後始末屋の特異点   作:緋寺

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最前線

 防空戦が始まる中、先陣を切った深雪達は吹雪と共に接敵。時雨の一撃で大きく吹き飛ばされていたものの、それは結果的に一部でしかなく、まだまだ大量の敵がそこに存在していることには変わりない。

 本当なら綺麗なはずの海域が、爆散したイロハ級が散らばり、穢れが拡がっていく。戦いの結果がこれを呼び起こしているとはいえ、海を綺麗にするために活動している後始末屋が、その海を汚しているという事実は少し悔しい。

 

「先制攻撃だ。もう話し合いもクソも無ぇ」

 

 本来ならば話し合いという手段を取るだろう。これがただの深海棲艦の軍勢ならば。しかし、相手にカテゴリーYが含まれていることは一目瞭然。その時点で対話なんて不可能であり、一方的に深雪のことを魔王と罵り、仲間達にも危害を加えることは目に見えている。

 そもそも時雨に一発撃ってもらっているのだ。躊躇なんて何処にもない。譲歩しようとすれば、それにつけ込んで卑怯な真似もしてくるような輩なのだから、何一つとして躊躇う要素なんて無い。

 

「電、悪い。今回ばっかりは、優しくすることなんて出来ねぇよ」

「わかっているのです。電も、もう覚悟は決まっているのです」

 

 優しい電ですら、出洲一派のやり方にはもう愛想が尽きているようなもの。今回のコレも、もう妥協なんて出来ないところにまで来てしまっているのだから、話し合いなんてせずに攻撃するのも仕方ないと感じていた。

 電自身は、戦闘するための装備は主砲1つ。魚雷も爆雷も持たずに、マルチツールと大型電探でサポーターとしての戦闘をメインに行動する。主砲もあくまで護身用みたいなものだ。

 

「お姉様、白雲は()()も考えております。勿論、戦いを邪魔するようなことは致しません。隙を見て学んだことをやりたいと思っております」

「ああ、大丈夫だ。あたしも邪魔しないように気をつけるからよ。好きにやっちまえ」

「かしこまりました。神風様の教えを、今」

 

 まずはマウントしていた主砲を手にし、敵の隙を作る方向へ。今いきなり接近するために近付いても、流石に他の者の邪魔にしかならない。隙を見て、行けると思った時にのみ、学んだ近接戦闘を実践する。

 主砲を構える代わりに、細かくなった鎖は片腕に巻きつけるようにして、いつでも使えるようにしていた。この辺りも神風との訓練で編み出しているのだろう。

 深雪の知らない戦い方を見せたため、へぇと感心していた。独り立ちして、より強く成長している様は、喜ばしい限りである。

 

「次弾装填。もう1発だ」

 

 ここで時雨が背部大口径主砲をもう一度構え、敵陣に向ける。一度放たれたことで敵戦列を大きくぶち壊したその一撃が再度放たれるとなれば、敵主力にも致命傷を与えることが出来るかもしれない。少なくとも、これを耐えられるのなら()()()()()()()()()()()()と疑うべきでもあるため、そういうのは早めに知っておきたい。

 

「吹き飛べ……っ!」

 

 そして放たれる一撃は、1発で瓦解しかけた敵戦列をもう一度吹き飛ばす。それはもう薙ぎ倒すような一撃であり、またもやイロハ級が何体も宙を舞っていた。

 

 だが、ここで電が気付く。

 

「姫は無傷なのです。イロハ級を盾に使ったような……」

 

 奥に陣取っている4体の船渠棲姫はともかく、前衛で指揮をする近代化戦艦棲姫も、防空のために構えている埋護姉妹も、敵空母隊すらも、この一撃で無傷。全てが周りを取り巻くイロハ級が受け、その命を犠牲に姫を守った。いや、()()()()

