後始末屋の特異点   作:緋寺

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執行

 米駆逐棲姫の処遇が決定した。特異点である深雪と電が覚悟を決めたことで、挟んでひっくり返す治療を施すこととなったのである。

 その処置は、カテゴリーYに対してどのような結果が出るかはわからない。人間に戻ることが出来るかもしれないし、何も起きないかもしれない。最悪、命を落とす可能性すらある。

 それを先に伝えられたが、深雪も電も覚悟の上で処置をする。そうしないと、誰も彼もが先に進めない。だから、特異点である自分達が前に進めると。

 

 そう決まったら話は早い。今すぐにそれをしに行くことになる。

 執務室から出ようとすると、そこには入る時以上に人だかりが出来ていた。その先頭は勿論、白雲とグレカーレ。

 

「扉越しに薄くではありますがお姉様のご決断を聞くことが出来ました。辛い覚悟ではあるでしょうが、白雲はお姉様のお考えが間違っていないと確信しております」

 

 白雲が神妙な面持ちで告げる。この重すぎるくらいの決断が出来たことそのものを褒め称えるような、しかしこうせざるを得ない状況に追い込まれたことを悲しむような、そんな少々暗い表情。

 

「まーたミユキ達に頼らないといけないのはアレだけどねぇ。代わったげたいけど、あたしには出来ないことだから、応援だけはしっかりしとくよ」

 

 逆にグレカーレはいつもの調子でケラケラ笑った。重い空気が苦手であるため、自分が白い目で見られてもその場を少しでも柔らかくしようと冗談めいたことを話す。深雪もそのおかげで少しは気が楽になった。

 

 決断したとは言っても、覚悟が決まったとしても、当然気は重い。命を落とす可能性があると言われれば尚更だ。自分達のせいで死ぬかもと言われたら、嫌でも尻込みしてしまうものである。

 第三案を実行しようとしたら、第一案になってしまっただなんで、一番望んでいない。

 

 

 

 

 そのまま懲罰房へ。そこには流石に何人も入ることは出来ないため、提督陣以外だと、()()()となる深雪と電のみが入ることになる。あとはすぐに変化が確認出来るイリスくらい。

 しかし、その状況は鎮守府内から見られるようにはしていた。テレビで放送というわけではないが、実際に処置した状況を記録する必要があるからだ。

 その撮影は伊豆提督が受け持つ。深雪と電が所属するうみどりの責任者であるため、2人の行動に対しての責任を受け持つために、少しだけでも踏み込んだ立ち位置にいる。

 

「……私は、どうされるのでしょうか」

 

 死を受け入れている米駆逐棲姫は、深雪と電の姿が目に入っても、その調子を変えることはない。特異点に始末されるなら本望だと、悲しい笑みを浮かべるだけ。

 

「お前を……電と一緒に()()する。港での戦いで、妙高さんや神威さんにやったアレだ」

「アレを……私に?」

「ああ。挟んでひっくり返す。それでどうなるかは、あたし達にもわからねぇ」

 

 そこは素直に話した。カテゴリーYに対して実行したら、どうなるかは未知数。治るかもしれないし、そのままかもしれない。それで命を落とすかもしれない。そこまで全てを伝えて、処置の準備に入った。

 

 米駆逐棲姫としては、何をされても文句を言うつもりなんて毛頭無い。そんな資格がないと自覚している。

 この処置によって最悪のケースになった場合でも、死罪として刑を執行されたというだけであるため受け入れられる。その上で、もし人間に戻れたら、自分はどうすればいいのかと迷いはあった。

 

「もし元に戻ることが出来たなら、電達と一緒に、この世界がどういうものかを知っていくのです。壊された人生を取り戻すことくらいしてもいいのですよ」

 

 電が察したかのように語りかけた。そんなことを聞いても、米駆逐棲姫は表情一つ変えなかったが。壊された人生を取り戻すなんて言われても、そんな資格だってないと思い込んでしまっている節がある。

 ともあれ、これはやってみなければどうなるかわからない。

 

「よし、じゃあ……一応だけど、罰ってことで、なるべく()()()()()()()()()なんて言われてる。それで構わないか?」

「構いません。私からは何も言いません」

「……そうかい。それじゃあ、あたし達が出来る中でも、痛い技をかけさせてもらう。本当にまずいと思ったら、身体の何処かを軽く叩いてくれりゃあいい」

 

 本来ならば、その両手を2人で片方ずつ握りながら、煙幕を注ぎ込むだけで済む。だが、その罪を償わせるためにとびきり痛くという願いを話されてしまったら、何とも言えない気分になる。

 ここまで反省しているのだから、痛みなんてなくてもいいだろうと深雪は考えてしまうものの、それで納得出来ているのは自分や電くらいで、実際に被害に遭った者は、それで納得出来るわけではない。現に痛みを与える治療をスキャンプが言い出した時、誰もそれを否定しなかった。恐ろしいことに、丹陽すらも。

 

「電、いつも通り脚でいいか」

「なのです。とびきり痛いのだと……やっぱり」

「ああ、足首固めだろうな。あたしは逆側に行くから三角絞めになると思うが、ありゃ痛いってよりは苦しい技だから……ああ、1つあった。三角絞めでも我慢しやがるならここまで派生させろってヤツが」

「時雨ちゃんが悶絶した技なのです?」

「ああ、それにする。これならみんな納得してくれるだろうよ」

 

 米駆逐棲姫はそれをただ受け入れるのみ。何をされても、それこそこのまま殺されてもいいという気持ちもあるため、抵抗すら一切なかった。

 

