後始末屋の特異点   作:緋寺

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決断の時

「よし、ひとまず状況はわかった。島の攻略をするにしても、一筋縄ではいかない。それに、今のままではかなり厳しいこともな」

 

 米駆逐棲姫から聞き出した敵拠点の島の情報を整理する保前提督。米駆逐棲姫自身があまり立場的に上の方では無かったということもあり、知っていることは限られているものの、必要最低限の情報が得られたことで、今後の戦いにも活かすことが出来る。

 島にはカテゴリーYである戦力が阿手を含めず3人いるが、その能力は不明。むしろ、他の能力を後付けすることすら出来ることがわかり、これまで戦ってきた敵の力が再び襲いかかってくる可能性すら考えられるようになってしまった。特に厄介なのが、『迷彩』と『量産』。一切視認出来なくなる能力と、ちょっとしたことで洗脳が出来てしまう能力、そのどちらも苦戦させられたことを考えると、まだそれが終わっていないことが一番頭を悩ませることである。

 

「迷彩に関しては対策が出来ていないわけじゃない。量産は洗浄液という対処法が一応ある。だが、全てを同時にぶつけられると、流石に簡単にはいかないな」

「ええ、あと偽装だって厄介極まりないし、アタシとしては船渠も相当苦しいと思うわ」

「厄介なモンばかりだな全く。曲解と言いたくなる気持ちもわかるぞ」

 

 ここで挙げなかった能力だって、合わせ技で来られたら苦戦は必至のモノばかり。それに、これまでに見ただけの、この場で発現したばかりの能力ですら、実際はあちらでは既に知られている能力である可能性もある。そうなると、神威が持たされた穢れの毒ガスや、妙高の持たされたジャミングも相当苦しい。

 

「何が来てもおかしくないってことっスよね」

「ええ。だから、最初からある程度は予測しておく必要があるわ」

 

 予測通りに行くかはさておき、こんなことがあったらまずいというのを先に考えておけば、ある程度の覚悟は出来る。それこそ、工廠で対策も作れるかもしれない。

 

「これはある程度腰を据えて考える必要はあるな。大本営にも助けを求めてみるか」

「考える頭数は欲しいものね。相談に乗ってくれると思うわ」

 

 ひとまずこの件はここでではなく、後に持ち越し。島への襲撃のタイミングも、まだ簡単には考えられないところ。完璧な準備が出来て、初めて五分五分に持っていけるかもわからない厳しい現状である。

 

「他に説明することはありますか」

 

 米駆逐棲姫からの問いに、提督陣は少し考えた後、もう無いと首を横に振った。米駆逐棲姫としても、自分から話せそうなことは全て話したと自覚しており、これ以降の質問には答えられる自信が無かった。

 

「少しでもお役に立てたのなら幸いです。これで、()()()()()()()()()()()()()

 

 少し安心したような表情を見せ、そんなことを言う。思い残すことはない、つまり、これで死罪として処されても大丈夫だと。

 米駆逐棲姫はやはり自分はこのまま死ぬものだと思っている。それだけのことをしたし、許されるはずがない。いくら丹陽から生きる気力を貰えたとしても、運命を決定するのは今目の前にいる提督達だ。特に保前提督は極刑とする方向で考えていると、米駆逐棲姫は思っていた。

 

「……まだ最後になるとは限らん。お前の処遇は未だに決めかねている状態だ。死にたがられるとこっちも気分が悪い」

「そう……ですか」

 

 投書を受け、丹陽の話も聞き、市民の声も集め、それでもまだ完全な決定には辿り着けていないのだから、こうとしか言えなかった。

 

 

 

 

 懲罰房から離れた提督陣は、そのまま工作艦組と顔を合わせる。

 

「提督、すまない。そこまで短期間では無かったのに、カテゴリーYを人間に戻す方法は見つからなかった」

 

 うみどりが出港するのも時間の問題であることを理解しているため、冬月は少々悔しそうに現状を説明した。痛みがあろうが無かろうが、今のこちら側の技術力では、深海棲艦化を引き剥がすことは出来ないと結論付けている。

 今のカテゴリーC、艦娘の退役処理と同じように処置を実行すると、間違いなく死ぬ。むしろ、その段階まで行くことも出来ず、妖精さんですら手も出せないと考えられる。

 

