長く感じた軍港都市での一件は本当に終わり、うみどりは出港。まずは艦に乗った艦娘達が食堂に集まる。
時間的には昼食時。すぐに提供出来るわけではないので、裏ではセレスが腕によりをかけて調理中。その間に、伊豆提督とイリスが今後の予定を全員に伝えることにした。
うみどりそのものが動き出したとしても、すぐに何かしらの作業が出来るわけでもない。まずは現状と今後を全員で共有して、それに合わせて行動をする。
この場には今うみどりに乗ることを選択した者全てが集まっている。勿論、フレッチャーも。今は深雪達の近くで少し俯き気味ではあるがキチンと話を聞いていた。
「なんだか、ここでこうやって話すのも久しぶりな感覚ね。戻ってきたって感じるわぁ」
しみじみと語る伊豆提督に、全員が同意した。
最後に後始末屋としての仕事をしたのは、海賊船での超規模後始末。約1週間かけてこなした、後始末屋史上最大の規模の作業。あの時は、今はここにいない潜水艦勢のフルメンバーや友軍の榛名艦隊などにも手伝ってもらったほどの過酷な作業。
今はそれすらも少々懐かしく感じるほどである。それほどまでに濃厚な時間を過ごす羽目になったと言える。
「さて、今日から後始末屋としての仕事に戻るけれど、まずは一番近くの現場に向かうわ。そこは小規模だから、久しぶりの作業には打ってつけと言えるわね。ありがたいことに、別の後始末屋が大きいところを優先して片付けてくれたのよ」
大規模な後始末を放っておく方が危険であることは、何処の後始末屋も理解していること。この深海戦争を長引かせないための作業としては、すぐにでも新たな戦場になってしまいかねない現場から片付けるのが定石中の定石。
その分、うみどりに大きな貸しが出来たと別の後始末屋の提督はニッコニコだったと伊豆提督は苦笑していた。他の地域で何か起きた時は、うみどりは率先して動くことになるだろう。そんなことがあるかはわからないが。
「その現場は、明日の朝には着く予定よ。それまではフリーになるから、各々
この『いつも通り』がここ最近出来なかったというのもあり、ここにいる者は誰もが、日常が帰ってきたのだと実感することが出来た。
昼食も終えて、艦娘一同は自由時間となる。この時間を休息にあてる者もいれば、自らを鍛えることに入れ込む者もいる。
深雪達は一旦自分の部屋に戻ってから、次の行動を考える。だが、白雲とグレカーレは何かを言うまでもなく、すぐにトレーニングウェアに着替えていた。
「お姉様、白雲は神風様に鍛えていただこうと思います。次の戦いまでに何処まで行けるかはわかりませぬが、お姉様をお守り出来るよう、さらに精進して参ります」
「ああ、頑張れよ。グレカーレも一緒に行くのか?」
「そだね、シラクモのお目付役ってカタチだから、一緒に扱かれてくるよ」
白雲とグレカーレはここからは別行動。白雲は、軍港鎮守府の時から約束していた神風による修行により、今以上に仲間を、最愛の姉を守ることが出来る力を得ることを望む。グレカーレも努力する仲間達に置いていかれないように、共に頑張ろうとしていた。
深雪や電と別行動になったとしても、今は成長を優先する。そんな白雲は深雪と電に一礼し、グレカーレは笑顔で手を振ってその場から離れていった。
「よし、あたし達は」
「フレッチャーさんに会いに行くのです」
「だな」
深雪と電は、ここで鍛えるのではなく、今後仲間達と共に歩いていくフレッチャーと行動する。
少しでもうみどりに慣れられるように、一番心が許せているであろう特異点と共に行動する方がいい。その上で、ここにいる仲間達と交流し、少しずつでも顔を合わせられるようにして、ここに居心地の良さを持ってほしい。
「今は何処にいるんだっけか」
「いるとしたら……お部屋ですかね?」
「じゃあ、迎えに行ってみるか。確か丹陽の部屋だったよな」
フレッチャーは自分から行動しているとは思えなかったため、まずは迎えに行くところからスタート。もしかしたら誰かの手によって部屋から出ていっているかもしれないが、まずは行ってみなければ始まらない。
今回は部屋から出ても扉の前で待っているなんてことは無かった。だが、丹陽の部屋に向かう前に顔を合わせることにはなった。丹陽がフレッチャーを案内して、深雪達が向かってくるであろう経路も予測した上で、入れ違いにならないようにかち合わせている。
「お、ちょうどよかったぜフレッチャー、今から迎えに行こうと思ってたんだ」
「今日からうみどりの一員ですし、この艦内を電達で案内したいと思ったのです」
深雪達に話しかけられると、どうしてもビクッとしてしまうのだが、丹陽が背中を押したことで、おずおずと前に出た。
「え、と……それでは……よろしくお願いいたします」
「おう、丹陽よかったか?」
「はい、私もこれから予定がありますので、フレッチャーさんのことを頼みたかったんですよ」
それで真っ先に深雪達と会えるようにしたのは相変わらずだなと苦笑。来るとも限らないだろうが、それでもドンピシャで行動を当てている辺り、流石と言える。
「はい、それではフレッチャーさん、頑張って。貴女はもうここの一員です。前を向くと決めたんですから、俯くのではなく、顔を上げて、みんなの顔を見てみましょうね。顔色を窺うんじゃないですよ?」
「……が、頑張り、ます」
「深雪さん、電さん、フレッチャーさんのことをよろしくお願いしますね」
