午前中はトレーニングに使った深雪達。フレッチャーが前を向いたことで、積極的に強くなることを望み、仲間達がそれに応えるカタチで共に進んでいく。
途中から何人か加わり、フレッチャーがそこにいることに気付くや否や、同じトレーニングを一緒にやることで楽しむ。
中には多少競争意識から同じことをやり始める者もいたが、それでも負の感情はそこになく、そ優劣がついたところでどっちが上だの下だのは無い。これからの成長のために欠点を見つけるのにも使えるし、長所を伸ばすことにも使える。競い合いも、立派な交流。
「うんうん、フレッチャーの何処を伸ばすべきかがよくわかる結果だったわ。自分から勝手に突っかかってきてくれる子は本当にありがたいわね」
ニコニコしながら話す神風。フレッチャーもちゃんと休憩をしながらやってきているため、フラつく程の疲労までは行っていない。むしろそこまでやろうとしたら、間違いなく神風が止めている。午後から後始末だというのに、ここで消耗してどうすると。
便乗した深雪も、汗だくではあったがまだ立っていられるくらいの疲労感。身体に不具合があるわけでもないため、後始末にはちゃんと参加出来る。
突っかかったというのは、やはり先輩風を吹かす時雨である。しかし、柔軟性で大敗を喫したのは言うまでもない。そこはもうオチが読めていたと全員ニッコリであった。
「筋力も柔軟性もそれなりにあるけれど、瞬発力がちょっと劣っているわね。貴女はそこを重点的に鍛えた方がいいわ。その能力的にも、瞬間的な判断力が必要になると思うしね」
「ありがとうございます。トレーニングプランは、組んでいただけるということで……」
「ええ、長門さんがノリノリで今考えてるところよ。瞬発力だから、スクワットとかかしらね。頑張ってね」
「はい、重ね重ねありがとうございます」
深々とお辞儀するフレッチャーに、神風はいいのいいのと手を振る。フレッチャーのことを仲間と認め、共に同じ道を歩いて行くのだから。ここからは一蓮托生。自分のためにもフレッチャーには強くなってもらいたいと、本人の前で戯けながら語った。
そう言ってもらえると気持ちも軽くなるのだろう。フレッチャーは笑みを返す。昨晩までは見せたことのない、心の底からの笑顔に、神風は素直に喜んだ。
昼食の時もフレッチャーの変化は顕著であり、出された食事はしっかり食べ切り、おかわりも遠慮なく出来ていた。
これまではどうしても後ろ向きになってしまうために、自分がこうしたいと思うことも控えてしまっていた。自分がそんなことをしてもいいのだろうかと考えてしまい、結果何も出来ずに余計に俯くという悪循環があった。
しかし、今のフレッチャーは違う。彼女の記憶はしっかり根付いてしまっていても、それを糧にすることはまだ出来ずとも、前を向いてしっかり進めている。全ては、あの綺麗な海を取り戻すため。後始末屋としてこの戦場に立つため。
「やっぱ昨日の夜に海を見せといてよかったな。後始末屋やってりゃ、誰だって達成感が持てるしな」
「なのです。汚れちゃった海があんなに綺麗に出来るのがわかると、やり甲斐を感じるものなのです」
そんなフレッチャーを見て笑顔が溢れる深雪と電。これまでの経緯を全て知っている者からすれば、ここまで立ち直ったところを見るのは喜ばしいことである。
反省する必要のない罪を反省し、自分の存在意義まで問うて、その上で今の自分がやれることを見つけ出し、そこに向かって前を向いた。時には後ろを向くこともあるだろうが、今は手に入れた自分の在り方──後始末屋としての自分のために、全力で、必死に走る。
そんなフレッチャーを、仲間達はもう快く受け入れている。思うところがあった者達も、その必死さと健気さに心を打たれていた。
特に反発していたスキャンプでさえ、ここまで考えているならと受け入れている。勿論口の悪さは据え置きではあるのだが、それでも前を向こうとしている者の足を引っ張るのは
「あとはみんなと仲良くするだけだな。それも大体出来てるとは思うけどさ」
「那珂ちゃんさんとお付き合いが出来れば、もっと楽しくなるのです」
「まぁな。米の時はいろいろあったから怖いかもしれねぇだろうけどさ」
トレーニングの時にも告白している、那珂に対して持っている畏怖の心。こればっかりはどうしても逃れることが出来ないようで、話は出来るがまだ怖いというのが現状。
米駆逐棲姫の時に刻まれた感情は思ったよりも根深く、まだ付き合いが浅いというのもあって、あまり親密になることが出来ないでいた。
「じゃあさ、次の後始末でナカちゃんと組ませて作業させればいーんじゃない?」
グレカーレの発案。後始末屋としての誇りがある今、那珂と共に作業をすれば、間違いなく関係が深まる。特に那珂の後始末屋としてのスタンスは、近くでやればやるほど理解出来るものだ。
そんな話をしているからか、深雪は視線を感じる。それは、那珂に付き従っている舞風から発せられるもの。
