中規模後始末の最中、伊豆提督が梅と神威に提示した、現状を両親に連絡するという話。ずっと隠しておくわけにも行かないため、いつか話さなくてはいけないこと。早いなら早いに越したことはない、軍港都市の事件の中でも特に大きな被害。
梅も神威も、それに対しては肯定的。この事実は、両親にも知っておいてもらわねばならない。命を落としたわけでは無いが、それとは別口の問題点。人間としての2人は死んだと言うしか無いとしたら、どのような反応をされるかは、正直見当がつかない。
梅と神威は、伊豆提督と共に執務室へ。外部との連絡が出来るのはそこだけ。信じていないわけでは無いが、機密を外に漏らさないことを提督が監視しなくてはいけないルールだからである。
そして今回は、提督自身がまず定期連絡として報告を始め、そこから話題を繋げて現状を全て伝えることになる。
ちなみに、この話が耳に入っていた深雪達も最初はついてこようとしたものの、プライベートに関わることなので、一旦お断りが入った。事が済んでから、改めて話をすると。
ごめんなさいと伊豆提督に言われてしまったら、引き下がらざるを得ない。深雪達は、梅と神威に何かあったらと思うと気が気で無かったものの、伊豆提督ならどうにかしてくれると信じて、今は待つことにした。
「……気が重いわ。簡単に受け入れてもらえるだなんて思っていないもの。でも、その責任を取るのが、提督というものよね」
軽く息を吐き、まずは梅の実家へと連絡を始める。梅自身も、こうやって定期連絡を入れる時には共に話すこともあり、艦娘となってからもそれなりに両親と話すことはしていた。
「……お世話になっております、伊豆です」
通話が繋がり、話し始める伊豆提督。梅は少し拳を握りながら、ハラハラしながらその会話の内容を聞いていた。
連絡は軍用ではなく、そのために使われる端末を使用する。海の上からの通信ではあるが、そこは通信途絶などは起きない優れ物。それに、軍用と同じく相手方も対応していればビデオ通話も可能。梅の両親の場合はそこに対応しているため、伊豆提督は画面越しに顔を突き合わせて対話をしている。
最初はいつも通りの流れ。両親からは、うちの娘はどうでしょうかと尋ねられ、後始末屋としての職務を全うしてくれていると、非常に高い評価をしている旨を話す。これはほぼいつも同じ。伊豆提督としても本当はコレで終わりとしたかった。
しかし、本番はここからである。梅の両親からしても、伊豆提督の表情がいつもと違うと察したようで、何かあったのかと不安そうに尋ねた。これまでの話から、命を落としたとは思えないものの、何かマイナス面の報告があったのでは無いかと感じ取った。
艦娘とて軍属。命懸けの仕事ということもあり、殉職ではなくても傷病退役というあまり喜ばしくない結果に繋がる可能性もある。両親も梅のやる気を受け入れて応援することにした時から、そういったことが起きる事は多少は覚悟の上ではあった。
「……全てをお話しします。娘さんに起きてしまったことを」
こう言わざるを得ない。せっかく映像も出せているので、隣には梅本人に座ってもらって事情を話し始めた。本来の姿ではなく、艦娘となった娘とは、こうやって顔を合わせたことはあるので、その姿に対して驚きは無い。しかし、少しだけ暗い表情をしていたこともあり、両親は静かに伊豆提督の説明に耳を傾けた。
神妙な空気が流れる中、結論から説明する。
「娘さんは……先日敵対勢力からの攻撃を受け、非常に大きな被害を受けてしまいました。命に別状はありません。ご覧の通り、健康体ではあります。しかし……今の娘さんの身体は、
そして、本題を淡々と話す。軍港都市で起きてしまった、敵からの攻撃。それによって何人もの艦娘達が被害を受けてしまったこと。その中でも、梅を含む4人は敵のせいで
その事件は、こちら側の勝利で幕を閉じてはいるものの、その治療方法がこの手段しかなく、艦娘としての元の姿には戻れたものの、人間を辞める羽目になってしまった。それを、一切の嘘偽りなく、両親ということで機密のギリギリの範囲まで説明した。
合間合間に梅自身にそうなのかと尋ねる両親。梅は頷きながら、全て本当のことだと伝える。その時の洗脳のことまでも、包み隠すことなどせずに話した。その時のことを思い出すことだって辛いはずなのに。
梅の両親は、驚きを隠す事は無かった。死ぬかもしれないという危険な仕事で、死ぬわけでもなく
「お父さん……お母さん……こんなことになっちゃったけど、大丈夫だから。今もね、みんなが元に戻る方法を探してくれてるの」
梅がそこまでしか言えていないところで、父がテーブルを強く叩いた音が響いた。梅はそれでビクッと震えてしまうが、伊豆提督は目を伏せてそれを見ているだけ。
どのような反応をされても覚悟の上。ここから何を言われても何も文句を言うことは出来ない。梅は取り返しのつかない状態になっているのは間違いないのだから、責任を取らねばならない。