「そうか、いや、よく調査してくれた。お前達がそう言うということは、余程高度な技術が使われているのだろう」

「もしくは()()()()()ですね」

 

 ここで明石が口を挟んだ。その声色には、この技術への嫌悪感が仄かに含まれていた。

 

「というと?」

「今の人間の技術についても聞かせてもらいました。人間を艦娘にしたとしても、退役の際に元に戻す方法があり、それも多少手間がかかるとはいえそこまで難しくないことも把握しました。艦娘の魂をそう使われるのは何とも複雑な気持ちですが、この際それは置いておきます」

 

 純粋種の明石からそう言われると申し訳なさが溢れるが、話が続かなくなるので今は先へ。

 

「こんな大それたことをしているにもかかわらず、その変化が不可逆ということ自体が()()()だと私は考えます。その点で言えば、人間が作り出した艦娘化の技術はまだ誉められる点が沢山あります」

 

 出洲一派の処置は、高次の存在になった時にもう人間に戻る必要がないと考えているからか、後のことを全く考えていない。明石はそれをお粗末と称した。後のことを何も考えていない。

 比べれば、艦娘化の処置は人間のことを考え、また使われている艦娘の魂のことも考えて施される。不可逆なんてとんでもないし、艦娘に敬意を払って事を成すことを最優先にしていると言ってもいい。

 

「最初に編み出した不可逆の術式を正しいものと思い込んでずっと使い続けてるように思えるんですよね。される側のことを考えず、する側の楽さを優先しているような。私にはそういう程度の低い技術に思えて仕方ありません」

「い、言うわね明石ちゃん」

「私だっていろいろと鬱憤は溜まってるんです。最近は大人しい方ですけど、ボスがあの調子ですしね……」

 

 明石もストレスが溜まっている方であるため、気が緩んでいる今は若干口汚くなることもあるようである。ここ最近の丹陽は影響力が上がっている代わりに若干大人しくなってはいるため、明石的にも安心はしているようだが。

 

「とはいえ、程度が低いということは、雑な部分がかえって厄介なことになってしまうこともあります。後先考えないことがこちらを苦しめることになるなんて、技術者としてはよくあることです。最初から後のことを考えて作業するのが当たり前ですから」

 

 そして割を食うのが後発の技術者なのだと明石は溜息を吐いた。

 

「ともかく、その厄介な仕組みのせいで、我々には今すぐにはどうにも出来ないというのが見解だ。調べている間に、彼女の刑の執行の時が来てしまうだろう」

「深雪さんにお願いするという話も出ていたとは思いますが……その結果、米駆逐棲姫が命を落とす可能性もあると考えています」

 

 涼月はその可能性を示唆した。聡明な提督陣ならば、これで何が言いたいのかは察してくれる。

 

「……深雪ちゃん達に、深い業を背負わせる可能性がある、ということよね」

「はい。挟んでひっくり返すことで、必ず治療されるかはわからないですよね。その時、ひっくり返ったことで命を落とす可能性も考えておいた方がいいと思います」

「結果としては第三案が第一案になるというだけなのだが、それを執行するのは我々じゃない。深雪と電だ。我々がまず考えなくてはならないのは、被害者である特異点の心だろう」

 

 ただ命を奪うだけなら誰でも出来るが、治療となると特異点に任せるしかないのが現状。しかもそれが確実とは言えないものならば、万が一のことを考えたら避けたくなるもの。

 今でさえ、深雪は泣き叫びながら愚痴を言うほどにストレスが溜まっており、心労が凄まじいことになっている。ケアが出来ているかもなんとも言えないというのに、そこに加えて米駆逐棲姫の命の責任を持たせるのは鬼畜ではないかとまで考えてしまった。

 しかし、そうなると米駆逐棲姫は最悪一生治療出来ない。可能性に賭けるというのも必要なときになる。

 

「……2人に直接聞くしかないか」

「酷だけれど、今はそれしかないのかもしれないわ。誰も咎めないでしょうけど……本当に厄介な技術ね」

「全くだ。後始末屋はそういう後始末をやる部隊じゃないだろうに」

「本当にね。清掃業者に頼む仕事じゃあないわよ」

 

 伊豆提督すら愚痴を吐く始末。だが、そうなってもおかしくない厄介な状況なのは間違いなかった。

 

