後始末屋の特異点   作:緋寺

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その力は反転し

 フレッチャーの調査は予想通り徹夜ペースとなっており、就寝時間を過ぎても続いていた。冬月と涼月はまるで手を止める気配はなく、明石もそのノリに同調して、隅から隅までしっかりと確認しているような状況。

 フレッチャー自身も、自分の今の身体がどうなっているのかが気になっているので、どれだけ時間がかかっても調べ尽くしてもらいたいとは思っている。それによって睡眠時間を削ってしまっていることに申し訳なさはあるため、内向的になってしまっているフレッチャーにはそれも心苦しいのだが。

 

「ふむ、大分わかってきたな。一度仕組みがわかってしまえば、調査もそれなりに進むというものだ」

 

 冬月が調査の結果を見ながら満足げに呟いた。これまでにやったことがない調査であるため、これも難航するかと思っていたが、ここにいる技術者の力を結集させることで、思っていた以上にうまく進んでいた。

 冬月と涼月の技術力は、あくまでも定係工作艦としてのモノ。そこに本業の工作艦、しかも艦娘歴30年という超大御所となる明石が参加し、加えて後始末屋を支える妖精さん、主任まで加わっているため、あらゆる方面からの視点から調査が出来ているというのが大きい。

 

「我々より技術力を持つ先達がいるのはとてもありがたい。組んで作業をするのもコレで終わりだと思うと、少々寂しいものだ。また共に研究をさせてもらえるだろうか」

「ええ、久しぶりに工作艦としての力を存分に発揮出来ました。機会があれば……いや、機会を作って共同作業をしましょう」

 

 冬月と明石には熱い友情が芽生えたようである。ガッチリと握手して、再会を誓った。

 

 その隣では、主に妖精さんと接する方面で工作艦補佐を続けている涼月が主任と指を合わせて握手の代わりをしていた。

 冬月が明石と工作艦としての作業をしている間に、涼月は妖精さんとの交流を主にやっていたため、特に主任との作業を多く続けていた。そのおかげで、こちらでも熱い友情が芽生えている。

 

「主任さんにはお世話になりました。妖精さんとの交流は私達の力を間違いなく高めてくれました。ありがとうございます」

 

 主任もにこやかな表情でサムズアップ。涼月との付き合いは楽しかったらしい。

 

「さて、ではフレッチャーの調査結果を纏めようか」

「そうですね。この結果はうみどりに持ち帰らせてもらいます。しっかり纏めて、こちらでも対策が練られるようにしておきますね」

「頼んだ。我々は嫌でも別行動になるからな。開発出来たモノの設計は全てそちらに展開する」

「はい、こちらからも情報展開していきますね」

 

 これがここでやることになる最後の作業。ここまで『迷彩』の曲解を見抜く兵装や、忌雷による侵蝕を回避する手段などを研究してきたが、フレッチャーの調査はそれの延長線上にあると言える。

 出洲達の技術力が自分達の数段上を行っていることは悔しいところではあるが、第二次の時から倫理も人道もかなぐり捨てて研究を続けているのならば、こうなっても仕方ないかと一旦置いておき、自分達は自分達の持つ技術を使ってそこに追いつこうと進み続けた結果、その背中に手が届くくらいまでは追い詰めたと考えている。

 

「まず、フレッチャーは完全な艦娘、我々とは違う純粋種である。これはよかったな」

「はい、元々持っていたであろう人間と深海棲艦の要素は、肉体的な構成には何処にも確認は出来ていません。私と同じ純粋種、今時の言い方ではカテゴリーBですね。どうしてそうなったかは一旦置いておくべきでしょう」

「そうだな。特異点による処置は、我々の技術とは離れた位置にある。追求するには時間が足りない」

 

 特異点に関しては科学や技術では説明出来ないところに踏み入れていると考え、一旦そこは置いておく。最終的には解明してやると意気込んではいるものの、それは今からうみどりが出港するまでにどうにか出来るとは到底思えない。

 そのため、冬月も今は優先順位を決めた。フレッチャーのことに対してを先に終わらせて、その後に改めて特異点の研究に入る。今日も徹夜かなとニコニコしているのは、明石的にはちょっと引いた。

 

「カテゴリーBではあるが、カテゴリーYだった時に持っていた能力──彼女の場合は偽装と量産だな、それは据え置きであるということは判明している」

「偽装は私達も直に見せてもらっていますし、量産の方は主任が見極めていますね」

 

 相変わらず主任がサムズアップ。唯一の人間と文字によるコミュニケーションが取れるという強みを使って、フレッチャーには手に入れた量産と与えられた偽装の両方が備わったままになっていることは既に見抜いている。

 

 偽装に関しては、深雪達も見た通り、その姿を縁のあるものに変えることが出来るという能力となっていた。しかし、一部は精神的な制約がかかったのか、本来の人間のカタチにはなれないということもわかっている。自分自身の見た目を変える程度であるため、艤装を持っていないのに持っているように見せかけることや、忌み嫌ってもおかしくない米駆逐棲姫の姿になることも出来る。

 そちらに関しては、他者に影響を与えるわけでもなく、自分にも大きな負担がかかるわけでもない。ただ本当に姿を変えるだけという、戦いにはあまり影響を与えない力であるため、それはそれで良しとしている。

 

 問題はもう一つ。他者を自分の妹として洗脳し、自分と同じモノに変えてしまう脅威の力、量産。

 実際は自分の中に生成される穢れを注ぎ込むことでその力が発現、体内に回ることで同一のスペックに仕立て上げるという侵蝕の力である。

 

