軽めの昼食を終えて、また作業を進めていくうちに、こだかも現場に到着。ここから投入される艦娘は、これまで作業をしている者達とおおよそ同数。単純に人員が倍となって、残骸拾いのローラー作戦が再開される。
大規模ということで時間がかかることは最初から想定済み。こだかの艦娘達も、まず最初にやった後始末が海賊船の超規模だったということもあり、大規模の現場に臆することもなく、夜までかかるとはいえ丸一日くらいで終わるならまだマシだと笑いながら言えるくらいであった。
真っ先に過去最大レベルの現場を経験していることは、そういうところに影響がある。今後もずっと、アレよりはマシだと言い続けられることだろう。規模の大きさでモチベーションが下がるようなことも無さそうである。
そんなこだかの面々、まだ軽巡棲鬼が保護されたことを報されていない。作業は共にやっていくが、だからといってうみどりに向かうことは無いし、朝のうちからバタバタしてしまっているため、定期報告のタイミングが作れていなかったからである。
今頃合流したことでタシュケントがうみどりに向かい、その姿を見て驚いている頃だろう。
「まだまだ無くなりそうにねぇなぁ」
腰を伸ばしながら軽くストレッチをする深雪。自分の目の前には残骸がそこら中に浮かび、拾っても拾っても少なくなっているように見えないくらいである。
実際は確実に数を減らしており、予想されている夜中の終了は確実なモノではあるのだが、作業している者にはなかなかわからないものである。
「大きな残骸で纏めて持っていくのが出来なくなったからですかね」
「あー、確かにそうかもな。解体しないと忌雷が中に仕込まれてるかもわかんねぇし仕方ねぇんだけど、そんな弊害があったのか。そりゃ気付かなかった」
すぐに終わらない理由の1つに、それがどうしても関わってくる。残骸が大きければ大きいほど、それを処理することで現場は一気に広くなるというもの。しかし、忌雷が仕込まれている可能性を潰すために全てを細かく解体しているのだから、その分残骸が拡がってしまう。同じ量でも、一括か分割かで大きく変わるもの。
しかも、それで3体もの忌雷を発見してしまっているのだから、現状の手段としては最適解ということになってしまっている。それ以外の手段が確立されていないのだから仕方ないのだ。
それを全て変えてしまうのが軽巡棲鬼の嗅覚になるのだが、今の彼女はもし忌雷を見つけたとしても、誰かにどうするかを聞く前に口に入れてしまいそうで若干怖い。
「まぁ、これで安全ならそれでいいよな。もうあんなことになられても困る。二度と見たくねぇ」
「なのです。誰にもあんな思いをしてほしくないのです」
「ホントホント。実際受けたあたしが断言するけど、あんなのダメダメのダメだよ」
グレカーレが
「何がダメって、ありゃ自分の思い通りにするために頭ん中ぶっ壊そうっていうやり方をしてくるんだよ。痛みで揺さぶった後、それ以上に気持ちよくして一気にコロリ。相手のことなーんも考えてない、自己中の塊みたいなやり方だね」
「そ、そう、なのか」
「そうなんだよ。結局、平和を目指してるとか言いながら、こっちのことは関係なしに自分の都合であんなことしてくるわけじゃん。なら、それはもう平和でも正義でもないってこと。ただの悪人、この世にいてもらっても困る、取り返しがつかないくらいのクズってことだよ」
グレカーレもなかなかに口汚く罵る。そしてその権利があるうちの1人である。今でこそ『羅針盤』の曲解のおかげで正気のままではあるが、一歩間違えたらこんなに以前通りの付き合いなんて出来ない程。カテゴリーWとなった4人と違い、グレカーレは深海棲艦の姿を維持しているくらいなのだから。
「ま、次はあたしをこの身体にした元凶に会えるでしょ。そしたら直々にボコボコにしてやるつもりだよ。とはいえ、譲ってくれなんて言えないから、みんなでボコろう。今回はみんなにその権利あるっしょ」
「……そうだな。あたしも流石に許しちゃおけねぇ。あたしのことを有る事無い事言いやがるのも腹立つけど、あたしを始末するために周りを巻き込みやがるのが一番ダメだ」
「なのです。自分の姿を見せていないのも、良くないのです。電も、そのヒトに関しては……救うのは無理かもしれないのです」
深雪は勿論、電ですらこう言ってしまうほどなのは相当である。深海棲艦ですら救えるものなら救いたいと考えているが、阿手に対しては手を差し伸べることを拒否すると自ら宣言したようなモノ。
「いいねいいね、イナヅマの怒りまで買っちゃうとか、マジのクズだよアデとかいうヤツ。これはもう、綺麗に死ねるとは思ってもらいたくないね」
グレカーレは物騒なことを言いつつも満面の笑みを浮かべていた。
世間話をしながらもしっかり仕事を続ける後始末の艦娘達の安全を守るために、空母隊は周辺海域を徹底的に確認していた。哨戒機にも少し手が入っており、熟練見張員が乗り込むことが出来る複座式の艦載機を取り入れ、それによって現場を裸眼で確かめてもらう策。
当然ながら、1機2機だけがそうなっているわけではない。うみどりもこれに関してはいつも以上に本気。姑息な手段を使っているような輩に、加減などするはずもなく、最悪その場で爆撃が出来るように、哨戒機と共に攻撃機も出していた。
「今のところ、敵影らしきものは見当たらないわ。そちらは?」
「同じですね。散らばる残骸以外は何も」
「妖精さんからも報告はありません。今のところは静かな海です」
