うみどりとこだかの連携による後始末はそこからも続き、翌日の中規模後始末も連携によってすぐに終了。3つ目の現場にかなり近い流れで進み、終わったのは黄昏時を少し越えた辺り。前回より少し早いと思える程度。
こだか側も流石に作業に慣れてきており、うみどり到着時には大物が片付いていたり、海水の浄化も手際良くなっていたほど。何度もやれば自然と上手く出来るようになっていくものである。
残った最後の後始末の現場にはうみどりが先行することになっているため、夜のうちから出発。現場の距離的にも、そうして朝食時くらいに到着くらいと考えられている。
「次の現場は、大規模だけれど置いちゃっていたということもあって、深海棲艦が穢れから生まれてしまっている可能性があるわ。ここまでは順調に来たけれど、次は一筋縄では行かない可能性がそれなりにあるから、少し意識しておいてちょうだい」
「フレッチャーは事前に私の能力をコピーしておいてほしいんだけれどよかったかしら。大規模となると、何かしら
これまでも出洲一派からの攻撃があるかもしれないと警戒はしていたが、幸いなことに一度も無かった。
あちらにも軍港都市で案が出された熟練見張員の視界とリンクすることで、見えないモノが見えるようになる兵装も、カタチとなっておおわしにも積まれているため、身を守る手段がないわけではない。実例が無いため、本当にそれが使えるかはわからないものの、無いよりはあった方がいい。
うみどりにもそれは対応されているのだが、それに加えてフレッチャーの量産化により2人目のイリスとして活動してもらうことで、普通では見えないモノも見える人材を1人増やすことで、より安全に作業が出来るように持っていった。
フレッチャーは勿論快く了承。後から風呂に入る前に量産型になってもらう方向で事が進む。
「自由時間がかなり少ないから、疲れが残るようなことはなるべくしないでちょうだいね。ただでさえ最後は大規模だから、作業時間も相応にあるわ。各自、万全な状態で挑みましょうね」
念を押したのには理由がある。この日の午前中に、那珂がフレッチャーと一緒にアイドル活動をしようとしたことに起因する。
スタミナを向上させるためのそれは、かなりハードなトレーニングとなる。それを午前中にやってしまった場合、最悪午後はまともに動けない。風呂だけでは疲れが取れないくらいに消耗してしまう。
そもそも翌日にそんな余裕は無いと思うが、強くなりたいからと睡眠時間を削る、ないし焦ってハードなトレーニングを隙間時間に入れようとするのは推奨していないと、ある意味フレッチャーのために話したようなもの。
ちなみに、当の那珂はテヘッと舌を出して笑っていただけだった。
翌朝、起きた時にはまだうみどりは航行中。もう少ししたら現場に到着すると、着々と準備を進める。
「今のところ、私の目でも違和感はありませんでした。お姉様が何も感じていないのなら私でも何も感じないとは思いますが」
「ええ、遠目で見てもそこに何かあるようには見えなかった。ただ、あちらが扱う『迷彩』の力は、機材まで騙してくるから、どうしても裸眼で見なくちゃいけなかったのよ」
「お姉様より一段階劣化した私の目では、それが確認出来るかはわかりませんが……」
「そこは大丈夫だと思わないと。それに、軍港で作ってもらった兵装も使っているんだもの。こちらが出来ることを入念にやっていかなくちゃね」
フレッチャーはイリスの力と同時に、軍港鎮守府の冬月が開発した、熟練見張員の能力を拡張する兵装を装備して事にあたっていた。
そちらでも何かしらの反応は見えていない。少なくとも、現場に向かう間に敵がいるようなことは無いようである。
「かなり前だけれど、ソナーに引っかからないステルス機能を持った潜水艦なんてのもいたけれど……」
「そ、そのような敵まで……。私に刻まれた記憶には、そのような存在はありませんね」
「そう考えると、米駆逐棲姫は割と
島で深海棲艦化して、高次の存在へと至った米駆逐棲姫だが、あちら側の内情を全て知るほどの権限は与えられていないように感じた。
島にはあと3人の高次の存在がいることは知っているのだが、各々が持つ能力が何かもわからないし、元々が一般人だってこともあり、それがどの型の深海棲艦と化したのかもわかっていない。下手をしたら名前すらわかっていないレベルである。
それを
「お役に立てず、申し訳ございません……」
「そんなこと無いわよ。むしろ、あちらのやり方がそれだけ巫山戯てるってことがよくわかるんだもの。やっぱり、阿手とかいう輩は人間を人間と思っていないゲスだって証明されたようなモノよ」
イリスですらここまでの物言いである。これまでのやり方からして、人を人と思っていない所業は、当事者だけでなく周囲の者すらも苛立たせる。
また、ここでわかってきたのは、本当に邪悪なのは出洲ではなく阿手であるということだ。カテゴリーKというあまりにも特殊すぎる敵が一番の悪だと思っていたものの、出洲はここまで人間をも玩具にするようなことをしているのだろうか。
出洲はあくまでも探究のために人間を犠牲にすることに対して感情が無い。しかし、阿手は人間を犠牲にすることを愉しんでいるようにすら感じた。出洲をダシに使って自分の愉悦のために動いているような、そんなゲスさを感じたのだ。
それが正しいのかはわからない。そもそも出洲がやっていることが何処までで、阿手がやっていることが何処までなのかもわかっていないのだから。
