後始末屋の特異点   作:緋寺

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端末

 特異点Wの海底で発見した木の実。それを突如現れた特異点と名乗る吹雪が、全ての生物の力が凝縮された結晶と称した。10年間の後始末屋の実績もあり、その祈りと願いを取り込んでいると。

 

「……わけがわからない。荒唐無稽すぎる」

「だねぇ……ちょっとニムには信じられないかなぁ」

 

 ようやく口を開くことが出来た伊26も、吹雪の言い分には半信半疑。それが嘘をついていない本当のことだとしても、いろいろと突飛すぎて信じられないというのが現状である。

 だが、オカルトやファンタジーがここで起きているのは、目の前に立つ吹雪そのものが物語っている。今でこそ艦娘なのか深海棲艦なのかも曖昧な姿ではあるが、そんなモノが潜水艦と同じようにこの海底で当たり前のように話しているのだから、信じざるを得ないというのが最終的な感想である。

 

「まぁ信じにくいよねぇ。でも、多少は何か考えがあったから、ここでこうやって調査をしてるんでしょ? 深雪ちゃんの周りで不思議なことが起きたから。例えば……つい最近で言えば、()()()()()()()()が生まれた、とかね」

 

 明らかにムーサのことを言っている。深雪の願い、『忌み嫌っている深海忌雷を、この世から消したい』を実現したと吹雪は言ってのける。

 ここにいる面々は知らないことではあるが、哨戒中に三隈が言っていたことが完全に正解であったことの裏付け。

 

「この願いの実の力で、みんなの()()()()()は、どういったカタチであれ叶ってる。本人が願ったカタチではないにしても、結果的にそのようになる。勿論、全部が全部ではなくて、心の底から願ったモノだけが、だけど」

 

 軽い口調で言っているが、起きていることはとんでもないことだ。願ったことが全て叶うなんて、あまりにもおかしな話である。

 

「でも、叶えられる願いには限界があるんだ。だってそうでしょ、本当に全部叶うなら、貴女達の敵はもうこの世界からいなくなってるはずだし、辛い思いなんてしなくなるよね」

「……そうだね。本当に全部の願いが叶うなら、死人も生き返るし、敵はいなくなる」

「そこまでの力は無いんだよ。世界の(ことわり)を変えられるほどの力は。この実の近くで起きた、さっきも言った通り()()()()()に反応する。この力はあくまでも優しいチカラだからね」

 

 吹雪はうみどりの何もかもを知っているように話す。

 

 ムーサは深雪の『深海忌雷が無くなってほしい』という願いから生まれた、忌雷を無くすために生まれた深海棲艦。忌雷を食べるというカタチになったのは、どうやって無くすかを具体的に考えていないから、適当な選ばれた手段。

 時雨に説得が通ったのは、まさにそのままの『カテゴリーMと戦いたくない』という願いから。捻くれた性格なのは呪いも残しているからだが、結果としてカテゴリーMとその場で戦うことは無くなっている。

 そして、電がここで合流出来たのは、『仲間が欲しい』という切なる願い。深雪は口にもしていないし考えてもいないが、無意識下で願っていた。オセロの話を聞いたことで、カテゴリーWがもう1人いればと。それが叶った結果が、もう1人の特異点である。

 

 これまでは深雪──特異点の願ったことだから優先的に叶ったようなもの。他にも叶っている願いはいくつかあるという。

 例えば、桜の姉のこと。もう命の灯火が消えることは自分でもわかっていたのだろう。だから心の底から願った、『妹が助かってほしい』という願いが叶った。代わりに自分はそこで死ぬことになったが、その亡骸はこの海域に置かれ、その姿をうみどりに見せるに至った。

 そしてもう一つ、叶った願いがあるのだが──吹雪はそれはここでは話すことはなかった。願った者がそれを拒んでいそうだったから。

 

「それが深雪の源っていうのは、どういう意味?」

「そのままの意味だよ。深雪ちゃんはこの実から生まれてる。この実が生み出した……言い方は悪いけど()()みたいなモノ」

 

 吹雪が言うには、深雪はこの実の力を海域から離れて発揮させるために生まれた存在である。しかし、実そのモノでは無いのだから、ここまで超常的な願いの叶え方はしない。

 煙幕というカタチでそれを発揮し、窮地に陥った仲間を守る、自分自身を進化(改二改装)させる、意思なき者に生きるための意思を与える、負の感情に苛まれる者と正面から話が出来るようにするなど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが、深雪の特異点としての力。願いの実のように、その場で命を生み出すようなことは出来ないし、煙幕の届かない場所には何も出来ない。

 

「でも、深雪ちゃんは特異点としてすごく成長した。身体も心もね。私もお姉ちゃんとして鼻が高いよ」

 

 うんうんと嬉しそうに頷く吹雪に、伊203は恐怖心が薄れていた。吹雪はあくまでも深雪の姉としてその成長、これまで歩いてきた道に対して、心の底から喜んでいる。本人同士は顔すら合わせていないが、姉としてのスタンスが根底に存在するように。

 コホンと咳払いをして、少しだけ真剣な表情になった吹雪は、潜水艇のカメラを見ながら頭を下げる。

 

「うみどりの皆さん、深雪ちゃんをこれからもよろしくお願いします」

 

 その目は潜水艇というよりは、カメラの向こう側にいる提督陣に向いていた。目が合っているわけでもないのに、見据えられているような不思議な感覚。

 