加賀を筆頭とした空母達が念入りに確認しているが、現状ではこの現場は何の変哲もない後始末現場。忌雷が仕掛けられてはいたものの、ただそれだけ。寄生され洗脳されて内部崩壊を目指したとしても、それを監視するための尖兵は見当たらない。
「あちらのことだから、忌雷に寄生された子を回収しに来そうなモノだけれど」
「もしかしたら、回収すら考えてもいないかもしれませんよ」
そう答えるのは三隈。今の三隈は本格的に改装を受け、改二の中でも特殊な艦種変更までした改二特という形態となっている。
そのため、今の三隈は航空巡洋艦ではなく水上機母艦。しかし、運用方法は航空巡洋艦から据え置きという、そういうところも特殊な存在となっている。
そんな三隈は、相変わらず空母隊の一員として水上機を飛ばし、空母の仕事をサポートしていた。
「あちらも学習をしているのでしょう。どういう状況であれ、どのように監視をしたところで、それを発見され、帰らぬ者となるわけですから。これまで我々は、襲撃を仕掛けた者を誰一人として帰していませんからね」
「そうね。あちらに朗報なんて与えていない。これまでの作戦全てを阻止し続けているわ」
「だからでしょう。三隈はこう考えます。
三隈が思ったのは、今回の忌雷に寄生された場合の最期。
本来ならば、戦力増強のために回収し、より取り返しのつかない状態にしてしまうことが考えられるが、うみどりを滅ぼすことが出来るということは、今現在最も脅威として考えられる特異点を始末出来ているということに繋がる。そうなれば、もう寄生した者は
そのため、事が済んだらその場で自ら命を絶つのではなかろうか。それこそ、自爆するなりで。そうすれば、余計な手間もなく何もかもが終わる。寄生されているなら、そういうことも喜んでするようになるだろう。死ねと言えば死ぬような洗脳を施しているのだから。
「終われば加害者すらその場で自死を選択。ここにいる者は誰も彼もが命を落とし、そして誰もいなくなった……となるでしょう。あちらは後始末屋でもないので、こちらがどうなっても知ったことではなく、忌雷を嗾けながらも、勝手に自滅したと言い張れる。ちょっとしたきっかけで全てを終わらせる、狡猾で卑劣な手段だと思いますわ」
こう話しながらも、自分があちらの立場ならばこの道を選ぶだろうと苦笑する三隈。ほんの少しの間でも、洗脳を受けてあちらの考え方を取り入れたからこそ、今のあちらのやり方を多少は切り込んで考えられる。
辛く苦い思い出であっても、仲間のためならそれを引き出して策を考える。三隈はそれだけ割り切っていた。
「あり得そうなのが嫌なところね……」
「はい、なのであちらは手を抜いているとも思えますし、想定外を知る由もないというのもあります。とはいえ、現状あの忌雷が我々にとって一番の脅威であることは変わりありません。カテゴリーYが攻め込んで来るよりも対策に困るモノですから。それだけでこちらの足止め、ないし崩壊を齎すことは可能なんですよね」
これには納得してしまう。敵戦力はなんだかんだで対処出来るが、これまでで明確な被害を受け、しかも今でもその影響が残ってしまっているのは、忌雷による寄生だけだ。
それがあるというのが頭の片隅にあるだけで、後始末は難解になるし、念入りな調査も必要。研究に人員は割かなければならないし、そもそもあちらには常識かもしれないが本来は未知の技術だ。何もかもが時間がかかる。
「とはいえ、流石に忌雷を好物とした深海棲艦がその場に現れるだなんて、誰も予想がつきません。あちらがいくら賢くても、あらゆる状況を想定していても、彼女……軽巡棲鬼はイレギュラー中のイレギュラーでしょう」
「まぁ、そうね。誰がアレを食べようと思うのかしら。忌雷の天敵が、忌雷を放った現場から現れるだなんて、皮肉なものよね」
「……三隈はそれも、
苦笑する三隈に、まさかと加賀達は疑念を顔に出す。
「仮定の話ではありますが、特異点……深雪さんの力は、願いを叶えるモノだと思っています。電さんが覚醒したことで、それは顕著になりました」
「た、確かに、2人揃えば、忌雷に寄生されていても姿は元に戻れるようにはなりましたし……」
三隈の話を聞いて、翔鶴は少し冷や汗を垂らしつつも納得はしていた。祥鳳も小さく頷いて、言い分を否定するところはないとしていた。
「その範囲が、大きく拡張されているのでは。電さんの覚醒によって、深雪さん自身の力も少しずつ、いえ、そうとも言えないくらいに強くなっているのではないかと、三隈は考えています」
「ど、どういうことです?」
「深雪さんがこれまで酷い目に遭ってきた深海忌雷に対して、忌避の感情を持った。この世から消えてほしいと
そんなバカなと思いながらも、そうかもしれないとも思えてしまう。それが謎ばかりの特異点の力だ。世界に干渉してしまうと言われたら、もう何も言えない。
「……いえ、今はそこまで考えないでおきましょう。変に意識してしまったら、深雪さん達にもプレッシャーを与えてしまいます。あくまでも憶測。これが正しいというわけではありませんので、これも全て世間話の1つ、三隈の妄言ということでお願いしますね」
しかし、この三隈の発言は、妙に理に適っていることもあり、そうかもしれないと思わせるには充分すぎた。
現在実装されている複座式の艦載機はそれなりにあるみたいですね。哨戒向きなのは艦上偵察機 のFulmarかな?
支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/119633523
独自の哲学を持ち、また屈指の重たい過去を持っていた三隈。今もフレッチャーに道を示してくれた、うみどりの重鎮とも言える存在。その指さす先には、明るい未来が待っているはず。