特異点Wの調査のために海底を探索していた潜水艦2人と丁型海防艦トリオは、普通とは違う反応を瓦礫の隙間から発見。それを一切の躊躇なく拾い上げた伊203の手にあったのは──
「
海底にはまず無いであろう木の実だった。
伊203が木の実と称したのは、その見た目から。色は妙に白いが、誰が見てもそれは胡桃のようなモノ。しかし、触れている伊203には、その感触が見た目通りではないとわかる。明らかに木の実とは言えないほどに
「……なにこれ」
そうとしか言えないし、隣にいた伊26も首を傾げることしか出来ない。海防艦達ですら潜水艇の中で騒つく。
報告がしたいからと、拾い上げた木の実を潜水艇に近付けた。ライトでしっかりと照らして、取り付けられているカメラに見せつけた。これで艦内から見守っている伊豆提督や昼目提督にもそれが何かを調べてもらうことが出来るだろう。
「やけに軽い。でも、壊せそうにないくらい硬い。握った感触は……鉄でも木でもない。すごく不思議な感触。今までに触ったことがない。ニム、ちょっと持ってみて」
「うん、ちょっと借りるね」
伊203から渡され、それを両手で包み込むように持つ伊26。さわさわと優しく撫でるような触り方で、それが何かを探ってみる。
しかし、感想は伊203と似たようなものしか出てこない。今までに触ったことがない不思議な感触。その一点に尽きる。
「うーん……なんだろう。ザラザラしてるけど、木の実って感じじゃないかなぁ。でも、金属じゃない。ツルツルしてないから宝石ってわけでもないし……」
「でも、カタチは完全に木の実」
「うん、それはニムもそう思う。海防艦のみんなはどう思う?」
摘むように木の実を掲げて、それが何かと尋ねてみたら、やはり似たような答えが帰ってくる。ぱっと見から胡桃ではないか、変なカタチになった石ではないか、大穴で
そんな話をしている中でも、潜水艇から装備が伸びてきて、いろいろと反応を確認はしていた。電磁波や波長、穢れ、調べられそうなこと全て。しかし、それが何なのかはどうしてもわからない。逆に言えば、
言ってしまえば
「持ち帰ってみる?」
伊203がまずそれを提案する。詳しく調べるのなら、これを海上に持っていくべきだろう。おおわしに戻れば、より詳しくコレが何なのかを調べることも可能。それこそ、今は破壊出来そうになくても、どうにか破壊して中に何か入っていないか見てみるなんてことも出来る。
『持ち帰るのは出来ればやめたいです。元々ここにあったモノですから』
対して、第三十号海防艦がハッキリと返した。拾い上げたものの、それはそもそもここにあったモノ。何かもわからないモノではあるものの、本当にここから動かしていいモノかどうかもわからない。
伊203の判断は速さ重視。持って帰った方が間違いなく事が早く進む。しかし、それ以上に調査隊の判断は重視するべきことでもある。調査に関しては素人なのだから、いくら速さを重視するにしても、プロの意見はちゃんと聞く。それも子供でもそうした方がいいと言うのだから説得力も段違い。
「ん、わかった。でも、ここにいる間に調べられるだけ調べた方がいいとは思う」
『賛成でっすー。も少し見てみましょー』
それは満場一致の意見のようで、ここから持っていくことはしないにしても、この謎の木の実がここにあること自体が特異点Wとして成立させている何かとしか思えないため、調べられるだけ調べるのが一番。
どれだけ触っても何かわかるかと言われたら何とも言えない現状。伊203が試しに耳に当ててみるが、中に何か入っているわけでもなく、音がするわけでもない。軽さ的にはこの木の実の中身は空洞なのではと考えたものの、振っても何の音もしない。
中に何かいたとしたら非常に軽率で危険な行為だったのだが、伊203としてもそこは入っていないと確信してこの行為をしている。
「中に何か詰まってるのかな」
「詰まってても、海水とかじゃないかなぁ」
「それか……空気?」
「それもあるね。どう入ったかはわからないけど」
見れば見るほど謎が深まる木の実の存在。伊203がこの木の実があった瓦礫の隙間にもう一度手を突っ込むが、そこに別の木の実があるなんてことは無かった。
ここにたった1つだけ生まれた木の実。何処かからもぎ取ったという感触もなく、
それこそ、深雪が生まれると同時にここに発生した。もしくは
「……考えれば考えるほどわからない」
『あっちも混乱してるみたいだよ。兄貴もハルカちゃんも頭抱えてるって』
第二十二号海防艦からの報告で、海上で見守っている提督陣も、この木の実の存在が全く見当がつかず、どうしたものかと悩んでいると知る。
特に昼目提督は、まさか本当に実がそこにあるだなんて思っていなかったと。実を結んだと喩えただけなのに。
