後始末屋の特異点   作:緋寺

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対策

 特異点Wの外側、願いが叶っているためにうみどりとおおわしが襲撃を受けることが無くなっているその場所には、目を疑う程の大軍勢がいた。その上で、カテゴリーYである姫級も多く存在し、それが非常に強力な姫であることも確認出来ている。カテゴリーYがこれだけの軍勢を集めて襲撃に来ているのだ。前回とは違う、凶悪な曲解を携えているのは、考えるのも容易い。

 これを見て、伊203はすぐさま自分の考えを改めている。深雪達に気付かれぬように全てを始末することなんて不可能と断言出来る。そのため、吹雪に前言撤回をすることを伝え、そして新たな願い、ここにいる全員の力を使って押し潰すため力を貸してほしいと話す。

 

 しかし、そうこうしているうちに、海中にも敵の軍勢の一部がやってきていた。

 海中のため、当然ながら潜水艦。それも、伊203や伊26が属する伊号潜水艦の魂を使用した姫、深海伊号水姫がそれを率いてきているため、伊203はおろか、伊26までもが、その存在に対して嫌な顔をしたほど。

 

「私が迎撃する。海防艦達は下がって、ニムは守ってあげて」

「無茶だけはしないでね。フーミィちゃんのデータは取られててもおかしくないんだから」

「わかってる。この期に及んで私に深海棲艦をぶつけてきたんだ。それ相応の実力を持ってるってわかる」

 

 深海伊号水姫はこの海域に辿り着くと、伊203を睨みつけた。この伊203が潜水艦らしからぬ戦い方をすることは、もうあちらにもバレている状態。むしろ、特異点とは別の理由で始末しておかねばならないと考えられるカテゴリーCのうちの1人。

 

「テメェがクソ強いっていう伊203だよな」

「だったらどうするの」

「あたしは、テメェをぶちのめすためにココに来たんだ。あたし達の夢を、平和な世界に向かうための正義をぶち壊そうとしてるって聞いたからな」

 

 これもまた、平和だ正義だと宣う者。出洲一派の思想に染まり、それを阻む者は一切の平和的解決を考えずに始末しようとする狂信者。

 その思想自体、最初から持っていたかはわからない。阿手の洗脳教育のせいで植え付けられたものである可能性もある。しかし、だからと言って放置は出来ない。元人間であることを盾に、自分達のやることを正当化されても困る。

 

「……それで?」

「テメェにはここで消えてもらうぜ。平和を邪魔するんだ。当然だよなぁ!」

 

 問答はすぐに終わり、深海伊号水姫が急激にスピードを上げた。伊203に合わせて調整されているのか、海中での戦いに特化し、縦横無尽に動き回る。

 通常の潜水艦とは比較出来ないほどの自由度。そして、とにかく速い。速さ重視の伊203であっても、その速さには息を漏らすほど。

 

 しかし、その時に乗っている感情は()()。驚異も驚愕もない、ただ少しだけ認めるように凄いなと思った程度である。

 

「っらぁ!」

 

 海中でその勢いを乗せた拳が振るわれる。自由に動き回れる機動力と、それに振り回されない体幹。並の艦娘ならば、回避することも出来ずに直撃を受け、良くても大破、悪ければ一撃で終わりの超威力。拳に抉られるのが目に見えている一撃。

 しかしそれは、()2()0()3()()()()()()()()である。ほぼ同等の威力であるならば、それをどうすればいいのかなんて一目瞭然。

 

「乱暴な拳。平和を目指してるとは思えない」

 

 真正面から来る攻撃など、避けない理由がない。まるで闘牛のようにヒラリと回避。紙一重で避けるなんてこともせず、そこは何を考えているかを理解するために大きめな回避を心がけた。

 

 そしてそれが大正解。深海伊号水姫の尻から生えた強靭な尾が、身体の回転によりすぐさま伊203に襲い掛かる。紙一重で避けていたら、それに捕えられていた。少し離れていたからこそ、捕まるようなことはない。

 代わりに、その先端に備え付けられた機銃のようなパーツを分銅のように扱って、その遠心力によって強烈な攻撃を繰り出してくる。

 

「……ふぅん」

「あたしはテメェと違って腕が3本あるようなもんだ! 手数が違うんだよ!」

「そこまでしないと私に勝てないと思ったからかな」

 

 分銅による攻撃は上に回避。しかも、ただ避けるだけでなく深海伊号水姫に近付くカタチで。

 深海伊号水姫もそれを読んでいたか、伊203が回避したかと思った瞬間に身を引き、分銅を直撃させるようにさらに身を捻る。

 

 当然ながら、伊203はそれも華麗に回避。海中での縦横無尽度は伊203に軍配が上がっており、改造により何かしらの力が付与されている深海伊号水姫を相手にしても引けを取らない。だからか、まだまだ圧倒する程の力を見せつける。

 

「涼しい顔しやがって」

「見た通りだよ。貴女は、その程度」

「はっ、これで終わると、思うなよ!」

 

 回避する伊203に向けて手を突き出す。その瞬間、その周囲に魚雷が現れた。その数5本。見ただけではただの五連装かと思えてしまうが、その魚雷自体が何処かおかしかった。骨と化した魚類に魚雷が融合しているかのようなそれは、弾頭が妙な色をしている。

 

「……それは何」

「見てわからねぇのか。魚雷だよ魚雷!」

 

 そして、手を振るうことによって魚雷を発射。5本のそれは、全て真っ直ぐ伊203に向かって猛スピードで突撃を仕掛ける。

 

