後始末屋の特異点   作:緋寺

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遠方の影

 見える範囲の廃棄物はおおよそ後始末が完了した深雪と神風のペアは、波によって散らばってしまった残骸を探すために電探を使用。現在後始末をしている海域よりも遠くへと流されてしまっており、うみどりから見ると水平線の向こう側に行ってしまうくらいの距離になっていた。

 流石にそのまま向かうのは危険であるため、神風が事前にインカムを使って状況を報告し、そこから改めて遠方へと向かうことになる。

 

「うん、やっぱりかなり遠くまで流されてるみたいね。向かわないとまずいと思うわ」

 

 通信の相手は長門、加賀、イリスの3人。現場判断が出来る長門と、現在進行形で哨戒を続けている加賀、そしてうみどりで全体を確認しているイリス。イリスの意見は伊豆提督の意見でもあるため、実質4人である。それだけの準備をしておけば、間違った意見は出ないだろう。

 

「うん、うん、了解。ひとまず私と深雪で向かう。数が多いから増援お願いね」

 

 割と端的に報告を終わらせる。それだけでもここからの方針はわかるものである。

 

「聞いての通り、まずは私達で散らばった残骸を拾いに行くわ。でも、電探でサーチしてるからわかってると思うけど、私達だけじゃ流石に集めきれないと思うのよね」

「だよな。流石に日が暮れちまうよ」

「だから、まず私達は一番遠いところへ向かう。で、そこからうみどりに戻るように拾い集めていきましょ。ケースの中にまだスペースはあるから、このまま行けばいいわね」

 

 二人が使う電探はかなりの高性能であり、妖精さんのサポートのお陰で普通では考えられないようなスペックを発揮している。それが、()()()()()()()()()というモノ。何処に何がどれだけあるかをいち早く探知し、的確にその位置までの距離を把握出来る優れ物。

 練度が低い深雪ではあるのだが、兵装の取り扱いにサポートの妖精さんが加わることで、熟練者と殆ど同じくらいに扱える。以前の海上訓練でわかっていたことだが、神風には武器だけでなく電探もかと驚くべき事実でもあった。

 

「うわ、もううみどりが見えねぇ」

「その代わりに、艦載機はちゃんと追ってきてくれてるわよ」

 

 上を指さされ、深雪は空を見上げると、そこにはしっかりと航空戦力達が飛ばしている哨戒機がいた。深雪達の動向と共に、もううみどりからも見えない場所にある状況を確認するために飛んでいる。

 見た目からして誰の哨戒機なのかはわかるようになっていた。今あるのは水上戦闘機、強風改。これを扱っているのは神威である。

 これが水上爆撃機である瑞雲ならば三隈、艦上戦闘機である烈風ならば加賀と、割とわかりやすく区分けしていた。

 

 見れば誰の視界の中にいるかがわかるというのは、遠方で誰の目にも入らない場所での作業をすることになったとしても、かなり心強かったりする。自分の近くに誰がいるかの判別も出来るし、その時に()()()()()()()()()()()も一目瞭然。

 例えば、今回の──神威の視界の中にいる──場合、それそのものが援護することは出来ずとも、補給艦という存在がバックについていてくれているのが大きい。歴戦のサポート能力を存分に使い、的確な補給により継戦能力を底上げしてくれる。

 

「何も言ってこないってことは、大分離れたところでも残骸以外は何もないってことでいいんだよな?」

「ええ。さっきの通信で、周りに何もいないことは確認済み。何かあったら、あの哨戒機が合図を出してくれるわ。今は何も無いでしょ?」

「確かに。モールス信号でもしてくれるのか」

 

 神威とは通信出来ている哨戒機だが、他の者とは意思の疎通すら難しい。そのため、上空からモールス信号を送ってある程度の合図は出来るようにしてある。

 たまに上を向く、もしくはサポートの妖精さんにそれを見ていてもらうなどしておかなければならないのは間違いない。そういうカタチでも、連携することで確実な後始末作業を続けることが出来る。

 

「何も無いなら、すぐに行って終わらせないとな」

「ええ。ぼさっとしてたらどんどん手が届かない場所に流れていっちゃうもの。さっきも言ったけど、一番遠いところから行くわよ」

「了解。後からみんなも来てくれるんだもんな。早く掬っていくぜ」

 

 それだけ確認して、すぐに行動に移した。神風の言う通り、あまり時間をかけていたら、残骸がすぐに何処かに行ってしまう。電探を使っているとはいえ、見失ったらまずい。

 深雪もその辺りはしっかり理解している。2回目とはいえ、後始末屋としての矜持はちゃんと身に付いていた。

 

 

 

 

 残骸が流されていた最も遠い場所まで来ると、うみどりどころか仲間達の姿も水平線の向こう側に消えてしまう。深雪と神風だけがポツンとそこにいると錯覚するくらいに広い。

 

「これでひとまず最後か?」

 

 掬い上げた艤装片と肉片を神風に分別してもらいながら深雪が聞く。勿論、掬い上げる時は祈りながら。

 

「そうね。電探の反応はこれより遠くには無いわよね。なら、ここが一番遠くだと思うわ」

「よし、じゃあここから戻りながら掬っていく感じになるわけだな」

「ええ、そういうこと。こうしている間にも遠くに流されてるから、急いで掬っていきましょう」

 

 一方向にだけ流れてくれればまだ良かったのだが、戦場を中心にまばらに散らばっていくので、今いる一番遠い場所はその都度更新していくようなもの。それこそ真逆の方向にも流れていくことを考えれば、一箇所に止まっているのは散乱を助長してしまうのと同義。

 別の場所には他の仲間達が向かって行ってくれているはずだが、深雪達も電探を頼りに動き回るのが、後始末を早く終わらせるためには必要な行動。

 

