後始末屋の特異点   作:緋寺

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神の力

 吹雪による現在叶えている願いの撤回。そして、今叶えなければならない願いへの切り替え。吹雪が手伝ってでも、ここにいる敵を生かして帰さないという願いを叶えるために、うみどりとおおわしも慌ただしくなる。

 これまでは特異点Wのことを深雪に隠しながら調査をしていたが、そんなことは言っていられないくらいの大軍勢が海域の外にいるとなれば、四の五の言っていられない。

 

「クッソー! せっかくいい具合に楽しめてたってのに、やっぱりかよ!」

 

 その報せを受けたことで、何も起きてほしくないと願っていたけど、今回は叶わなかったのかと悔しがっていた。

 そんな深雪も、今は大急ぎで艤装を実戦用に換装中。今回も海賊船との戦いの時と同様、うみどりとおおわしの艦娘総出で迎え討つ。

 

 勿論、既に伊203らが交戦中であることも伝わっていた。海防艦達は撤退に専念し、それを伊203と伊26が護りながら戦っていると。

 間違ってはいないが、要所がたった一つだけ隠されていた。そしてそれは、ここで公になる。隠してどうこう出来るわけもなく、むしろここから吹雪とも共闘なのだから、工廠に集まってくれている全員に知ってもらわねばならない。

 

「深雪ちゃんには特に心して聞いてもらいたいわ」

「なんだなんだ、あたしに何か……って特異点絡みか?」

「隠していて申し訳ないけれど、実はここは特異点W……深雪ちゃんの生まれた海なの。そこで……今、フーミィちゃん達は、()()()()()()と共闘しているところよ」

 

 流石に深雪も驚きを隠せない。ここが特異点Wであることは、正直どうでもいいくらいだ。自分が生まれた場所、ただそれだけ。しかし、何処か不思議なことが起きやすいということもあって、多少は受け入れることが出来ている。

 

「端的に伝えるわ。今までここでは、()()()()()()()()()()()()()。ここでは何も起きてほしくないっていう願いが。でも、そのせいで襲撃に来ていた敵軍が妙な足止めを受けてたのよ。そうしたら、この海域自体がおかしく思われるでしょう」

「ふむ……確かに、向かおうとしているところに向かえないというのは、それだけでも違和感がある」

 

 こちらも艤装を換装しながら、伊豆提督の言葉に長門が小さく頷いた。本来目指している場所に辿り着けないというのは、それだけでも違和感を覚えるというもの。真っ直ぐ進んでいるのに、知らず知らずのうちに曲がっているというだけでは説明がつかないレベルなのだから尚更。

 そうなったら、この海域そのものを調査しようとするだろう。特異点に味方をする海域なのだから、調査も何もなく辺り一帯を爆破するようなこともするかもしれない。いくら願いの実が簡単に壊れるようなことが無いとしても、この海がおかしくなることは間違いない。

 

「哨戒機、敵を確認したわ。……さっきも見たはずなのだけれど、初めて確認出来たわね……」

 

 ここで先んじていつでも戦えるようにしていた空母隊から報告。同じ場所を見ていたはずなのだが、前回は敵の姿すら見えなかったのに、今回はその軍勢が確認出来ている。

 それもこれも、願いが叶っていたから。何も起きないを完璧にする場合、敵からこちらが見えないようにするだけでは足りず、こちらから敵が見えないようになる必要がある。それで敵の存在に気付いたら『何か起きた』に繋がるからだ。

 

 伊203達が深海伊号水姫に気付くことが出来たのは、願いの()()たる吹雪がそこにいたから。この海域の主と言っても過言では無い吹雪には常に感知出来ているのだから、そこはそちら側に合わせた感覚になる。

 

「報告通りよ。姫がかなり多い。船渠棲姫が4体もいるのは圧巻ね」

「埋護姫と埋護冬姫が揃っています。空母隊には荷が重いですね……」

「近代化戦艦棲姫……強敵です。それに、空母もかなりの数配備されています」

 

