先陣を切った深雪達の前に現れた近代化戦艦棲姫。時雨の大口径主砲による砲撃と、グレカーレの剛腕から放たれた魚雷を喰らっても、受けてはおらずに弾き飛ばしてダメージを最小限に抑えていた。その上、自己修復も健在。
つまり、どのような攻撃でも擦り傷程度にダメージ軽減され、それが即座に修復されることで無傷を維持するダメージコントロールを、
これが近代化戦艦棲姫の能力、『ダメコン』の曲解。あらゆるダメージが最小限になり、自己修復によって瞬時に無傷まで回復してしまう、無敵とすら思えてしまう力。
真正面からの攻撃はほぼ効かないと見てもいいだろう。何せ、時雨の大口径主砲での一撃ですら弾き飛ばしてしまったのだから。消し飛ばすというベクトルの違う攻撃を省けば、現時点で火力がNo.1となるのはおそらく時雨だ。それがダメとなると、今度はどうしても搦手が必要になる。
「まずはあたしがやってやらぁ!」
ただの砲撃以外が効くかどうかは確認が必要。そのため、深雪の消し飛ばす砲撃を咄嗟に向けて放つ。やっていることは砲撃かもしれないが、起きる事象は砲撃とは到底思えない常識外の攻撃。
「特異点の攻撃は聞いてるんだ! させない!」
対する近代化戦艦棲姫、大事を取ったか回避行動。残骸すら残さない砲撃というのは、ダメージコントロールの範疇に含まれるかどうかは、近代化戦艦棲姫自体が完全に把握しきれていないように思われる。
しかし、その分あちらも若干慎重になっている。それが一番怖いところであり、慢心に慢心を重ねたようなコレまでの敵とは違う厄介さを併せ持っていた。
「狙いがわかりづらいね。ひとまずやれることはやってみようか!」
その回避先を狙って、時雨が大口径主砲を放つ。狙いは近代化戦艦棲姫の本体。直撃さえすれば胴体は木っ端微塵に吹き飛ぶレベル。
回避直後ではあるが、そのまま動かれたら照準はブレる。しかし、一度弾くことが出来ている時雨の砲撃に対して、どういう行動をしてくるかで近代化戦艦棲姫の傾向を知る。
「それは効かない!」
ここで取られたのは回避ではなかった。真正面から構え、直撃寸前に腕を振るう。それだけでダメコンが発動し、ダメージはほとんど無いくらいまでに軽減。擦り傷は自己修復によって即座に完治。攻撃を受ける前と全く変わらない姿で時雨の砲撃を切り抜ける。
「お返しだ。特異点には効かなかったかもしれないが、数を減らしておかないと、なぁ!」
避けなくてもいいということは、その間に攻撃の準備が出来るということに繋がる。艤装に備わった全砲門が時雨に照準を合わせた。大型な艤装ではあるが、動きは鈍重ではなく、むしろ機敏。次弾装填もかなりの速さであり、連射までは行かずともかなり早い段階で牽制もかねた砲撃を放てる。
これまでの敵とはそういうところも少々違う。表情と態度は自信満々で慢心に溢れていそうに見えるが、中身は特異点を始末するために計算を重ねている。見かけで判断してはいけない好例。
「時雨!」
その砲撃は再び深雪が煙幕を撒くことで無理矢理逸らした。一度使うだけで霧散してしまうものの、確実にその命を守るために効果を発揮している。
「厄介だね特異点。やっぱりお前を最初に終わらせないとダメだ」
砲撃後の隙すら見えず、もう次弾装填が完了してしまっていた。そのため、次の照準は既に深雪に向けて定められていた。
「クソっ、もう一度だ!」
対する深雪もすぐさま次の煙幕を発生させる。身を守るため、仲間を守るための煙幕は、その思いと願いに応じて一気に拡がる。深雪と近代化戦艦棲姫の間に噴出されたそれは、砲撃だけでなく視界も邪魔をした。
これまでの敵ならば、煙幕など関係なく砲撃を放ってきただろう。しかし、近代化戦艦棲姫は一味違った。砲撃が逸らされることを一度ならず見せられているので、ここで無駄に砲撃をすることは無かった。
「なら、私自身も逸らすのか?」
そう、突撃である。跨がっている艤装そのモノを疾らせ、凶悪な質量兵器として超接近戦を挑もうとしてきたのだ。艤装にはグレカーレのそれよりも大きな剛腕も備え付けられているため、それで殴る掴むも可能。そのレンジに入った時点で致命的なダメージを簡単に与えることが出来る。
砲撃も健在であり、隙さえ見せればゼロ距離でも放ってくるだろう。もし自分にもダメージが入ってしまったとしても、ダメコンと自己修復で自分だけ無かったことに出来てしまうのだから。
「んだと……っ」
深雪の今の煙幕は、あくまでも
かなりの速さで突撃してきた近代化戦艦棲姫は、あっという間に深雪に手が届く程の間合いに距離を詰めてきた。本来は低速の戦艦であるにもかかわらず、速力が異常に強化されている。
