襲撃準備を終えたうみどり勢は、次々と海へと飛び出していく。目指すは敵の大軍勢。海賊船の時と比べても、勝るとも劣らない数を用意してきているため、出せる戦力は全て投入する。今は温存なんて言っていられない。
先陣を切るのは、特異点である吹雪との合流ということもあり、同じ特異点である深雪と電。それに加えて白雲である。
理由は勿論、特型だから。深雪もそうだが、白雲だって吹雪の妹。電も遠縁になるものの特型という括りで言えば末妹になる。
「特異点の特って特型の特だっけか」
冗談交じりに呟く深雪に、電と白雲はクスリと笑う。白雲は特異点では無いのだが、こうして特異点と共にいることで本来のカテゴリーMの在り方から脱却出来た、ある意味特異点である。
それを言い出したら、ここにいる者は全て特異点扱いになりかねないが、そこはご愛嬌。3人の後ろから同じようについてきているグレカーレや時雨も、それに近しい存在と言っても過言では無くなる。
「たまたまだと思うのです。でも、深雪ちゃんの縁者だからそうなりやすいというのはあるのかもしれないのです?」
「白雲は特異点ではありませぬ。しかし、お姉様の縁者として、共に戦えるのも特異点の力の賜物であると思えば、特型の力と言っても良いのかもしれません」
随分と肯定的な考え方。深雪の発言だから全肯定しているとも取れるし、そのように夢を見ることも悪いことでは無いと肯定しているようにも取れる。特型の力と思えば、より前に向かっていけるだろうから。
とはいえ、白雲も自身が属する特型の長姉が、敬愛する深雪と同等の特異点であるとは考えたこともなかったため、こうは話しているものの、内心では動揺している。深雪のようにあからさまに表に出すことは無くても、更に特異点が増えるとは思ってもみなかった。
「まずは会ってみねぇと。でも、敵もすぐそこにいるんだよな」
「なのです。警戒は絶対なのです」
「ああ、そのための装備にもしてるんだからな」
通常よりもスロットが1つ多い深雪は、主砲2つと電探の他に魚雷、そして増設に見張員も装備することで、前で周囲を警戒しつつ、完全に前衛を担う配置。今の深雪にはこれが一番得意と言える形態であり、消し飛ばす砲撃も一番前で放つべき攻撃であるため、これはもう決められた配置。
どのような兵装でも装備可能な電は、徹底的に深雪を援護するための装備。駆逐艦では装備しにくい大型電探と、いつものマルチツールによるサポート。既にドローン状の専用艦載機を発艦させて、制空権も取りに行く準備。
そして白雲。こちらはこれまでと随分と考え方を変えた装備をしている。主砲は勿論持っているのだが、それは現在主機にマウント中。実際に使おうとしているのは、以前から多用している鎖である。
これまでとは違う少し細かい鎖に換装しており、軽量化しつつ取り回しもしやすくされている。その代わりに落ちてしまう耐久性も、ある程度は補強されているとのこと。凍結の力を浸透させるために使うため、そこに重点を置いていた。
「白雲、大丈夫か」
「無論でございます。神風様から学んだ戦術、今回で披露させていただきましょう。慢心などしませぬのでご安心を」
「おう、頼んだぜ」
落ち着きはこれまでと段違い。比較的冷静な方である白雲だが、今回は特に心が落ち着いている。これも神風からの教えに従っているため。心を落ち着かせ、より冷静沈着に周りを見ることに重きを置く。
「シラクモのこと、期待していーよ。あたしから見ても、すっごい頑張ってるって思えるからさー」
後ろをついてくるグレカーレがケラケラ笑いながら語った。白雲が神風を師事するようになり、グレカーレもそれに便乗するように鍛えてもらっているが、ここ最近はずっと一緒に成長を続けているため、誰よりも身近で見てその努力を理解している。そのおかげか、白雲もグレカーレにはかなり強く心を開いている。その成果が、次の言葉でわかる。
「
渾名で呼ぶだなんて、白雲にはなかなか見られない光景。それだけ仲良くなったという証。敬意を払いつつも、気軽に話せる仲であることを表している言葉。
白雲もグレカーレ相手には今やかなり気軽。姉やその相棒に対しては敬意を払うが、友人には見た目相応の笑みを浮かべる。話し方は変わらずとも、イントネーションはやはり軽い。
「意外だよ。白雲はもっとお堅い艦娘だと思っていたけれど」
ここまでの話を見ていた時雨が、苦笑しながら皮肉を言う。うみどりでは数少ないカテゴリーMであり、自分の同種と考えていたものの、白雲のこんな姿はあまり考えていなかったようである。
時雨は時雨で交友関係を拡げており、最初の人間全体への怒りと憎しみは鳴りを潜め、誰が見ても普通の艦娘と呼べるくらいには落ち着いているため、白雲のことを言えた話ではないのだが、それはそれのようだ。
