後始末屋の特異点   作:緋寺

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最後の現場も終わり

 後始末はついに日を跨ぐ程の時間に。ここまで来ると、後始末に慣れているうみどりの面々にも疲れが見えてくる頃合い。深雪や電も、この辺りからは眠気が出てくるためか、欠伸をしながらの作業となっていた。

 だからといって、作業を疎かにするなんてことはない。眠たくとも、真剣に拾い残しが無いように作業に専念する。むしろここからが一番真剣かもしれない。

 

「そっち、大丈夫か?」

「なのです。深雪ちゃん、右側にちっちゃいのが」

「おっと、悪ぃ」

 

 声をかけながら眠気を逸らし、少しでも残しを作らないように、確実に数を減らしていく。終わりも近いため気が急いてしまいそうだったが、それもしっかり抑え込んで。丁寧に事をこなしてこそ、後始末屋である。

 

「流石に朝っぱらからずっとやってるとしんどいねぇ。深海棲艦の身体でも疲れるもんは疲れるよ」

 

 グレカーレも何度か伸びをしながら残骸を拾い集めている。だが、疲れているものの表情は明るいものである。戦闘中よりも後始末の作業中の方が楽しいと言わんばかり。

 それは深雪や電も同じこと。心の痛む戦闘ばかり経験させられているため、他の艦娘よりも間違いなく戦闘が嫌になっている。他の艦娘だったら敬遠しそうな後始末を楽しめるくらいには精神性が固まってきていることもある。

 

「でも、綺麗になるのはいいもんだな。明日の朝、あのやべぇくらい散らかってた海が、めっちゃ綺麗になってんだからよ」

「だよねぇ。第二次の時も海はすっごく汚かったからさ、やっぱり綺麗な方が気分がいいよ」

「なのです。汚いより綺麗な方が嬉しいのです」

 

 3人で笑い、そして作業を続ける。艦娘として、海のために働いていると実感し、やり甲斐のある仕事に満足した。

 

 

 

 

 さらに夜は更け、丑三つ時。ここで残骸拾いが全て終わる。固形物と思われるモノは完全に無くなり、あとは穢れによって澱んだ海水を浄化するのみ。そちらの作業は後発のこだか勢が続けるということで、うみどりの艦娘達は一度全員、艦に戻ることとなる。

 拾い忘れは無いはずだが、もしここで何か見つかった場合、もしくはこの段階で万が一敵が現れた場合を考えて、うみどりの艦娘達がもう休むということはなく、いつでも出撃出来るように準備だけはしておく。

 

「ったはぁ、疲れた疲れた」

「お疲れ様です、お姉様。白雲、職務を全ういたしました」

「おう、お疲れさん」

 

 先に事を終えて工廠で待機していた白雲が深雪に駆け寄ってきた。こちらもお疲れ気味ではあったが、まだまだやれるぞと言わんばかり。

 

 残骸拾いの間も、常に小型の忌雷が無いことを確認するために海域を動き続けていた調査組も、ここまで来ればもう安心と既に工廠で待機中。こちらの装備は後始末というよりは戦闘に偏った装備編成であるため、もし敵が現れたとしてもすぐさま出撃が可能である。

 今は全員が消耗している状態ではあるため、十全の力を発揮することは難しいものの、それでも戦えないというわけではない。並の敵ならば軽く始末出来るくらいの力は残っている。

 

「あの後は忌雷が見つからなくてよかったぜ。いきなり出てくると嫌だよな」

「はい……梅様が矢面に立つ羽目になっていたので、気の毒で気の毒で」

「あー……解体してる最中に飛び込んでくるんだもんなぁ……」

 

 この調査組、梅だけは少々消耗が大きかった。最終的には解体する残骸も無くなったので、目の数を増やすという理由でそのまま参加していたものの、また残骸の隙間から飛び出してこないかとヒヤヒヤしていた様子。実際は飛び出してきても妙高のジャミングによって触れられることもないのだが、そういう問題ではないと本人は語っていた様子。

 しかし、今後の後始末現場では常にこの作業が必要と言えるだろう。それこそ、出洲一派との戦いが終わった後ですら、忌雷だけはしばらく警戒しないといけないのではと考えるくらいに。

 

「デカい残骸が無いなら、梅はそこから外すとかになるか」

「そう、ですね。梅様の解体が不要となることは早々あるわけでは無いのですが、今回も半ばで無くなりましたから、最初だけ手伝っていただくというのが良いと思います。ここはおいおい、提督様と相談でございましょう」

「だな。最終的にはハルカちゃんに決めてもらうことになるだろうしな」

 

 その噂の梅だが、メンタルの消耗を癒してもらうために、神威の排煙で心を癒してもらっていた。今は神威の周囲が癒しの空間となっており、肉体的ではなく精神的な疲労が深い者は、落ち着くために利用していた。

 これもまた補給艦としての仕事になるかと神威も喜んで排煙を出し続けている。深海棲艦化していた時は穢れを放出していたわけだが、カテゴリーWとなってからは排出するのは単純に体力。作業後であるために神威とて疲労はあるのだが、排煙に使う体力はそれほど酷いものではないようで、余程広い空間を一気に癒すのでないならば、作業後でも余裕があるようである。

 

「あ、そういえば……アイツどうなった。軽巡棲鬼」

 

 ここで深雪は、朝に保護した軽巡棲鬼のことを思い出す。休憩中の夕食や夜食の時にも工廠でチラチラ姿は見えていたが、何か特殊なことをしていたというわけでもなく、後始末屋が何をしているかを知ってもらっていたという感じであった。

 今も工廠にいるらしく、興味を持った者に気さくに話しかけているようだ。今は癒されている梅と癒している神威と話をしている。それだけ見ていると、とてもではないが深海棲艦とは思えない。色白でカタコトな普通の仲間。

