最後の大規模後始末現場に生まれてしまっていた深海棲艦。その中心人物となる軽巡棲鬼との対話に挑んだ深雪と電は、妙高のジャミングなどに頼りつつ、正面から話しかける。
軽巡棲鬼以外の深海棲艦には攻撃されたものの、攻撃の意思が無いことを示し続けたことでその攻撃は止められ、深海棲艦とは思えない程に素直に話をしてくれた。
生まれた時はイロハ級だった軽巡棲鬼は、この現場に仕込まれていたという深海忌雷を
しかも、持っていたはずの侵略者としての本能も失われており、眼前に特異点がいたとしても、別に何の気持ちも抱かないという特殊すぎるケース。忌雷に寄生されているのだから、出洲一派の思い通りになってもおかしくないのにである。
「聞いても信じられねぇよなぁ。でも実際にこうやって何もせずに話が出来てんだから、間違っちゃいねぇのか」
「なのです。このヒトは、電達に攻撃の意思はないのです」
周囲のイロハ級はピリピリしているものの、軽巡棲鬼自体にそういう意思が無いのだから、それに従わざるを得ない状況にあるようである。おそらく軽巡棲鬼が合図をすれば、一斉に襲いかかってくるだろうが、それも今はない。
イロハ級の侵略者としての本能は失われていないが、姫の指示は聞くというのも本能として刻まれているため、軽巡棲鬼が温厚なままであれば何もない。
「あたし達は、ここにある残骸を片付けに来たんだ。このままだと海が汚れていく一方だろ。だから、綺麗にしに来たんだよ」
「なのです。なので、皆さんには敵意は無いのです。でも、作業中は少し離れていてほしいのです」
後始末屋としての仕事について説明をしていくと、軽巡棲鬼は少しずつ困った表情を浮かべていく。
「エット……ソレッテ、
そう言われてしまうと、そうだとしか言えない状況。ここに居座られたら作業が出来ないので、一時的にここから立ち退いてもらいたいというのはあるのだが、彼女ら的には縄張りから追い出されるという感覚に繋がる。
深海棲艦自体がどういう生態系なのかはわかっていない。発生したら人間の社会を侵略しようと本能的に侵攻してくるのはわかるが、それ以外が何なのか。
侵略以外に考えていないから、生き方が非常に刹那的。死んでも別に構わないとでも言わんばかりに突っ込んで、後先考えることすらない。侵略した後のことを何も考えていないと言ってもいい。
しかし、ここにいる深海棲艦は、侵略の気質が薄れているために、生きるためにこの場所にいるという状態。ここを後始末した場合、軽巡棲鬼達の居場所を奪い、路頭に迷わせることになってしまう。つまり、ここから出て行ってくれと言っているようなモノ。
「あ、あー……えーっと……」
そう言われてしまうと、深雪はすぐに言葉が返せなかった。後始末をしなければ深海棲艦が増えて戦争は終わらない。だが、後始末をすれば
今ここにいる軽巡棲鬼の仲間達は、本人含めて6体。つまりは1部隊分。その中では、副官的なポジションになっている戦艦ル級はまだしも、残りの4体はヒト型かも怪しいような軽巡洋艦と、明らかにヒト型ではない駆逐艦。
その全てを追い出すのは流石に気が引けるし、だからといって匿うにも難しい面々。ヒト型ではない深海棲艦だけをノケモノにするのもよろしくない。やるならばオールオアナッシング。全員救うか、全員始末するかしかない。
そして、後者は絶対にあり得ない。侵略の気持ちもないような生物を、ただ深海棲艦だからという理由で死に追いやるなんて、出来るわけがない。
「ならば、一度我々の拠点に来てもらうしかなかろう」
言い淀んでいる深雪の後ろから、長門が当たり前のように発言した。そもそもセレス──壊れた戦艦棲姫の保護を言い出したのは長門。救える者は救うという考えはこういう時にも発揮されている。
「そ、そうだよな。あたしもそれがいいと思うんだけど、どうかな」
深雪もその意見に乗っかり、軽巡棲鬼に尋ねる。
「……私ハソレデモイインダケレド、他ノミンナハ……」
周囲を見回すと、やはりイロハ級は軽巡棲鬼ほど侵略者としての本能が抑え込めていない。今でも止められているから撃たないだけでいつでも攻撃してもいいと考えて主砲は構えたまま。
妙高のジャミングが効いているため、どれだけ撃たれても当たることはないのだが、敵意をギンギンに漲らせていることを考えると、この状態でうみどりに連れて行くのはかなり厳しそうである。軽巡棲鬼はまだ話がわかる方でも、野生の獣に言うことを聞けという方が間違っている。
しかし、ここで救世主が現れる。
「マダ昼食ノ仕込ミノ最中ダッタンダケレド」
援軍のように現れたのは、1台の大発動艇。それをコントロールしているのは梅。さらには酒匂や睦月など、救護班が総動員で出撃していた。
海上からは見えていないが、うみどりの潜水艦娘も全員が出撃しており、海中の安全も保証している。酒匂が出撃すると言い出したことで、スキャンプが率先して確認しに行ったためにこんなことになっていた。
