後始末屋の特異点   作:緋寺

476 / 1161
戦いに向けて

 うみどりが合流したことで、後始末作業は一気に進み、予定していた時間、陽が沈むくらいには作業終了。二部隊同時の後始末も3回目ともなると連携も非常に滑らかになっており、こだかの艦娘達──第二世代の純粋種達も流石に作業に慣れてきているおかげで、非常にスムーズな作業展開となっていた。

 

「本当にスムーズに終わったわね。それじゃあ、次も中規模だから、こだかに先行してもらいましょ。最後に大規模を残すのもどうかと思うけれど、近いところから順にこなしていく方が結果的に効率が良くなるから」

「понятно. そういう忙しさも経験しておいた方がいいだろうからね。やれるうちにやっておいた方がいいか」

「ええ、そちらもまだ大丈夫でしょう?」

「ああ、勿論。揉め事もなく、毎日が楽しめているよ。それも今だけかもしれないけどね」

 

 ボス代理のタシュケントの近況報告では、こだかの風紀は非常に良いモノであるらしく、後始末屋としての作業にも意欲的だという。

 明確な目的がある今、生活水準そのモノが上がっていることもあり、いつも笑顔が絶えないアットホームな職場という感じらしい。

 うみどりもそうだが、同じような性質も引き継がれている辺り、うみどりの後継艦というイメージが強く根付いていると言える。

 

「そうだ、こだかでも話題になっていたんだけれど、フレッチャーの様子はどうかな。さっきまでの作業では、なんというかイキイキしているように見えたけれど」

 

 フレッチャーについては、こだかの方でも話題に上がる。あの米駆逐棲姫が生まれ変わった存在が、今どうしているかと。

 こだか側の艦娘はフレッチャーと親身な付き合いが無くなっているため、まだ少し本当に大丈夫かという気持ちが残っている者もいる。

 

 それに関しては、心配はいらないと断言出来た。今回の後始末では那珂と舞風が共に作業をしていたわけだが、タシュケントもたった今言っていた通り、とてもイキイキとした作業が出来ている。

 メンタルの面でもかなり前向きになり、残っていた心配事の1つである那珂との関係も、ここで非常に良好になっている。一緒に作業をすることで内面を知ることが出来て、メンタルのバケモノである那珂が後始末に対してどういう思いを込めているかが理解出来た。

 

「フレッチャーちゃんは今、とても前向きになれているわ。後始末屋として一生懸命頑張ってくれてる。米駆逐棲姫の記憶に苦しむことはあるけれど、ここのみんなはアタシも含めて彼女を仲間としてちゃんと受け入れている。スキャンプちゃんもね」

「わ、それは凄い説得力あるなぁ。あのスキャンプまで何も言わないってことは、それだけ()()()()()()()ってことだからね。じゃあ、こっちにもそう伝えておくよ」

 

 こだか側のフレッチャー評も、これによってまた変わることだろう。後始末屋の一員として、うみどりだけでなくこだかでも仲間意識を持ってもらえるのなら、彼女はより楽しく生きていけるはずだ。

 

 

 

 

 後始末の作業は完了し、こだかがまた先行。うみとりは一晩清浄化率を確認し、早朝に出航という昨日と同じ流れになる。

 昨日と違うのは、最初から日が暮れてしまっていることくらいである。夜に使える時間が少ないのは仕方ないことではあるものの、こだかが無ければここか、すぐに向かい、翌朝からはまた作業となるため、自由時間も殆どなく後始末詰めの単調な日々が続くことになっていた。

 そういう意味でも、こだかが加わってくれたのは非常にありがたい。メンタル面でのケアが出来るということは、そのまま後始末屋のモチベーションに繋がる。

 

 その分こだかが少し割を食っているわけだが、この回が終わったら次はうみどりが先行することになるため、どっこいどっこいという印象。一旦こういう流れ、後始末屋のキツいところも経験しておくことで、よりこの部隊の在り方について理解してもらおうという算段である。

 

「やっぱ作業の後の飯は美味ぇなぁ」

「なのです。疲れた身体に染み渡るようなのです」

 

 夜には終わるということで、今回の夕食は途中で軽食を摘むということもなく、最後まで行ってからみんなで揃ってしっかり食べるスタンス。就寝時間まで間も無くなってしまうものの、食は少ない時間を大いに楽しむためには絶対的に必要なモノであるというセレスの熱弁により、美味しく満たされるモノをしっかりと配膳されている。

 事実、その味は最高級とも言えるものであり、空腹が最後のスパイスとなって、幸せはより強く深くなっていた。軽食ならばこうは行かない。達成感すらも刺激される。

 

「今日は流石に食ったら風呂入って寝るしか出来ないな。ちょっとは時間あるけど」

「疲労は溜まっております故、今は無理せず休息を取られた方が良いでしょう。知らぬ内に身体が蝕まれているやもしれませぬ」

「だな。今日は飯食って風呂入ってさっさと寝るか」

 

 変に夜更かしして翌日に疲れを持ち越すわけには行かないため、出来る時はなるべく生活の流れを変えないようにするのも後始末屋としての義務。いつも万全の状態で挑み、戦いの終幕のために裏で動き続けるのが、一番のやり方。

 睡眠は特に重要であり、隅から隅まで一切の見落としなく片付けなくてはいけないこの作業を、寝不足の状態で後始末なんてうまく出来るわけもなく、完璧な片付けをするためには余程のことがない限りはプランを崩してはいけない。

