吹雪と合流したことで、海上艦による大軍勢との戦いが始まる。その1発目となる時雨の大口径主砲による一撃が、本人の思っていた以上の火力を発揮して敵部隊の先頭を木っ端微塵にすることで、開戦の合図となった。
凶悪な一撃を受けたことで、深海棲艦と言えど混乱が若干見える。しかし、そこにいるのは多くのカテゴリーY。人間としての感情がその混乱を引き起こしているだけであり、その支配下に置かれているカテゴリーR達は、感情なども失われているため、爆散しても動揺も何も無い。
そういうところも、過去に戦った船渠棲姫を思い出させる。自ら建造で生み出した深海棲艦を、命を持っているにもかかわらず道具として使い捨てることしか考えていない。おそらくここにいる4体の船渠棲姫も、その時のそれと同じであろう。
「あっはは、驚いてる驚いてる。これで混乱して全力出せなくなってくれればいいんだけどねぇ」
自分の姉妹が使われていることがわかっていても、冷静に努めるために、少々軽薄な笑いで自分を誤魔化すグレカーレ。それは誰もが理解しているグレカーレの真面目な部分。自分の感情で、他の者達を乱すことはしないと、いつも通りを演じている。
前回はそれも出来なかった。だから、伊豆提督に出撃を禁じられた。だが今は違う。感情の昂りを抑えることが出来るのなら、無茶無謀な戦闘なんて絶対にしない。仲間達と共に勝利を掴み取るため、自分本位な行動もすることは無い。
「あいつら何してくるかわからねぇ。それに、忌雷だってまた仕込んでくるかもしれねぇ。慎重に行くぜ」
「なのです。そのための見張員さんもいるのです!」
深雪が装備している見張員と同様、電のマルチツールにも見張員のシステムは組み込まれている。たった1つで全ての補助が出来る、電にしか装備出来ない専用兵装は、それがあるだけで敵の手口を全て挫くために動けるようになる。
勿論それで慢心なんてしない。それ以上のことをやってくるのが奴らである。そのため、誰もが勢い任せなんて行動は慎む。敵が勢いよく近付いてこようとも、そこは待ちの構えだって躊躇なく選択する。慎重に、確実に、この戦いを勝利で終わらせるため。求めるのは、誰も傷付くことのない完全勝利だ。
時雨の一撃は、まだそこに追いついていない者達にもよくわかる程の轟音だった。その後の爆発もこれまでの比ではない。
故に、ここから戦闘が始まるのだと気を引き締めると同時に、準備をしていた次の攻撃が放たれることになる。
「空母隊、準備はいいわね」
「大丈夫です。いつでも行けます」
「こちらも問題ありません」
「そう、なら第一次攻撃隊、発艦。手近な奴から始末なさい」
加賀率いる空母隊が、なるべく数を減らせるようにと一斉に攻撃機を発艦する。制空権争いのための艦戦も、最初から出し惜しみなどしない。共に立つ翔鶴と祥鳳は、弓に手を携えてその時を待っていた。逸る気持ちも抑えつけながら。
今回の戦いは、空母隊も非常に重要な立ち位置にいる。敵には空母棲姫II、そして複数体の新量産空母棲姫が待ち構えているのだ。そちらとの制空権争いは、すでに熾烈を極めることが約束されてしまっているようなもの。
「我々だけでは押し込めないでしょう。ですから、よろしく頼むわね、防空隊」
加賀の後押しによって、前に歩み出るのが防空隊。秋月を筆頭とした対空砲火に重点を置いた者達が、航空戦をサポートするために上空を見定める。
敵の空母隊は最初から異常なスペックを持っている姫。空母艦娘が可能な搭載数を優に超える艦載機を発艦するだけならまだいい。それが同じスペックで数多く配備されていることに問題がある。
空母棲姫IIは基本スペックが圧倒的に高い空母ではあるが、それ1体であればまだマシ。耐久力も高いものの、今のうみどりの面々の実力ならば、圧倒までは行かずとも、最初から最後まで優位性を持ったまま戦えるだろう。問題は新量産空母棲姫の方である。
「現在、新量産空母棲姫は4体。イリスさん、カテゴリーはわかりますか」
秋月が通信機を使いながら現状の確認。このカテゴリー次第ではその戦い方が変わりかねない。
『空母棲姫IIはカテゴリーYよ。それに、新量産空母棲姫は1体だけがカテゴリーYでそれ以外はカテゴリーRよ。こちらでも確認している最中だけれど、逐一報告させてもらうわ』
イリスは現在、うみどりから敵艦隊を確認中。あちらに埋護姉妹がいるために艦載機からの感じは怖いところではあるが、神威の水戦を利用して上空から観察し、カテゴリー分けをしながら出せそうな指示を出すことにしている。
ちなみにその神威はいつでも補給艦としての仕事が出来るように工廠待機。これだけの大海戦、まず弾切れを起こすだろう。それをいち早く解消するためには、神威が戦場を補給のために駆け回ることになるだろう。
今回は本当に総力戦。艦娘だけが戦うのでは無く、うみどりとおおわしのスタッフ一同も全員が戦場に立つつもりで挑んでいる。うみどりのカテゴリーYである平瀬達も出来ることをと、工廠で走り回っているくらいである。ただ待っているだけでは落ち着かないと、何かしら仕事を貰っているほど。
『主任にも見てもらってるわ。何かしらの力を持っているなら、ここからすぐに指示をするから』
「了解。カテゴリーYの新量産空母棲姫の能力は、何かわかりますか」
『主任曰く……『量産』みたいよ』