梅が言う通り、元の人間に戻る方法は今も研究されてはいるのだが、特異点が施した治療法も出洲一派による不可逆の改造に近しいくらいに解析が出来ない謎の技術。技術とも言えないかもしれない、不思議な力。治せるかは深海棲艦にされることよりも不明。
それを知ってか知らずか、梅の両親……父からの言葉は、伊豆提督に突き刺さるもの。何故それを防ぐことが出来なかった、娘が何故そんな目に遭わねばならないのかと、親だから出てくる怒りをぶつけられた。
そう言われることは覚悟していた。だから何も言い返さない。何を言っても言い訳になる。何故こうなってしまったのかは話していても、それが納得出来ないのは理解出来た。
「お父さん、大丈夫だから、大丈夫だから……」
梅はもう涙目である。それだけ心配してくれているということはわかるが、後始末屋が出来る限りのことを全力でやってくれたから今の自分がいるのだ。そうで無かったら、本当に命を落としていた。もしくは、今でも世界の敵として敵の手に堕ちたままだっただろう。
梅は今の状況を悲観していない。最悪を知っているからこそ、人間では無くなってしまったことに悲観はなく、むしろ今の解体の力も有効活用して、前を向けているのだ。
「
涙ながらの訴えに、父の怒りは少しは収まる。愛娘がここまで言っているのに、それすらも否定するのは親として出来なかった。それが本当に良くないことならば、親として全力で止めることだろうが、今回は事件に巻き込まれた結果だ。命懸けの仕事を命を落とさずに終わらせることが出来ただけでも、本来ならば万々歳。無事とは言わずとも、今こうしてまともに話が出来ているのだから。
だが、全て丸く収まることだってない。梅が梅として新生してしまったことは、両親にとっては辛いこと。娘が娘では無くなってしまったと考えてしまってもおかしくない。ただでさえ艦娘となったことで本来の姿とは変わっているのだから、そこから戦争が終わったとしても娘の姿に戻れないというのはやはり悲しい。
「こんな事態になってしまって、本当に申し訳ございません。命を落とすことは無かったとはいえ、娘さんの人としての生き方を奪ってしまったようなもの。勿論、元に戻すための調査と研究は続けています。しかし、本当にどうにもならなかったとしたら、責任は取らせていただきます」
ただただ頭を下げるしか出来ない伊豆提督。真剣に、心の底からの謝罪は、ただ怒りに染まっていた父の心にも響いた。不用意に責任という言葉を使っているわけではない。うみどりで起きたことは全て自分の責任、叱責も怒号も罵声も全てを受け入れる心持ちで、正面から嘘偽りない言葉を使い続けていた。
ここまで口を開くことが出来なかった母は、うみどりが精一杯努力をし、梅がこの段階で留まれていることを察してくれており、父を宥めるようになっていた。あの子がそう言っているんだから、今は今まで通り支えていこうと。まだ人生が潰えたわけではないのだからと。
だからだろう、この話の最後は、父も折れた。うちの娘をよろしくお願いしますと、改めて頭を下げた。
ここで怒りを振るったところで、梅が人間に戻るわけではない。何をしたところで、何か変わるわけじゃない。ましてや、何をしたところで自分達で梅を人間に戻せるわけがない。ならば、元に戻すために努力している者達に対して、罵声を浴びせかけるのは間違っている。
娘が可愛いからこそ、ここまでの怒りが出てしまう。それも仕方ないことだが、生きているのだからまだ可能性がある。その可能性に賭けて、うみどりに、伊豆提督にお願いするしかなかった。
それに、伊豆提督達に何か言うのも本来はおかしな話。梅をこの身体にしたのは、元はと言えば深海忌雷によって本来不可逆な改造を施した出洲一派なのだ。それを殺さずに救い出し、植え付けられた悪意を取り除き、人間では無くなったとはいえ人間としての思考を取り戻させたのは、間違いなく功績だ。それすらも否定するのは間違っている。
「重ねて申し訳ございませんでした。こちらでも誠心誠意努力し、必ずや元の人間に戻せるように尽力させていただきます。時間はどうしてもかかってしまいますが、どうかお待ちください」
これでようやく納得してくれたか、わかったと頷いてくれた。梅も安堵の息を漏らす。
「お父さん、お母さん、頑張ってくるから。戦争を終わらせて、人間にも戻って、必ず帰るから待ってて」
娘にそう言われてしまったら、もう何も言えない。次も同じように話せることを祈り、定期報告を終えることとなった。
「ハルカちゃん、ごめんなさい、うちの両親が」
「いえ、仕方ないことよ。これで済ませてくれただけでも有情よ。もっと怒鳴られてもおかしくないんだから」
「そ、そんなこと……悪いことをしたのはハルカちゃんでも、ましてや深雪ちゃん達でも無いんですから。梅は梅としてここにいられるだけでも充分です」
笑顔の梅に伊豆提督は少し癒されつつも、まずは1回目の胃薬を呑んだ。
梅の両親、特に父親は、やはりこの梅の現状に怒りを覚える方でした。でも、愛娘から涙ながらに訴えられれば折れるくらいに娘のことを愛しています。