軍港都市の一般市民にも見送られ、深雪達は港に到着。ここまで来たら見物人の姿は無く、荷物の積み込みなどの邪魔はさせないようにしていた。遠目に見ている者はいるかもしれないが、少なくとも港に人影はない。
念のためイリスもチェックし、『迷彩』の曲解を持つ何かがそこにいないことも確認済み。最後の最後に落とし穴があるということもなく、気持ちよく最後の帰投準備に入る。
「フレッチャー、大丈夫だったか?」
「は、はい、大丈夫です……」
深雪がさりげなくコンテナに話しかけると、中からフレッチャーの声が漏れてきた。
艦娘の仲間達とは、鎮守府でも受け入れられたおかげでまだ話すことくらいは出来そうなのだが、罪悪感は軍港都市の市民も対象。どうしても顔を合わせられないと、荷物扱いでうみどりに連れて行ってもらうことを望んだ。
行きで出来たのだから帰りも出来るということで、結果としてカテゴリーY達が運ばれたように、そこで生活出来るくらいの快適なコンテナ内でうみどりまで輸送された。
「狭っ苦しくてキツかったんじゃないかなぁ」
コンテナを眺めながら呟く、経験者である黒井兄妹の妹、蛍。彼女だけは、コンテナ輸送をされたことに対してギャーギャーと声を上げていた者だ。
行きの際にコンテナに入って輸送されたカテゴリーY達は、ツノが煙幕によって見えなくなっているということもあり、堂々と正面から帰ることが出来ている。平瀬あたりは、桜を肩車しながら港まで歩いてきたくらいだ。黒井兄妹も、行きの時と違ってのびのびと歩いてきている。
ちなみに、軍港鎮守府に残り、より安全な生活をした方がいいのではと案を出されたが、全員がうみどりに残ることを希望している。まず黒井兄妹はフレッチャーと同じく島に因縁がある者として同行したいと話し、平瀬、手小野、そして桜も、ここまで来たらうみどり職員として手伝わせてほしいと頭を下げた。
伊豆提督もそう望まれたら否定は出来ない。今の後始末屋は危険だということを承知な上で、それでも手伝いたいと言うのなら、職員としての登用を許可することにした。カテゴリーYもうみどりで管理するという方針を変えないだけである。事実、人数がいればいるほどありがたいところもある。艦内の掃除とか。
「い、いえ、そんなことは……。目を気にしなくていいのは、その分楽でもありますので……」
コンテナ越しではあるものの、フレッチャーは今の状況を自分で望んだこともあり、何も文句を言わない。むしろ、本格的に居心地が良くなりつつあり、先日が寝不足でもあったため、うつらうつらしてしまっていたほどであった。
ここからは各々が自分の荷物を運び込むだけ。艦娘達は私物を持って散る。
「まぁ自分の部屋は何もなってなかったし、代わり映えはないけど」
「それでも、久しぶりの部屋なのです」
本来予定されていた日数以上に軍港鎮守府に滞在していたからか、それなりに長く使っていた自分の部屋ですら、少々目新しいように感じてしまっていた。うみどりの修復は部屋には至っておらず、この辺りは何も変わっていないのだが。
それだけ軍港都市で起きた事件が濃厚だったということに他ならない。最初は休暇として向かったはずなのに、それ以上に疲れることになったというのもある。
「出港はもう少し後だな。ハルカちゃんは最後の手続き中だっけか」
「なのです。まだ時間はあると思うのです」
「じゃあ、それまでデッキに行ってみようぜ。あそこが一番壊されてたしさ」
修復のメインはデッキ。戦標船改装棲姫との戦いで大きな損壊をさせられたそこは、今はおそらく破壊される前に戻っているだろう。そこからなら、見納めというわけではないが港の様子も見える。
デッキに向かう途中で白雲とグレカーレとも合流し、そのままデッキに入ると、あの戦闘の前よりも綺麗に整ったものを見ることになる。素材も全て新品になっているため、見慣れたものなのに見慣れない新しさを感じる。
新しくなるとここまで代わり映えを感じるのならば、それだけうみどりが酷使されていたというのもある。
「お、流石速さに定評のあるフーミィ、早速定位置にいるぜ」
そんなデッキの先端には、既に伊203が陣取っていた。今はうみどりも動いていないのだが、一番好きな場所と語っているだけあって、誰よりも早く、いの一番にここまで来ていた。
まるで瞑想するかのように目を瞑り、お気に入りの空間で気持ちを落ち着かせている。既に制服の水着に着替えているところもポイントである。
「ん、深雪達も来た?」
「ああ、やっぱりちゃんと直ってるところが見ておきたくてさ」
「私も。ここが一番好きな場所だから、元に戻ってるかは気になってた」
直っているどころか、さらに居心地が良くなっていると、伊203は表情が乏しいながらもご満悦の様子。これでうみどりが疾り出した時の風を感じることが出来れば、もっと気分を良くするだろう。
「フレッチャーにも教えるつもり。ここで気持ちが落ち着けるなら、いくらでも使うべきだから」
「……だな。でもここってなかなか一人になることは出来ないよな」
「だからこそ。フレッチャーはもっと私達と縁を結んだ方がいい。もうみんな受け入れてるから」
それは勿論、伊203もだ。あのフレッチャーを米駆逐棲姫と同じとしてはもう考えていない。割り切りの速さにもこだわりがあるようである。本人が一番割り切れないことだけは仕方ないことではあるのだが。
「フレッチャーには、うみどりのいいところをどんどん知ってもらいたいな。仲間は誰もいなくならないんだし」
