後始末屋の特異点   作:緋寺

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その艦娘は何者

 後始末の最中に哨戒機が見つけた所属不明の艦娘。近付く間もなく離れていってしまったこともあり、結局それが何者かはわからず終い。

 イリスの目が届く場所でもないためカテゴリーもわからず、哨戒機からの情報も今は無し。見ただけで何者かわかるようなものでは無かったようだが、所属不明の艦影と称したこともあるため、艦娘である可能性はかなり高めだと思われる。

 

「……あー、神風、ごめんな。また焦って突っ込みそうになった」

 

 その情報が頭に入ってから、またその謎の艦影に向かわなくてはと頭に血が上りかけた。周りがみえなくなって、すぐにでも駆け出そうとしてしまった。まともな兵装も装備していない状態で。

 そんな状態で突っ込み、それが敵であろうものなら、間違いなく何も出来ずに沈められている。泳げるようになったとか、そういう問題でもない。()()()()()()()ということがダメなのだ。

 

 一度ならず二度までも同じことをやらかしそうになったため、流石の深雪も反省する。むしろ、少々落ち込んでいるような表情に。

 

「いいわよ。深雪はまだ経験が圧倒的に足りないんだもの。人間だってそういうものだから、失敗して学んでいけばいいわ」

 

 そんな深雪に対して、神風はそこまで気にしていないような仕草で慰める。最初というのはそういうもの。深雪はまだまだ経験が足りないのだから、失敗に失敗を重ねて覚えていけばいいと。それが死に至るような失敗ならば咎めていただろうが、まだ取り返しのつく失敗。

 それに、深雪自身でちゃんと気付けたのだからまだマシである。一度伊豆提督に叱られたことで心に刻まれており、またやらかしそうになった時にちゃんと言われれば止まれた。ここまで来たならば、次は自分で考えて止まることが出来るはずだとも付け加えた。

 

「とはいえ、仏の顔も三度までという言葉もあるのよね。三度もされたら仏もキレるって意味だから、次は無いと思った方がいいかもね」

 

 別に怒っているわけではなく、覚えが悪すぎるとこれ以上付き合いきれないぞと含みながら深雪に伝えた。

 

 神風としては、別にある程度の期間はこうなってしまっていても仕方ないとは思っている。カテゴリーMもカテゴリーWも深雪には気になることなのだから、すぐに動きたくなる気持ちはわかるし、経験が少ないのだから()()()が育っていないのは許容範囲。

 戦闘技術は最初から一流であっても、精神的な部分は生まれたばかり。見た目通りの性格をしているというのなら、未熟であってもおかしくはない。ヒトのカタチと思考と感情を得たばかりなのだから、慣れていないのは誰もが納得している。

 だからこそ、叱らなくてはわからないところもあるだろう。それをしたのが伊豆提督。しかし、かなりやんわりとしているのだから、逆に深雪に刻まれる。そして神風がそれをより深く刻んだ。

 

「……ああ、次はこんなことしねぇ。今は違うけど、電にも見られてるだろうからさ。()()()()カッコ悪いところは見せられねぇよ」

「ええ、その気持ちがあればいいわ。電の視線が貴女を成長させるのなら、今後は電と組めるように打診しておくわ」

「助かる。あたしも出来れば電と組みたいと思ってるから」

 

 神風相手ならば、言い方は悪いが()()()()()から深雪は暴走しかけた。先日の暴走も、周りにいたのが先輩だけだった。

 しかし、後輩である電が隣にいる状態なら、甘えることはしない。むしろ引っ張るために、気が引き締まるだろう。ただでさえ電には、いろいろと思うところがあるのだから、余計に気が張るはずだ。それを利用すれば、深雪の暴走は抑えられるだろう。

 

「さ、まずはみんなと一度合流しましょ。後始末も大事だけど、さっきの艦影のことも大事だもの」

「だな。そろそろ来そうか?」

「ええ、多分長門さん達が来てくれるわ」

 

