後始末屋の特異点   作:緋寺

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前進

 翌朝、うみどりは既に後始末現場に停泊している状態。イリスによる総員起こしが艦内に響き渡り、レクリエーションルームで雑魚寝していた駆逐艦達もモゾモゾと目を覚まし始めた。

 朝が弱い者というのはいないようだが、目を覚ましてから大欠伸をする者もいれば、すぐにシャキッと着替え始める者と様々。昨晩の間に着替えまでしっかり用意している辺り、朝からの交流もしっかり視野に入れている。

 

「はい、みんなおはよう。もう現場に着いてるみたいだから、ささっと着替えて朝御飯に行きましょうね。久しぶりの後始末よ」

 

 筆頭駆逐艦である神風が陣頭指揮を執り、集まった駆逐艦達を動かしていく。久しぶりとはいえ、後始末屋としてやってきた深雪達は、それだけでもしっかり身体が動くものであった。

 海賊船の戦いが終わった後の超規模後始末から参加している潜水艦勢はまだあまり慣れていないようではあったが、そもそもが30年選手。艦娘として生きてきた年月のおかげで、そこはしっかりしていた。

 

 そうなると、一番動きが遅いのはやはりフレッチャー。何もかもが初めてのことであるため、どうしてももたついてしまうものである。

 

「急がなくてもいいぜ。朝飯は逃げやしないし、すぐ行くっつっても準備はいろいろあるからな」

「は、はい、すみません」

「謝る必要は無いのです。まずは慣れることから始めましょう」

 

 深雪と電がフレッチャーを気遣いつつ、後始末屋がどのように活動しているかを知ってもらう。今は現場に到着しているためにテキパキと動いているが、普段ならもっとのんびりなのだとまずは伝えた。今回は仕事の時間。

 

「そういや、フレッチャー、まだ()()なんだな」

「はい、目の方は眠った後でもそのままでしたので、姿も引き続き……とさせていただいています」

 

 それというのは、昨晩も着ていたイリスと揃いのスーツ。これもあるから着替えに少し手間取っていたというのもある。

 力を貸してもらっているという体裁を見た目からわかるようにしようというのがフレッチャーの考えであり、その力が消えるまでは力を貸してくれた者に敬意を表するという意味合いから、同じ姿をさせてもらっている。それを嫌がる者がいれば勿論やめるのだが、イリスはフレッチャーのそれを受け入れているため、引き続きこの姿で活動するとのこと。

 スーツ姿の艦娘というのは、特別なイベントなどに参加している以外では何処を探してもいないため、これはこれで目立つ。フレッチャーが特殊であることを非常にわかりやすく表しているとも言える。

 

 フレッチャーの量産は、一晩眠ったところで消えることはなかった。そもそもの他者を自分にする方でも、眠ったところで洗脳が解けないものだったため、これも必然といえば必然。

 そのため、能力の解除は完全にフレッチャーの意思となる。そこは解除方法が本人もわかっていなかった洗脳の時からは大きく前進していると言えよう。

 

「フレッチャーさん、今日からもう後始末屋として活動する予定ですか?」

 

 丹陽が尋ねると、フレッチャーは小さく頷いた。うみどりに加わって間もないというのに、その活動を一度見てからということもなく、いきなり実践に入るというのは、これまででもかなりレアケース。

 一応は後始末屋が何をしている部隊かは理解している。小規模であることもあって、まず慣れることにはもってこいな現場でもあった。

 

「では、頑張ってください。お婆ちゃんはここから見守っています。何かあったら艤装を装備しない程度にお手伝いしますからね」

「はい、ありがとうございます。こちらに置いてもらうのですから、出来ることからやっていきたいと思います」

 

 生まれたばかりの時と比べると、随分と前向きになったと言える。それもこれも、昨晩の駆逐艦の会が影響していた。

 

 夕立が発端となり行なわれたトランプ──定番のババ抜きによるゲーム大会。それで、フレッチャーは上位の成績を収めた。非常に強い運を見せつけたと言える。

 深雪や電は勿論、発起人である夕立や、筆頭駆逐艦神風も討ち倒し、最終決戦まで生き残るという快挙を見せた。最終的には丹陽との決戦で敗北を喫したものの、時雨やグレカーレといったこれまた豪運の持ち主にも引けを取らぬ強さを見せたことで、駆逐艦の中での盛り上がりが非常に高まり、仲間意識が更に増したのだ。

 出洲一派に所属する敵である米駆逐棲姫には嫌な思い出しか無くとも、後始末屋の仲間であるフレッチャーは別。それを改めて実感させる一幕。このおかげで、フレッチャーはより前を向けるようになった。

 

 必要なのは、成功体験。認められること、頼られること、そして、勝つこと。フレッチャーはそのおかげで、より前を向けている。

 挫折しか知らなかった者が、それ以外を知ることで、この世界の明るさを実感出来た。

 

 

 

 

 朝食を終えた後、すぐに工廠で準備を始める。制服の下には穢れを弾くインナーを着込み、艤装を装備して準備完了。フレッチャーも少し手間取ったものの、早速それを受け入れて作業に取り掛かる。

 流石はカテゴリーBと言えたのは、フレッチャーとしては初めての海上歩行なのだが、練習などの必要もなく当たり前のように海に出ることが出来たこと。既に後始末屋としての一歩は踏み出せている。

 

「フレッチャーさんは、電がサポートするのです」

「白雲も未だ未熟者。伝えられることは伝えていきますが、共に学びましょう」

「はい、お二人ともよろしくお願いします」

 

