後始末屋の特異点   作:緋寺

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うみどりとこだか

 後始末作業は、こだかが加わったことによって効率が一気に上昇。うみどりだけでやっていたら夕方、むしろ少し暗くなるまではかかりそうだった作業が、まだ黄昏時に入る前にはほぼ終了するという快挙。

 人数が増えるのと同時に、片付けた残骸を2箇所に収容出来るのも効率化に繋がっており、()()()()()()()の時間が短くなれば、その分作業に当てられるのだから、早くなるのは必然だった。

 

 執務室で実家への近況報告をしていた梅と神威が合流した時、深雪はどうしても気になったため、2人にどうだったかを尋ねた。

 治療として今の姿にしたのは特異点の2人だ。忌雷にいいようにされて身体を変質され、思考も人類の敵のようなものに変貌してしまったところから、心身共に艦娘としての誇りを取り戻してほしいという願いを込めて()()()()()()()。それが今の梅や神威の姿。治療を施した手前、深雪も電も、梅や神威の光ある道をそのせいで壊したくない。

 

「あ、あのさ、どう言われた……?」

「大丈夫、わかってはくれました。今は気持ちの整理がつかないだけだと思います」

 

 深雪に尋ねられ、梅は苦笑して返した。梅の父がその場で激昂したことは話さない方がいいと独自に判断し、最終的な結果だけを伝えた。事実、悔しそうな表情はしたものの、納得はしてこれからも艦娘として戦っていくことを認めてくれているのは間違っていない。

 

「だから、梅はここからも頑張って後始末屋をしていきますよ。手に入っちゃった力も、後始末屋としてはすごく使えるモノでしたし」

「まぁ……確かにな。デカい残骸も梅にかかりゃあ今は誰でも拾えるちっちぇえ残骸だもんな」

「多用は禁物なんですけどね。あんまり細かくしすぎると、処理も大変みたいで」

 

 残骸がボロボロになるまで細かくされていると穢れを落とすのが大変になるらしく、妖精さんからも()()()という指示が出ているほどである。なので、梅は少し触れて解体し、艤装の力を借りずとも持ち上げられるくらいのサイズにするのが今のやり方としている。

 しかし、この力にもデメリットはある。()()()()()()()()()()()()()()のだ。そのため、全員穢れ防止の全身タイツ状のインナーを身につけているが、インナーごと解体してしまうため、梅だけ手は出せるように手袋になっている。

 穢れに直接触れることにもなりかねないため、解体する度に手を消毒しなくてはならない。これが難点。

 

「とはいえ、両親も納得してくれました。今はそれで良しとしましょう」

 

 神威もそのノリ。今はそれでいいと前を向く。全力で咎められたわけでもなく、その存在を否定されたわけでもない。人間では無くなってしまったが、それでも娘として扱ってくれているし、愛を感じる言動をしてくれた。

 梅にも神威にも、それだけが救い。自分の本来持っているアイデンティティが失われていないことは、前向きになれる要素である。

 

「だから、これまで通りに接してください。特別視される方が辛いですから」

「……だよな、うん。それ、あたしもすげぇわかるよ」

 

 特異点として悪い方向での特別視をされている深雪には、そういう視線で見られることのキツさが嫌というほどわかる。だから、梅も神威も、勿論他の者だって、そういう目で見ることはない。みんなが平等な仲間だ。

 

「いざという時は、私が排煙でみんなを落ち着かせましょう。そういう時に使う力だと思うので」

「そりゃあいいや、なんかイライラした時はお願いしようかな」

「はい、その時が来たら使いましょう」

 

 神威も得てしまった力を有意義に使おうと、気持ちは前向きになっている。それを否定するなんて出来やしない。

 どんな状況でも、今は前に進む。それが敵に対抗するいちばん必要なことだった。

 

 

 

 

 空母隊による薬剤散布が終わった時には、そろそろ暗くなってくるというくらいの時間帯。残すところ、清浄化率の維持を確認するだけとなっている。

 

「それじゃあ、今回はこちらが先に向かうということで」

「ええ、よろしくお願いね。何か危険なことがあったらすぐに連絡してちょうだい」

「Я понял. ボスのこともよろしくね」

 

 タシュケントと直に話し、次はこだかに現場に先行してもらい、うみどりが後を追うというカタチとなった。

 うみどりの面々にも少しだけ長めの休息時間を設けると同時に、こだかの後始末屋としての練度を上げるためのやり方。

 

「現場を捨てて逃げるということも、後始末屋としてはやっていいのかな」

「勿論。命あっての物種だもの。後始末は後からでも出来るけど、死んでしまったらそれも出来なくなるんだから」

「そりゃそうか、じゃあ基本的には命を大事に動くことにする。それが後始末屋のやり方ってことでね」

 

 ボス代理のタシュケントも、その辺は短期間で板についてきていた。仲間を失わないための行動を第一とするのが当然のやり方。後始末よりも大切なのは、誰も失わないことである。その結果、戦いが長引く羽目になったとしても、それを対処することもしやすいのだから。

 

 タシュケントがこだかに戻り、間も無く航行を開始。うみどりはそれを見送りつつ、清浄化率の維持の確認に入った。

 本来ならば丸一日を要するこの作業ではあるが、今回は一晩の維持を確認して朝から次の現場に向かう方向で進めることとなる。うみどりも改修が入った時に設備のバージョンアップを施されており、こだかほどの最新鋭ではないにしろ、これまでよりは性能が上がっているため、半日より少し多いくらいの時間で良しと出来るくらいには出来ている。

 