 その後、長門達と合流した深雪達は、これからの方針として、まず哨戒範囲を拡げることでその現れた艦影を探すこととした。

 しかし、その後立ち去った所属不明の何者かの姿を発見することは出来なかった。

 

 

 

 

 逃げられてしまったものは仕方ない。本来やるべきこと、この海域に散らばった廃棄物を全て回収し、穢れの無い海にすることを優先した。深雪達が謎の艦影の話を進めている間に、他の仲間達が手広く仕事をしてくれていたようで、深雪達の仕事はそれなりに減っていた。

 後始末屋のやらねばならないことは、敵かどうかもわからない艦影を追い回すことではなく、海の平和を取り戻すこと。邪魔をしてこないならば優先順位は後始末に傾く。

 

「これで全部か?」

 

 電探を動かしながら周囲に散らばる残骸が無いことを確認した深雪が神風に聞くと、神風も電探を動かして確認し、そうねと答える。見える限り、探知出来る限りの残骸は全て掬い上げることが出来たことで、うみどりから離れた場所での仕事は終わり。

 

「午後から逆側も見に行った方がいいかもしれないわね。やたら流されていたし」

「だな。少しでも残ってたらダメなんだもんな」

「そうね。これだけ波が高いとなると、知らないうちにかなり遠くまで流されてる可能性もあるからね。海域の外に出ちゃってるとなると追いようが無くなるんだけど」

 

 午後からの作業も同じように残骸集めになるが、前回と違うのは、数は少し少なめな代わりに範囲がとにかく広い。全てが同じ場所に留まっていてくれたなら、午前中に残骸集めは終わっていた可能性が高い。

 

「結局、あの時に見たヤツが何者かはわからないんだよな」

「ええ。そもそも私達の電探には引っかからなかったから、何処にいたかもわからないんだけど」

「そうなんだよなぁ。神威さんの哨戒機しか見てないんだよなぁ」

 

 見間違いかという疑いは基本的には無い。哨戒機、延いては妖精さんの能力は、人間は勿論のこと、純粋な艦娘よりもかなり上。自ら戦うことは出来ないだけである。

 その妖精さんが見つけたと言うのなら、それは間違いなく発見したと考えていい。見間違いがない、精度の高い索敵が出来るのは、妖精さんの特性でもあり長所である。

 

 信用度は高いが、妖精さんしか見ていないとなるとそれがどんな艦娘だったかは妖精さんの主観になる。ここからは会話が出来ないという難点がどうしても引っかかってきてしまった。

 妖精さんはその艦娘の姿をハッキリと目にしていたとしても、艦種くらいしか伝わってこないというのが実情なのだ。名前や特徴がハッキリと話せたらまた違ったのだろうが、そこは仕方ないことである。

 

「まぁ、今それを言っていても仕方ないわ。私達は後始末を続けて、海を綺麗にしていくのが仕事だもの。今回の件はハルカちゃんにも伝わってるから、考えるのは後からにしましょ」

「そう、だな。あたし達に出来ることをするしかないよな」

「そうそう。考えるなとは言わないけど、思い悩むのは違うわ。出来ないことを唸っても出来ないものは出来ないもの」

 

 無駄なことでは無いかもしれないが、考えたところで何も進まないのなら、まず進むことを考えるべきだというのが神風の主張。今の場合は、知らない艦娘のことよりは目の前の後始末を済ました方が、海の平和に繋がるということである。

 とはいえ、あの艦娘を逃したことで、これ以降の戦いに大きな影響を与える可能性がある。むしろ高い方だろう。故に、今ここで考えるのではなく、うみどりに戻ってから考えようというのが今の最善。

 

「それじゃあ、戻りながらもう少し海を綺麗にしていきましょ。大体掬ってるけど、近場ではあまり電探も使ってなかったし、私達がいる間は沈んでて今更浮かび上がってきたものとかもあるかもしれないしね」

