後始末屋の特異点   作:緋寺

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子供達との和解

 今の願いを叶え続けたとしても、後の願いが叶わなくなる。そう伊203から説得され、吹雪はこの海域に近付いている敵の始末をする道を選択した。

 今叶っている願い──『何も起きてくれるな』を反故にする可能性もあってずっと渋っていたが、水上艦の演習に気付かれることなく、ここにいる面々のみで始末をつければ、願いの反故にはならない。

 それが可能かどうかはまだわからない。うみどりとおおわし、2隻の移動鎮守府が鎮座するこの海域に襲撃を仕掛けてくるような輩だ。超常的な力を持つ潜水艦と特異点1人でどうにか出来る問題とは到底思えない。伊203はそれでもやると言い切っているが。

 

「フーミィちゃん、ちょっと待って」

 

 今すぐにでも向かおうとする伊203にブレーキをかけさせる伊26。流石に何の連絡も無しにそれを進めようというのはよろしくない。ここで起きている一部始終は、潜水艇のカメラから全てうみどりとおおわしに伝わっているため、あちらの指示を仰ぐ必要もある。

 それ以外にも、伊26は現状をどうにかしないといけないと思っているところがあった。出撃もそうだが、そちらも今すぐに解決しておきたい。

 

「吹雪ちゃんのこと、この子達はまだ怖がってるからさ」

 

 触手で伊203を捕えようとしたことで、より一層恐怖心を煽ってしまっていた。深海棲艦の姿に変化して、明らかな敵対行動まで見せている。そんな未知で謎な相手に、子供が怯えないわけがなかった。

 伊203はチラリと吹雪を見る。吹雪もそう言われてしまうと苦笑するしかなかった。自分の存在が怖いモノと思われるのは仕方ないと思いつつも、願いを叶えている善性のモノであることも知ってもらいたい。敵対の意思なんて何処にもなく、むしろ今からは共に戦おうと考えているくらいだ。そんな相手を怯えさせているだなんて間違っている。

 

「えぇと……怖がらせちゃってゴメンね」

 

 フワリと浮かび上がるように泳ぐと、潜水艇の1つ、中心にいた第四号海防艦の操縦するそれに近付いた。

 恐れられているため、近付けばガタンと揺れるものの、逃げようとはしていない。海防艦とて艦娘、未知のモノと相対する恐怖に苛まれても、この場から逃げようとだけはしなかった。

 

「私は貴女達とは絶対に敵対はしない。特異点として、深雪ちゃんのお姉ちゃんとして、貴女達には危害を加えないことを誓うよ。だから、仲良くしてほしいな」

 

 微笑みながら手を差し出す。潜水艇の調査用アームに握手を求めるように。

 

 第四号海防艦は怯えながらも、ここにいる海防艦のリーダー、そしてここにいる中では一番のお姉ちゃんであることもあり、子供ながらに気丈に振る舞おうと、何度も何度も深呼吸を繰り返した。

 実際、潜水艇には昼目提督からの通信が入っており、呼吸を調えろ、落ち着くんだと、まるで父親のように語りかけられていた。そのおかげで、少しは心も整ってきている。

 

『吹雪のあねごは、よつ達とお友達になりたい、です?』

 

 スピーカーから第四号海防艦の声。少し震えているものの、その意思を聞くために言葉を紡ぐ。

 

「そうだね、お友達になりたい、かな。上下関係なんて何も無い、ここに来てくれたら笑って話せる友達」

『よーつも、その方が嬉しい、でっす』

 

 アームが動いて、吹雪の差し出す手に触れた。力加減を失敗すると、吹雪の手に怪我を負わせかねないため、あくまでも触れるだけ。

 恐怖心は簡単には拭えないものの、吹雪は自分達と同じ生きているモノなのだと、子供ながらに理解した。だったら、怖がることの方が失礼ではないかとも思えた。友達になりたいと言われたら、まず友達になる。それが子供としての考え方。

 同じ海でこうして話が出来る艦娘なのだから、友達になれない理由なんてない。警戒はしないといけない相手かもしれないが、仲間の姉妹であり、その仲間を誇らしく思っていると公言しているような相手なのだから尚更。

 

『深雪のあねごとは、お話ししないですかぁ?』

 