「んー、あたしら第二世代は全員うみどりに乗るわけじゃないよ?」
グレカーレに言われたことで、深雪は少し驚く。そんな表情を見て、グレカーレもだが電も苦笑していた。
今回のうみどり修復の際に、それ以上に破壊された潜水艦の修復も続けられている。しかし、潜水艦自体がもう何十年も前に建造されたものであるため、妖精さんであってもそれを完全に修復するのは難しいとしていた。
そのため、潜水艦を基にして、新たな移動鎮守府に改造するという案が並行して進められていた。妖精さんの技術は恐ろしいもので、うみどり修復の数倍の時間がかかると思われていたそれは、今はもう9割ほどは終わっているという、迅速かつ丁寧な作業。出港は少し遅れるそうだが、うみどりの補助、後始末屋補佐としての活動を始めるというのが、正式に決まっている。
「うみどりに残るのは、あたし達
グレカーレが話すには、このうみどりで特に交流を深めた者、考え方を変えた者はうみどりに残り、他の者は新たな艦で後を追うというカタチになるらしい。
実際にうみどりに残るのは、丹陽と明石を筆頭に、グレカーレ、スキャンプ、夕立の問題児組、それに加えてうみどりで考え方を変えたZ1や、那珂に懐いている舞風、長門と共に自らを鍛えている清霜など。
残りの者は名残惜しそうにはしていたものの、潜水艦では無く海上艦での航行で生活出来ることを喜んでいた。ジメジメした環境では無くなるだけでも、心が晴れやかになると専らの話。
「じゃあ、あっちはあっちでまた組織的なものになるのか」
「だねぇ。誰がボス代理になるかって感じだったけど、結局ボスと常に通信できるようにするから、マジでただ居場所が分かれてるってだけだよ。後始末やってる最中は基本は二隻で行動するっぽいしね」
あくまでも補佐として動くため、行動自体はうみどりと共通。少しの間は二隻での行動で、作業が多くなってきたら手分けをするということになる。
ちなみに食事の件は、セレスがうみどりに乗るため、後始末屋補佐の方は料理が得意な艦娘達が当番制で回していくとのこと。
「うみどりが落ち着いたら、ボスも向こうに行くっぽいしね。今はほら、フレッチャーの件があるから」
「あー……なるほどな。あたし達が導くっつっても、やっぱ丹陽が保護者するのが一番いいか」
「そゆこと。なんか今日から相部屋で生活するらしいしね」
今のフレッチャーに一人部屋は少々荷が重いと判断されている。罪悪感に苛まれすぎて、自傷行為などに走ってしまったらよろしくないからだ。
そのため、眠るときは丹陽や明石が、それ以外の日中は深雪も含めた仲間達が常にフレッチャーの隣にいることになる。
「私も多少は気にかけるつもり。丹陽みたいにコソコソはしないけど」
「ああ、頼む。あたし達だけじゃ手が届かない時もあるだろうし、フレッチャーはもう少しいろんな奴と関係持った方がいいからな」
伊203もそうだが、フレッチャーはまずは内向的な性格を改善するために、うみどりの仲間達は積極的に触れ合うことになるだろう。夕立が半強制的に遊びに参加させることを決定しているくらいなのだから。
「よし、じゃあフレッチャーに会いに行くか。今頃積み込まれてどうすりゃいいか困ってそうだし」
「なのです。電達は特に仲良くしたいなって思うのです」
「言っちゃ悪いが、あいつもあたし達の
「なのです!」
新生うみどりでの新たな生活で、フレッチャーがうまくやっていけるかはまだわからない。しかし、周りがうまく手を引っ張ってやることが出来れば、罪悪感はそのままであっても前を向くことは出来るだろう。
「よし、手続きも完了だ。これでうみどりは出港出来る」
保前提督が全てを完了させ、伊豆提督に伝える。
「ごめんなさいね、こんなに長居させてもらっちゃって」
「今回は例外だ。あれはこんなことになっても仕方ない。大本営もしっかり許してくれてる」
「本当に助かったわ。これからも、ここは使わせてもらうから」
「頼む。お前達は市民にとっても最高の上客だからな。来てもらわないと困る」
そんな冗談も交わしつつ、お互いに笑みを浮かべて握手。過去からの親友であっても、それ以上に今は戦友。これからの戦いを無事に乗り越えることを祈り、また会えることを願う。
「次は、
「それはアタシも望んでるわよ。今回も前回も、お互い酷い目に遭ったわね」
「こうならないように、こっちでも動き続ける。度々連絡するかもしれないが許してくれ」
「大丈夫、それはこっちもだろうから」
ニヤッと笑って、握手を終わらせた後に拳を突き合わせた。
「忠犬、お前もアホなことするなよ」
「わかってますって。オレだって今度はここに休暇で来たいんスから」
昼目提督も笑顔で答える。調査隊はここからは島の調査なども入るので、うみどり以上に危険に踏み込みかねない。それを考えると、若干心配ではある。しかし、やっていかないとこの戦いは終わりに向かわない。
「じゃあ、また会いましょう。また呑みにいきましょうね」
「トシパイセン、また愚痴聞きますぜ。胃薬が減ってること祈ってるんで」
「本当にな」
また会えるのは確定事項。勝利の凱旋となることを祈り、ここで別れる。誰も失わず、何も壊されず、今のままでの再会を望んで。
短くも長かった軍港都市での一件は、これで終わりを迎える。ここからはまた後始末屋としての仕事をしながら、決戦に向けて準備をしていく。
今回457話、軍港入りしたのが359話。約100話を軍港都市編として進めてきましたが、ここからついに次の話に入ります。100話って普通なら終わっててもおかしくないんよ。