()()()()()()()としての私からのお願いです。端末なんて言い方をしましたが、私にとってはやっぱり妹ですから、健やかに育ち、楽しく生きてもらいたいという欲があります。願いを叶える私の、数少ない願いでもあります。うみどりなら、深雪ちゃんがそう生きていけると信じていますから」

 

 そして、にこやかな笑みを浮かべた吹雪。曖昧な姿であっても、それは深雪のことを思う姉そのものであった。

 

 

 

 

 うみどりでは、この事態に溜息しか出なかった。悪い意味ではないのだが、想定外に次ぐ想定外だったために、伊豆提督すら許容量をオーバーしてしまっている。

 特異点Wに何かがあるとは思っていたが、それがこんなカタチであるとは思ってもみなかったし、その意思が吹雪というカタチをとって深雪の今後を願ってくるなんて想像出来るわけがなかった。

 

「……ハルカ、一応だけど」

 

 一部始終を見ていたイリスが口を開く。

 

「あの吹雪は、カテゴリーW。深雪と同じと見ていい、()()()()()()。姿を変えた時も、彩は変わらなかったわ」

「そう、よね。本人が言っていたんだものね」

「言い方は悪くなるけど、電はあの吹雪や深雪とは違う、()()()()()()なんだと思うわ。深雪がそれを願ったことで生まれた仲間だから、願いの実が根幹にない特異点なんじゃないかしら」

 

 先程の吹雪の話から考えれば、それが一番妥当な考え方であろう。仲間が欲しいと特異点が願ったから生み出された特異点。電自身も『特異点の補助装置』として自覚していることもあり、これまでの話を全て合わせれば全て辻褄は合う。

 

「吹雪ちゃんは言ってたわよね。この10年は祈りが強かったって」

「ええ、後始末屋のことも褒めてくれていたわ」

「アタシ達のこの活動は、そういうカタチでも間違いではないということよね」

 

 長い年月をかけてこの海域に集まった命の残滓。本来ならばそれは、死に対する負の感情が強く出てもおかしくないモノ。だが、後始末屋が分け隔てなく祈りを捧げたことによって、その感情が薄れるどころか、浄化されている。

 その結果があの願いの実だ。貯めに貯めたその祈りが今、深雪というカタチで還元されていると見てもいい。

 

「そんな打算的な考えでは無かったんだけれど。でも、それを知ったからって、アタシ達のやり方は何も変わらないわ」

「そうね。この戦いを終わらせるために、海を綺麗にする。ただそれだけのことね」

「ええ、知ったからって何も変わらない。アタシ達は後始末屋として、これからもこれまでのように片付けていきましょう」

 

 それを知ったところで、うみどりのスタンスは変わるわけがない。戦場の後始末をして、綺麗な海を取り戻す。ただそれだけをひたすらにこなしていく。それがこの戦いを終わらせるためには必要不可欠なのだから。

 

 

 

 

 海底では、伊203が瓦礫の隙間に願いの実を戻していた。吹雪の指示の下、僅かな微調整もして、この海域の中心へと再び置かれることになる。

 

「うん、ありがとう。やっぱりその位置に無いとダメなんだよね」

 

 ニコニコな吹雪だが、これだけやってもまだ海防艦達からは恐怖心が取り除かれたわけではない。やはりこんな場所に突然現れ、当たり前のように話をしている姿は、簡単には許容出来るものではない。

 伊203は速さを重視するために無言は極力せずに話を回すが、この吹雪の存在だけはどうしても簡単には受け入れられない。

 

「やっぱり、私のことが怖いかな」

 

 それを感じ取った吹雪が、苦笑いを浮かべて潜水艇を見る。中にいる海防艦達は揃ってビクッと震えたことで、潜水艇そのモノがガタンと小さく揺れた。

 

「ごめんね。でも、いきなりここから願いの実を動かされたからさ、こちらも驚いちゃったんだ。うみどりのヒト達だし、危害を加えるようなことはないとは思ってたけど、一応ね。それに、ここに戻すって言ってもらえたのは嬉しかった。持って帰ろうって思うのが普通だからさ」

 

 おそらく第三十号海防艦が乗っているであろう潜水艇に笑顔を向ける。

 

「うみどりとおおわし、この2つは私達の中でも別格ということにしてるよ。貸せそうならチカラを貸したいって思えるくらいになる。今みたいに」

 

 その言葉で伊203はハッとしたような表情を見せる。

 

「さっき、今も叶え続けてるって言ってたけど」

「ん? そうだよ、ここにいるみんなの願いを叶えてる。この海域ではそれが可能だからね」

「なんの願いを叶えてるの。私も今……というか昨日この海域に到着してからずっと思ってたことはあるけど」

「じゃあそれだよ。自分でもわかってるみたいだけど」

 

 苦笑しながら、願いの実が入れられた瓦礫の上に腰掛けた。まるでそれを守る者であると誇示するように。

 

「みんなの願い、『ここで何も起きてくれるな』を叶えている最中だよ。だから、ここには貴女達が敵として認識している者は誰も近付けない。今この間だけは常にね」

「……なら聞く」

 

 伊203が心底嫌そうな表情を見せた。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その伊203の言葉に、吹雪は頷いた。

 




うみどりを狙って襲撃がくるのは当然といえば当然
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