『イリスのあねごも、これは何も見えないって、言ってまっすー』
「じゃあ、生き物ではないんだ」
「これが生き物だったら嫌だなぁ」
イリスから見ても、彩は無し。つまり、無機物。
「それは生き物じゃないよ。でも木の実っていうのも、ちょっと違うかな」
「そう、触った感じは木の実って感じじゃない、かな」
「うん、だってそれは、ここに集まった祈りと願いの結晶だからね」
そう言われてなるほどと伊203は納得した。結晶と言われたらそれ相応の硬さを持っているし、その材料が祈りと願い、感情を使っているのなら、この軽さが理解出来る。物質とは言いにくく、しかし触れられるモノ。
「……ところで」
伊203が振り向く。
「貴女は誰」
そこには、潜水艦と海防艦以外に、
あまりにも当たり前のように、誰も違和感を持つことなく、溶け込むように立っていたその者は、見た目だけでいえば艦娘とも深海棲艦とも言える者。ヒトのカタチをして、海底に立ち、笑顔で会話に入ってきた。
艦娘ならばその姿を見れば大概誰かとわかるモノ。その者を見たら、姿形からその名前は言える。だが、伊203はそれでもその名を呼ばず、誰だと聞いた。
「うーん、なんて名乗ればいいかな。それじゃあ、『お姉ちゃん』と呼んでもらおうかな」
「ふざけないで。こっちは真剣」
「私は深雪ちゃんのお姉ちゃんだから、間違いじゃないと思うけど」
誰も何も言えない。こんなところで現れたことが恐怖でしかなく、伊203以外は声も出せない。万が一を考えて、伊26は潜水艇の前を陣取るように移動した。あちらに攻撃の意思は無さそうだが、何が起きてもおかしくない以上、警戒するに越したことはない。ただでさえ、海防艦達は何が起きているのかわからず、潜水艇の中で震えているほどなのだから。
「じゃあ、吹雪と呼べばいいの?」
「うん、それでいいよ。私は吹雪、貴女達の知ってる吹雪とはちょっと違う吹雪。艦娘であり──」
言うが早いか、海底だというのに海上艦、艦娘としての吹雪の姿に変わる。まるでフレッチャーの偽装を見ているような変化。
「深海棲艦であり──」
姿がボヤけたかと思うと、その姿が深海棲艦のように変わる。真っ白な髪と肌、そしてツノまで生やした敵のような姿に。
「そして、
三度姿がボヤけ、また最初の姿──どちらとも取れない、見て何と形容すればいいのかわからない姿となった。顔だけは吹雪のように見えるため、伊203は吹雪としたし、本人も吹雪と名乗った。
そもそも海上艦である吹雪が海底にいること自体がおかしな話。出洲一派による改造で潜水艦にされたと考えることも出来るが、ならばこんなに気さくに話しかけてくるのもおかしな話だし、近付いてきたことがわからないくらいのステルスを発揮したことから、敵対しているのなら今攻撃してこないならば敵と見做すのも難しい。
しかも、自らを特異点と名乗った。深雪との関係性まで仄めかして。ならば、今はその話を聞いてみるしかないだろう。伊203が矢面に立ち、何故ここにいるのか、何故突然出てきたのかを問い続ける。
「貴女達がここに来たから、なんかおかしなことしないでほしいなって出てきただけだよ。ここを壊そうとしてるわけじゃないよね?」
「勿論。私達はここを調べに来ただけ。この近くでは不思議なことが何度も起きてるから」
「あー、確かにね。ここには
さも当然と言わんばかりに軽く言う吹雪に、伊203は眉を顰める。吹雪はそんな表情を見ても止めることなく話し続ける。
「今も叶ってる最中だよ。ここにいるみんなが同じことを願ってるから、それ、
「願いの実……?」
「それはね、この海で沈んだ艦娘や深海棲艦、人間、生き物全てのカケラが、少しずつ少しずつ集まって出来た、奇跡の結晶。この場所は、ちょっと広い範囲なんだけど、海流が上手いこと集まる場所でね。貴女達が後始末をしても、ほんのちょっとだけ残っちゃう
だから、中にはみんなの祈りと願いが詰まっているのだと吹雪は語る。あまりにもファンタジーすぎて、伊203すらも何も言えなくなってしまった。
「特にこの10年は祈りが強かったからね。その力が溜まり込むのはとても早かった。後始末屋の仕事は、私から見てもとても素晴らしいものだと思うよ」
「……そう。で、結局この実は何なの」
速さ重視の伊203は、すぐに答えを求めた。その様子に、吹雪は苦笑する。
「言った通りではあるんだけど、端的に言った方がいいってことだね」
「そう、わかりやすく」
「はいはい、それじゃあ簡単に」
吹雪はニッコリ笑って実の全容を言葉にした。
「全ての生物の力が凝縮された結晶ってことだよ。その実自体が、人間であり、艦娘であり、深海棲艦であり、
吹雪はアニメ艦これで特異点みたいな扱いを受けていました。深海吹雪は海底に立っていましたしね。