 深雪は大発動艇要員として動くため、小物を拾っていく作業は電が担当。また、白雲も同様にフレッチャーに後始末屋の作業を教えていくことになる。とはいえ、白雲はまだ新人のようなもの。慣れているのは電であるため、2人を引っ張るカタチに。

 時雨のように先輩風を吹かせるわけではないのだが、先に後始末屋として作業をしている者として、先陣を切る。

 

「あっちは小物集めだよな。じゃあ、こっちはデカブツ行くか」

「あいよー。前の時からそうしてるけど、やっぱりこの艤装ってばこうやって使うと便利だよねー」

 

 深雪とグレカーレは大物集め。小規模の現場と言えど、肉片レベルになっている残骸もあれば、カタチをそのまま残しているモノも多い。そちらは力業でどうにか出来る者が担当していくことになる。

 人型ではない残骸は優先的。グレカーレの巨腕による作業は、戦艦である長門の膂力と同等のパワーを発揮するため、目に見える大物はサクサクと拾い集めていく。

 

「やはり君の参入は助かるな。これまでは戦艦が私1人だったものだから」

「でしょでしょ? でっかいのも、2人がかりならどうとでもなるもんね」

「うむ。ここには無いが、以前は陸上施設型の艤装がそのまま残っているなんてこともあってな。あれは困ったものだ」

 

 後始末屋の作業は海上だけではない。陸上施設型、つまり陸の上を陣取る深海棲艦の残骸も片付ける必要があるのだ。

 そういう時は、艦を島に横付けしての作業になるため、作業の内容が少々変わる。海上でやるより少々面倒臭いことがいくつか発生する。

 

「もしかしてさ、次の目的地っつーか、こっちから攻め込むっていう敵の島だと、そういう作業が増えるかもって感じかな」

「可能性はある。島を陣取っているのだから、阿手とかいう輩も陸上施設型である可能性が無いとは言えない。あの出洲も中枢棲姫だっただろう。アレも陸上施設型だからな」

 

 今後行くことになるであろう島。そこで戦闘が起き、勝利することが出来た場合、当たり前だがそこの後始末もうみどりが担うことになるだろう。

 陸上施設型が陣取るのは陸と言っても岩礁帯やちょっとした無人島だが、今度の敵は人の住まう島。後始末の規模も尋常では無くなりそうである。

 

「どうあっても、我々は出来ることをするしかあるまい。それに、今は心強い味方が沢山いる」

 

 そう言いながら視線を促す長門。その先には、睦月と梅の姿が。

 

「細かくしますねー」

「にゃしぃ、梅ちゃんのそれ、こういう時すっごく便利なのね!」

 

 梅が『解体』の曲解を使い、長門やグレカーレの力を使って持ち上げていくような残骸を細かくしていた。それが出来るのは艤装だけであるため、深海棲艦そのものを分解することは出来ないものの、大型の艤装はそのまま細かく出来るため、そのまま大発動艇に載せるだけでどうとでもなる。

 もし次の敵が陸上施設型だったとしても、梅の力が通れば艤装を破壊することでその力を封じることも出来るだろう。戦闘にも後始末にも使える有用な能力となっていた。

 

「今はこの現場を終わらせるのが一番だな」

「だね。あたし達もバンバン進めるよ」

 

 

 

 

 小規模かつ人数が増えているとはいえ、後始末にはそれなりに時間がかかる。作業は佳境に差し掛かっているとはいえ、午前いっぱいを使っても全てを終わらせることは出来ず、そろそろこだかとの合流の時間。

 

「お、来た来た」

 

 そうこうしているうちに、現場にもう一隻の海上清掃艦が到着した。軍港から後発で出港した新たな海上清掃艦こだかが、うみどりの隣にゆっくりと停まる。

 そこから準備済みの艦娘達が次々と出てきて、まだ片付いていない海上を片付けるために動き出す。

 既にほとんど片付いているような現場であっても、今後どのように行動するかを練習するために行動を起こしていた。

 

「流石にこれだけ小さい規模だと、サクッと終わるもんだな。フレッチャーの初陣にもちょうどよかったんじゃないか?」

「だねぇ。あたし達の仕事もそんなに無かったし、どっちかっていったら肉片集めばっかりだもんねぇ」

「……うん、ちゃんとやってるみたいだぜ」

 

 作業中のフレッチャーの顔が見えたが、肉片をトングで拾い集めているため、顔色があまり良くなかった。最初の頃の時雨を思い出す表情である。

 まずはこれを乗り越えなければ、後始末屋としてはやっていけない。後始末屋に一番重要なのは、慣れである。

 

「あはは、フレ子は戦闘もしたことないだろうからねぇ。亡骸見るのだって初めてでしょ」

「だよなぁ。あたしも最初はしんどかったもんだぜ」

「ああいう清廉潔白な子が、こうやって汚れていくんだよね。堪らないよね」

「言い方」

 

 こうやって後始末屋としての作業に慣れていくわけだが、最初が一番の試練だったりする。こだかの艦娘達は全員が長く戦ってきた者なだけあって、肉片集めくらいではへこたれない。しかし、フレッチャーは何もかもが初めてなのだから、ここで慣れていくしかない。

 

 

 

 

 小規模後始末は早い段階で終わっていく。リハビリとしても、初めての作業としても充分だった。

 




フレッチャーはげっそりしてそうである。
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