後始末屋の特異点   作:緋寺

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その力も手に入れ

 工廠にて、フレッチャーの変質した能力の確認をしている一同。梅、神威と、新規カテゴリーWの曲解能力をコピーした結果わかったことは、あくまでも劣化コピーであるために、使いやすい能力、使いにくい能力があるということ。そして、艦種すらも疑似的な乗り越え方をしてくるということ。

 神威をコピーした際に、駆逐艦でありながら、水上機まで扱える疑似的な水上機母艦となっていた。また、梅の時もそうだが、本来フレッチャーには扱えない大発動艇の運用も可能になっている。それは非常に有用な結果となった。

 

 しかし、その都度フレッチャーに触れる必要があること、そしてコピーをされるたびにフレッチャーが喘いでしまうこと。これが大きなデメリットと言えた。

 コピーにはどうしても時間がかかるものであり、その間は無防備となってしまう。戦場でやるには、確実に安全な場所でなければならないし、量産化完了後、すぐに順応出来るかもわからない

 ただでさえ、神威の量産型から脱却し、今はまたいつものフレッチャーの姿には戻っているとしても、量産化の感覚で恍惚としている状態。すぐに気を取り直すものの、これを戦場でやるのは難しいと、ここにいる者達全員が同じように思った。

 

「まだ確認しますか?」

 

 フレッチャーからの言葉に、どうしたものかと首を傾げる。ここまで見られたら大体わかるのではというのもあり、フレッチャーの()()を何度も見るのは、トラウマを抉られると同時に、あの喘ぎが可哀想にすら思えてきている。

 いちいちあんな姿を晒さなくてはいけないというのは、どうしても引っかかってしまうもの。なら、あまり使わずに済む方がいいのではと考える者がチラホラ。

 

「今ここにいる能力持ちは、梅と神威さんだけなので、ひとまずは大丈夫かなと思いますけど」

「強いて挙げるなら、艦種が違う方々のを試してみるかというくらいかと思います」

 

 梅と神威の提案により、駆逐艦と補給艦以外の艦種も多少は調べておいた方がいいという流れになった。特定の艦種がいないなら、流石に来てもらってでも調べるなんてことはしないが。

 

 その結果、工廠ではフレッチャーの喘ぎが度々発せられることになってしまった。

 

 

 

 

 ある程度調査を終えて、フレッチャーも元に戻っているのに少しだけ震えているような状態となっていた。

 あまりに連続でコピーをすると、疲労が蓄積されてしまうというデメリットも判明した。やるたびに嬌声を上げ続けているのだから、これはもう仕方ないことなのかもしれない。

 

「あ、あと1回くらいが限界かと思います……」

 

 フレッチャー自身もこう言うレベル。初めてこの力を何度も行使したことで、目に見えるくらいの消耗に繋がっている。1回2回くらいなら余裕で耐えられるものの、連続はよろしくない。一度のコピーで精神性にすら若干の影響を与えるのだから、それがコロコロと変わるのも負担に繋がっているようだ。

 

 それまでは、曲解の能力を持つ者達をコピーした時にどれくらいの模倣が出来るのか、艦種違いのコピーはどこまで再現出来るのかを基本としていた。

 実際、フレッチャーは大体の艦種を再現することが出来ていた。軽巡洋艦や重巡洋艦は勿論、空母や戦艦まで模倣出来てしまったのだから、この能力は汎用性が非常に高いことが窺える。それを知って清霜が目を光らせたのは言うまでも無い。

 特異点として目覚めたことで、あらゆる兵装が装備出来るようになった電とほぼ同じと言える。事前準備さえしておけば、どのような艦種としても扱われるのは、戦場では確実に役に立つ力。

 

「だ、大丈夫か……?」

「はい……その、まだ身体が少し熱いですが」

 

 潤んだ瞳で頷くフレッチャーに、深雪はどうしても心配してしまう。だが、ここでフレッチャーは最後の実験ということで深雪の手を取った。

 

「ん?」

「最後は……貴女の、特異点の力がコピー出来るかを、確かめた方がいいと思います」

 

 ここまで艦種違いや出来ることの幅を調べるために実験をしてきたが、深雪と電の力の量産化は避けていた。()()()()()()()()はそもそも可能なのか。出来たとしても、フレッチャーへの影響がどれほどのものなのか。それを考えると、少々躊躇いがある。

 そもそも深雪や電は自分の力がどれだけの影響を与えるものなのかを今の段階でも完璧に知っているわけではない。コピー出来たとしても、それが本当に出来ているかが判断出来ないというところもある。

 深雪自身、自分の力を任意で発揮させることが出来ない。今でこそ電という()()()()がいるおかげで、挟んでひっくり返すという意識した効果を発生させることが出来るようになっているが、出来るのはそれだけ。他は咄嗟に出る煙幕くらいだ。

 

「あたしとしてはあまりオススメ出来ないんだけどなぁ……何が出来るかわからねぇし」

「なのです。電もそれはやめておいた方がいい気がするのです。特異点の力は、電達でもわからないことばかりなので、フレッチャーさんに何かあったら……」

 

 2人もやはりそこは抵抗を感じていた。力を持っていかれることに忌避感があるとかではなく、単純にフレッチャーのことを心配して。

 万が一その強すぎる力に押し潰されて壊れてしまったなんてことがあったら洒落にならない。

 

「……本当にお優しいのですね……。わかりました、特異点の力の量産は、今は控えておきます」

「悪い、そうしておいてくれ。別にお前を信用してないとかじゃないんだ」

「わけのわからない力を持って、そのせいでおかしくなった方が悲しいのです」

 