 

「洗浄されたってのもあるだろうけど、なんつーかめっちゃ明るいな。協力的だし」

「なのです。こうやって仲良く出来るのは嬉しいのです」

「だな。余計な戦いは必要無ぇや」

 

 疲れはあるが、その光景に癒され、深雪達は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 しばらくして、こだか勢の海水浄化も完了。空母隊の薬剤散布が始まり、あと少しで後始末作業全てが完了となるところで、全員集まったことを確認した伊豆提督が今後の予定を先んじて発表する。

 

「みんな、少し気が早いけどお疲れ様。もう少しで終わりになるから、その前に聞いてちょうだいね。アタシ達に与えられた仕事は、これで一段落つくわ」

 

 この間も後始末の依頼は来ていない。現在絶賛戦闘中の海域はあるようだが、それが終わるにはあと数日はかかりそうということで、少なくともそれまでは後始末屋の出る幕ではないようである。

 とはいえ、もし友軍が欲しいと言われた場合はそちらに急行する必要があるため、多少は気を張った状態は続く。

 

「そこで、この現場が終わったら少し移動するわ。待機は何処でも出来るんだけれど、なるべくその戦場に近付いておいた方が万が一の時にすぐに動けるからね」

「こだかとはまたここで一旦別れることになるわ。うみどりは夜が明けたら移動、こだかは清浄化率の維持の確認をしてもらって、その後はこちらと連絡を取りながら自由に動いてもらう予定よ」

 

 イリスも加わって、今後の予定を語られた。

 

 ここからはまた別行動。これまでは溜まっていた現場をすぐにでも片付けるために2部隊での行動を心掛けていたが、その全てが完遂された今、そこまで多くの人数を使うことは無くなる。そのため、これからのやり方を実践するために、うみどりはうみどりで、こだかはこだかで後始末を続けていく。

 基本的に依頼はうみどりに入るため、そこでどちらの方が現場が近いか、どちらがやる方が早いかを考えてから指示をすることになるだろう。単純に、担当海域中央から東か西かで更に作業範囲を分けるということに。

 

 こだかは今の大規模現場のある方を担当し、うみどりがその逆側に移動となる。これはまた理由があり、件の島は()()()()()()()()()()()()()()()。何が起きるかはわからないものの、どちらが安全かと言われれば、おそらく今いる海域の方が比較的安全。とはいえ、ここにも忌雷が仕込まれた残骸があることを考えると、どちらが近いとかはあまり関係なさそうではある。

 

「こちらにはイリスとフレッチャーちゃんがいるから彩の確認は出来るけれど、あちらにはそういう人員がいないわ。だから、設備の拡充と最新鋭化はあちらが優先ということになってるわ。今回忌雷が手に入ったこともあって、裏ではかなり濃厚な研究が続いていてね、ついに探知機も完成したということよ」

 

 そこは主任と明石が共同で休む時間も惜しんで研究に研究を重ねた結果、金属探知機のように忌雷が探知出来る装置を開発することに成功したらしい。試作品とはいえ、かなり高性能に作り上げたらしく、こと忌雷を探し当てることに関してはダントツの性能を誇るようだ。

 今回の現場では調査隊に負担がかかり続けたものの、ここからはそれを使えば比較的安全に取り除けるようになるようだ。

 

 しかし、この装置を作るには貴重な資源も必要らしく、今はこだか側に譲渡する1つしか出来上がっていないらしい。うみどりは依然として、この現場で行なわれた地道な作業が必要となる。

 だが、先に伊豆提督が話した通り、人員の都合上、そういった装置の優先度はこだかにあるため、それで全員納得している。

 

「あと、今回保護した深海棲艦の子達は、わかっていると思うけどうみどりで保護観察となったわ。特に軽巡棲鬼……いえ、セレスちゃんと同じように名前を付けさせてもらったんだけれど、ムーサちゃんは、協力者として仲間に加わってもらうことにしたわ」

 

 軽巡棲鬼改めムーサ。これもまた、セレスと同様に伊豆提督がふと思った直感的な名前。本人も名前を与えられたということで喜んでいた。

 

「出来る限り避けて通るつもりではいるけれど、本当にいざという時は忌雷の匂いを辿ってもらうことになるかもしれない。忌雷のことを明確に知覚出来るのは今のところムーサちゃんだけだからね」

「でも、わかってると思うけれど極力食べさせないように。絶対食べたいと言うと思うけど、現状が飽和状態の可能性もあるの。ここから追加で接種することで、余計な進化をする可能性だってあるわけだからね」

 

 ムーサが忌雷の匂いを嗅ぎとれる理由は、()()()()()()()()()()()である。これまで5体の忌雷を食べているわけで、しかもそれはよりによって踊り食い。生のまま行ってしまっている。そのため、今彼女の体内で忌雷がどうなっているかはわかっていない。

 ここから多少は解析などもすると思われるが、だとしても謎があまりにも多い存在である。

 

「それじゃあ改めて、みんなお疲れ様。お腹が空いているならセレスちゃんがお夜食を用意してくれたから食べてね。明日は総員起こし無しで動き始めるから、自由に休んでちょうだい」

 

 

 

 

 溜まりに溜まった後始末はこれで全て終わり、次の行動に出る。移動するのは特異点Wの調査のためでもあるが、極力そうであると悟られないように。

 




軽巡棲鬼に与えられた名前、ムーサは、ギリシャ神話の女神。司るのは、文芸や技芸。そこには音芸術や舞踊も含まれているため、何処となく艦隊のアイドルに似ているところから連想した感じですね。ただ、ハルカちゃんの頭の中にはもう一つ、これまで5体の忌雷を()()食いしたという実績も過ったのではないでしょうか。
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