 

 

 

 時間はそろそろ夕食に近いくらいの時間になるが、この決断は早くしなくてはということで、深雪と電を執務室に呼び出す。この放送が鎮守府に響いた時、この後何が話されるかを察した者はかなり多く、呼ばれてもいないのに執務室前には人だかりが出来そうな程であった。

 深雪も電も、この異様な光景に少々動揺しながらも、執務室に入る。白雲とグレカーレが同席しようかと尋ねるものの、2人は大丈夫と執務室の外で待っていてもらうこととなった。

 

「呼び出された理由……なんとなくわかるよ。朝の丹陽の時にもスキャンプにちょっと言われてるし」

「米駆逐棲姫を……挟んでひっくり返すのですか?」

 

 言われる前に本題をぶつける特異点2人。沈痛な面持ちで返答を待つ。そんな2人に、慣れ親しんでいる伊豆提督が答える。

 

「その前に、キチンと話しておきたいことがあるの」

「何かあったのか?」

「アナタ達に、彼女を治療したいという気持ちはあるかしら」

 

 丹陽にも聞かれた、非常に重い質問である。理不尽に悪と断定されて、仲間達を支配下に置かれた上で周囲からその存在を否定された深雪にとって、米駆逐棲姫は救うべき存在であるかを再確認。

 その質問に、深雪は少し俯いたものの、強い瞳で首を縦に振った。懲罰房で謝罪され、心の底からこれまでのことを反省しているのはわかっている。確かに迷いはあるものの、より反省する時間が必要であるとも思った。

 これまでの報われなかった時間を取り戻させつつも、ここで起こした大迷惑を謝罪させるためにも生かしておく必要はある。

 

「それでも、アナタ達の処置が絶対に成功するとは限らない。ひっくり返すことが出来たのは、相手が疑似的な黒だからという可能性もある。彼女はカテゴリーYだから、ひっくり返すことが出来ないかもしれない」

「それは……うん、そうだよな。あたし達だからなんでも出来るだなんて思ってないよ」

「ひっくり返したことで、最悪死に至るかもしれないとしたら……どうかしら」

 

 深雪も電も、そこまでは考えていなかった。自分達が施した処置のせいで、米駆逐棲姫が死ぬ可能性。

 元々は捕らえるのではなく始末する方向で考えていたことを思えば、そのタイミングが今になっただけとも言える。しかし、そうなった経緯を知ってしまった今、第三案を推す2人にはその事実は苦痛に繋がる。

 

「当たり前だけど、そうなってしまったからと言って、アナタ達の責任じゃないわ。アタシ達がその決断をしたのが全てであって、アナタ達はただそれをしただけ。良い悪いの判断は難しいかもしれないけれど、少なくとも責任は全部、アタシ達のものよ」

「……だとしても、あたし達が手にかけるのと同然ってことだよな」

 

 伊豆提督も言い淀む。やはり、特異点にしか出来ない治療法というのが問題なのだ。

 

「拒んでくれても構わないわ。仕方ないもの。誰もそれに文句は言わないし、言う輩はアタシが説教する。アナタ達ばかりが辛い思いをするのは、本当によろしくないことだもの」

「じゃあさ、あたし達がやらないって言った場合はどうなるんだ」

「こちらで時間をかけてでも治療法を探す。それまでは生かし続けることになるだろうが、市民が何を言うかはわからない。それもなるべく抑えさせてもらうがな」

 

 これは保前提督から。既に始末したと嘘をつくことすらしないため、市民に不安と不満を募らせることになってしまいかねない。しかし、やりたいことをやろうとするならそれもまた1つの選択肢ではある。

 特異点に関係なく、処刑としてしまえばこんなことで悩むことは無かっただろう。しかし、あまりにも凄惨なバックボーンを知ってしまったが故に、ここまでの大事になってしまっていた。

 

 

 

 

 そして、決断の時。

 

「電、あたしは賭けに出ようと思う」

「……電も、なのです。丸く収めるには……」

「あたし達がやるしかないんだもんな」

 

 特異点の決断は、米駆逐棲姫の治療。それによって命を落としてしまったとしても、それを覚悟して前進することを選んだ。

 




命を落とす可能性を示唆されても、深雪と電は米駆逐棲姫を治療する道を選択しました。
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