後始末屋の特異点   作:緋寺

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正しき対話

 深雪の消し飛ばす砲撃を擦り傷にまで抑え込んでしまう『ダメコン』の曲解を持つ近代化戦艦棲姫に苦戦する一同だが、ここで搦手が炸裂する。深雪を始末しようと接近した近代化戦艦棲姫を、願いの力により出力が上昇した白雲の凍結により、ガッチリと凍りついて動きを封じたのだ。

 深雪はバックステップで間合いを取るが、この状態でもまだ油断はならない。今でこそ動けなくはなっているが、艤装の動きを凍結によって固定したのと、そこに跨る近代化戦艦棲姫本体をそこから離れなくしただけ。凍結の瞬間に咄嗟に手だけは離したようで、上半身はそのまま健在。艤装そのものが全て凍結しているとしても、まだ侮れない。

 

「このっ、やってくれる……っ」

 

 凍結により動けなくなった近代化戦艦棲姫が忌々しげに白雲を睨み付けるが、とうの白雲は近代化戦艦棲姫など見向きもせず、深雪の無事を知り安堵していた。

 あのままでは艤装の餌食になっていた。直接殴られたら致命傷は免れることは出来ない。煙幕によって砲撃だけはどうにか出来ていたかもしれないが、その質量そのモノで来られたら、いくら特異点とてひとたまりもなかった。それが回避出来ただけでも今は御の字である。

 

「っ、お前達、()()()()!」

 

 ここで近代化戦艦棲姫は奇妙な指示をイロハ級に出した。本来ならば自ら命を絶つようなことなのだが、『ダメコン』の曲解を持つことから、この指示は咄嗟にしては非常に的確なモノである。

 その指示を聞いた途端、イロハ級の群れは近代化戦艦棲姫に向けて一斉に砲撃を放ち始めた。その砲撃は、周囲にいた深雪達にも飛び火することになり、否が応でも回避を取らざるを得なくなる。

 

「あいつ、白雲の氷をぶち壊すつもりか!?」

「滅茶苦茶なのです! でも、砲撃を受けても傷が付かないなら……」

「……芯まで凍らせるのみ。仲間の攻撃でその身を滅ぼせば良いのです」

 

 白雲はより一層力を込めて、近代化戦艦棲姫を凍結させる。艤装だけでは足りない。その身体も、何もかもを凍らせて、そのまま命も凍らせる。

 だが、どれだけ出力を上げたとしても白雲自身がその場に留まることが出来なければ、凍結が浸透することはない。最初の一撃は海水を媒介に一気に冷やすことが出来たが、既に冷えたモノをより強く冷やすには相応の力が必要だ。それを邪魔されたのなら尚更。

 近代化戦艦棲姫を狙う砲撃は、当然白雲にも飛んでくる。広範囲の凍結をしている余裕など無くなるのだが、白雲はここで始末のために動かないという選択をした。

 

「お姉様、申し訳ございません。煙幕をよろしくお願いしてもよろしいでしょうか」

「おいおいおい、お前後から説教だぞ」

「構いませぬ。今この場での勝利は必要不可欠。それに、お姉様は白雲を守ってくださる力をお持ちですから」

 

 言うまでもなく、深雪は再び仲間を守る煙幕を噴き出させた。回避行動を取らない白雲の前に躍り出て、自分にも白雲にも砲撃が届かないように。

 その時間を使って、白雲はより強く凍結の力を流し込む。見えている範囲全てが凍りつくように。修復すら間に合わないように。

 

「巨体を凍らせ尽くすのは、骨が折れますが……っ」

「やっちまえ白雲! あたしが守り抜いてやらぁ!」

「ああ、あまりにも心強い言葉。ならば願います。この戦況を覆す力を、お姉様を、仲間を守るための力を!」

 

 白雲が叫んだことで、凍結の出力がさらに上がった。ビキビキと音を立てながら凍りついていく近代化戦艦棲姫。先程よりも確実に速い。

 しかし、イロハ級の砲撃と雷撃が当たった場所から氷が剥がれ落ち、その中からは修復された身体が出てきてしまう。ダメコンが凍結の中でも利いてしまっており、まだ芯まで凍りついていなかったことで、ダメージそのものが氷を剥がすだけの効果になってしまっていた。

 

「いい加減にっ、しろ!」

 

