艦内散歩の最後の地点は工廠。前を向くために、また、罪滅ぼしと言いそうになりつつも、世界をより明るくする為に、是非後始末作業に参加させてほしいというフレッチャーの艤装の確認をするために訪れた。
そこには他の場所と同じように仲間達が屯していたのだが、そこからフレッチャーの能力の話題に。その力がひっくり返り、
深雪からもやってみないかと言われたことで、フレッチャーは快く応じることとなった。しかし、少し顔を赤らめていたのには、気付くことが出来なかった。
単純に量産型になれると言ってもわからないことが多いのだが、その条件というのは非常に簡単。明石が既に実証しているため、それを試してみるだけである。勿論、伊豆提督などにも許可は貰っている。
その伊豆提督は今は少し手が離せないらしく、執務室で平瀬や手小野に手伝ってもらいつつ映像によって確認。それもあって、この実験の様子は主任が撮影機材を使って記録し、リアルタイムで執務室で確認することになる。
「ん? 主任どうした?」
そんな主任は本当に大丈夫かと言いたそうな表情をしている。フレッチャーは大丈夫ですと返すものの、未だ少々恥ずかしげ。それでいいならと主任は進めるものの、不安は少々出てきている。
フレッチャーは勿論のこと、試してみる者達は全員艤装も装備。量産化した後に艤装にも変化が及ぼされるかどうかを確認するというのもある。
その時点で、フレッチャーの艤装は正しく稼働していることが確認された。まだ海上歩行などは確かめていないものの、フレッチャー自身がカテゴリーB、純粋種ということで、練習の必要が無いのだろうが、これが終わったら念のためやることになる。
「では、まずは梅からやってみますね」
後始末にも使えそうな力を手に入れてしまった梅。その力は『解体』の曲解。無機物に限るが、触れたものを解体する能力。その場で崩れ去るというのが正しく、後始末では大物の残骸を細かくすることが出来るのではという期待の力。
梅もその使い道なら誇れると前を向くことが出来ている。後始末屋としての誇りを取り戻すことも出来ており、むしろ有効活用しなくてはと率先してその力を確認しているほど。廃材などで練習しながら、次の後始末で実践する予定である。
「鎮守府にいる時に調べてもらっています。私の首に指を当ててください」
それを聞くと、梅は少し苦い顔をする。そのやり方はまさに、他者に量産化を施す時のモノ。爪を刺すわけではなく、指を押し当てるだけとはいえ、あの時の自分を思い起こさせることであるため、若干抵抗が出てしまう。梅もその力を使って仲間を陥れている経験者なのだから。
「すみません……これがこの力の条件でして」
「そ、そうですね、うん。ああして妹を増やしてたんですから、ひっくり返ればそれをやられる側になるのは当然ですね」
確かめるためだと、意を決して梅はフレッチャーの首に触れる。
ここまで準備をしないと量産が出来ないとなると、戦場で咄嗟に能力を借りることは難しいかもと深雪は考える。
しかし、本当に難しいと思うのはここから。
「っんぅっ」
声を上げ始めるフレッチャー。その声色に、深雪と電だけでなく、そこにいる者達全員が複雑な反応を見せた。
実際にやっている梅は特にである。
「っは、はぁああ……っ」
恍惚とした表情、小さく震える仕草、漏れる声。米駆逐棲姫の量産よりも反応が激しく見えてしまうのは気のせいか。やっている梅の方まで顔を赤らめる始末。
「っうっ、ふぅうんっ」
そして、一際大きく振るえた途端、ジワリと見た目が変化していく。量産型になっていることを如実に表すために、服装を相手側に合わせる。米駆逐棲姫の時とほぼ同じではあるが、相手を読み取って変化を始める為に、量産型になるのにも少しだけ時間がかかっていた。
今回は梅のコピーとなるということで、フレッチャーの制服は立ち所に梅と同じ制服へと変化。髪の色も梅に準拠した明るい紅梅色に染まる。眼鏡までしっかりコピー。米駆逐棲姫の時のような量産された側の証として本体との差異として残っているのが、フレッチャー自身が最初から身につけているニーハイソックス。制服に合わせて黒に染まったが、そこは梅本人との差分となっていた。
妹になっていく変化をフレッチャー自身が受け入れているような、そんな変化に驚きを隠せない。トラウマを刺激される者もチラホラいそうで、これは多用出来ないのではと考える者も。
「っふ、ふぅぅ、ふぅ……量産化、完了です」
少しだけ惚けた表情ではあるものの、フレッチャーがそう宣言することで、能力のコピーが完了。今のフレッチャーは梅と同等の力を持っているということになる。
まだ小さく震えるフレッチャーの姿に、今後もこれをやっていくのかと不安になる一同。
「ぎ、艤装自体は何も変わってないみたいだな。偽装の方が大きく変わってるくらいだ」
「な、なのです。でも、中身は変わっちゃってるとかなのです?」
少々空気が複雑な状況になってきているので、深雪と電が話題を変えた。フレッチャーに触れているようで触れておらず、先を見据えて動こうという促し。