 

「と、その前に」

 

 昼食の時と同様に、チラッと舞風の方へと視線を向ける。前回はフレッチャーのことをよろしく頼むという意味合いでアイコンタクトを決めたが、今回はどうだったという質問の意思を込めて見つめた。

 舞風もそれに気付いたようで、ニッと歯を見せるくらいの満面の笑みでサムズアップ。作戦は大成功だったと表していた。

 

 事実、今のフレッチャーは那珂と夕食を食べていた。その表情は互いに笑顔であり、ストレスのようなものはそこからは感じ取れない。本当に楽しそうに、それでいて、互いを尊重し合うような雰囲気に、見ているだけでもホッコリ出来た。

 

「よし、フレッチャーもいい感じみたいだ。やっぱ那珂ちゃんはすげぇよ。みんなを明るくしてくれる」

「ホントにねー。アイドル活動もスタミナさえあればいいトレーニングになるし」

「そこまで辿り着くのが大変なのです。でも、今なら乗り越えられるかもですね」

 

 深雪達の那珂に対する評価は非常に高い。だからこそフレッチャーを頼めたし、思った通りの展開でフレッチャーが明るくなっている。誰とでも分け隔てなく付き合えるアイドルの強さがこれでもかというほど出ていると言えるだろう。明日はアイドル活動でスタミナを上げる訓練でもやろうかと思える程であった。

 

 

 

 

 艦娘達が寝静まった夜。伊豆提督とイリスもそろそろ眠る時間ではあるのだが、こだかではない別の部隊と連絡をとっていた。

 

「そちらはどうかしら。何か変わったことはあった?」

『今のところは何も。嵐の前の静かさっスね』

 

 連絡先はおおわし、つまり調査隊である。軍港都市を出てからは別行動で、これから準備をしてから襲撃することになる島についての調査をしているわけだが、あまり近付きすぎても危険であるため、周辺や他の場所を重点的に見て回っているイメージ。

 

『かなりギリギリのところまでは近付いたんスけど、前の海賊船みたいなモンも無くて、言っちまえば()()()()()()()()()っつー感じでした。入港は流石にするつもりは無いんで、あくまでも遠目で見ている限り、ですけどね』

「まぁそうなるわよねぇ……調査隊が襲撃されるようなことが無いみたいで安心したわ」

『ありがてぇことに、オレらには見向きも無いのかもしれねぇっス。特異点がいるわけでもねぇし、島に対してまだ踏み込んだ調査をしていないからじゃないっスかね』

 

 奴らの作戦の邪魔はしたものの、距離感自体はしっかり把握し、()()()()()()()()()()()という立場を徹底していた。あくまでも攻撃してきているのはあちら側。縄張りに足を踏み入れるようなことはせず、艦載機による偵察すらしていない。目視出来る範囲からの調査にしている。そうしている理由は非常に簡単。正当防衛を成立させるためである。ここまで一歩二歩引いたところから見ているだけの調査隊を攻撃しようモノなら、襲撃の正当性をより確実なモノにすることが出来るからだ。

 島に乗り込んだ場合は、内部で何をされるかわからない。調査するつもりが、敵の尖兵に変えられていた、なんていう笑えない結果になりかねない。だが、海の上ならば最低限の迎撃態勢と、逐一大本営に対して報告出来る手段を持ち合わせている。島の近くで島から部隊が現れてそれに押し潰されただなんてことが起きたら、そもそも大本営が何をするかもわからない。

 

 結果として、おおわしが抑止力となっている。見ている状態で攻撃を仕掛けるのかと。

 

『ずっとここにいるわけにゃあいかねぇんスけど、少なくともオレらが見ている間は動くつもりは無いみたいっスね。こちらは海洋調査という体裁にも出来るんで、監視は任せといてください。島ン中でいろいろやられてると思うと気分は悪いっスけど』

「ええ、よろしくお願いね」

 

 本来なら、島でやっていることを告発するためにも乗り込んだ方がいいのだが、それが劣勢に繋がるというのならば、今は監視だけに留まらざるを得ない。そのせいで島内の被害が拡がってしまいかねないのだが、そこを妥協しなくてはいけないのが辛いところ。

 コラテラルダメージなんて言っていられないのだが、既に島内は全て支配されている可能性もあるので、本当にギリギリの選択であろう。自分達の命を優先した結果と言われてしまえばそれまでなのだが。

 

『何かあったらすぐに連絡するんで。夜も遅いんで、今回はコレで。今から島から一旦離れます』

「ええ、くれぐれも気をつけて。フラグじゃないわよ?」

『当然っスよ。だから死亡フラグは立てねぇ。オレらは生きるために戦ってんスから。うちのガキ共にも、いい世界見せてやらねぇといけねぇ。生まれた時から戦争中なんつー巫山戯た時代で生きてんだ。無駄死になんて絶対させねぇ』

「その意気よ。こちらはいくらでも手を貸すわ」

『ウス。ハルカ先輩が力貸してくれるっつーなら百人力ですぜ』

 

 

 

 

 調査隊との連携もしながら、次の戦いの準備も続けていく。何事もなく襲撃の時を迎えることさえ出来れば、あとは戦うのみ。

 




箸休め的な回になりましたが、うみどりもこだかもおおわしも順調に前に進めています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。