後始末屋の特異点   作:緋寺

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その座標は

 後始末は進み、陽が沈む。現場は闇に包まれていくため、うみどりとこだかから探照灯が照らされ始めた。2隻がかりで照らすと、それこそ海上が昼間になったのかと思える程に明るくなる。どちらの探照灯も新品に替えられているということもあり、直視したら目が潰れるのではと思えるほどの光量。

 この時間でローラー作戦はおおよそ半分を越えたところ。このまま続けていけば、順調なら予想通りの夜中に終了。何かあったとしても、その規模にはよるものの陽が昇る前には終わらせられるであろうと予測されていた。

 

 夜になれば当然、闖入者などがよりわかりにくくなる。哨戒機も夜戦仕様に切り替えられ、より一層注意深く周辺警戒。忌雷調査班もほぼ全てを見回ったところではあるものの、むしろここからが本番と言わんばかりに、自らも探照灯を照射し、徹底的に探し出す。無いなら無いでそれでいい。

 

「ここからが正念場ってヤツだな」

「なのです。夜だと見落としが多くなるのです」

 

 探照灯によって海域全体が明るくなってはいるが、やはりどうしても暗く見えてしまうところもある。そこを見落とすことなくしっかりと回収してこその後始末だ。

 

 この辺りからローラー作戦をしていた者達の一部が海水の浄化を始めている。本格的に海を綺麗にするためには必要不可欠なのだが、夜の海だとどうしても見にくい。そのため、神経の使い方はこれまで以上となる。

 細かい残骸もそれと同じ。夜の暗さというのは、それだけで作業が大変になってしまうものである。

 

「よし、この調子でどんどん行こうぜ」

 

 後始末は順調そのもの。横槍も入らず、追加の忌雷も見つからない。まだまだ時間はかかるかもしれないが、作業終了までひたすらに動き続けるだけで大丈夫そうである。

 

 

 

 

 作業が続く中、少しだけ動きがあった。念のためということで、イリスがデッキから作業中の艦娘全員をその眼で確認しているのだ。

 うみどりの面々は心配していない。常に見ているし、今はフレッチャーもいるため、何かあったらすぐに気付くことが出来る。1人より2人の方が、当然気付きやすい。

 しかし、こだかにはそういう力を持つ者が誰もいない。他の後始末屋もそうだが、うみどりがあまりにも特殊なだけ。だからこそ、こうやって合流している時に、しっかりと力を持つ者が目を通すことにしている。

 

「よかったわ、何事もないわね」

 

 見ているのは無論、こだかの艦娘の誰かが忌雷に寄生されていないか。見ていないところで寄生され、フレッチャーの持つ『偽装』の曲解と同等、もしくは類似した能力を持って内部に潜んでいるなんてことが無いかを確認した。

 結果は、全員問題無し。合流した直後から確認しているが、この作業中に誰にも悟られずに寄生されているなんてこともないことを確認出来ていた。ひっそりとやられているのが一番面倒臭い。

 

「よし、じゃあ次ね」

 

 確認の後、イリスは次の仕事に取り掛かる。空母隊の哨戒の最中に話していたことを伝えられ、少し気になることがあった。()()()()()()()である。

 

 三隈が憶測と言いながら語った、軽巡棲鬼が生まれた理由。忌雷を嫌った深雪の願いが叶った結果が、あのようなイレギュラーな存在に繋がるのではないかという突飛な考え方。

 その話を聞いていた加賀達は、そんなバカなと思いつつも、そうかもしれないと納得も出来た。だからこそ、この憶測をイリスにも話していた。こんなことがあるかもしれないと。

 三隈自身はそれを妄言と自ら一蹴してはいるものの、その憶測はどうも引っかかるところは多い。特異点が謎だらけということもあり、何もかもがそうかもしれないという思いに集約されてしまう。

 それが正否を確かめるためにも、まずはこの場所が何処かを知る必要がある。三隈の憶測が妄言かそうでないかは、キチンと整理しておいた方がいい。本人に言うかどうかはともかく、特異点がどういうモノであるかは、せめてうみどりの上位陣は知っておくべき。

 

「妖精さん、座標を調べてもらえる?」

 

 デッキから立ち入り禁止区域に入り、妖精さんが揃っている操舵室へ。そこで現在の航行の履歴と海図から照らし合わせ、現在位置を正確に割り出す。

 この広い海、周りを見ても道標になるようなものなんて当然なく、妖精さんの感覚に全て任せての航行になる。勿論、ある程度は通信などでサポートしてもらいながら動き回ってはいるが、コレがどこであるかを明確にするには、妖精さんのサポートは不可欠。

 

「どうかしら……()()()()の近くだと思うけど」

 

 イリスも多少は海図を読む力はある。そもそもが後始末依頼の連絡を受けた時に、その座標は送られてきているのだ。数値上ならいくらでも参照は出来る。緊急時は、提督や秘書が妖精さんと共に艦を動かし、いち早く後始末にあたれるように力を尽くす必要があるからである。

 三隈に言われる前から、もしかしたらという気持ちはイリスにはあった。後始末のために海をグルグル回っているわけだが、それでもこれまでに作業した海域はそれなりに頭に入っているのだから。

 とはいえ、それだけでは説得力にかける。そのため、妖精さんの力も借りて、より正確な場所を割り出していた。妖精さんの計測は、人間のそれとは比べ物にならないほどに正確、かつ間違いがない。こういう時こそ頼るべき存在。

