海上で演習が執り行われる中、調査隊の一部──丁型海防艦の3人は、昼目提督の指示に従い、潜水艇を準備していた。任務は海底調査。潜水艦でも見逃すような
「今日はうみどりの潜水艦も一緒についてきてくれる。あちらの指示もちゃんと聞くんだぞ」
「もちろんでっすー」
丁型海防艦3人のリーダーである第四号海防艦が、無邪気に手を挙げて返事をする。見た目通りの子供っぽさ。妹達である第二十二号海防艦、第三十号海防艦も、それぞれやる気を見せている。
見た目も中身もお子様である海防艦だが、おおわしとしてはかなり
とはいえ、艦娘としての能力は海防艦という艦種である以上、対潜掃討以外はどうしても難しいスペック。それをそういうカタチで伸ばした昼目提督の手腕が光る。
「何があるかわからねぇ。わかってると思うが」
「危なかったらぁ、すぐ戻るぅ」
「深入りしないで、助けあい!」
「安全第一、命大事に、です」
三者三様、しかし言っていることは同じ。どんなことがあっても自分の命が一番。そして、仲間の命も一番。みんな揃って帰ってくることが、一番重要だと言い聞かせており、子供ながらにその重要性をしっかり理解している。任務の前にはこの言葉を言わせ、反芻させることでより刻みつけた。
「よし、じゃあ行ってこい。テメェらの働き、期待してるぜぇ」
「まっかせてぇ」
それが子供であろうとも、他の艦娘と同等に扱っているからこそ、頼られている当人もやる気が出るというモノ。特に第四号海防艦は、リーダーとしてもやる気充分。それでも暴走しないのは教育の賜物。
3人が各々の潜水艇に乗り込み、正式な手順を踏んだ後にそのまま潜航。海中で潜水艦と合流するため、なるべく速く潜っていった。
「……鬼が出るか蛇が出るか……命に関わるモンだけは出てくれるなよ。ガキ共に嫌な思いをさせんじゃねぇぞ特異点」
昼目提督はすぐに海防艦達と通信が出来るように執務室へと戻った。そこでは伊豆提督との通信も出来るため、海中、海底の様子をリアルタイムで確認出来る。何か見つけたら指示も出来るし、そうでなくてもすぐに報告を受けられるのは、子供達の安全も兼ねていた。
「ハルカ先輩、聞こえますか」
『ええ、大丈夫よ。そちらの映像も見えているわ』
伊豆提督に見えているのは、潜水艇に備え付けられたカメラの映像。徐々に暗くなっていくものの、少しすると伊203と伊26と合流したようで、映像に手を振る2人の姿が映る。
速さだけで言えば、潜水艦娘の方が速い。特に伊203はそれに特化しているのだから、潜水艇なんてそこに置いてさっさと進むことも出来てしまう。だが、それは伊26が制御し、子供達の先導者としての役割も持つことになっていた。
『それじゃあ、よろしくお願いね、マークちゃん』
「ウス。調査を進めましょう。何か見つかりゃ御の字っつーことで」
『ええ、何も無いなら何も無いでいいものね。深雪ちゃんの謎が深まるかもしれないけど』
この調査で、特異点がどういうものかを知ることになるかもしれない。伊豆提督も昼目提督も、覚悟を決めて先に進める。
順調に海底付近まで到着する調査部隊。潜水艇を器用に動かし、あらゆる痕跡を一切動かさないように行動する様は、子供ながらにプロであることがわかる。
「ぱっと見では普通の海底」
「だねぇ。ニムにもいつも見る海の底って感じだよ」
潜水艦娘には見慣れている海底の光景がそこに広がっている。構造物など当然なく、深海生物が少々いるくらいのそこは、何かあるようには全く見えない。当然ながら、誰かが何かをした痕跡なんてまるで見えなかった。強いて言うなら、潜水艦娘が近付いたことで積もった砂が舞うくらい。その痕跡は調査隊もよく見ているので、不思議なことは何もない。
潜水艇はあまり近付くことなく、まずは周辺を確認するためにうろうろ動き出す。おおよその座標は内部で確認出来るため、微妙な誤差が出ないように位置合わせ。
『ここ、ここでっすー。マークのあにきから教えられてる座標!』
第四号海防艦が少し行ったところで声を上げる。その座標は、特異点Wの中でも特に中心。昼目提督が計算して割り出した、うみどりの担当海域の重心となる場所。
当然ながら、誰かが触れたような痕跡はそこにはなく、他と同じようにただの海底のようにしか見えない。所々に散らばる瓦礫のような岩くらい。海底では
「何かあるようには見えない」
「うーん、ニムにも何かおかしいって思えるところはないかなぁ」
調査隊ではない伊203と伊26には、これもいつも見る風景の1つにしか見えないものである。特別なモノがそこにあるわけでもなし、近場を泳いだところで何か変わるでもなし。場所が場所ではあるものの、やはり他の海底となんら変わらないようにしか見えなかった。
そのため、潜水艇の海防艦達がいろいろとやり始める。強めの光を当てながら、何やら装置を翳したりする。
『ちょっとだけ、ホントにちょっとだけだけど、電磁波っぽい反応見っけ!』
『艦娘にも深海棲艦にも似た波長みたいなもの、あります』
第二十二号海防艦は電磁波、第三十号海防艦は波長、それが他の場所とは違うと言い出す。値としては本当に僅かな違いではあるのだろうが、少しでも違和感があるのならばそれを疑うのが調査隊。