 空母隊には特に厳しいのが防空埋護姫と防空埋護冬姫。深雪達が軍港都市で出会った冬月と涼月が根幹にある深海棲艦の強力な姫。その名の通り、防空に秀でているため、空母隊の放つ艦載機が軒並み撃墜されてしまいかねない。

 哨戒機はその姿をただ見るだけですぐさまUターンしたようなので被害は無かったが、妖精さん曰く、()()()()()()()とのこと。

 吹雪が前回の願いを撤回したことで、あちら側にもこの海域に侵入する権利が与えられたからであろう。お互いに視認が出来るようになっていた。

 

 これによって、本格的な戦闘が確実となった。何も起きないという願いは撤回され、敵を殲滅する願いが上書きされている。ある意味、()()()()()()が味方をしてくれているようなものである。

 

「防空を強めにするわ。秋月ちゃん、厳しいと思ったらすぐに離脱してちょうだい」

「了解です。無理はしません」

 

 今回の敵には、圧倒的な艦載機の数で押し潰そうと考えているかのように空母の姫が多い。最上位の空母の姫である空母棲姫IIに、新量産空母棲姫が複数体と、厄介極まりない状況。

 その上で船渠棲姫も控えているのだ。船渠が出来ることが全て出来るというのなら、前回のような開発や建造だけでなく、補給までしてしまいかねない。

 

 それに対抗出来るのは、特に防空性能の高い秋月。これまでならば圧倒されかねないが、今ならば『連射』の曲解もある。

 敵に与えられた能力とはいえ、使い方次第ではいくらでも仲間のために使える。秋月以外の3人はそれを示していたのだから、秋月も可能だ。

 

「秋月ちゃんを中心に防空部隊を出すわ。それ以外は前進。今回は一気呵成に攻め立てる。なるべくこの海域の中心には近付かせないでちょうだい」

 

 伊豆提督にしては珍しい、一気呵成な攻撃。勿論、身の危険が伴うような行動はさせないものの、今回は襲撃を受けるだけでなく、特異点Wの防衛戦も兼ねている。

 あちらは気付いていないだろうが、願いの実がある海域中央にはなるべく近付かせたくなかった。そのため、今回は攻撃を最大の防御とし、前進を優先する。

 実際、これは島での戦いの前哨戦とも見ている。あちらでも待つのでは無く攻める戦いとなるのだから、似たような戦い方は一度やっておくべきと考えた。

 

「っし、とりあえず、あたしと同じ特異点がここにまた出てきたっつーなら、協力してここを乗り越えねぇとな!」

「なのです! ここも乗り越えて、次に備えるのです!」

 

 特異点が新たに出現したというのなら、よりやる気が出るというもの。まだそれが誰かは知らないが、同じならばきっと仲良く出来ると確信を持って。

 

「船渠棲姫が4体ってところに悪意感じるなぁ。今回はあたしも出ていいんだよね」

「ええ、今回はグレカーレちゃんにもよろしくお願いするわ。あまり感情的にならないでちょうだいね」

「わーかってるって。カミカゼにも言われてるからね。興奮禁止ってさ」

 

 グレカーレも今回はやる気が他と違っていた。カテゴリーYの船渠棲姫には、自分の姉妹が使われている可能性が非常に高いからだ。4体というのも、グレカーレを含めてマエストラーレ級が4人であるところにどうしても引っかかる。

 そういうこともあり、グレカーレはこの戦いは複雑な感情を抱いていた。だが、ここまでの神風によるトレーニングで、精神的にも成長しているため、出撃禁止なんて課せられない。この戦いでも、笑いながらその剛腕を振るうことになるだろう。

 

「さぁ、準備が出来た子から、行ってちょうだい! 特異点の子とは、すぐに顔を合わせることになるわ! その子は、吹雪ちゃんよ!」

「ふ、吹雪ぃ!?」

 

