後始末屋の特異点   作:緋寺

450 / 1164
引き継がれるモノ

 米駆逐棲姫に対する刑、特異点による挟んでひっくり返す治療が、ついに執行された。カテゴリーYに対してそれを実行するのは初めてのこと。どんな影響が出るかわからないという、かなり怖い状況ではあったものの、深雪と電が死んでほしくないと強く願っていたことにより、命を落とすということだけはなかった。

 しかし、米駆逐棲姫の治療が終わり、光に包まれたかと思うと、その姿は深雪と電には知らない存在、フレッチャーへと変化していた。それだけならば、改造の際に使われたであろう艦娘の魂が、ひっくり返ったことにより表面化したらということで納得が出来るのだが、それだけでは終わらない。

 

「彼女のカテゴリーは……B。()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 イリスのその言葉に、深雪も電も目を丸くした。驚きすぎて声すら出なかった。

 

「貴女達の治療は、受けた者の身体をそうなる前に戻すわけでもなければ、白く染め上げるわけでもない、()()()()()()と常々言っていたわよね」

「あ、ああ……あたしも電もそういう認識だよ」

「オセロなのです。だから、挟んでひっくり返すのです」

「……K()の反対はW()だけれど……Y()の反対はB()よ。私の見えている彩の世界では」

 

 そういう意味では、このひっくり返すという治療法は、意図せずイリスの見えている彩準拠の色のひっくり返しであると考えることが出来た。

 深雪も電もその辺りは一切理解していない。しかし、そのように状況が動いた。だから、イリスからもそうとしか説明が出来なかった。

 

「深海棲艦の要素は、貴女達が消したいと願ったから消えたんじゃないかしら……で、その時に改造に使われた魂、()()()()()()()()が表に現れた。その時に、人間の要素も()()()()()()()()()……というのが妥当……なのかしら」

 

 あくまでも憶測ではあるので、米駆逐棲姫(フレッチャー)自身に聞いてみないとわからないことばかりではあるのだが、人間の要素まで消えてしまったのはあまりにも謎。これが彼女特有の変化なのか、これをやったら誰でもこうなってしまうのかはわからない。

 この場合、他のカテゴリーY、平瀬達にも同じようにひっくり返した時も同じようにカテゴリーBになってしまう可能性が出てきた。しかし、陸上施設型の深海棲艦に変貌させられた者に使われている艦娘の魂が何かはわからないので、本当に何になるのかがわからない。最悪()()()()()()()になる可能性すらあった。

 

「……じゃあ、あたし達がやったことでコイツは……」

 

 変化の衝撃によって気を失っている米駆逐棲姫(フレッチャー)に視線を移す。妙高達に施した時と同様、ひっくり返された者は全裸に剥かれてしまうため、何処までも艦娘の要素しか見当たらないことがわかってしまうのだが、人間と艦娘は知る者でなければ区別がつかないので、深雪も電もまだどうなっているのかがわからないでいる。

 人間の要素が失われていることがわかるのはイリスのみ。そしてこれまでの戦いの中で、イリスの目がホンモノであることは疑いようのない事実であるため、その全てを信じるしかなかった。

 

 

 

 

 この後、米駆逐棲姫(フレッチャー)はすぐに懲罰房から運び出されて、工作艦達に徹底的な調査をされることとなる。身体の状況は勿論のこと、艤装適性などもしっかり調べ上げて、今後()()()()も確認している。

 それ自体はそこまで時間がかかるわけでもなく、夕食の時間にかかろうとしている時には調査終了。

 

「イリス嬢が話していた通り、身体は純粋種と同じと言っても良さそうだ。我々後付けの艦娘と違って、人間に戻す退役処理が出来そうにない。今の身体が完全に定着している、と言った方がいいか」

 

 冬月の見解からしても、今は完全に艦娘になっているということになる。他の純粋種──今は明石が協力しているのだから、その身体も調べているため、共通項目が多いとなるならば、それはそうであるとしか言えない。