 直撃が拙いのは見てわかる。そもそも魚雷に当たるわけには行かないのは、普通の潜水艦との戦いでも当たり前のこと。しかし、それ以上に何か()()()()がする雷撃だったため、これもまたより大きめな動きで回避する。

 

「はっ、だろうなぁテメェなら!」

 

 しかし、深海伊号水姫の狙いは、()()()()()()()()()()()()()()()()。魚雷同士をぶつけ合い、その謎の色を放つ弾頭を破壊すること。それが本当の目的。

 弾頭が破壊された瞬間、気持ち悪い色の粒子が周辺にばら撒かれる。海中だからか、その一帯に染み渡るように溶け込んだその粒子は、急激に反応を拡げていく。

 

「……っ」

 

 思った以上に反応が拡散する速度が早く、初見の攻撃であったため大きく避けても足先にだけそれが触れてしまった。その瞬間、伊203が顔を顰めた。

 

「テメェのヤベェところはその速さなんだろ。だったら、それを奪っちまえばいい。あたしのその『腐食弾頭』でな」

 

 その魚雷に仕込まれていたのは、触れたモノを腐食させる成分。艦娘の出来損ないの体液の成分をより高濃度にしたモノと考えてもいい。海中でも効果を発揮してしまうように調整されたそれを、深海伊号水姫は当たり前のように扱っていた。

 この深海伊号水姫の持つ力は、以前海賊船で自ら忌雷を寄生させて変化した外南洋駆逐棲姫が持っていた『装甲』の曲解。しかし、あちらは身を守るための装甲が何があっても破壊されないという能力に対し、深海伊号水姫のそれは、任意でそれが変えられる進化した力。

 あらゆるモノを腐食させる弾頭によって本来ならば魚雷そのモノが腐食してもおかしくないのだが、この能力によってカタチを維持し続けていた。そして不要になったために能力を解除し、弾頭の腐食性の体液をそこにばら撒いたというわけだ。

 

「足さえ潰しちまえば、テメェはただの潜水艦だろ。高次の力を持ったあたしが、後れを取るわけが無ぇんだよ!」

 

 そしてすかさず動き出す深海伊号水姫。再び抉るような威力を持つ拳を伊203に叩き込むために突撃。先程と違い、足が少しずつ腐食する状況になってしまった伊203は、痛みに対してはまだ耐えられるにしても、すぐさま行動に起こすことが難しかった。

 そのため、その一撃は回避するのでは無く受けることで対処することを考える。だが、伊203の持つ普通とは違う動体視力がそれを見ることが出来た。

 

 深海伊号水姫の手には、あの腐食性の体液が纏わりついていることを。

 

「……ちっ」

 

 初めて、伊203は舌打ちをした。『装甲』の曲解を自分に使い、自分は腐食されない状況を作りつつ、触れたものはその体液の効果で腐食させる。それが本当にやりたいこと。

 身体能力自体は、伊203より少し劣る。それでも相当なことではあるのだが、伊203対策としてここに来ているのだとしたならば、その身体能力ではまだ勝ちには至らない。故に、この腐食性の体液を纏わり付かせる恐ろしい戦術によって、超人に追いつこうとした。

 その結果がコレだ。ほんの一瞬だけでも伊203の思考を上回れば、そのまま自分のペースに持っていける。

 

「死ねよ魔王の手下! あたしが引導を渡してやらぁ!」

 

 受けられない。しかし回避が間に合うかわからない。なら、足を犠牲にすれば可能だと即座に判断。腐食しかけている足を使えば、返り討ちには出来る。しかし、その後の戦闘がかなり厳しくなるが。

 吹雪の選択次第になるが、今を切り抜けるならばそれしかないと考え、伊203は足による迎撃の構えを取った。

 

 が、ここで動いたのは、別の者。

 

「ストップ。聞きたいことがあるんだけど」

 

 その深海伊号水姫の拳を当たり前のように止めたのは、なんと吹雪である。深海棲艦の姿を取っている際に変化する、鰭のような右腕で、当たり前のように。

 

「なっ、テメェ……!」

「邪魔しちゃってゴメンね。でも、ちょっと聞き捨てならないことが聞こえたから、割り込ませてもらったよ」

 

 腐食性の体液に触れているのに、腐食しそうには到底思えない、強靭な腕。あれだけの勢いをつけて殴ろうとしたのにもかかわらず、何の反動もなく受け止めるだけの力。

 情報にない謎の存在が突如現れたため、深海伊号水姫は目を見開いた。

 

「今さ、フーミィちゃんのこと、魔王の手下って呼んだよね。その魔王ってさ、もしかして深雪ちゃんのこと言ってる?」

 

 素朴な疑問のように尋ねるが、ほぼ確信を持った質問でもあった。深海伊号水姫の拳を今にも握り潰しそうな力で掴み、答えを待つ。

 深海伊号水姫には、吹雪の()()がはっきり見えていた。深雪と同等、もしくはそれ以上の後光が。特異点の特徴を有する謎の存在が目の前に現れたことで、驚愕に包まれていた。

 

「ん、そういうことだよね。人の妹のことを魔王呼ばわりなんて、ちょっと許せないな」

 

 そして、深海伊号水姫の拳を当たり前のように握り潰した。曲解を完全に無視して。

 

「っぐ、あぁああっ!?」

 

 自己修復により潰された拳は元に戻っていくものの、決して傷付かないという能力を乗り越えてきたその()()()()()()に、ただただ驚愕しかない。

 

「テメェ、何者だ!」

 

 そんな物言いの深海伊号水姫に、吹雪は大きく溜息を吐いて返す。

 

 

 

 

「私は深雪ちゃんのお姉ちゃん。妹をそんな風に侮辱されたら、流石に許しておくわけにはいかないよ」

 

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