「了解。念入りにやらないといけないことはわかってるからさ。出来ることなら二重三重に見て回った方がいいもんな」

「そういうことね。あと、うみどりから見える範囲内に入っておきたいじゃない。ずっと離れたままだから、通信してるとはいえ、あちらからは見えてないのよ私達」

 

 つまり、電にも活動状況が見えていないということになる。それは嬉しくないと、深雪は足速にうみどりに近付くことを選んだ。

 

 

 

 

 作業自体はこれで殆ど終了。清浄化するための濾過器と薬剤散布はまだ終わっていないが、物として見えているものの撤去は終わっている。

 相変わらず深海棲艦由来の物が多いのは、勝利を収めた海域ということを如実に表しているのだが、今回はとにかく波のせいで散らばっているのが厄介だった。発生した穢れも波に乗って拡がろうとする性質があるようで、たも網で掬うことが出来ないそれは、他の者に任せるしか無い。

 

「ただいまーっと」

 

 工廠に戻り、神風の持つケースなどを妖精さんに引き渡すことで午前中の作業は終了。午後からは逆方向も確認するということで、今はここで休憩となる。

 

「ふぃー、やっぱ疲れるな」

「範囲が広いと体力も使うものね。残さないから神経も使うし、スタミナ云々は関係ないわ」

 

 神風も少しお疲れ気味。残骸集めで疲労を感じているというよりは、作業中に想定外のことが起きたことが気にかかっていたため、精神的な疲労に繋がっている。

 

「結局、私の哨戒機でも跡を追うことは出来ませんでした」

 

 前回と同じように昼食を提供してくれる神威が、深雪達にその後のことを伝えた。

 

 海域を離脱した所属不明の艦影を追ったものの、その足取りはかなり速かったらしく、哨戒機ですら見失ってしまったとのこと。

 あまり進みすぎると作業海域から離れてしまうし、妖精さんも最悪戻ってこれなくなるため、そこは限界があった。

 

「でも、少しはわかることがありました。あの艦影は、駆逐艦娘のモノであるようです。あの速さと、影の大きさから、妖精さんが判断出来たみたいですね」

 

 何者かはわからないが、駆逐艦の誰かが後始末をしている姿を見ていたということだ。近付くわけでもなく、ただ見てすぐに立ち去ったと考える方がいい。

 また、今その場で生まれたというわけでも無さそうというのが、神威、そして妖精さんの見解のようである。()()()()()()()()()()()ため、その見解に至っている。

 

「迷いなく何処かに行ったってことは、何処かに所属しているってことになるのか」

「だとしたら、カテゴリーMよりはカテゴリーC寄りに思えるわよね。カテゴリーMが徒党を組んで行動しているところって殆ど見たことがないのよ」

 

 呪いによって人類への恨みに染まっているドロップ艦は、行動の仕方が殆ど深海棲艦と同じで、その感情のままに襲撃に向かうことが多い。深雪が初めて見たドロップ艦も、誰かを引き連れているわけでもなく、単騎でうみどりの前に現れた、

 組んで活動する者は、同時にドロップした者か、たまたま道すがら出会った姉妹艦だとか、それくらい。

 

「所属……してる可能性あるんじゃないか?」

 

 神風がそう言っても、深雪はそこに疑いを持つ。生まれたばかりで今までのことを知らないからこそ、これまでの常識なんて存在しない。思ったことをただ言うのみ。固定観念なんてまだ無い。

 

「例えばさ、()()()()()M()()()()()が何処かにあって」

「今のところそんなものを見た人はいないけど……まぁ決めつけは良くないわよね。そんなのがあったとしたら、指導者……司令官とかは何になるのかしら」

「さぁ、そこまでは。全部艦娘がやってたりしてな」

 

 

 

 

 

 冗談のように言っている深雪だが、実際、あんなカタチで艦影が見えたことはやはり気にかかること。

 今後、大本営でも議題に上るような重要な事案となりそうである。

 




駆逐艦であり、足取りに迷いが無かったというのが、今見えている所属不明艦の情報。深雪が言うように、カテゴリーMの鎮守府があったとしたら、それはそれで怖いことに。
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