 

「艤装適性も、フレッチャー級の艤装さえあればおそらく扱える。適合率も98%とかなり高水準だ。はっきり言って、即戦力とも言える」

 

 生まれたばかりの純粋種は、その時点でもある程度戦えるというのが定説。米駆逐棲姫(フレッチャー)も例に漏れず、今この段階から戦いに参加出来るくらいの技術は持ち合わせている可能性があるらしい。

 しかし、それが出来るかどうかは彼女の心次第。戦いたくないというのならば、勿論強要は出来ない。戦うと言われても、それを状況が許すか次第なところもある。

 

「艤装は妖精さんが組み上げてくれるだろう。一晩もあれば用意は出来る。問題は心の方だ。目を覚ましてからどういう反応をするかわからん。そもそも、今どういう心を持っているのかもわからんと来た。これは目を覚ましてもらわないと判断がつかない」

 

 そのため、調査が終わった時点で起こす方向で進めている。擬似カテゴリーKを治療した時のように身体を休めてやるということはなく、今は早急に事実を知るために動くべきだと判断して。

 

 その結果、酷ではあるものの米駆逐棲姫(フレッチャー)はすぐに目を覚ますこととなった。身体中を煙幕が駆け抜けた衝撃のせいで、消耗はそれなりにあったものの、戦闘中に無理矢理治療するなどをしているわけではないので、起こされても何ら問題がないくらいには動けた。

 その表情は、お世辞にも明るいとは言えない。しかし、俯いているわけでもない。混乱しているというのが正しいか。

 

「この場合、なんて呼べばいいんだろうな。もう米じゃないんだもんな」

「……フレッチャーと、お呼びください」

 

 米駆逐棲姫としての性質は完全に消えているため、深雪が尋ねると彼女はフレッチャーであると自ら名乗る。

 深雪に合わせる顔がないと行った雰囲気を醸し出しているものの、そこにいることを拒むこともないため、本人にとっても複雑な感覚なのかもしれない。

 

 流石に全裸のままではどうかということで、服は着せられていた。本来のフレッチャー級の制服はまだ用意出来ていないため、よくある検査着姿。それでも、米駆逐棲姫の時よりも身体は成熟しているように見えた。とてもではないが深雪や電と同じ駆逐艦と言えるか何とも言えないくらいに。

 

「あー……あたしが質問していく感じでいいのか?」

「ああ、頼む。本来なら提督達がやらねばならないことだろうが、彼女が君をご指名だ。合わせる顔が無いそうでな。君ならまだ話しやすいようだぞ」

 

 本来なら、ここからの尋問は提督がやるべきことなのだが、フレッチャー自身がそれを拒んだ。いや、拒んだというのには語弊があり、あまりにも申し訳が立たず、一番慣れた相手であろう特異点とまずは話したいと持ちかけた。冬月がそれを裏で提督達に話し、その方が進展しそうだと許可を出している。

 その代わり、この対話に関しても録画中。しっかり保存され、資料として残されることになる。

 

「……わかった。あたしはこういうのはとてもじゃないが得意じゃねぇ。だから、ありきたりな質問ばかりになるかもしれないけど、それは許してくれ」

 

 フレッチャーは無言で首を縦に振る。

 

「まず、だ。今のお前はどこまで覚えてるんだ」

 

 これはかなり重要なこと。今のフレッチャーが何を知るか。むしろ、()()()()()()

 

「……全て、全てを覚えています。私フレッチャーは、貴女に治療を施される前のことを、元々人間であり、深海棲艦としての力を持っていたことも、何もかもを覚えています」

 

 記憶としては何も失っていないことに他ならない。自分がかつて米駆逐棲姫として軍港都市を襲撃したこと、その前に島で改造を受けたこと、さらに前の、落ちこぼれとして扱われた人間としての生活も、何もかもを思い返すことが出来る。