「フレッチャーはもう完全な艦娘だ。穢れが体内で生成されていないことは確認済みだな」

「はい、そこは何度も確認して、穢れのない身体であることは調査済みですね。神威さんみたいに」

 

 同じく体内に生成される穢れを使って外部に害を被らせる力として、神威の排煙がある。少し吸うだけでもその毒素が身体を回り弱体化させ、過剰に吸い込めば死に至る程の凶悪な力。

 しかし、特異点の治療によってカテゴリーWとなった神威の排煙は話が変わっている。どの要素かはわからないが、そちらを放出することで『肉体を蝕む煙』が『精神を癒す煙』に変化しているのだ。

 

 フレッチャーの量産も、同じように要素もひっくり返っている可能性は極めて高い。爪で刺した者を侵蝕し洗脳する能力をひっくり返すとどうなるか。

 

「いやまさかその量産の力がああなっているとはな……」

「偽装と組み合わせると、最強と言ってもいいのでは」

「他者の量産型に()()()()()んだものな」

 

 これが調査の結果。穢れが絡む能力は()()()()()()()()()()()()()。神威の前例、肉体が精神に、蝕む力が癒す力にひっくり返っているのだから、洗脳する力もひっくり返るだろうと予測して動いたのがコレである。

 フレッチャーに対して爪を刺す……というのは酷なので、首筋に指を当てることによって、その者が持つ力──それが曲解の能力というだけでなく、技術を一時的に自分のモノにする、つまり()()()()()()()()()力へとひっくり返っていた。

 偽装の力も相まって、実験をした際には、フレッチャーは明石の力を手に入れつつ、その姿も明石と近しいモノに変化するというとんでもない力を発揮していた。本人よりは一段階は下であり、知識に関しては持たないモノなのでカバーは必要ではあるのだが、あらゆる方向で役に立つという真に万能な戦力と言える者になったのだ。

 ちなみに、こうなっているのではと看破したのは、やはり主任である。文字で伝えるのにはかなり苦労したようだが、涼月の妖精さんへの理解力を以てすれば、それもかなり早い段階で可能だった。

 

 欠点とすれば、量産される時の()()が据え置きということ。他者の能力を受け取る際に、フレッチャーはそういう反応をする。力が注がれるというイメージになるらしい。

 

「これも彼女の自信に繋がってくれればいいんだがな」

「そうですね。前を向くことも出来る、すごい力だと思いますよ」

 

 うみどりの仲間の中でも、ある意味屈指の力と言えるだろう。有効活用するためには工夫も必要かもしれないし、そもそもの仲間との信頼関係も必要になると思われるが、やれることが無限大というのは非常に心強い。それこそ、深雪や電の力すら劣化版とはいえ自分に写し取れるならば、疑似的な特異点にすらなれてしまうのだ。

 あとは本人のやる気次第。進もうという気待ちがあれば、これを活かして戦える。

 

 そのフレッチャーは今、調査の疲れでうつらうつらとしている。そのまま眠らせておけばいいかと放置されているものの、その寝顔は穏やかなモノではない。

 

「記憶というのはどうにもならないな。過去の苦しい経験が、本人のものではないのにずっと付き纏うんだ。前世と言ってもいいんだろうか」

「まぁ……そうですね。本来の前世は、私達の時代で人間の犠牲になったフレッチャーさんだと思うんですけど」

「そのフレッチャーの記憶は微塵も無いのだろう。ならば、ひとつ前は米駆逐棲姫となった彼女だ。第二世代のフレッチャーとは別モノと考えた方がいいと私は思うが」

 

 ここはまた何とも言えない状態ではある。第二次の際に出洲一派の研究のせいで命を落とした何人もの艦娘達の1人に含まれているフレッチャーの魂が、今のフレッチャーとして再形成されたと考えているのだが、一応何処までの記憶があるかと話をした時に、流石に第二次のことは覚えていないと語っていた。

 命を奪われたフレッチャーとは別人。しかし、その魂を引き継いだフレッチャー。つまり、この世界で初めて生まれたカテゴリーB。真の第三世代と言える者となる。

 

「人間の記憶が本当に邪魔をしていますね」

「仕方なかろう。こればっかりは彼女の生まれが関わっている。これを人間のせいと言われたら何も返す言葉もないんだが」

「……いえ、誰が悪いかは一目瞭然ですから。貴女だって人間でしょう」

「ああ、私も、涼も、元々は人間だ。人間全てに罪があると言われると、流石に困る」

「一応は理解してますから安心してください。貴女達との交流で、私もそこまで尖った考えではなくなってますから」

 

 複雑な表情ではあるものの、明石は潜水艦勢の中では物分かりの良い方。今はもう人間全体に対しての苛立ちは持っていない。だから冬月とここまで交流が出来ている。

 その中でも特に悪である人間の存在が見えたのだから、より他の人間に対しての信頼は厚くなるというもの。

 

「私達と同じ純粋種なんですから、私はちゃんと支えていきたいと思いますよ。元の記憶はまぁ反省していることはわかっていますしね」

「そうしてやってくれ。せっかくの純粋種だ。君達が支えてやらないでどうするという感じだ。ついていけない私達の分まで頼むぞ」

「そうですね。工作艦として関わることも多くなるでしょうからね」

 

 ここの友情が、フレッチャーの今後にも関わることとなる。きっと大丈夫と信じられれば、それに応えるのが純粋種というものである。

 

 

 

 

 フレッチャーが前に進める準備は出来た。あとは、本人の心持ち次第。

 

 




量産する側だったフレッチャーは、ひっくり返ったことによって量産される側へと変化。その結果、屈指のチート能力を持つに至りました。
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