 その名を聞いた時点で、深雪は目を大きく見開いて声を上げた。

 

 

 

 

 その吹雪だが、現在は深海伊号水姫と交戦中。取り巻きの潜水棲姫は既に触手で絡め取り、彼岸花の肥料に変えてしまっているため、見た目だけでは1対1になっている。

 

「ああ、そうだ。ちょっと待っててくれる? いくら鉄砲玉でも、意思があるんだから待てって言葉くらい理解出来るよね?」

「テメェ、なめてんのか!」

「うん、思いっきり。海は汚すし周りも見えてない。それが理解も出来ていない知能の低いお猿さん以下なんだもん。むしろ、敬意を払うことの方が難しいかな。でも、待てと言われたら待ってくれない?」

 

 笑顔はそのまま、眼光は鋭く。吹雪の手にかかれば潜水棲姫達のようになると本能的に理解させたことで、深海伊号水姫は一瞬だけ身が竦んだ。そして、その事実が気に入らず、歯軋りをしながら苛立ちを露わにする。

 

「ふざけんな! 何様のつもりだテメェ!」

 

 怒りに身を任せて突撃をしようとする深海伊号水姫だったが、吹雪は盛大に溜息を吐くと、その姿が突如変化した。

 

「この海域の、主様だよ」

 

 その姿は、どう見ても駆逐艦のそれではない。戦艦や空母と同等の大人の姿。元々スレンダーで整っていたスタイルは大人となって抜群に良くなり、主として相応しい魅力的な姿となっている。

 左腕の鰭はそのままではあるが、それすらも禍々しさは感じず、そういう生物であるという完成されたモノとすら感じるほどだった。

 

「だから、待てと言ったら待ってもらえるかな」

 

 そして、その手を振るった瞬間、海中であるにもかかわらず、並ではない量の艦載機──いわゆるたこ焼きと呼ばれる球体の生体兵器がその場に展開された。突撃しようが魚雷を放とうが関係ない。深海伊号水姫をその場に止めるため、正面だけで無く周囲を全て囲うように覆い尽くした。

 これによって、伊26や海防艦に八つ当たりを仕掛けることすら出来ない。身動きも取れない状態へと追いやられる。それなのに、艦載機はまるで攻撃しようともしない。なめていると言われても文句が言えないのだが、吹雪の願いは『殺す』では無く『待て』だ。故に艦載機も深海伊号水姫を()()()()ための行動しかしない。

 

「くそっ、ンだコレ! どけよ!」

「はいはい貴女じゃあ絶対突破出来ないから待てと言ったら待っててね」

 

 喧しいと思いながらも吹雪はそれを一瞥し、伊203へと近付いた。

 

「酷いことになってるね。足、治すよ」

「……ん?」

 

 腐食性の体液に触れてしまったため、伊203の足はグズグズに腐っていた。足先はもう殆どカタチを成しておらず、足首から上も黒ずみ、骨も見え始めているほどの痛々しい状態。

 すぐにでも入渠が必要なのだが、吹雪がその患部に触れたと思った瞬間、腐食の痛みがすぐさま失われ、元の綺麗な足へと修復されていった。まるで時間が巻き戻るかの如く。

 

「よし、これでいいね。修理施設みたいなことをしたんだけど、具合はどうかな」

「……大丈夫。痛くないし、ちゃんと動く」

「よかった。あまり多用出来ないけど、今回は特別。元に戻れっていう願いを叶えたよ」

 

 ニッコリ笑う吹雪は、深海棲艦の姿かもしれないが、もう女神のような存在だった。味方には慈悲を、敵には無慈悲を。一切の容赦なく分け与える神。この海域限定の、特異点としての力。

 

 

 

 

 吹雪の力は、特化した特異点の力。その場で願いを任意で叶えることが出来る、神の力。

 

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