 

 そして、やはりそれは判明する。

 

「……やっぱり、三隈の憶測は正しいのかもしれないわね」

 

 この場所は、()()()W()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 このことはすぐに伊豆提督に報告される。

 

「元々はここまで近くは無かったはずなの。現場の座標的にもね。でも、しばらく置いていたじゃない」

「ええ、うみどりも動けなかったから仕方なくね」

「その間に、この辺りの天候とか、風とか、そういうのが噛み合っちゃって、少しずつ現場も拡がって移動もしていたみたい。航行の時は妖精さんが補正してくれるから、真っ直ぐここまで来れてるけど」

 

 実際はこの現場もここまで特異点Wと近い場所ではなかった。しかし、うみどりの諸々の事情によって現場を放置せざるを得なかった間に、海流やら天候やらが影響したことで現場が徐々に移動。時間をかけたことで特異点Wに近付き、その結果がコレである。

 流石に特異点の力が天気に影響を与えるとは思えないため、コレに関しては本当に偶然。だが、その偶然を掴み取って願いを叶えたのは、紛れもなく特異点の力と言える。

 

 本人が見ていないところで、本人の願いを叶えるために、()()が動いたのは、間違いないと見ていいだろう。

 

「……島に行く前に、一度確認した方がいいのかもしれないわね。特異点W……深雪ちゃんの生まれた場所を」

「ええ、想定外が起こりすぎるのも考えものだもの。ちゃんと知った状態で決戦に望みたいわ」

「その力に頼りたいというわけではないけれど、ね」

 

 しかし、その力を知ったところで深雪がそれを意識してしまうかもしれないと思うと、あまり望まれないことである。

 

 幸いなことに、今回のこの現場が終わったら今のところは後始末の話は出てきていない。ほんの少し時間が得られる。ここからその時間を使って、島に向けての対策を練ることになるのだが、そのうちの1つとして、特異点Wに向かって待機。深雪にはその内容を伝えず、極秘というわけではないものの、こそっと調査をしていく。

 勿論、こうしている間に依頼が来ればそちらに向かう。とはいえ、今はこだかもあるため、いざという時はそちらに任せるなんてことも可能。やりようはいくらでもあった。

 

「時間もそこまで残されているわけじゃあないけれど、やれることはしっかりやっておきましょ。この戦いに勝つために」

「そうね。あちらが特異点のことを狙ってきていることもあるしね。私達も、そのことをキチンと知っておく必要があるわ」

「マークちゃんにも声をかけておきましょうか。今でこそ島の監視もしてもらってるけれど、あまり同じところに留まっていたら不審に思われるでしょうし」

 

 そもそも後始末屋は調査を本業としていないのだ。実際に調査するなら、正しくそれを生業にしている調査隊とまた合流するのも悪いことではない。

 島も当然気になるところだが、どう攻めるかを考えていく上で時間も必要。その間を有効活用するためにも、連携していけばいい。

 

「……ねぇ、イリス」

「何かしら」

「アタシ達ですらこう感じているのに、出洲がそれを考えないことなんてあるかしら」

 

 これは伊豆提督としても不安なところ。ここ最近は明らかに特異点の力が増しているのは、敵味方どころか深雪自身も理解しているところだ。最初はただ煙幕を出すだけだった。その煙幕ですら、誰かを傷つけることが出来なくなるという作用を持つ異常なモノではあったが、まだ()()()()と言えるモノだった。

 それが、自らを改装して改二となってから、成長の仕方が異常となっている。見えない敵に常に触れているように感覚的に場所がわかる。それを仲間に伝える。逆に敵側からは知覚されなくなる。さらには、不可逆と思われていた忌雷の侵蝕を姿だけでも元に戻し、挙げ句の果てには砲撃を煙で止めるなんてことまでやってのけた。

 それは電も含めて、艦娘のやれることからあまりにも逸脱している。異常な身体能力などは、まだ鍛えたと言い張れるレベルだが、超常現象としか思えないことを当たり前のようにやっているのは間違いない。

 

 ならば、流石に出洲も今何かをしてきているのではないか。後始末屋が後始末を懸命に行なっている間、あちらは有意義に時間が使えているはずなのだから。

 むしろ、阿手がここまでのことをやってきているのは、出洲に時間を与えるためとすら考えられる。そもそもがゲスであることは一旦置いておいても、そのやり方は出洲以上に気に入らない。仲間の尊厳を破壊し、誰も彼もから怒りを買い、今では出洲より阿手が気に入らないと口を揃えて言うほどになってしまっている。

 

 それ自体が敵の狙いだったとすれば。阿手という特級の悪人を使った時間稼ぎ。それを目眩しに、出洲が特異点に辿り着いてしまっているとしたら。

 

「尚のこと、この後は特異点Wに向かうべきね。下手をしたら、もう出洲の仲間がそこに陣取っているかもしれない」

「そうね。この作業の後はその方針で行きましょう」

 

 

 

 

 ここに来て挙がってきた特異点Wの存在。そこを調査することで、何がわかるだろうか。

 




大分前に名前が挙がって、そこからまるで触れてこなかった特異点W。この後始末の後、ついにそこに触れることになります。


支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/119668034
うみどり唯一の補給艦、神威。今でこそセレスという料理人がいるけど、深雪が後始末屋として活動し始めた時には軽食を用意してくれていました。初めての仕事をこなして食べるご飯は、さぞ美味しかったことでしょう。
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