後始末屋の特異点   作:緋寺

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保証される特異点

 フレッチャーが仲間達に受け入れられている食堂に、朝から少々疲れた表情の保前提督が入ってきた。その後ろには、苦笑している伊豆提督と昼目提督も。

 その理由は非常に簡単なこと。朝早くではあるが、今回軍港都市で起きた事件の顛末を、改めて大本営に報告することになったからである。

 

「朝イチから疲れさせられたな……全部事前に伝えておいたからどうにかなったくらいか」

「本当にね。割とこちらの独断で進めたところもあったけど、そこは元帥からの指示もあったからって持っていけたから良かったわね」

 

 米駆逐棲姫を鹵獲したところまでは、瀬石元帥に報告後、大本営にも全て伝わっている。その後の米駆逐棲姫への処置に関しても、事前に報告はやっていた。大本営から、第一案と第三案の折衷案で実行するということに対して許可も貰ったからこそ、あのタイミングで処置が可能になったのだ。

 裁きの際には大本営を召集するという話は、裏できっちりと実行されており、提督陣のみで粛々と進められていたということ。そして、痛めつけながら処置し、その後どうなるか次第で対応方針を変えるという案で許可が出ていた。

 

 深雪と電による特異点の処置は記録されており、鎮守府内で確認出来るようにされていたが、実は代表である瀬石元帥にもリアルタイムで流れていた。保前提督が話をしながら、処置の状況を見てもらうことで、処置についても理解してもらっている。

 その動画は今、瀬石元帥だけでなく大本営に所属する者全員が確認出来ている状態。そこから、朝イチの大本営との会議で追求があり、それに全て答えていたことでここまで疲れたようである。

 

「特異点の存在も、大本営にはしっかり知られている。深雪、電、お前達の()()は、大本営のお墨付きとなったぞ」

「あー……今までってやっぱりあたし達ってヤベェ奴らだと思われてたって感じかな」

「当たり前だろ。ドロップ艦は発見次第始末が常識になったこの世の中で、過去のままで現れた純粋種なんだからな。お前達には何も言わないようにしていたが、上は常に警戒していた」

 

 この影響として、特異点のその能力は大本営内に完全に知られるようになった。普通の艦娘として考えるのならば間違いなく()()()()()()()()ではあるのだが、それを人類のために使っていること、そして今回の米駆逐棲姫の処置に対して悩みながらも自ら業を背負う覚悟を持って事にあたったことが評価され、大本営からも特異点は人類の味方であると認定されている。

 そもそもがうみどりで保護された謎のドロップ艦、しかもカテゴリーWという前例が無い存在であったため、手元に置いておくことも懐疑的ではあったのだが、今回の件で完全に信頼を得たと言ってもいい。実際は引き続き経過観察という体裁は取られるものの、特異点に対しては否定的な意見はこれによって全てが消えた。

 

「悪かったな、こればっかりは隠しておかないといけなかった」

「いや、それが普通だよ。それで済ましてくれてマジでよかった。多分、最初からそんなこと言われてたら、今みたいに上手くいってない気がする」

 

 深雪もそこは納得した。誰だって得体の知れない者があれば警戒くらいはする。最初から心を開くことは難しいのだから。

 

「これからは……いや、()()()()()、後始末屋として一緒に戦ってほしい」

「うす、上からも完全に認めてもらえたってのはありがてぇ。ほら、アイツらさ、特異点は生まれてきただけで罪とか抜かしやがるじゃん。でも、それだけみんなが認めてくれたんなら、いろいろと心強いぜ」

「ああ、自信を持ってくれて構わない。それを否定する者が否定されるべきだからな」

 

 これにより、特異点の処置は大本営公認のモノとして認定され、事前に形式上でも許可を取れば、それなりに自由に行なえるようになった。

 それを一任されるのは後始末屋であり、責任を持つのは伊豆提督。だとしても、伊豆提督はそれを容認し、深雪達を正しい道に導き続けると誓った。

 

 

 

 

 ここからはうみどりへの撤収準備。数多くある艦娘達の艤装をトラックに積み込み、ここにやってきた時の道を使って港まで向かうことになる。

 そこで危惧されたのは、今回の件によって特異点という謎の存在に対して不信感を持つことになった軍港都市の市民。ここに到着した際にも艦娘達を一目見ようと集まる者達がいたが、行きと違って帰りは奇異なモノを見る視線やブーイング、最悪の場合は罪を犯すことも構わずに特異点に向かって攻撃まで仕掛けてくる者がいるかもしれないと、嫌な想像がされてしまっていた。

 艦娘達はなんだかんだで割り切ることが出来ているが、一般市民が同じように割り切れるかと言われたらそうはいかない。

 

「軍港鎮守府のみんなが護衛に出てくれるらしいけれど、一応警戒だけはしていてちょうだいね」

 

 伊豆提督も、こればっかりは保証出来ないと少し悲しそうな表情。前と変わらないのが当たり前でなければならないのだが、前と今ではあまりにも状況が違う。

 

 特に深雪は何を言われるか、何をされるかわからない状況。護衛すらも貫通する精神ダメージを与えられる可能性を考えると、むしろ行きの時のカテゴリーYのように、特異点は隠して帰った方がいいのではとすら思ってしまうほど。

 だが、深雪自身が自分の足で帰りたいと話したことで、それは無しとなっている。文句を言われるなら言われるでいい。それに言い返すこともなく、自分のやったことは間違っていないと確信を持っているため、何を言われても折れないと胸を張った。

 