 でも、もしやってみようと思ったならいつでも応えますと、フレッチャーは話す。その時が来るかはわからないが、本当に緊急性が出た場合は特異点の力を持ってもらう必要があるかもしれない。それまでに少しでもその力の内容が解明出来ていたならば、改めて試してみるということになった。

 

「あ、でも1つ知りたいことはあるんだよなぁ。()()()ももしかしたらコピー出来るかもしれねぇ」

「あの力、とは?」

 

 限界が近いフレッチャーではあるのだが、深雪は1つだけ気になっていたことがある。フレッチャーのこの『量産』の曲解、ずっと()()()()()()()()()()()()()。だが、このうみどりには、艦娘以外にも力を持つ者が存在する。

 

「イリスの目だよ」

 

 

 

 

 工廠での実験を一度終えて、フレッチャーを連れた深雪と電は執務室へ。ここまでの実験の内容は映像で全て見続けているため、話は通っている。しかし、伊豆提督を筆頭とした事務仕事をしていた者達は、深い溜息を吐いていた。

 

「あんな反応を何度も何度もするのは、正直なところ容認は出来ないわよ」

 

 伊豆提督もフレッチャーのあの反応にはこうとしか言えない。フレッチャー自身も消耗しているし、そもそもあまり外に出せないような反応を見せてしまうことがよろしくなかった。実験中も工廠は非常におかしな空気になっていたのがその証拠。

 

「でも、アナタの力がとても強いことはよくわかったわ。いざという時には本当に優秀。頼らせてもらうこともいっぱいあると思うわ。多分まずは明日の後始末からだと思うけれど、その時はお願いね」

 

 フレッチャーには頼られるという経験も必要。伊豆提督はその能力の多用は防ぎつつも、後始末屋として、そして今後仲間として一緒に生きていけるように、その力を()()()

 否定されず、認められたことで、フレッチャーの壊れた自己顕示欲はまた満たされることになる。

 

「あ、あの……多用はしません。ですが、最後に……イリスさんの力を、量産出来るか確かめさせていただけませんでしょうか」

「その話ね。聞いていたから一応わかっているわ。最後にやってみましょうか。それが出来たら、イリスの負担も下がるしね」

 

 イリスも出来ることならと立ち上がる。コピー出来れば、彩が判断出来る者、特に『迷彩』の曲解を看破出来る者が増える可能性があるとなれば、やってみない理由はない。

 しかし、これが劣化コピーであることは忘れてはならない。彩が見える力を得たとしても、イリスほど完璧に見分けられるかはわからないのだ。結局は見えないものは見えないなんてことだってあり得る。

 そもそも、イリスは人間。妖精さんの力を取り込んでしまっただけの、カテゴリーG。その力をコピー出来るかもわからない。あくまでも艦娘の力しかコピー出来ないかもしれない。

 

「それじゃあ、これが最後になるのね。私がこの子を喘がせるみたいで複雑な気分なんだけれど」

 

 イリスは苦笑しながらフレッチャーの首筋に指を押し当てた。

 

「ふぅっ……っ」

 

 やはりフレッチャーは大きな反応を見せる。この反応が出たということは、イリスのその力もコピー出来ているということに他ならない。そういう意味では、相手が何であってもまずは模倣するというのがフレッチャーの力と考えられる。

 元々の米駆逐棲姫が人間であっても深海棲艦の力を与えることが出来たのだから、ひっくり返ればそれも可能だと考えられる。

 

「っあ、はぁああっ……っ」

 

 艦娘のコピーと同じように、フレッチャーの姿がジワリと変化していく。イリスの象徴的な部分なのか、制服はイリスの着ているスーツへと変化。だが、大きな変化はそれくらいである。

 

「はふ……量産化、完了しまし……っ!?」

 

 喘ぐだけ喘いで、閉じている瞳を開いた瞬間、フレッチャーは自分の視界に驚きを見せた。その反応を見ただけでもイリスの力がコピー出来たことを如実に表している。

 

「え、えっと……これが御姉様の見ている世界……なのでしょうか」

「力がコピー出来たみたいね。ハルカはどう見える?」

「淡くですが……緑色のオーラと言えばいいのでしょうか……それが見えます。御姉様も緑色に」

「なら平瀬さんは?」

「黄色……ですね」

 

 しっかり判断が出来ていることが確認出来た。ならば、何処で劣化しているかを確認せねばならない。今出来ることならば何が出来るかと考えたところ、カメラ越しなら見えるかを確認したところ、こちらで劣化が確認出来た。

 

「何も見えません……私は裸眼で確認しないと判断が出来ないようです」

「まぁ充分でしょう。裸眼であればいいなら、戦場でもそれが見えるということだもの。ちなみに、私の力をあげた後でも、フレッチャーの彩は青、カテゴリーBであることは変わらないわ。私の力を持ったまま艤装も扱えると思う」

 

 これがわかっただけでも充分であろう。イリスの目はいつでもそこにいてほしいくらいに有用なのだが、()()()()()()()()ことが一番のネックであった。

 それが、裸眼でなければ見えなくなる代わりに艦娘としての能力は据え置きであるならば、戦場ではこれ以上のモノはない。

 

「本当に素晴らしい力ね。使い方次第でこれほど役に立つんだもの。フレッチャーちゃん、今の力は誇っていいことよ。これからもよろしくお願いね」

「は、はい、よろしくお願いいたします」

 

 

 

 

 フレッチャーはより認められることで、さらにうみどりで生きやすくなったと言える。

 




イリスコピー状態のフレッチャーが戦場で一番活躍しそう。
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