ニッコリ笑って足速にそこから離れていった。引き止めたいわけではないのだが、その速さに少し驚いてしまったくらいであり、あっという間に見えないところにまで移動してしまった。
フレッチャーを早く独り立ちさせたいという気持ちがよく見えた。せっかくこの世界に生まれた純粋なカテゴリーBなのだから、新たな世代として前向きにこの世界を楽しんでもらいたいという気持ちも込めて。
「よ、よし、じゃあ案内すっからさ、適当に歩くことになると思うけど、それでよかったか」
「はい……お任せします。その、ここがどういう場所であるかも曖昧なので……」
「了解。じゃあ、あたし達が後始末屋がどういう組織かってのも教えながら見て回ろうぜ。説明がうまく出来るかはわかんねぇけど」
「電もお手伝いしますね。ここがどれだけすごい組織なのか、ちゃんと伝えたいのです」
深雪と電の笑顔にフレッチャーはたじたじではあるのだが、その厚意に甘えることが許されているため、ただよろしくお願いしますと頭を下げることしか出来なかった。
そこから離れた丹陽は、その足で執務室へ移動。伊豆提督とイリスに挨拶しつつ、もう片方の後始末屋として活動を始める元潜水艦の方へと連絡を始めた。
「こちらうみどりです。そちらの様子はどうですか、ボス代理?」
『これからあたしはその呼ばれ方するんだね。なんかくすぐったいなぁ』
「まあまあ、私は30年ボスと呼ばれ続けたんですから、まだ数時間のことじゃないですか、タシュケントさん」
もう片方、後始末屋補佐となる元潜水艦のトップとして据えられたのは、タシュケントである。
元々特異点と接触するきっかけを作った功績、また艦の時代に嚮導駆逐艦であった経歴もあるため、疑似的なトップに立つ人材としては最適であった。
『こっちは結構賑やかな感じだよ。食事当番はどうしようかで盛り上がってる』
「前と違って新鮮な素材もありますから、自由にしてくれて構いませんからね」
『そのつもりだよ。ただ、節約は必要だから、余計なことはしないように制御はするつもりさ』
新たな艦内は、潜水艦として活動している時と比べると大きく様変わりしていると言えるらしい。そもそも太陽の光が浴びられる環境にいられる時点で、全員が明るくなっている。
「ああ、そうです。そちらの艦の名前ですが、『こだか』となるそうです。今後はそのように呼ばせてもらいますね」
『こだか、ね。みんなに伝えておくよ』
海上清掃艦『こだか』として生まれ変わった潜水艦は、この後もう少ししてから稼働を始める。夜には出港し、うみどりが小規模の現場で作業する時に追いつけるように行動する。
こだかの方が小型の艦になっているおかげで、うみどりよりも少しではあるが速力が高い。サポート艦のようなものであるため、迅速にうみどりの近くに向かえるように各種機能が設定されているらしい。
基本的にはうみどりよりも速力以外のスペックは下。後始末で回収した残骸などを溜め込める量なども若干少なめだし、その中で住むことが出来る艦娘達の数も少ない。ただしサポート艦としては非常に優秀。
『予定では、合流は明日の朝……いや、昼前くらいということでいいかな』
「はい、大丈夫です。ハルカちゃん、良かったですよね?」
「ええ、それでお願いね。そちらの手を煩わせることはないかもしれないけれど、まずは現場で合流しましょ。そちらもどう動けばいいか慣れた方がいいでしょう?」
『だね。あたしとしてもボス代理としての動き方に慣れておきたいからね。これからもよろしく頼むよ、同志提督』
簡単ではあるが、こだかとの通信はこれで終わり。これから毎日、定期的に通信をすることによって、こだかの内情などを知っていくことになる。そう簡単におかしなことになるとは思えないものの、何かあった時に迅速に行動がしたいというのもあるので、丹陽が気にかけていた。
「ハルカちゃん、私達にも役割をくれて、ありがとうございます。今回は合流しますけれど、現場の数次第では分かれて処理にあたればいいですよね」
「ええ。一度はみんなが後始末の作業をやってくれているから、小規模ならすぐにでも作業が出来るでしょう。任せちゃっていいかしら」
「はい、お任せください。私は何も出来ませんが……一応まだボスという立場ではあるので、管理運営をうまくやっていかせてもらいます」
これもあり、丹陽は立場的には提督ということになる。艦娘に提督をやらせるというのは、今の深海戦争の中では初めてのことなので、提督と呼ばれることはないとは思うが、今のこだかの艦娘達は、改めて丹陽をボスとして認識しているので、提督と呼び始めるのも時間の問題かもしれない。
丹陽自身は未だ自分がその器であるかは疑問に思ってはいるものの、既にお飾りのトップから真にトップの存在となれているので、管理運営という言葉も使っていくようだ。
「それじゃあ、これからはうみどりとこだか、2つの海上清掃艦で事に当たりましょう。丹陽ちゃん、改めてよろしくお願いね」
「はい、改めてよろしくお願いします、ハルカちゃん」
ここの仲がこれだけ良好だからこそ成り立つ、複数の艦による後始末屋の運営。より海を綺麗にすることを念頭に置いた、戦争を早く終わらせるための手段となった。
うみどり、おおわしと来て、3つ目の艦はこだかとしました。大きな鷲がいるので、小さな鷹ということで。