 そして、子供ならではの踏み込み方もする。姉妹なら一緒にいる方が絶対に楽しいだろうと、吹雪の在り方などを子供なりに考えた上で無遠慮と言っていいくらいの言葉。

 吹雪の存在は、深雪にはあまり知ってほしくないというのが提督陣の考えだ。願いを叶える力を意識してしまう要因の最たるモノとも言える吹雪を知った時、そうはならないかもしれないが、その力を望んで本来の力を発揮出来なくなるかもしれない。

 

「うーん、どうなんだろう。深雪ちゃんと会っていいのかな」

 

 これもまた、吹雪の中にある願いを叶えている状態に関係している。

 今の願いは、何も起きないこと。特別なこともなく、日常的なことが邪魔されずにこなせることを望んでいる。吹雪という存在がそれを壊す特別なことに繋がりかねず、このまま海上に出たら、やはり何も起きないという願いを反故することに繋がるのではないかと。

 たった今、伊203から後の願いのために行動を起こすと話したところではあるのだが、人知れず近くにいる敵を始末することで今の願いもなるべく叶った状況を維持することも考えている。吹雪としては、自分の存在が公になることがその願いを維持出来なくすることは自覚しているため、そもそも会いたいとも思っていなかったりする。

 

『お姉ちゃんなら、絶対会った方がいいって!』

『私も、そう思います』

 

 ここで第二十二号海防艦と第三十号海防艦も少し声を震わせながら思いを伝えた。第四号海防艦が勇気を振り絞って話しているのだから、自分だってと前を向いて。

 

「いいのかなぁ。だって、私自身が普通じゃないよ? 私が出て行ったら、平穏無事じゃ済まなくなる。深雪ちゃんだって、絶対私のこと意識しちゃうし。願いの実の端末だって自覚するのも、あまりいいことでは無い気がするなぁ」

『じゃあ、ドロップ艦ってことにしちゃダメなの?』

 

 ここで第二十二号海防艦がより切り込む。特異点であることを隠し、深雪を見守るために一時的にうみどり所属となるのはどうかと言い出した。ちなみにこれは、別に昼目提督がそう言えと言っているわけではない。第二十二号海防艦が自分で考えての発言。

 何も起きないことは無くなるものの、深雪達の願いである『何も』とは、出洲一派との戦いのことに他ならない。それ以外の、神経を使うようなことは起きてほしくないなんて思っていない。仲間が増えることを嫌だとは思っていないし、むしろより楽しくなるなら万々歳と考える。

 

「ごめん、それは難しい。私は願いの実を守らないといけないから。例えるなら、深雪ちゃんは葉っぱだけど、私は枝なの。願いの実から生えた幹に直接くっついてるのが私。深雪ちゃんはさらにその先なんだ。葉っぱと言っても、離れたところで枯れないから安心してね。要は、それだけ繋がりが濃いっていうだけだから」

 

 しかし、吹雪はこの場から離れられないと謝る。特異点は特異点だけれど、今ここ(海底)で当たり前のように話をしていることでもわかる通り、吹雪は普通では無い。

 海底から浮上することくらいは出来るが、この海域から必要以上に離れることは不可能。願いの実との繋がりが強すぎて、目に見えないアンビリカブルケーブルで繋がっているようなもの。しかも、それを断ち切ることは吹雪にとっては死を意味するくらいの繋がり。

 

「だから、仲間になることは出来ないんだ。ごめんね」

 

 貸せそうならチカラを貸したいと言ったのはそこ。ここから離れられないから、控えめに伝えた。

 

「ニム、そろそろ行かないと。子供達も吹雪のこと、大丈夫になった」

「うん、もう大丈夫かな、大丈夫だよね」

 

 海防艦に問うと、もう大丈夫と子供達から悪くない返事がきたため、これでヨシとした。

 時間をかけてゴメンねと謝る伊26に、伊203は必要なことに対して使う時間は遅いことにはならないと首を横に振った。

 

「じゃあついてきて。多分、こっちだよね」

「そうだけど……なんで真っ直ぐ敵の居場所がわかってるの。私は願いの範囲で見えてるからわかるけど、フーミィちゃんだっけ、貴女は別にそういう力は……って速い速い! 置いていかないで!」