 懲罰房の硬い床に寝かせて技をかけることになるが、手早く済ませてやるのが一番の温情だと考え、すぐさま技をかけていく。

 電はいつものように米駆逐棲姫の脚を綺麗に極めていき、足首を完全にロック。トーホールドの構えに。

 深雪はグレカーレなどがかけられた三角絞めの構えになるが、腕の極まり方が違う。内側に折り曲げるようにしたことで肘が逆側に曲がるかのように絞まったことで、絞まるだけでなく関節が軋み上がるようにしたことで激痛が走る、ミラーロックの構え。

 

「っぎっ……!?」

 

 流石の米駆逐棲姫も、こうされたことで否が応でも悲鳴が引き出されてしまう。その痛みを受け入れているとしても、声まで我慢出来るわけではない。

 深雪も電も、もう少し力を入れれば関節を完全に破壊出来るというほどまでに持っていっているため、米駆逐棲姫は歯を食いしばり痛みに耐えているような形相に。

 

「悪いな、この状態でやらせてもらうぞ」

「っあぐっ、うぁあっ、ど、どうぞっ」

 

 痛みに涙目にすらなっているが、それを受け入れているが故にタップすらしない。早くとも言うわけでもなく、全てを深雪達に任せていた。

 

「よし、電!」

「なのです! 挟んで!」

「ひっくり返す!」

 

 その意気を汲んで、深雪も電もすぐさまひっくり返すために煙幕を注ぎ込んだ。どうなるかはわからずとも、ここまで来たのだからやるしかない。ここにいる誰もが覚悟の上。

 

「っあっ!?」

 

 煙幕が体内で交差した瞬間、米駆逐棲姫に異変が起きる。関節技の痛みだけではない、身体の内側から燃え上がる熱が生まれたことで、身体が跳ねた。しかし、2人のロックは完璧であり、悶えれば悶えるほどに身体が軋むため、余計な痛みに繋がる。

 奇しくも痛みを与える治療に繋がり、痛みと苦しみの中で煙幕によるひっくり返しの餌食となっていった。

 

「どうなる……!?」

「どうなるのです!?」

 

 本心から治療したいという()()があるが、どうなるかわからないという疑問もあるので、米駆逐棲姫の命運が特異点にもわからない。少なくとも、死んでもらいたくないという気持ちは強いのでそうはならないだろうが、そらでも先が見えない。

 

「っあっ、あぁあああっ!?」

 

 ついには我慢出来ずに悲鳴まで上げ始めた。苦痛に悶える中、受け入れているとはいえ、声を上げざるを得ないくらいの衝撃。そして、ついにその時が来る。

 

「っっっ!?」

 

 擬似カテゴリーKを治療した時と同様に、米駆逐棲姫が光に包まれていく。内側から漏れ出すその光は、温かくもとても強い力を持つ願いの光。そこにわからない力が含まれていたとしても、深雪と電の本心が詰まった、慈悲の光である。

 その光が漏れ出したことで、深雪と電はロックを外して米駆逐棲姫を解放した。この衝撃によって余計に身体を捻って、折れなくてもいいところが折れることを回避するために。

 

「死ぬなよ……流石に」

「なのです……それだけはやめてほしいのです」

 

 2人の切なる願いは、必ず叶う。しかし、他に気が回っていないというのもあった。とにかく死んでもらいたくない、これが特異点の一番の願いだった。

 事前の伊豆提督の説明によって、2人は確実にそこだけは意識するようになっていた。最悪の状態だけは回避したい。念頭にあるのは、米駆逐棲姫が助かること。救われることも勿論願っているが、それ以上に命を守ることを願っている。

 

 それがカタチになったことがわかるのは、米駆逐棲姫から漏れ出す光が失われたとき。眩い光が徐々に消えていき、最終的にそこに現れたのは──米駆逐棲姫ではなかった。

 

「……だ、誰だ!?」

 

 それは、深雪には見覚えのない者。米駆逐棲姫が偽装を使って軍港都市に潜入していた時の姿ではない、しかし何処かで見たことがあるような外見。

 グラデーションのかかっていた髪も金髪に染まり、肌は病的な白から健康的な、しかし海外の艦娘のように白人のような色。そして、米駆逐棲姫だったころよりもスタイルが抜群に良くなっているというのも特徴的だった。

 

「……これは……」

 

 その光景をずっと見ていたイリスが口を開く。その表情は、あまりにも予想外なことが起きていたために引き攣っており、信じられないという気持ちが表に出ているくらいである。

 

「イリス、こいつどうなったんだ?」

「憶測で話すわよ……この子に使われていた魂は、おそらくフレッチャー……他国の駆逐艦の魂になるわ。援軍にヘイウッドがいたでしょう。あの子のお姉さんに当たる子になるんだけれど」

「ああ、確かにちょっと見覚えがあるかと思ってたけど、似てるところがあるな」

「……外見はそのフレッチャー()()()()()()よ。完全に一致していると言っても過言ではないわ」

 

 深雪も電も見たことがない艦娘フレッチャー。米駆逐棲姫をひっくり返したことで、そのフレッチャーの姿になったのだとイリスは語る。

 おそらく、深海棲艦化の際に使われた艦娘の魂がフレッチャーであり、ひっくり返したことで、その使われているフレッチャーの要素が強く表に出てきたのだろうというのが憶測。

 

 だが、イリスが動揺しているのはそれだけではなかった。

 

「……彼女のカテゴリーは……」

 

 少なくともYでは無くなっているのは確実なのだが、それが一番の驚きになる。

 

 

 

 

「カテゴリーは……B。()()()()()()()()()()()()()()……」

 




ひっくり返すというのは、逆転させること。
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