 意思のないイロハ級を意のままに操るのは船渠棲姫の十八番(おはこ)。前回もそうやって戦艦棲姫(セレス)を操って自分を守らせていたし、生み出した命のことをなんとも思っていないため壁にもする。その上、散った命を使って再建造を行い、戦力を減らさないまでしてくる。

 

「前と変わらねぇってことかよ。腹立つな」

「だったら、その元凶をぶっ飛ばしちゃえばいいってことでしょ」

 

 そう言いながら剛腕を前に突き出すグレカーレ。その両手の全ての指は魚雷発射管となっており、向けた方向に五連装魚雷をお見舞いすることが出来る。

 冷静に努めてはいるが、やはり船渠棲姫がそこにいるというだけでも苛立ちには繋がっており、確実に始末したいという気持ちがしっかり見えていた。だが、気が逸っているわけでもない。順番に、斃せるところからやっていく気持ちもちゃんとある。

 自分が前のめりになりすぎることで仲間に迷惑をかけるなんて絶対にしないのだ。それがグレカーレの良いところ。

 

「一度魚雷で土手っ腹ぶち抜いてやんのさ。ミユキ、一緒に!」

「おうよ。あたしの砲撃も、時雨と似たようなことは出来らぁ!」

 

 グレカーレの雷撃に合わせ、深雪も2つの主砲による砲撃を放つ。当然ながらそれは毎度お馴染み消し飛ばす砲撃。何がどのようにあろうと、その空間を削り取るかの如く消滅させる超火力の一撃。

 

「行けぇ!」

「いっけーっ!」

 

 放たれた2人のそれは、時雨が吹き飛ばした戦列に飛び込んでいき、先頭から木っ端微塵にしていく。深雪の砲撃を喰らったイロハ級は、残骸すら残らない。この世からその痕跡を消す。

 船渠棲姫の能力は、残骸から新たな深海棲艦を建造する能力だ。破壊したところで残骸があれば次のイロハ級が生み出されてしまう。そこから考えるなら、深雪のこの砲撃が最も効果的と言っても過言ではない。

 

「電様、我々も援護いたしましょう」

「なのです! 前に出ようとする敵を押し込むのです」

「かしこまりました。まだ白雲の得た力は使うべきではありませぬ。使いどころを見極めて」

 

 それでも砲撃を回避して前進しようとするモノは現れる。目の前全てを吹き飛ばすような砲撃は不可能なのだから、隙間はどうしても出来てしまう。

 それを塞ぐのが電と白雲の仕事だ。2人の砲撃も海域特効によって普通よりは火力が上がっており、一撃入れば致命傷には出来る。

 優しい電であっても、今回の件で救うという選択肢を排除してしまっているのだから、まるで容赦ない砲撃が次々と放たれた。

 

「アレが深雪ちゃんのことを魔王だなんて言い出した連中かな。ただ生きてるだけで罪とかいう根拠のないことばかり言ってたお猿さん、あんなにいるんだ」

 

 深雪達が猛攻を始めたことで、それを見ていた吹雪はなるほどと納得。これだけの軍勢を嗾けてでも特異点を排除したいと思っている連中は、特異点の敵と判断しても良いだろう。

 ならば、吹雪にとっても敵。可愛い可愛い妹を侮辱するならば、それ相応の報いを受けてもらわねばならない。

 

「それじゃあ、私もお手伝いしよう。なるべく残骸は残さない方がいいかな。まぁ残っても海底に沈めてくれればこっちでなんとかするよ。後始末屋の()()()になっちゃうけど、この海は綺麗にしておきたいからね」

 

 そう話すと、吹雪は再び大人の姿に成長、そして深海棲艦の姿を取る。この姿で無ければ艦載機が使えないようで、また、この姿となると燃費が悪くなるため、極力姿の維持はしたくないようである。

 代わりに、この姿となれば、短い間であってもエース級の力を得ることになる。数の暴力には厳しいものの、ある程度なら対処が可能。そして、今は1人で戦っているわけではない。