その通信を聞いて、息を呑む秋月。同じように通信を聞いている者達も、その言葉はトラウマを蘇らせるモノ。
その中でも特に表情を変えたのは、現在秋月のコピーとなり、連射可能な防空駆逐艦となっているフレッチャーである。『量産』の曲解なんて過去の悪行の一部始終を思い出させるモノ。米駆逐棲姫の記憶が嫌というほど刺激され、小さく震えまで出てきてしまう。
『どういうカタチの量産かはわからないけれど、気をつけてちょうだい。近付くのは御法度。それ以外でも何をしてくるかわからないわ』
イリスは冷静に指示を飛ばしているものの、そのトラウマが全員にあることは当然理解している。だからといって、イリス達までもが動揺や混乱をしている姿を見せたら、艦娘達だって不安になる。
通信しているイリスだけでなく、裏側では伊豆提督も『量産』の曲解持ちが現れたことで顔を顰めているくらいだ。通信だけのおかげで表情が悟られないのは良かったと少しだけ安心したほど。
「私達の仕事は、奴らの放つ艦載機を全て撃ち墜とすこと。それは変わりありません。防空隊の皆さん、行きましょう」
秋月も極めて冷静に言葉を紡ぐ。防空隊の仕事は、その異常な量の敵空母から放たれる、これまた異常な量の艦載機を全て処理すること。なるべくならば、残骸すらも海に落としたくない。
そうするためには、高い精度と威力、そして仲間同士の冷静な連携が何よりも必要である。撃ち貫いた艦載機を木っ端微塵にするためにもう一撃対空砲火を直撃させるくらいでないと、それは叶わない。
「救護班は今回、臨時の防空隊所属だよ! 気合入れて、撃ち墜として!」
秋月に加えて、酒匂も鼓舞するように叫ぶ。今回、救護班は救護より先に対空砲火に専念する方向で出撃している。勿論怪我人が出ればすぐさまそちらに向かうが、そうでない限りは人海戦術の防空の一員として戦うことになった。
酒匂、睦月、子日の3人は、秋月と同様に対空砲を装備して、来るであろう艦載機に対して身構える。大暴れとは行かずとも、この戦いではこれが一番重要になりかねないのだから、これもまたやる気に繋がるというもの。
「スキャンプちゃん、海中から敵情視察、行ってもらっていいかな」
「Okay. ヤバそうなのがいたら、あたいがぶち抜いてきてやる。量産なんて気分の悪い奴は、容赦なく始末してやらぁ」
そして、最後の救護班であるスキャンプは、流石に対空砲火は出来ないため、潜水艦らしく海中から新量産空母棲姫を威嚇しに向かった。もしかしたら対潜も出来るように改造されている可能性があるものの、基本的に空母は対潜は出来ない。スキャンプにとっては
とはいえ、油断などしない。そのせいで酒匂に迷惑をかけるのが一番気分が悪いからである。あちらが何をやってくるかわからない以上、安全圏の潜水艦であっても警戒は怠らない。
量産に対して怒りを持つのはスキャンプも例外では無い。それを見たら怒りで頭に血が昇る可能性も無くはない。だが、今は酒匂の見守る戦場だ。その視線があるだけでも冷静になれる。
「さぁ、来ましたよ。あちらの方が数が多い、こちらの空母隊だけでは全て捌き切るのは不可能です。お仕事ですよ!」
そうこうしている間に、艦載機が群れを成してやってくる。異常な量のそれは、一部は加賀達空母隊の艦載機とやり合ってはいるものの、すぐさまそこから逸れてうみどりを破壊しようと急襲してきた。
絨毯爆撃も可能な程の数ではあるが、艦載機を目にした瞬間から、秋月は真剣そのもの。
「フレッチャーさん、気持ちはわかります。ですが」
「わかっています、御姉様。今の私は秋月型、量産と聞いて苦しいですが、仕事をこなさねばもっと苦しいことになるのは目に見えています」
小さく首を振って苦しさを振り払い、フレッチャーも真剣な眼差しでやってくる艦載機を睨みつけた。
ここまで何のために訓練を続けてきたか。自分を許してくれた仲間達のため、全身全霊をかけてうみどりを守るため。練度はまだまだ劣るかもしれないが、その力が役に立たないわけがない。
「せっかくの『連射』です。ありったけ、やりたい放題やらせてもらいましょう。フレッチャーさんも」
「勿論です。使えるモノは使わせていただきます」
秋月とフレッチャーが皮切りとなり、対空砲火開始。人数が人数だけに、その一斉掃射は、空を覆うのでは無いかと思われた大量の艦載機の群れを引き裂くように破壊していく。
ここで『連射』の曲解が真価を発揮する。撃てども撃てども弾切れをすることが無い上に、連射という事象を曲解している能力であるが故に、
フレッチャーの得ている能力はそれの劣化ではあるが、止まることなく撃ち続けることが可能。代わりに砲身は少しずつでも焼きついてくるため、タイミングを合わせて交換に入る。秋月型の両用砲は、砲身が交換出来るように設計されているため、合間を見ては手早く交換し、連射を続けた。
「流石にゃしぃ。睦月達も負けていられないぞよ!」
「だね! 子日対空アタックだーっ!」
それに感化され、仲間達もガンガンと対空砲火を続ける。フレッチャーに対しての感情は、もう負のモノはない。それを支えるために戦うことも躊躇が無い。
そして、この防空隊にも海域特効は勿論効果がある。一撃一撃が重く、艦載機を確実に粉砕していった。
この健闘が、戦いを優位に持っていくだろう。まだ始まったばかりではあるが、ここで簡単に折れるわけがない。