 ここで近代化戦艦棲姫もとんでもない策に出る。傷を負う覚悟で跨っている艤装から立ちあがろうとしたのだ。

 凍結によって張り付いてしまっているため、無理矢理剥がそうとしたら見るに堪えない重傷に繋がるはずなのだが、やはりそこにはダメコンがあるため、痛みは伴いながらも強引に立ち上がる。

 深海棲艦であり戦艦であるため、本体の膂力も普通では無い。艤装頼りでなく、自分自身でもどうにか出来るように鍛えられている。

 こういうところもこれまでの敵とは違った部分。自分の得た特別な力を過信していない、いや、過信はしているが()()()()()()()()()ため、いくつもの手段を使ってくる。

 

 凍りついた艤装から飛び降り、白雲に直接攻撃を仕掛けてきた。深雪が近くにいるとはいえ、先程まででわかった通り、煙幕は砲撃を逸らすことが出来るだけ。生身でそのまま突っ込んでこられた場合、それは逸らすことが出来ない。

 

「特異点よりも先に、お前を始末してやる! お前が余計なことさえしなければ終わっていたんだからな!」

 

 この戦場において、近代化戦艦棲姫の天敵と呼べるのは、おそらく白雲だろう。砲撃も雷撃も弾き飛ばせるし、近接戦闘は戦艦に軍配が上がる。しかし、凍結というダメージにも繋がらずただ動きを止めるだけという攻撃は、その後に畳み掛けられる可能性も加味すれば、最もこの場に残しておきたくない手段。

 特異点を集中的に狙うにしても、再び凍結させられたら意味がない。ならば、凍結が出来る白雲が今一番の()()()

 

「っざけんな!」

 

 対抗するのは、白雲を守る深雪。消し飛ばす砲撃も通用しないことはわかってしまっているが、だからといって立ち向かわない理由はない。自分の後ろに白雲がいるのだ。さっき守ってもらった分、今は自分が守らねばならない。

 

「白雲、凍結は一回やめろ! お前がやられたら意味が無い!」

「か、かしこまりました。回避に専念いたします!」

「なら、このグレカーレちゃんも参戦しちゃうぞ」

 

 今は白雲を守ることが最重要。そのため、深雪の他にもグレカーレが近代化戦艦棲姫の前に躍り出た。

 

「力業には力業っしょ。せーのっ!」

「ぐっ……!?」

 

 近代化戦艦棲姫本体による徒手空拳は、グレカーレが艤装の剛腕でしっかりガード。むしろ拳同士がぶつかり合い、その場で激しい衝撃が駆け抜けた。

 だが、こういうところでもダメコンが悪さをする。艤装と素手がぶつかり合っているにもかかわらず、力だけならば近代化戦艦棲姫に分があるのか、本来ならば壊れてしまいかねない腕はそのままに、グレカーレの剛腕を破壊しかける。拳を中心に一気にヒビが入ったことで、グレカーレも驚いた。

 

「うぇえっ!? ちょっと何してくれてんのさ!」

「こちらのセリフだ。お前、元々()()()()()()。どんな手品を使ってるか知らないが、こちらの力を振るうなら、特異点につかずにこちらに協力するんだ!」

 

 剛腕を自己修復させながら、グレカーレは白雲の前に立つようにバックステップ。拳同士のぶつかり合いに勢いを殺されたため、近代化戦艦棲姫も少しだけ離れた。

 

「特異点の味方をして何になる。お前も少しは知っているだろう。特異点がどれだけ平和に仇を為すか」

「あー、ほんの一瞬だけど、あたしゃそっちに流されたからね。言いたいことはわかるよ。腹が立つことに」

 

 グレカーレの持つ『羅針盤』の曲解が目覚めるまでのほんの少しだけの時間、グレカーレには忌雷による洗脳が効いていた。その時だけは、グレカーレも今の近代化戦艦棲姫と同じように、深雪に対して平和を破壊する者という悪意的な感情が芽生えていたと言っても過言では無い。

 しかし、今は違う。羅針盤により自分が進むべき方向を見誤らなくなったことで、その考え方自体が間違っていると理解している。むしろ、その瞬間があったからこそ、より今の深雪の方が正しいと感じられる。

 

