました」

 

 この『後付け』というのが恐ろしい話である。曲解の能力を解析しているのはわかるが、それを抽出しているのか再現しているのか、似たような力ならば他の者に付与出来るということに他ならない。その能力そのものを装備として見做しているような扱い方である。

 技術力が一線を越えているのはわかっていたが、ここまで差がついていると驚き以上に恐怖を感じてしまうもの。

 

「おそらくだけれど、島には他にも能力を持つ敵がいるのは間違いないわ。アタシ達が襲われたのは『迷彩』の力を持つ敵だったけれど、多分島には……『偽装』の力を持つ敵がいるんじゃないかしら」

「偽装ってのはそんなお手軽に姿を変えることじゃないんだが」

「ええ、だからアタシとイリスは、それを曲解と言うことにしたわ」

「なるほどな、確かに捻じ曲がった考え方だ。偽装を曲解すれば、他人にバレないようにするって点だけが残って何でも出来るってことか」

 

 曲解については一旦置いておいて、米駆逐棲姫からの証言を続けさせる。

 

「逆に言えば、こいつの量産の力も、他の誰かが持っていてもおかしくないってことだな」

「はい、それは考えられます。私がこの力を手に入れた時、()()()()()()()とも言われましたので」

「こいつは厄介だぞ。対処法がわかっているとはいえ、まだあの力の脅威が残っているってのは」

 

 まだまだ残っている敵には、『量産』の曲解があってもおかしくないということだ。

 それだけではない。これまでに戦ってきた者の力を持つ者が他に現れる可能性もグンと伸びている。その中でも厄介なのが、『船渠』と『修繕』。無尽蔵に敵が増え続けるようなものだし、それを始末するにも手間がかかる。最悪の場合、おおわしに保管されている生首が増える可能性まで出てきた。

 

「阿手自身が、これまで見ていた力を全て持っていてもおかしくないだろ。話を聞いている限り、使える力は自分に上乗せしそうな奴じゃないか?」

「確かにね……下手をしたら強化改良してるとかも」

「あり得るな。あまり考えたくもないが」

 

 今後戦わねばならない敵の1人が、ここまで厄介となると、今から気が滅入る話である。

 

「今残っている敵の勢力がどれくらいかはわかるか?」

「私が知る限りでは、ですが。島には先生以外にも3人は私のように改造された者がいます。何かしらの力を持っているとは思いますが、すみません、私がその中でも一番の新人でして、そこまで教えられてはいないんです。私自身も、この能力以外はとても弱くて……」

「いや、人数がわかっただけでも充分だ。阿手含めると4人か……また総力戦になるんじゃないか?」

「ええ、覚悟は必要ね。そのうちの何人か、もしかしたら全員が、量産までやってくると思うと気分が悪いけれど」

 

 そしてさらに重要なことを聞く。

 

「出洲には会ったことは?」

「……あります。あの島には少し立ち寄ったという感じでしたが」

「つまり、別の拠点もあるということか。むしろ島は阿手の拠点で、出洲は別を陣取っていると考えた方が良さそうだな」

「重要な研究資材が手に入ったと話していました。()()()()()()も一緒に」

 

 出洲の家族と聞いて思い当たるのはやはり、あの小柄と中柄のカテゴリーK。米駆逐棲姫にも家族と見られるような立ち振る舞いであったことから、あの3人は家族であると考えるのが妥当そうである。

 

「その研究資材というのは何かわかるか?」

「いえ、そこまでは……」

「それは仕方ないか。だが、それが何か次第でとんでもないものが作り出されるかもしれない。覚悟はしておかないといけないな」

 

 米駆逐棲姫が知ることは、かなり有用な情報。これからの戦いにも活かせるものばかり。末端だったかもしれないが、これだけ知っているのならば、充分過ぎた。

 

 

 

 

 島への戦いに向けて、着々と準備が進められる。対策が必要なことがあまりにも多いものの、一歩一歩進んでいけば攻略も可能だろう。これまで乗り越えてこられたのだから。

 




非常に従順となった米駆逐棲姫。知っていることを躊躇なく洗いざらい話してくれているおかげで、対策は立てやすくなっています。
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