「あはは……フーミィちゃんはいつもあんな感じだから」

 

 相変わらずの伊203に、苦笑する伊26。吹雪はもう唖然とするしかなく、ボーッとしていたら置いていかれるだけなので、大急ぎで追いかけることにした。

 

 

 

 

 一方、海上。演習はそのまま行なわれているが、迎撃態勢にも移行するために提督陣が動き始めている。

 

「ミンナー、チョットハ休憩シヨー。セレス様ガ甘イモノ作ッテクレタヨー」

 

 海上に出てきたムーサが大きな声で全員に一旦休憩するために艦内に戻るようにと投げかけていた。その意図は知らされていないが、ともかくセレスが休憩用に作った甘味を配るということでそれを手伝っていた。

 艤装はそのまま使えるため、海の上でも普通に行動している。勿論非武装にされているため、攻撃の恐れは万に一つも無い。ムーサとしてもここに置いてもらえるなら艦隊の役に立てることをしようとこのような行動をしている。

 

「工廠ニ用意シテアルカラ、ミンナデ食ベテネー。ア、汗カイテルナラ、タオルトカモアルカラネー」

 

 その行動はまるで救護班や補給艦。そのような適性があるわけでは無い、ただの軽巡洋艦ではあるのだが、その行動力によってそれらしい行動が出来ている。

 深海棲艦がそういうことをしている、というのが大きなことである。七色の艦隊の凄さをこれでもかと見せつけている一幕。

 

「ふぅ……ちょうどいいですね。一旦終わりとしましょう。疲れ切っている状態で鍛えても、身につくかわかりませんから」

「神通さんマジやべぇ……神風じゃないと勝てねぇとかどうなってんだよ」

「むしろ、そちらの神風さんはどうなってるんです。私は手を抜いていませんが、驚異的なスペックをさんざ見せつけられましたが」

「私はまぁこういうモノなのよ。刀使わせてもらえればこれくらい出来るのよね」

 

 連戦連勝を続けていた神通に片膝を突かせたのは、うみどりのエースであり切り札、神風。砲雷撃戦では後れを取ったものの、神通に近接戦闘を見せてほしいとお願いされたことで立場が一転。神通が後れを取ることになってしまっていた。

 誰が見ても悔しそうにしているのを見て、妙にニコニコしていたのは響である。曰く、神通は訓練では鬼教官なので、偶にはこういった姿が見れたことが喜ばしいとのこと。

 

「後学のため、機会があれば教えてもらえませんか」

「余裕があれば。今は弟子が2人もいるもので」

 

 首で促した先にいるのは、これまでとは格段に動きが変わっていた白雲とグレカーレ。白雲はまだ疲れを見せているが、グレカーレは視線が向いたことでニンマリ笑ってダブルピース。

 

「なるほど、彼女達の動きは目を見張るものでした。身体が深海棲艦となってしまったからでしょうか」

「それもあるけど、単に才能。凄いわよ純粋種。教えたことどんどん呑み込んでいくんだもの。深雪と電も、流石って感じだわ。基礎を教えたらしっかりそれが根付くなんて、羨ましい限りね」

「短期間でもそれだけ強くなれるのは、確かに純粋種の持つ才かもしれませんね」

 

 神通も苦笑するしかなかった。思い当たること──戦えば戦うほどしっかり練度を上げていくのは、時雨や夕立からも見て取れたからである。

 

「強くなれるのは楽しいな。今も何も起きてないからこんなことが出来るんだもんな」

「なのです。こうやってみんなと一緒に何かが出来るのがいいのです。横槍も無いですもんね」

「ああ、本当にな。願いが叶っていてくれてありがてぇ」

 

 その願いが海底の願いの実が叶えていることは、端末である深雪はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 提督陣も、出来ることならこのままで終わらせたいと願う。しかし、今海底にいる面々だけでどうにか出来るとはどうしても思えない。

 ここで引き起こされる戦いは、一体どうなるか。深雪達も、その存在を知ることになってしまうかもしれない。




吹雪は特異点Wから移動は出来ません。出来たとしても周辺で終わり。後始末屋のように、担当海域を自由に行き来しようとすると、力が失われていくか、姿が薄れていくかのどちらか。
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