 故に、今のフレッチャーがどうであれ、罪悪感は何も変わっていない。生き残ったことへの罪悪感、これまでやってきたことへの反省、ここからどうやって生きていけばいいのかの不安も、全てを内包している。

 

 しかし、当然ながら失ったものもある。

 

「私は、フレッチャーであり、()()()()()()。そういう感覚が強いのです……。統合された……と言った方がいいのでしょうか……」

「統合……?」

「はい。私フレッチャーと、彼女が、完全に……一体化しているというか……。私は艦娘フレッチャーではあります。その感覚もありますし、記憶もあります。ですが……彼女の感覚と記憶も持ち合わせています。何処か他人事のようにも思えて、しかし当事者のようにも思える……とても不思議で、怖くて、でも忘れてはいけない感覚なんだと、思います」

 

 この処置によって起きたこと。それは、深海棲艦米駆逐棲姫は処置により完全に消滅し、それに使用されていた魂である艦娘フレッチャーが表に出たことによって、米駆逐棲姫としての身体がフレッチャーへと置き換わったということ。その際に、魂としてのフレッチャーが自身の意識を目覚めさせると同時に、人間としての思考を()()()()()()()()()

 結果、身体は完全な艦娘へと変貌を遂げ、人間としての要素は()()()()()()()()。代わりに、フレッチャーは1つの身体に2つの記憶を持ち合わせるような複雑な状態に。

 

「それでも私は彼女と言えるのでしょうか。それとも、彼女を食い潰して生まれた艦娘なのでしょうか。それがわからなくて、怖いのです。私が生まれることで、少女1人の命を奪い取ってしまったのではと思うと……」

 

 胸に手を置いて震え出すフレッチャー。そもそも罪悪感で埋め尽くされたような記憶を引き継ぎながら生まれたようなものだ。それに加えて別の罪悪感──人間を殺してまで生まれたということ──に襲われてしまうと、それで錯乱してしまってもおかしくない。

 

「……あたしとしては、だ。お前はフレッチャーかもしれないけど、米でもあるって認識だ。だから、命を奪ったんじゃなくて、それこそ記憶みたいに、命を引き継いだんだって思うぜ」

「なのです。お米さんの心がフレッチャーさんの中で生きているのですよね。なら、死んでなんていないのです。身体は完全な艦娘かもしれませんが、フレッチャーさんはその人間さんでもあると、電は思うのです」

「ああ、だからそれについては大丈夫だ。お前の中でアイツは生きてる。ちょっと艦娘の方が上に被さっちまうらしいからな。元々人間であっても、その艦娘の要素が強くなるってのは当たり前のことなんだぜ。お前の場合は、それがちょいと強すぎるだけだ。しっかり、アイツは生きてる」

 

 胸に置いた手に対して、深雪は拳を突きつける。ここにあの人間はいるんだと教えるために。

 

「アイツのために動いてくれるってなら、まずは前を向いてみてくれ。罪悪感まで引き継いじまってるってなら、アイツと一緒にそれを晴らすために、あたし達と一緒に行かねぇか」

「なのです。もう敵じゃないなら、一緒に歩けるのです。だから……だから、この手を取ってほしいのです」

 

 深雪だけでなく、電も手を差し伸べた。

 

 それを見たフレッチャーは、ボロボロと涙を流し始める。そして、深雪と電の手を取り、膝から崩れ落ちた。

 

「ありがとう、ございます。こんな私ですが……お役に立てれば幸いです……」

 

 

 

 

 人間の命を取り込むカタチで表に出てきてしまったフレッチャー。その人間の、心の底から反省したことによって生まれた願いを叶えるため、ここからは特異点と共に歩き始める。

 




R:0,G:0,B:0=Kをひっくり返したら、R:255,G:255,B:255=Wです。その法則から、R:255,G:255,B:0=Yをひっくり返したら、R:0,G:0,B:255=Bです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。