 吹雪にとっては初陣に近いものではあるが、その有り余る力を仲間と共に振るうのならば何も問題はなかった。いざと言う時は、深雪がストッパーとなるだけである。

 

「前から終わらせていけばいいよね?」

「お、おう、頼むぜ吹雪!」

「お姉ちゃんに任せなさい。妹を侮辱するような連中は、私がやっつけちゃうんだから」

 

 言うが早いか、吹雪の前には数十機の艦載機が発生し、一気に敵戦列に向けて飛び立った。射撃と爆撃を織り交ぜながら、そこにいる敵という敵に対して攻撃を繰り出すそれは、一撃一撃が非常に重く、艦載機1機だけでも艦娘1人分はあるのではと思えるほどの強さ。飛んでいる分、それ以上の力を持っているのではと錯覚してしまうほど。

 砲撃や雷撃が届かないところを的確に狙うおかげで、壁を作るだけでは勝てないと証明させられる。命を無駄にしても、このままでは勝てないとすぐに理解させられる。

 

 故に、ここから動き出すのは敵の指揮者。近代化戦艦棲姫。

 

「マジでウザいね、お前達はさぁ」

 

 悠々と、イロハ級を壁にしてきた者が前に進み出た。自分の力に自信を持っていそうな表情。ここまでされてもまだ自分の勝利を疑っていない態度で。

 

「だから、私がここで終わりにしてやるよぉ!」

 

 そして、跨っている艤装の口が開き、そこから大口径の主砲が現れる。時雨のそれとは比べ物にならない上に、本来が戦艦なのだから火力も間違いない。

 さらに、艤装のそこら中に備え付けられている砲も全てが深雪に向けられた。全ての砲撃を集約すると目の前で宣言したようなもの。

 

「てぇーっ!」

 

 叫びと共に轟音。その砲撃は空気を揺らし、照準は深雪に集中しているにもかかわらず、広範囲を焼き払うかの如く放たれた。絶対に回避させないという殺意がどこまでも隠しきれていない一撃。ここに何かしらの能力が乗っているかはわからない。単純な火力。

 

「当たらねぇ!」

 

 だが深雪もここで思い切った策に打って出る。左手を強く払った瞬間、その手首から煙幕が発生。それは、質量を抱え込むことが出来る壁となる煙。秋月との戦いでも見せた、身を守る煙幕。

 煙如きでこの砲撃を抑え込むことが出来るかはわからなかったが、深雪の咄嗟の行動は、特異点Wであることで真価を発揮する。

 

「なっ……」

 

 煙幕によってその砲撃は僅かにだが上方向に逸れた。壁に出来ずとも、方向さえ変われば誰にも当たらない。横だと仲間に当たってしまうが、上なら誰にも迷惑にならない。

 その煙幕に乗った願いは、誰にも害がないこと。優しい願いに対しては、願いの実は間違いなく叶える。

 

 しかし、その砲撃の衝撃まで逃すことは出来ず、その場から吹っ飛ばされる。立っていられなくなった深雪はどうしても転んでしまった。それに、一回だけで煙幕は全て霧散してしまっている。

 願いは叶えたがそれは結局は煙である。強い風があれば消えてしまうのが常。

 

「耐えたぞおらぁ!」

 

 深雪の咆哮に応えるように、グレカーレと時雨が近代化戦艦棲姫に砲撃と雷撃を放った。直撃すれば致命傷は免れないそれを、近代化戦艦棲姫は──

 

「はっ、甘い!」

 

 受けることなく、綺麗に弾き飛ばした。ダメージは必要最小限。しかし、それも自己修復で即座に回復。

 

 

 

 

 近代化戦艦棲姫の持つ力、『ダメコン』の曲解。ダメージをコントロールし、最小限に抑え込んでしまう。自己修復と組み合わせると、無敵とすら思えてしまう力。

 

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