「次の現場も中規模、明日の朝から出発して、到着は昼過ぎになるわね。こだかが朝から作業してくれるから、途中から参戦して一気に片付けるということになるわね。ほぼ1日休みが取れるから、自由に過ごしてもらいましょ」

 

 今は溜まってしまった現場を早急に対処することが優先される状況。その中でも、しっかりとした休息が取れることはいいこと。メンタル面でも作業が捗るというものである。

 

「丹陽ちゃん、こだかの方は大丈夫そう?」

「そうですね。タシュケントさんから話を聞いている感じでは、むしろコレまでの30年と比べるまでもなく明るい環境のようですよ。なんかデッキが大人気みたいで、みんな陽の光が浴びたいんですねぇ」

 

 丹陽もこだかの様子は逐一聞いているようだが、純粋種達がこれまでの鬱憤を忘れてしまっているのではというくらいに明るいらしく、のびのびと生活していると知って喜んでいた。

 潜水艦で陽の光すら浴びることなくジメジメとした環境で閉じこもっていた時とは比べ物にならない。仲間同士の関係も、とても良好だそうだ。

 

「私も、ある程度事が済んだらあちらに行こうと思います。フレッチャーさんが大分立ち直ってきたみたいですし。とはいえ、タシュケントさんがボス代理としてうまくやれているようなので、それを邪魔するわけにもいかないですから、私は私でこちらで隠居させてもらってもいいかななんて」

 

 タダ飯喰らいにならないように手伝えることは手伝うということは前提にはしているが、丹陽としてはフレッチャーもそうだがここにいる艦娘達の行く末を見届けたいという気持ちがあった。

 特にどうしても気になるのは特異点である深雪。特別視はしないようにしているが、狙われているという特殊な状況であるのはどうにも気になるため、第一世代としての知識などを使ってサポートしたいと考えている。

 無茶は当然しないし、しようとしたら今でも明石に睨まれる。酷い時には手が出るようになってきたため、丹陽も流石に考えるようになった。

 

「とはいえ、こだかも後始末屋ですから、狙われないとは限りません。勿論、対抗策はいくらでも積んでいるわけですが、それで簡単にどうにか出来る話ではないことだって理解しています。なので、あちらにはうみどり以上の高性能なモノが沢山積んであるんです。試作品とはいえ、対抗策も作ってあるんですよね?」

「ええ、単独行動させるんだから、それなりに対策は積ませているわ。それでどうにか出来るかわからないのが怖いけれど」

 

 出来る限りの対策は、こだかにも搭載済み。そして、第二世代の純粋種も鍛え直すということで実力を取り戻してきているという。

 米駆逐棲姫による洗脳が余程堪えたようで、二度とあんなことになって堪るかと、練度と技術の上昇に躍起になっているとのこと。あちらにもVRが載せられているため、休息以外ではかなり人気らしい。

 

「安心はしきれないとは思いますが、今はこの方針で行きましょう。こだかが離れたことで、またうみどりが狙われるかもしれませんし、こだかが狙われるかもしれません。ですが、それを乗り越える力はお互いに持っていると、お婆ちゃんは思っています。大丈夫、私達はもう負けません。幸運の女神が保証してくれています」

 

 不思議と自信に繋がる丹陽の言葉だが、それでも緊張感を失うことはない。万が一を常に考えるのが提督というもの。こだかの単独行動は互いに考えて今後のためとして決めたことではあるが、最悪の事態も当然考慮している。清浄化率の維持の確認を一晩にしているのもそれがあるからこそだ。

 常に通信回線は気に留めており、何か違和感があればすぐに連絡するように通達している。あちらも自信を取り戻しているとしても、慢心によって独断で戦おうという気持ちはない。敵の脅威は嫌というほど、その身で理解させられているのだから、絶対に慢心はない。それで確実に勝てるかもわからないのだから。

 

「少なくとも、今溜まった現場をどうにかしましょう。それが終われば、こだかは完全に別行動ですもんね」

「ええ、そうなるわ。それでも定期連絡は毎日するけれどね」

 

 うみどりとこだかの関係性は、しばらくその調子で行くだろう。後始末屋補佐としての活動の後、分家として単独活動をするようになったところで、うみどりという大先輩には頼り続けることになるだろうし、痛い目を見ているのだからお互いにお互いを心配し合う。最低限、出洲一派との戦いが終わるまではそれが続くだろう。

 

「さ、こちらは今から休息よ。丹陽ちゃんも休んでちょうだいね」

「あはは、私は何もしていませんよ」

「常に気を張っているでしょう? 深雪ちゃんやフレッチャーちゃんに向ける視線でわかるわよ」

 

 伊豆提督に核心をつかれ、丹陽は少し驚きつつも笑顔を見せる。

 

「どうしても気になっちゃいますね。お婆ちゃんは孫の動向が気になるものです」

「気にしすぎてアナタが身体を壊しちゃダメよ。少なくとも、本当に気張らなくちゃいけないのは、今よりももっと先にあるんだもの」

「わかっているつもりなんですけどね。特に私は老朽化もありますから、もう少し自分のことを心配しないとですね」

「そうよ。明石ちゃんがまたキレるわよ」

「それは勘弁してほしいですね。善処します」

 

 2人も少しは気が楽になり、次の現場に向けて進み始めた。

 

 

 

 

 残った後始末はあと3つもあるが、うみどりもこだかも前向きだ。今は戦いよりも、自分達の仕事に専念することで、気持ちを落ち着けることが重要なのだから。

 




こだかは少しだけ小型化したうみどりなので、設備も大体同じになっています。デッキもあるし、VR訓練も出来る。30年の停滞をしていた第二世代からしてみれば、何をしても楽しいでしょうね。
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