「今は置いておきましょ。やらなくちゃいけないのは後始末。これが今残っている最後の現場だもの」
「はい。大規模は初めてですので、いろいろと覚悟をしておきます」
「そうしておいてちょうだい」
そうこうしている内に、うみどりは現場に到着する。しかし、その時点から少し慌ただしくなっていた。
「当然の言えば当然かもしれないわね……。深海棲艦の反応を確認したわ。まずはそちらの対処を優先する。今から言う子達は、すぐに戦闘の準備をしてちょうだい。工廠でも準備しているから」
大規模を放置するということは、そういうことだ。穢れが中規模よりも多く垂れ流されてしまうため、どうしても新たな深海棲艦が生まれる温床となってしまう。
その現場も既に新たな戦場と化してしまっているのは、後始末屋の存在が絶対的に必要であることを証明しているようなもの。
「危険なことに、現れた深海棲艦の1体は姫よ。侵攻まで考えていないみたいだけれど、姫は姫だから気をつけて。ただ……」
伊豆提督は少し躊躇いつつも、やはり信念はブレずにいつもの発言。
「一応、説得はしてちょうだい。深海棲艦とはいえ、分かり合える個体が出てきているかもしれないから」
特殊とはいえ、セレスという前例があるのだから、可能性としては限りなく低いかもしれなくても、もしかしたらわかり合えるかもしれないのだ。
とはいえ、ダメだと思ったら躊躇せず撃破する。今が大丈夫でも、そのうち侵略者となってしまうのならば、ここで止めなくてはならない。
この伊豆提督の指示、仕方ないと溜息を吐く者もいるものの、説得なんてする必要ないと話すものは誰一人いなかった。それこそ、時雨や夕立、スキャンプだって、これまでセレスを見続けているのだから、もしかしたらという気持ちは持っている。
やれるのならば、話し合いに持ち込む。それも無理ならば鹵獲が可能か確かめる。それすらも無理ならば撃破。この流れで進める。
「あと先に言えることを言っておかないとね。1つ心配いらない事があるわ。現れた深海棲艦は、全てカテゴリーR、つまり純粋な深海棲艦よ。カテゴリーYでも、カテゴリーMでもない。だから、おそらく
確信が持てないのは、改造深海棲艦という存在があるから。それを大規模後始末の現場に仕掛けることに何の意味があるのかはわからないが、実験に使って不要になったから放置したという人としてあるまじき行為をした可能性はある。
「それじゃあ、部隊を言うから準備して。まず──」
うみどりは現場にまで辿り着く前に停泊。あまり近付きすぎても危険。そこから1部隊が出撃する。
「あたしと電なら説得出来るかもしれねぇってことで、ハルカちゃんが選んでくれたんだよな」
「なのです」
まず深雪と電。今回の相手は純粋な深海棲艦、しかも姫であることは確実なので、カテゴリーMをも対話に持ち込むことが出来た特異点は、低すぎる可能性を少しは上げることが出来るかもしれないという思いが篭っている。
特異点に頼りすぎることがよろしくないことであることは理解しているが、今はそれでも余裕があるというのもあり、特異点に実戦経験を積ませるという意味合いでも参加してもらっている。
「だが、ダメだと思ったらすぐに切り替えてくれ。それで危険に晒されてしまっては意味がない」
そう話すのは長門。やはり撃破をすることになった場合は、どうしても高い火力が必要となる。うみどりに所属する唯一の戦艦は、姫相手に非常に有効。
「相手は空母じゃないようだから、制空権は任せなさい。余計な闖入者も監視しておくから安心して」
そして加賀。戦艦とはまた違った高い火力を誇るため、使えるなら使いたい。うみどりでは翔鶴と祥鳳の気合の入った応援を背負っていたため、少々恥ずかしそうにしていた。
「危険なことがあれば、私がジャミングします。とはいえ、頼り切らぬように」
「私も、手に入れることになってしまった力をここで使ってみます。どうしても実戦でなければ確認出来ないこともありますので」
さらに妙高と秋月。手に入ってしまった曲解の力を実戦で何処まで使えるかの確認。特にジャミングは、説得時に不意打ちで攻撃された時に非常に有用であり、比較的安全に面と向かって対話が出来る力として使える。秋月の連射も、いざ戦闘に入ってしまった時に全ての隙を消すことが出来る容赦ない砲撃が可能となるため頼もしい。
残りの艦娘達も、工廠で増援として出撃出来るように準備だけはしている。特に神風や伊203は、必要とあらば即座に飛び出すくらいには整っていた。
本当はフレッチャーにも実戦経験を積ませたかったのだが、初めての出撃で姫は流石に荷が重い。VRなどを使ってもう少し練度を上げたらということになった。
「見えた。あの個体は……事前のリサーチ通り、軽巡棲鬼だ」
そこにいるのは軽巡棲鬼。下半身が艤装に包まれたその姿は、異形であるとハッキリと言える。だが、上半身だけで見ると、何処となく那珂に似ているという個体。
戦艦棲姫や空母棲姫のように、比較的現れやすい深海棲艦であり、軽巡洋艦の穢れからならば、それなりに頻度が高い出現率を誇っている。
「……いや、ちょっと待て。あの軽巡棲鬼、おかしくないか」
「ええ、
長門に続き、加賀もその姿を捉えたことで、少々疑問を持った。その軽巡棲鬼は、明らかに本来の個体とは違う性質を持っていたのだ。
「
溜まってしまった後始末の現場、その最後の現場で待ち構えていたのは、艤装ではなく脚のある軽巡棲鬼。二次創作では頻繁に出てくるけど、ゲーム内でそんな軽巡棲鬼はいないので、これは明らかな特殊個体です。