チラリと見て意思疎通、そしてお互いに頷いた後、グッとサムズアップ。舞風にもその意思が伝わったようである。
「よし、次の後始末がどうなるか決まったな」
「これでフレッチャーさんももっと馴染めるはずなのです。逆効果には……ならないですよね?」
「どうだろうねぇ。フレ子がやる気あるならだいじょーぶなんじゃないかなー」
グレカーレはこんな時でもお気楽なものであるが、発案したとはいえ悪い方向に行ってしまわないか少しは心配にはなっている。
「フレッチャー様ならば大丈夫でしょう。あの方のやる気は、今や誰よりも高まっていると感じます故。それに、那珂様であればその包容力でフレッチャー様も包み込んでしまうのではないでしょうか」
「確かにな。あの人マジで凄いからな。軍港の時にも米と友達になるって言ってたくらいだから、そこに不安は無ぇや」
白雲の言う通り、那珂に任せておけば全て丸く収まるのではないかと感じる程である。メンタルのバケモノは、相手が何であろうが関係なく笑顔にしようとアイドルらしく振る舞うのだから。
昼食後少しして、うみどりが現場に到着。そこではこだかが既に作業中であり、目測では既に4割程が作業が進んでいた。ここから始めるのならば、規模は小規模に近い中規模という程度。
二手に別れて進めると、ここまで効率的に進む。これはここまで長年後始末屋として活動してきた古株であっても、驚くべきことであった。
ここまで進んでいると、作業もかなり気が楽になり、精神的な面でもこれまでとは違う
「フレちゃん!」
仲間達が準備する中、フレッチャーに話しかける那珂。その隣にはニッコニコの舞風も立っていた。
那珂の顔を見た途端、ビクッと震えるフレッチャー。やはりまだ恐怖心が表に出てしまうようで、慣れようと思っても簡単には行かないというのが如実に現れてしまっていた。
フレッチャーの反応に那珂は苦笑しつつ、本題へ。
「今日は那珂ちゃん達と作業をしてもらおうと思うんだけど、どうかな?」
「どうかな?」
舞風もノリよく那珂と共に手を差し出す。一緒に行こうという気持ちを込めて。
「え、えっと……はい、よろしくお願いします」
対するフレッチャーは、それを否定するわけでもなく、素直に受け入れる。差し出された手には、おずおずと手を重ねた。
すると、那珂も舞風もその手をギュッと握り、グッと引っ張って近付いた。
「覚えてると思うけど、那珂ちゃんは何にも変わっていないよ。だから改めて、言わせてもらうね。フレちゃん、那珂ちゃんはフレちゃんとお友達になりたいんだ」
「みんなで踊ると楽しいもんね。だから、フレちゃんも一緒に踊ろう!」
2人からの申し出に、戸惑いつつも気持ちを落ち着かせた。
那珂のキャラは常に変わらない。深刻な話をしながらでも突然ライブを始めるような、空気を深刻にしないように振る舞いながらも核心に迫ってくるような、なかなかに怖いことをしてくる相手ではあるのだが、しかしその飛び抜けた明るさは尊敬にも値するものである。
そんな那珂に付き従う舞風も、テンションは常に高く、それこそ那珂の
「……はい、よろしくお願いします。私……というか、私に刻まれている彼女の記憶には、友達と呼べる相手もいませんでした。だから、友達という存在が……とても嬉しいです」
「あはは、そんなに神妙にならなくてもいいよ。友達っていうのは、お互いに気軽に接することが出来るものなんだからさ、一緒に楽しく生きていけばいいんだよ」
「そうそう、那珂ちゃんが言う通りだよ。だからさ、何かあったら頼ってくれて構わないし、こっちもめっちゃくちゃ頼ると思うから覚悟してよねー」
ニコニコしながら話す2人に、フレッチャーは驚きながらも受け入れてくれたことを喜び、笑みを浮かべながら頷いた。
気軽に話せる間柄というのはそれだけでも貴重。深雪や電のような特異点や、丹陽のような第一世代、伊豆提督のような上に立つ者と話すことばかりだったので緊張感があった。
だが、この2人は最初から距離感がまるで違う。友達になれないという気持ちは何処にもなく、絶対に仲良くなれるという確信の下に動いている。その勢いに、フレッチャーは流されているわけでもなく、素直に受け入れることにしている。
自分が受け入れてもらえたのだから、仲間の全てを受け入れる。前向きになったフレッチャーは、そういうところも成長している。
「作業が終わったら、那珂ちゃんと一緒にアイドルやろうね♪」
「あ、アイドル、ですか」
「持久力のトレーニングにもなるからね、オススメだからみんなで踊ろうね」
そして、アイドル活動によるトレーニングがさらりと入れられた。過労で倒れるという脅しをチラッと言われているため、フレッチャーの笑みが一瞬引き攣ったかのように見えたが、あえて気にしていなかった。
こうしてフレッチャーは那珂との関係も深めていく。うみどりで生活していくにあたって、マイナスの面はどんどん失われていた。
フレッチャーの危惧していることはおおよそ取り除かれたと言えるでしょう。