「でもね、あたしはミユキの方がアンタらより平和に向かって進んでると確信出来るよ。アンタらみたいに、何もしてない後始末屋をぶっ壊そうだなんてしないし。アンタらがコレだけやってくるからこっちがやり返してるだけなのに、こっちのことを悪だの何だの言う方がよっぽと悪だと思うけど、これ間違ってる? 手を出しといて、やり返されたら鬼の首獲ったみたいにギャーギャー騒ぎ立てる輩なんて、誰が信じるのさ」

 

 いつもの調子で、しかし相手を蔑むような視線を向けて、グレカーレは近代化戦艦棲姫に思いを伝える。お前達は間違っていると。

 

「アンタらみたいな輩にコレだけ言われても、コレだけやられても、ミユキは折れてない。しかも、それでも救う道を探し続けてたんだよ。わかる? 殺そうとしてくる輩にも手を差し伸べようとしてたの。これでも平和を壊す悪だなんて言える?」

 

 今でこそもう諦めてしまい、話にもならないと攻撃をするつもりで来ているが、それもそもそもココに攻撃のために来られたからだ。そうで無かったら、わざわざこんな大戦闘になんて発展させない。命を奪ってまで自分の身を守ろうだなんて思わない。

 島の襲撃の件だって、さんざん攻撃されたから根本から絶たなければ終わらないとして計画しているだけだ。やっていることが人類の敵みたいなモノなのだから、自分の、仲間の身を守るためにも先制しなければならないだけ。

 

「だから、あたしは大っぴらに言える。ミユキは何も間違ってない。その生き方は、平和に向かってるよ」

 

 ニッと笑顔を見せた後、深雪に向けてサムズアップ。深雪の生きている意味を否定なんてしない。好きな者と共に歩くことを咎められる謂れは無い。グレカーレは恥ずかしげもなく言い切った。

 

 見得を切られた近代化戦艦棲姫は、グレカーレに苛立ちがあった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あくまでも自分達の目指す平和を壊すのは特異点である。故に、その存在を先んじて終わらせることで、安心して前に進めるようになる。

 しかし、そのために他の者の平和を脅かすことに正当性を見出だしてもいいのか。普通ならばそこで絶対に迷いが出る。他者を攻撃して得られる平和に意味があるのか。反撃ではなく、自分達からの攻撃、それは悪意とも言い換えられる。

 

「……それでも、私達は進まなくちゃいけないんだ。特異点を消して、私達の望む平和を手に入れるために」

「じゃあ聞くけど、ミユキが何を邪魔してるの? ずっと聞いてるんだけど、ちゃんとした答えが返って来ないんだよ。いるだけで罪とか意味わかんないこと言ってくるんだもん。ちゃんと納得出来る理由があるから殺そうとしてくるんだよね?」

 

 結局のところ、その根拠のない『特異点の存在が平和を脅かす』という妄言を信じてしまっているから、こんなことになるのだ。

 これは近代化戦艦棲姫ですらほとんど変わらなかった。だが、これまでの敵とは明らかに違うところがあった。グレカーレにそれだけ言われたことで、()()()()()()()。この行いが、曲げられない道が、本当に目指す平和のためになるのなら、何かしら意味があるはずなのだと。

 確かに『いるだけで罪』だなんて根拠のない言葉で納得させることなんて出来ない。自分が同じことを言われて納得出来るかと言われたら、間違いなく出来ない。それを今、その特異点に強いているのだと自覚してしまった。

 

「わ、すごい。ここで癇癪起こさないでちゃんと考えるだなんて。敵にも話通じるヒトいるんだ」

 

 そんなことを言うのは、深雪達への攻撃を1人で食い止めていた吹雪である。砲撃を全て捌き切ることは流石に出来ずとも、今この場を邪魔させないこと、イロハ級を一掃することくらいならば可能。うみどりの話にはそこまでガッツリと首を突っ込むことをせず、しかし耳を傾けるくらいはしていた。

 

「さっき私が始末した潜水艦の子は、何言っても何も変わらなかったよ。深雪ちゃんが全部悪いって言い続けて、自分が絶対的に正しいって思い込んでるお猿さん以下だった。でも、そうやって考えられるってことは、何か気付いてるんじゃないかな」

 

 近代化戦艦棲姫は揺らいでいた。自分の平和が本当に正しいのか。戦場でも慢心しないからこそ、ここでその考えを巡らせることが出来る。

 

 

 

 

 珍しく話が通じる敵が現れたことで、この戦いはまた違った方向に向かいかけていた。

 

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