それもそうだと、すぐに調査が始まる。まずはその艤装のスペック。
艤装の形状までは変化はしていない。しかし、主任が調査をすることで判明することも出てくる。
「大発動艇が装備出来るようになっている……ようですね」
まだ少し昂揚しているような表情のフレッチャーが、現在の艤装の状況を説明した。
駆逐艦の中でも限られた性能である大発動艇装備の性能をそのまま引き継いでいる。そもそもの艦娘としてのスペックまでコピー出来てしまうというのなら話が変わる。
まだ実験をしていないものの、艦種違いの量産をした場合、艦種そのものすら変わってしまいかねない。もしくは、駆逐艦という範囲から離れないレベルで再現するか。
「問題は解体の方です。梅はどんなものでも触れればボロボロに崩すことが出来ますけど……フレッチャーさんはどうなりますかね?」
「試してみましょう。おね……いえ、ごめんなさい、なんでもないです梅さん」
今何かを言いかけたようだが、フレッチャーは苦笑しながら能力の実験に動く。
無機物の解体ということで、主任が2つの同じモノ、修復が不可能となった主砲を持ってきた。
まず梅が解体を実演。主砲に触れて力を込めると、それはすぐにボロボロと崩れ始め、最後は完全に破壊される。この破片達を溶かして再構成すれば、新たな資材にも出来そうではあった。
その後フレッチャーが同じように触れて力を込めると、梅の時とは違う反応を見せる。
「ボロボロにはならないみたいですね」
「はい……あくまでも私は1ランク下げての劣化コピーのようですので、おね……梅さんと同じようには出来ないようです」
最終的には主砲は解体されたものの、梅がやったように細かくはなっておらず、主砲としては使い物にならなくなったものの、まだそれが主砲であるとわかる程度ではあった。
そういうところで1ランク下がるというところを表現している。あくまでも量産、コピー元よりは力は劣る。
「あのぉ、ちょいちょい言い間違えそうになるみたいですけど、もしかして量産型になると、
梅の質問に、フレッチャーは頷いた。ここもある意味ちゃんとひっくり返った要素。量産して妹にする能力だったのだから、量産されたらフレッチャー自身が妹になるのも必然といえば必然である。
今のフレッチャーからしてみれば、量産元である梅はその力をくれた姉。
「我慢しなくても大丈夫ですよ。そういう力ということがわかれば、納得出来ますからね」
「そうですか? では、ここからは我慢しませんね、御姉様」
今は梅に惹かれている状態なので、梅の発言を素直に受け入れて、我慢せずに姉と呼ぶように。
これもコピーをそのままにしている間のみ。それを解除すれば、この姉に向けての感情は途端に薄れる。
それもすぐに実証。フレッチャーが違うカタチで力を込めると、またジワリと姿が変化していき、元のフレッチャーの姿へと戻った。
「はふ……梅さんの場合はこうなります。まだ、試しますか?」
「そうですね。では次は私をお願いします」
次は神威。あの排煙の力がどうなるかというのもあるが、艦種違いはどうなるかを早めに確かめておきたい。
ではどうぞと、フレッチャーが首筋を差し出すと、神威が失礼しますと親指で触れた。
「んぁっ」
この反応だけはどうにもならないようで、変化のたびに嬌声を上げられるのは仕方ないにしてもやる側は変な気分になってしまうもの。
「あっ、あぁああっ……」
そして再びフレッチャーに変化。制服は神威と同じモノになる。量産化の証はやはりニーハイソックスに現れるようで、包帯のように脚に巻き付いている神威のモノとは違い、フレッチャーはそのまま据え置きとなっている。
「っはぁあ……量産化、完了しました、御姉様」
「そ、そうですか。ではまた調べてみましょう」
惚けた瞳は一旦見ないことにして、神威の量産型となったフレッチャーを確認すると驚くべきことが判明する。
「……
駆逐艦は駆逐艦のままではあるのだが、なんと水上機が装備出来るようになってしまったとのこと。同郷の駆逐艦に回転翼機が装備出来る艦娘がいるのだが、その要素を含んだのか艦載機までコピー元と同じように扱えてしまうようである。勿論大発動艇も可能。
そして問題の曲解能力の方はというと──
「フローラルな香りが漂ってきますね」
嗅いでいると落ち着ける匂いという点では、神威と同様。精神を癒すという面が劣化コピーされた場合、フレッチャーは癒しの要素が少々劣化したアロマ的なモノとなっている。そういう意味ではそこまで強くないと言える。
「なるほど、これくらいの劣化なんですね」
「水上機母艦になれてるだけでも充分すぎるでしょうね」
こう見ると、フレッチャーの能力は非常に強力と言えよう。余裕さえあれば、いつでもどこでもどの艦種にでもなれるという異常とすら言える力だ。
この後もまた量産を続けるのだが、他にもいろいろとわかることが出てくるだろう。
何回喘ぐのか楽しみになってきた