「トシちゃんが啖呵を切ってくれる……というか、切って()()()から、おかしなことは起きないと思うけれど、くれぐれも気をつけてね。深雪ちゃんから手を出したらおしまいよ?」

「わかってる。流石に人間に手を出すなんてことはしないよ。人間に手を出すのは、人間だけだと思ってるから」

 

 そう言うのも無理はない。既に何かやられそうになった時に手を出す気満々の者がいるからである。

 

「調査隊も特異点の護衛に入るぞ。ここの市民がアホなことをやろうとしたら教えろよ。オレが後悔させてやるからなぁ」

 

 昼目提督がコレである。人間には人間をぶつけるというのは海賊船での戦いでも言っていたことだ。それをここでもやるだけ。

 調査隊の特権──テロや裏切り者に対しての調査に関しては、一切罪にならない──が、ここでも活かされることになる。艦娘に対して攻撃的な態度を見せること自体、裏切り行為と見做されてもおかしくないのだ。

 深雪が傍若無人に人間を相手に狼藉を働いていたというのならば止めやしないし、そもそも昼目提督が深雪に対して攻撃していてもおかしくないのだが、今回深雪に一切の非がないことがわかっている。ならば、それを傷付ける者に対して拳を振るうことも厭わない。

 

「まぁマークちゃんはちょっとやりすぎなところがあるから、アタシがそれを止めなくちゃいけないんだけどね。それじゃあ……そろそろ行きましょうか」

「うす」

 

 長引いてしまった軍港鎮守府での生活もこれでおしまい。あとは帰るだけ。

 

 

 

 

 行きと同じ道を歩いて港へと向かう一同。深雪の周りには何があるかわからないと人数が多めに配置されている異様な状態。

 それでも、行きの時と同じように艦娘の姿を見ようと集まった、モラルのある優良なファンの姿は見えた。

 

「……何も言ってこないよな、うん」

 

 やはり少しは気にしている深雪だが、気にしていない素振りで歩く。電や白雲、グレカーレも、深雪には何事もなく進んでほしいとハラハラしていた。

 

 すると、市民達の視線が深雪に向いた。それが特異点──ここにいることで敵が攻め込んできたと感じてしまう者──であるとわかったことで、1人、また1人と声をかける。

 その言葉は、否定でも罵りでもない。ただ一言、()()()()()と。

 

「え、えっと、あたし今、礼言われた?」

 

 考えていなかった声援を受けて、深雪は逆にキョトンとしていた。

 

「トシちゃんがね、もう市民の説得は終わらせてるの。普通なら文句を言われてもおかしくない言い方だったけれど、本心からの言葉がちゃんと届いたってことよ」

 

 伊豆提督の説明を聞いて、深雪は驚きを隠せなかった。

 

 保前提督が市民に向けて説明をした時、やはり一定数の文句が出た。特異点がいたから街がここまで破壊された、何人もの市民が敵に洗脳されて今でも心に傷を負っているのだと。深雪がぶつけられたら、間違いなくショックが大きい言葉の数々を、当たり前のように。

 それに対する保前提督は、真っ直ぐ文句をぶつけた。特異点は市民を守るために戦っていたのに、何故文句を言われなくちゃいけないのだと。特異点がいたからこそ、この戦いは死者が一人も出ていないんだぞと。

 そもそも、自分の身が守れないからこそ、守る力を持つ者が身を挺して、命を懸けて戦っているというのに、そのために生きている特異点が守られる者にそんなことを言われて、守る気が無くなったらどう落とし前をつけてくれるのだとまで言い切った。お前のせいで被害を受けたという言葉に対して、お前らのせいで戦力が減って戦争に勝てなくなったらどうするんだと返す荒業。

 保前提督だからそんなやり方が罷り通る。これまで常に本心をぶつけ続けてきたからこそ、そんなことを言っても市民から苦情が出ない。それもそのはず、そういう文句を言ってきた者は、本当に被害を受けた者ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()の者、つまりは悪質なクレーマーばかりだったからである。保前提督も、それを見越してここまで強い言葉をぶつけたに過ぎない。本当に理解している市民は、そもそも文句など言わない。言いたくても自重するし、保前提督の説得で納得している。

 

「……すげぇな、保前司令」

「ええ、アタシじゃ絶対に出来ないわ。だから、アタシはトシちゃんのことを尊敬してる。勿論、マークちゃんのこともね」

 

 今話題に出た昼目提督も、市民、特にそのクレーマーのような存在に対して、しっかり睨みを利かしていた。保前提督に言い負かされたことを逆恨みして、この帰投の際に特異点に直接文句をぶつけてやろうと考える輩を最初から抑えつけることに成功している。

 そして、そんな者がここにいるとわかった瞬間、モラルのある優良なファン達が、この場から排除するべく動いていたことも忘れてはいけない。艦娘達のモチベーションの維持は、市民によっても行なわれているのである。

 

「アタシ達は、守るべき人類に守られて戦えるのよね」

「だなぁ……なんかすげぇ実感出来た。だから、守りたいって思える」

「ありがとう、こんな人間でも守りたいって思ってくれて」

 

 市民からの御礼、そして伊豆提督からの言葉で、深雪は俄然やる気が出た。そして、またここに来たいとも思えた。

 

 

 

 

 そうして軍港都市を後にする。いろいろあったが、最後に悪い思いをすることはなかった。

 




市民の民度が低くなりかけたけれど、そういうのって先導者となり得るクレーマー気質がいるのではというのが今回の話。そして保前提督はそういう輩に一切容赦が無いのでした。
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