その言葉を聞いて、第四号海防艦の操る潜水艇が少し海底から離れて、全体に向けて装置を翳した。
『えっとー、範囲がけっこー広いでっすー。でも、真ん中が一番強い、かなぁ?』
伊203と伊26にはさっぱりその差がわからないものの、海防艦達には何か別のモノが見えているようだった。調査隊の技術の全てが詰め込まれた潜水艇にかかれば、その僅かすぎる誤差を的確に判断出来るようである。
しかし、見た目だけで言えば他とは何も変わらない。何を言われても、見ているだけでは違和感など何処にもなかった。
「必要ならこの辺りのモノ動かすけど」
『ちょーっと、待ってくださぁい』
第四号海防艦が提督陣と通信。
『モノを動かすのは御法度なんだよね。生態系とかに関わってくるかもって言ってた』
『はい、今この環境でしか生きられない生き物がいたら、可哀想ですから』
第二十二号海防艦や第三十号海防艦が言う通り、海底の環境はなるべく触れないというのが暗黙のルール。
海上での戦闘によって、残骸などが海底まで沈んでしまうなどのやむを得ない理由があるなら撤去のために触れるが、そうではなく穢れが拡がる理由になりそうにないなら、そのままにしておく。既にそこに深海生物が巣を使っている可能性もあり、触れることで命を脅かす可能性にも繋がってしまう。
『マークのあにきに連絡とりましたー。なるべく動かさずに、まずは反応だけしっかり確認しろ、だってー』
『りょーかいりょーかい。それじゃあ、も少し別方面でも調べてみるよ』
『穢れとかも確認しますね。何があるかわかりませんし』
海防艦達がまたゆらりと潜水艇を移動させ、調べられそうなモノは全て調べていく。相変わらずの手際の良さに、伊203も伊26も感心させられていた。
「……ニム、ここ、どう思う?」
少し手すきになったためか、伊203が伊26に話しかけた。海防艦の仕事の邪魔にならないように、しかし潜水艦としての感覚がこの調査に役立つかもしれないと考えて、思ったことを口に出すようにしていた。
「どうって?」
「雰囲気、みたいなもの。私にはここは、戦場とは違う
装置などでは測れない、感覚的な話。今を生きる者として、この場所で感じたナニカを表現するならば、それは『温かい』だった。
この海域が温暖な気候だとかそういうものは何もない。いくら温暖であろうと、陽の光も届かない海底にそれは求められるようなモノではない。しかし、精神的な温かさを感じる気がすると、伊203は嘘偽りなく口にした。
「うーん、言われてみればって感じだけど。ニム達はここが特異点って知ってるから、そう思い込んでるだけかも?」
「かもしれないけど、ここからは穢れとかを感じない」
「うん、それはわかる。後始末の時の感じはどこにもないもんね。でも、綺麗な水に浄化した後の海とも違う」
後始末屋の潜水艦だからこそ、その僅かな差は肌でわかる。言われてみればわかるというくらいではあるが、明確に違うのはここの海水が非常に綺麗であるということ。
後始末をしている最中の穢れまみれの海水は、防御するためのボディスーツを着ていても何か嫌な感覚がある。それを全て取り払った後の海水は、スーツ無しで素肌で触れていつもの水だと思えた。ここに来るまでの海水がまさにそれ。
しかし、特異点Wの海水はそれ以上に、浸かっていて気分がいいような気がした。
言うなれば、穢れの対となるモノ、『晴れ』を感じる。
「なんでここだけそうなってるんだろうね」
「わからない。今それを調べてる」
「だよねぇ」
言うだけ言うが、それが結局何なのかはわからない。そのために今、ここで調査隊も含めてしっかりとした調査をしている。
『よーつ達は、前にもここを調べてるんですよー』
そんな潜水艦の会話が耳に入ったか、第四号海防艦が割り込むように口を挟んだ。
『でも、その時は何にも見つからなかったんでっすー。ただの海って感じだったなぁ』
『そうそう、今みたいに装置で反応とか何も見えなかったんだよね』
第二十二号海防艦もその話に乗っかった。
既に一度ここは調査済みなのだが、その時はコレといった成果はまるで無かったという。しかし、今もう一度調べてみたら、何かが違う。
『深雪のあねごが頑張ったから、この海がちょーっと変わったって感じ、なのかもぉ?』
「あり得る話。深雪はここまでいろいろ頑張ってきた。それがここに関係するかはまだわからないけど」
特異点である深雪の成長に呼応するように、この特異点Wも
だからだろうか、明らかに場違いなモノがここで見つかってしまった。
『あ、あれ、ごめんなさい、フーミィさん、ニムさん、そこの瓦礫の隙間……何かないでしょうか』
第三十号海防艦が潜水艇では見えないような隙間の隙間に何かの反応を見つけた。こうなると潜水艇では海底の環境を破壊してしまいかねないので、直接手を入れられそうな潜水艦に頼んだ。
指示に従い、伊203がその隙間に手を突っ込む。躊躇いがないことに苦笑しつつ、伊26は何かあった時のことを考えて臨戦態勢で待機。
「ん、何か掴んだ。石ころ……?」
手を引き抜くと、そこにあったのは──
「
昼目提督は114話目で言ってましたね。