「何処に行けばいい?」

「ここから比較的近い場所の方がいいわね。うみどりからは遠いけど、私達からは近いわ」

 

 基本的に、優先順位はうみどりからの距離で考える。遠ければ遠いほど、後々厄介なことになるのは火を見るより明らかだ。そういうモノから片付けていかなくては、最終的には手が届かなくなる。

 

「じゃあそっちに向かって……ん?」

 

 早速その残骸の方へと向かおうとした深雪達だが、その前に肩に乗るサポートの妖精さんがペチペチと深雪の肩を叩いた。何か伝えたいことがあるようだった。

 そのままでは顔も見えないため、一時的に手のひらに移動してもらうと、上を見ろと天に向かって指を指していた。

 

「上……って、神威さんの哨戒機か?」

 

 妖精さんの指示に従い上を向く。すると、深雪達の上空を哨戒していた神威の艦載機が、チカチカと灯りを点滅させていた。まさにモールス信号を送ってきているようで、それを神風がすぐに解読する。

 

「……遠方に(エンポウニ)……所属不明の(ショゾクフメイノ)……艦影あり(カンエイアリ)……!?」

 

 哨戒機からの合図はそれだった。まだ電探でも確認出来ない位置、おそらく索敵範囲スレスレの場所にいる。少なくとも目視確認は出来ない。哨戒機が先にそれを発見することが出来たのは、深雪達とは違ってかなり高い場所にいるからだ。索敵範囲は高度でも大きく変わる。それに加えて、妖精さんは艦娘よりも目がいい。

 

「ドロップ艦……よね、おそらく。でも、イリスの目が届かない場所だから、カテゴリーがわからないわ」

 

 ドロップ艦と聞いては、深雪も黙ってはいられない。カテゴリーMだとしたら説得を、カテゴリーWだとしたら保護をしなくてはならない。どちらにしても、そのドロップ艦には接触する必要がある。

 だが、神風は深雪のその感情をいち早く察知したか、動き出す前にそれを制した。動くなと。

 

「深雪、深呼吸。現状を考えてみなさい」

 

 頭に血が上りかけていたところに、神風の指示。ここは素直に受けて、深呼吸。短絡的な考えを一度抑え込み、今考えなくてはならないことを整理する。

 

 ドロップ艦がいるのなら、どうであれ接触は必要だと考えたが、それを制されたということは、無鉄砲に近付いたらまずいということ。それは何故かと考えたら、すぐに気付くことが出来た。深雪は今、()()()()()()

 無防備のまま突っ込んで、相手がカテゴリーMで、説得に応じなかった場合、間違いなく攻撃を受ける。回避は出来るかもしれないが、最悪な場合はそのカテゴリーMはここで食い止めなくてはならない。沈めるつもりがないとしても、武装が無い状態では1発の被弾が命取りになりかねない。

 

「哨戒機に今は任せるしかないわ。あちらの動きを見て、こちらの動きも考えましょ。いざという時のために、こちらへの増援をすぐに来てもらえるようにする」

「……ああ」

 

 何も出来ないことを悔やむように拳を握り締める深雪。状況が許せば邂逅するために進んでいただろうが、何もかもが足りない。武器も、練度も。

 だから、深雪は自分を抑えてここに留まった。最古参で熟練者、そして筆頭駆逐艦である神風ですら、現状では真っ先に動くということをしていないのだから、深雪が動いても何か出来るわけがなかった。

 

 そうこうしているうちに、哨戒機からの連絡は変化する。先程までは遠くに何者かがいるというだけだったが、そこからあちらも別の行動を始める。

 

「……所属不明の艦影(ショゾクフメイノカンエイ)……その場から離脱(ソノバカラリダツ)……」

 

 現れた後、こちらに来るまでもなく何処かに行ってしまった様子。戦いにはならなかったが、説得も出来なかった。顔すら合わせることもなく、深雪のドロップ艦との邂逅は、次回へ持ち越しとなった。

 

「カテゴリーMだったとしたら、呪いで人類に牙を剥くためにこちらに突っ込んできてもおかしくないんだけど……なんだったのかしら。今ここで生まれたばかりなのか、それとも()()()()()()()があってそこに立ってたのかしら……」

 

 神風もその所属不明の艦娘についてはわからないことだらけのようだった。そもそもそれがドロップ艦なのかもわからないくらい。

 

「あちらからこちらは見えてる距離なのか?」

「私達の電探に引っかからないくらいの距離だから、多分見えていないと思うけど、わからないわね。私達には無い、もっと高性能な電探があるか、それとも最初からやたら目がいいか」

 

 まずカテゴリーCであることはあり得ないと神風は語る。この海域はもう後始末屋の作業場であり、他の鎮守府からの介入は無い。近付かれると邪魔になるという理由で、この戦場を作り出した鎮守府側もここには来ない。来てもらっても困る。

 故に、うみどりの面々以外でいるとするならば、鎮守府所属ではない何者か。後始末屋のことを()()()()()()()()輩か、予想通りのドロップ艦かのどれかになる。

 ドロップ艦であれば、カテゴリーMかカテゴリーWになるわけだが、どちらだとしてもこちらに近づくことなく離れていったことは理由が掴めないでいる。気付かなかったといえばそれまでなのだが。

 

「とにかく、これは要報告ね。最悪、探し出さなくちゃいけなくなるわ」

「……だな。もしカテゴリーMだったとしたら、ここで見逃したことで誰かに害があるかもしれないわけだし」

「ええ。ここに援軍が来たら事情を説明しましょ」

 

 

 

 

 後始末中に現れた謎の艦影。これが何者なのかは、まだわからない。

 




突如現れた何者か。カテゴリーMなのか、カテゴリーWなのか、それとも……?
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