「深雪ちゃん!?」
それを止めようとしたのは電だ。たった1つの並の主砲だったとしても、その狙いが的確ならば足止めも出来るかもしれないと考えて。
その狙いは、近代化戦艦棲姫の顔面、特に目を狙った一撃。目を潰すことでその攻撃を回避する余裕も出来るはずだし、自己修復によってすぐに治ってしまったとしても、その時間だけは稼ぐことが出来る。その間に深雪にその場から離れてもらえば何とか。
「お前も特異点なのか。特異点は1人じゃないのか?」
しかし、近代化戦艦棲姫のダメコンの効果が普通ではないことをここで嫌でも知ることになる。
電の狙いは完璧だった。驚きながらも照準はピッタリ、近代化戦艦棲姫の頭に直撃コース。並の深海棲艦なら回避することも出来ずに頭が吹き飛び、そのまま絶命してもおかしくない一撃だった。
しかし、近代化戦艦棲姫はその砲撃を避けることもなく、頭を振ることで、まるでヘディングを決めるかのように砲撃を弾き飛ばしてしまった。それによってコメカミに傷がつき、髪も一部焦げていたようだが、それもまた自己修復によって瞬時に完治。
ほんの数瞬動きを止めることが出来たが、深雪への接近は許してしまうことに。
「なんつー硬さだよ!」
だが深雪も黙っちゃいない。その場からバックで離れようとしつつ、2つの主砲を同時に構えて全力で放つ。当然ながら2つとも消し飛ばす砲撃。狙いは頭と胴。どちらか、もしくはどちらも当たってしまえば、命を奪い取ることが出来る
ほぼゼロ距離にまで近付かれてしまったからこそ、ここで撃つしかなくなった。あちらもその砲撃は回避を選択したくらいなのだから、効果があるかもしれない。これで終わってくれたら御の字。
「っさせるかぁ!」
だが、事態は最悪な方向へ。近代化戦艦棲姫は、深雪の消し飛ばす砲撃すら強引に打ち払ってしまった。よりによって、時雨の砲撃と同様に
流石に威力という範疇を超えた砲撃であるため、近代化戦艦棲姫の腕は焼け焦げたように黒ずんでいたが、恐ろしいことに失われるどころか折れてもいない。そして、それは自己修復によってすぐさま完治。
「なんだ、特異点のそれも、私には効かなかったのか。良いことを知れたなぁ!」
バックステップで間合いを取っていた深雪にさらに近付く近代化戦艦棲姫。一度離れられたとしても、その速さは尋常ではなく、すぐにまた艤装の剛腕が届くほどの距離へ。
「深雪!」
「ミユキ!」
それを止めようと時雨とグレカーレが砲撃を放つのだが、ダメコンが効き続けているためか、もう振り払うようなことすらしなくなった。艤装に当たっても少し傷がつく程度であり、それもまたすぐに修復される。
時雨の大火力であっても、グレカーレの深海の力でも、まるで止まる気配がない。異常なダメコンの凶悪さを嫌というほど味わうことになってしまった。
それを理解した近代化戦艦棲姫は、もう他の者に目も向けていない。まずは深雪──最も止めねばならない特異点を集中的に狙うことで、確実に終わらせる方向性に舵を切った。
深雪さえどうにかしてしまえば後はまだマシ。増えていた特異点を優先するかというくらい。
それをどうにか出来るものは、この戦場にいるのか。
「白雲ちゃん、願って」
「勿論。白雲は、お姉様を救うためにこの地に立っているのです。白雲の願いは、お姉様の平穏無事。あのような輩に、敗北を喫するわけには、いかないのです!」
特異点Wの代弁者、第三の特異点であり深雪の姉である吹雪が、その力を発揮する。
自分の力ではあの近代化戦艦棲姫は止められない。
故にそれが可能な者──白雲の願いを叶えることにした。その願いは、叶えるに値する優しい願い。『姉を救いたい』という漠然としたモノ。
だが、それが良かった。救うにしても何をするかが、白雲の中にはヴィジョンとして浮かんでいた。こうすれば救えると。しかし、その力が白雲には足りない。だからこそ、願う。今この場では、その願い──姉を救うほどの出力の取得──が叶うのだから。
「彼奴を、凍てつかせる!」
虎の子の鎖を解き放ち、近代化戦艦棲姫の足元へと投擲。それが海面へと触れた瞬間、これまでの白雲では不可能だった程の大規模な凍結が発生。近代化戦艦棲姫はその場から動くことが出来なくなるくらいの凍結に見舞われる。
コレにより接近が出来なくなり、拳を振るっても深雪には届かなくなった。
「なっ!?」
「お姉様! お逃げください!」
「白雲……! ありがとな!」
この隙を逃さず、深雪はより間合いを取る。安全圏にまで下がることが出来れば、ひとまずは安心出来る。
しかし、脅威はまだ終わったわけではない。今はまだ動きを止めただけなのだから。