「白雲も日々成長しているのです。それは時雨様とて同じこと。互いに『かてごりぃえむ』ではありますが、よりこの世界、我々を取り巻く環境に慣れ親しむために精進しているでしょう。時雨様もご理解しておられるのでは?」
「悔しいけどね。僕もなんだかんだでうみどりを楽しませてもらっている。少なくとも、僕の手が届く範囲の人間は、守ってやろうと思えるくらいの存在であると感じているさ」
「ならば、それで良いのでしょう。その守りたいと思える人間が、今は脅威に陥っている。ならば、我々のやるべきことはただ一つ」
「ああ、その力を振るって、彼ら彼女らを守るさ。それが艦娘というものだからね。それに、守ること以上に……」
時雨の眼光が鋭くなる。
「奴らを後悔させたいのさ」
先陣を切っているため、当然ながら敵陣に辿り着くのも一番初め。時雨の目は、既にその大軍勢の最初を捉えていた。
「僕達を歪めたのも、元はと言えば奴らのせいと言ってもいいじゃないか。なら、それを悔やんでもらわなくちゃいけない。今ここで、こうしていることを、この選択を、何もかもをね」
背部の大口径主砲を展開し、前方に構える。開幕を告げる砲撃は、時雨の一発に任せようと、深雪達も射線を空けた。
「ああ、ぶちかましてやれ。跡形もなくな!」
「当然さ。僕の持つ呪いを、その一部を教えてあげよう」
そして、容赦なく、躊躇なく撃ち放った。轟音と共に放たれた砲撃は、猛スピードで敵部隊へと飛んでいき、そして激しい爆音と共に一帯を吹き飛ばす。雑魚と言えるイロハ級はそれだけで何体も宙を舞い、木っ端微塵になっていた。
この威力に、深雪達はおろか、放った時雨自身も少し驚いていた。確かにそれくらいしてやろうと考えていたが、自分の持つ火力は自分が一番わかっている。1体2体は纏めて薙ぎ倒せるだけの火力は持っているが、これほどまでの火力は無いと自分でも理解していた。
「……ちょっと待ってほしい。何が起きた」
時雨がそんなことを言い出したために、深雪がおいおいと呆れる。しかし、今の砲撃は明らかに戦艦のそれを上回るほどの威力があった。それこそ、深海棲艦の姫級と同じくらいと言っても過言ではない。
元々時雨の大口径主砲は、1発1発が高火力であることは自他共に認めていること。今回も狼煙としては抜群の性能を誇っていることは把握済み。それなのに、予想以上の火力が出たことに驚きを隠せない。
「これは特効。私の海では、該当する艦娘には補正がかかるようになってる。深雪ちゃんがいるから、その効果は仲間全体にあるだろうね」
「……なるほど、その特効とやらが僕の火力を底上げしたのかい。なんなんだろうね特異点Wってのは」
「願いが叶う場所、特異点の力を最大限に発揮させる場所、願いの実の在処。どう考えてくれてもいいけど、とにかくこの海は貴女達に味方するよ」
簡単に言えば、特異点とその関係者には強特効が乗る。数倍とまでは言わずとも、目に見えてわかる強化として。
「ところで、だ」
自分の火力の上がり方に納得したところで、小さく溜息を吐き、その
「君は何だい?」
そして、まず問うた。そこにいる吹雪に対して。
あまりにも自然に話に加わるため、突然人数が増えていてもすぐにわからなかったくらいである。しかも、今の吹雪は最大限の力を発揮するために深海棲艦の姿な上、成長して大人の姿にもなっているため、ぱっと見で誰かわかりづらかった程。
しかし、姉妹にはそれが誰だかすぐにわかる。深雪は目を見開き、そして小さく笑みを溢す。
「吹雪……なんつーか、えらく育った、な?」
「初めましてじゃないけど初めまして。お姉ちゃんだよ」
満面の笑みで姿を艦娘に戻した。こうなると知っている姿というか馴染みのある姿と言える。姉であることを見せつけるためか、本来の吹雪という個体よりもスタイルが良いのはご愛嬌。自分の身体を自由自在に変化させることが出来るのも、特異点Wの代弁者たる特異点の力。
「深雪ちゃん、よくここまで頑張りました。そしてこれからも頑張るんだよね?」
「……ああ、当然だ。この世界を綺麗にするため、後始末屋として、あいつらはどうにかしないといけねぇ」
感動の邂逅はほどほどに、戦いに向けての意気込みを問う吹雪に対し、深雪はその素直な気持ちを口にした。
出洲一派との戦いは、過去の戦いの後始末。極少数の人間のやらかしにより起きてしまった世界の歪みを正すため。
起きてしまったことは無かったことに出来ないが、無かったくらいに片付けることは可能だ。そのためには、その元凶と、それが生み出したモノは全て消し飛ばす。
「うん、わかった。なら、私も手伝う。世界のため……なんて大それたことは言わないでおこう。私の大好きな妹のために、その願いを叶えるよ」
この海域全体がうみどりを、深雪を味方する。それは、特異点そのものの力をも躍動させ、まだまだ秘めている力が表に出てこようとしてくる感覚を齎した。
この戦いで、深雪達は更なる力を得ることにもなるだろう。それだけこの場所は特別な場所。文字通り、原点に帰ってきたのだから。