そして、その大発動艇に乗っているのは、セレス。現在のうみどりに所属する、唯一のカテゴリーR。
「エッ……!?」
その姿を見た瞬間、軽巡棲鬼が一気に萎縮。それだけでなく、周りのイロハ級も構えていた主砲をおろして慌て出す。
「せ、セレス!? なんで戦場に出てきてんだよ!?」
「ナンデッテ、私ガ知リタイワ。急ニ呼バレテ、大発ニ乗ッテ海ニ出テホシイナンテ言ワレタンダモノ。アノ子……丹陽ニ」
これもまた丹陽の策。伊豆提督ならば、深海棲艦とはいえ非武装で戦闘の意思を全く持っていないセレスを戦場に出そうだなんて思わない。あまりにも突飛すぎる作戦で、仲間すら混乱するレベル。
「危険ですからジャミングの範囲へ!」
「は、はぁい!」
妙高が慌てて指示を出し、最低限セレスを守るようにジャミングの範囲に大発動艇を移動する。梅も流石にゆっくりしていられず、少し荒めになりつつもセレスの安全を確保した。
救護班が出撃したのは、セレスの護衛のため。万が一のことがあっても、すぐに応急処置が出来るように。あちらが敵意を持っているとしても攻撃はしていないため、その間を狙った奇策。
「丹陽マジで何考えてんだ……流石にセレスを表に出すのはマズイだろうがよ」
「なのです……こればっかりは危険すぎるのです。でも、許可が出たからこうなってるのですよね……?」
「……だよなぁ。ハルカちゃんがいいっつったんだよな……」
深雪と電もこの状況は考えていなかったようで、セレスの登場にはハラハラしていた。
「アラ、モシカシテ私ノ同胞?」
戦場に初めて出たセレスだが、肝が据わりすぎているのか、恐怖心などは何もなく、軽巡棲鬼達の姿を見て微笑んだ。
こういうカタチでカテゴリーRと対面するのは当たり前だが初めて。戦いの最中もうみどりか鎮守府に篭っているのが基本であるため、ある意味
対する軽巡棲鬼達は、これまでに見せたことが無いような表情を見せた。これまで敵意しかなかった戦艦ル級は、これまでの勇ましさが嘘のように狼狽しており、本能しかないはずの軽巡や駆逐も、それが失われたかのようにキョロキョロしているほど。
そして軽巡棲鬼に至っては、知性と理性が芽生えたからこそ、この状況に驚きを隠せず、アワアワと目を丸くしていた。
「ハ、ハイ」
「ソウ、ナラ仲良クシテチョウダイ。ココハ後始末デ片付ケラレルカラ、今ハ一旦、私達ノ住ム場所ニイテモラエル? 何カ御馳走シテアゲルワ」
「ヒ、姫ガ仰ルコトデシタラ、喜ンデ」
軽巡棲鬼どころか、戦艦ル級すらも大きく頷いた。その光景に、深雪達はポカーンとするしか無かった。
深海棲艦の中にも
軽巡棲鬼は、姫の中でもかなりの下位。対するセレス──戦艦棲姫はそこそこ上という差がある。勿論、戦艦棲姫よりも上の序列の姫は何体もいるが、今この場で言えば、戦艦棲姫が最高序列。軽巡棲鬼が萎縮するのは仕方ないことだった。
無論、セレスはそういうことはわかっていない。深海棲艦ではあるが、深海棲艦としての活動をしていない。ただ食を探究するだけの優しいお姉さんである。
丹陽はそこを狙ってこの策を伊豆提督に伝え、悩んだ挙句にこの策に乗っている。穏便に済ませるために深海棲艦の序列を使うというのは少々後ろめたさはあったものの、これによって誰も傷付かないのならば、選択の余地はあった。
「ソンナニ畏マラナイデ。私ハタダ、コノ世界ノ食ヲ探究シテイルダケダカラ。同胞ニモ美味シク食ベテモラエル食事モ考エテミタカッタノヨ。チョウドイイ相手ガ来テクレタワ」
「ハ、ハァ……」
「ソレニ、貴女達モ戦ウツモリガ無イナラ、何カニ興味ヲ持ッタ方ガイイワヨ。ココナラ何カ見ツカルト思ウカラ」
姫同士の談笑が続く中、副官の戦艦ル級は、ゆっくりと深雪に近付き、何か言いたげな表情を見せる。しかしイロハ級であるため、ヒト型ではあるが人語は介さない。大きくなった妖精さんみたいなもの。そのため、身振り手振りで感情を表現するしかなかった。
そこからわかったのは──
「えーっと、姫をよろしく……かな?」
苦い顔をしながらル級は頷いた。どちらかといえば、姫に何かあったら殺すという、敵意が消えたわけではないモノだったが。
「当然だ。絶対に傷付けないし、誰もお前達のことを痛めつけようとはしねぇよ。心配すんな」
「なのです。そうじゃなかったら、こんな風に話なんてしないのです。それに……うみどりだともっと驚くことになると思うのです」
この電の発言通り、うみどりに入ることになるこの深海棲艦達は、カテゴリーY達を見てより一層萎縮することになる。何故ここにはこんなに上位の姫ばかりがいるのだと。
ひょんなことから深海棲艦を拾うことになったうみどり。しかし、そこに忌雷が仕掛けられていたということは、この後に何かがあるということに他ならない。
この世界では戦艦棲姫がそこそこ上の立ち位置になっています。今でも通常海域には来てませんからね。そういう今では、通常海域(EO含む)に出てくる姫はどちらかといえば下位、イベント限定でラスボスも務めたならば上位という感じになります。