「深雪ちゃんに眠る端末としての力を、私の願いで全部引き出す。葉じゃなく、花になってもらうよ」
吹雪の言葉を、深雪はすぐに理解することが出来なかった。自分が端末という言われ方をするのも初めてのこと。それに、特異点の力もここまで来てもまともに理解出来ていないのだから、戸惑うのも仕方ないこと。
「えーっと、どういうことだ。もう少しバカなあたしでもわかるように説明してくれ」
申し訳無さそうに聞く深雪に、吹雪は大丈夫と軽く宥めつつ、掻い摘んで説明する。非常に簡単に、特異点は優しい願いを叶える存在であるということ。深雪はそれを煙幕により実現すること。願いの実のことなどは今は一度置いておいて、ともかく『特異点は願いを叶える』というところを念頭に置いてもらう。
「ただ、今の深雪ちゃんには多分出来ない。だから、今この場だけでもコントロール出来るように、私が力を貸す。端末という立ち位置だったんだけれど、深雪ちゃんにはもっと強い力を私が渡す。この場だから出来る裏技みたいなものだけれど、今の深雪ちゃんには必要な力だと思う」
「それでアイツを救うことが出来るってことだよな」
「うん、私の願いは、『深雪ちゃんを、私と同等の力を引き出せるようにすること』だから」
そう言いながら吹雪は深雪の背中に手を当てる。
「深雪ちゃんは、後始末屋として身体も心も強く優しく成長してる。だから、特異点としての力を今以上に使えても問題ないよ。身体はそれに耐えられるし、心に不安はない。なら、今こそ葉ではなく花となるべき」
じんわりと、吹雪の手から熱を感じた。それは、花開くための太陽の光のような温かさ。心地よく、そして成長を促すような、それそのものが力だと感じるモノ。
「私は深雪ちゃんと違って、直に触れないと願いが叶えられないんだ。代わりに、この海域なら自由に移動が出来るし、どんな姿にだってなれる。姿に関しては、ここには人間、艦娘、深海棲艦、全ての願いが詰まってるから。深雪ちゃんも少しは自覚がない? 自分には艦娘以外の何かがあるって」
言われても自覚は無いが、軍港都市での調査の結果、深海棲艦の要素も含まれているといわれているため、そういうものであると理解はしていた。
他とは違うというのも、本来の艦娘深雪ではあり得ない、新たなスロットが艤装に現れたことで自覚している。煙幕なんてその最たるモノだ。艦娘という言葉では言い表せないナニカが自分にあると、嫌でも思い知らされる。
「いい、深雪ちゃん。貴女はまだ、自覚が無かったから力を完全には使いこなせてなかった。でも、今私が願うことで、この海域の力を使って、それを知ってもらってる。心じゃなく、身体に知ってもらってる。少し無理矢理かもしれないけれど、深雪ちゃんの願いを叶えるために、まずは私が願う」
今の吹雪の願いは、『深雪の願いが叶ってほしい』という優しい願い。妹のことを思った、心の底からの願い。そしてそれは、必ず叶う。
深雪の中に、トクンと力が鼓動した。これまでは曖昧な理解だった特異点としての力を、吹雪の助力によって目覚めさせられていく。
それは、葉が花へと変わる時。葉ではなく蕾となり、それが熱により開花する。
「これからやりたいことは、今の深雪ちゃんの身体じゃ耐えられないかもしれない。駆逐艦の、艦娘の身体だと、どうしても限界が出てきちゃう。私だってそうだから。なら、深雪ちゃんはどうするべきだと思う?」
吹雪の声が頭に響くような感覚。その問いに、これまでの経験、そして姉のやり方を少しだけでも見たことで、そうなのかなと答えてみた。
「あたしも、吹雪みたく身体を変えるべきか? 強い力も使えるだけの、強い身体に」
そう思った瞬間、鼓動は強くなる。そして、身体中に力が漲る。身体がところどころ熱を持ち、それが心地良いと感じるほどに。
「それを深雪ちゃんが望むかはわからないけれど、私はそうして力を使うの。願いを叶えるために、相応の姿になって。私の場合は、強い大人の深海棲艦の姿になることで何でも出来るようになった。身体も耐えられるし、自信もついた。深雪ちゃんはどうする?」
そこは深雪に選択肢を与える。自分が思う一番強いと思える姿となることで、強大な力を制御する。そう願うことで、それは実現する。
「っく……!?」
ここでは願いがカタチとなる。特異点たる深雪なのだから、ただの願いではない。救いたいという願い、それが出来るだけの力、その力に耐えられるだけの身体。それを得るために、深雪の身体は大きく跳ねた。
開花の瞬間である。
「あたし、は、強くなりてぇ。みんなを守るため、苦しんでるヤツを救うため、まずは手が届くアイツを、救うため!」
願いを口にすれば、より強い力となる。この海域にある願いの実が、深雪の、新たな花の願いを叶えるために力を送る。吹雪もそれを感じ、微笑みながら背中を押した。
「っはぁっ!?」
深雪の声が裏返り、見守っていた電とグレカーレがビクンと震える。何が起きているのだと少し戸惑いつつも、吹雪が大丈夫だと念を押したことで慌てることはなかった。
むしろ、電は深雪の変化が自分にも流れ込んできているように錯覚した。電は深雪の願いにより生まれた増幅装置。深雪に変化があれば、電にも何があってもおかしいことではない。
「っく、お、おおっ、吹雪、これっ」
「大丈夫、それが深雪ちゃんの持つ
「そうかよっ、ならっ、っおぉおおっ!」
漲る力に後押しされて、声を上げた瞬間、深雪の身体は一気に変化する。それは、カテゴリーWとして持つ、深海棲艦の要素の発露。吹雪のそれを知ったために深雪も選択した、成長と変化の結実。
真っ先に変化してのは、体格。見た目で子供とわかる姿の深雪の身長が見る見るうちに伸びていく。同時にスタイルも少しずつ良くなり、今着ている駆逐艦の制服が明らかにキツそうに、今にも破れそうなくらいに張り詰めた。
そのすぐ後に変化したのは髪色と肌色。吹雪を模倣するように白く染まっていき、誰が見ても深海棲艦だと言えるような真っ白な姿に。同時に額から2本のツノも伸びていく。これもまた、深海棲艦の姿を取る時の吹雪の模倣。強靭な身体としてのイメージをカタチにしたモノ。
「っふっ、ふぅうううっ」
そして、サイズが全く合わなくなった制服が変化に応じて霧散したかと思えば、新たに深海棲艦としての深雪の衣装、艤装の延長線上のそれが現れた。
吹雪は身体に密着するような真っ白なワンピース姿だが、深雪はその性格上、少々ヤンチャなイメージを持たせるモノ。どちらかといえば、軍港都市で活動する際の私服のような、活発なスタイル。
上半身はチューブトップ状の黒インナー。ハッキリと膨らんだ胸を覆い隠すのみに止まり、引き締まった腹部をしっかりと露出している。それだけでは足りないのか、丈が短めのジャケットも現れた。
下半身は私服として好んで身につける黒いショートパンツ。だが、それはしっかりと張り付き、スパッツのように動きを阻害しない。さらに、腿から下を覆い隠す黒のニーハイソックスを纏い、ガーターベルトまで生まれた。
吹雪とは違う、黒に覆われた姿は、白くなった髪と肌をより目立たせるに至る。清楚なイメージよりは、活発なイメージを押し出した、深雪らしい姿と言えよう。
「っは、く、あ、はぁあああっ!」
初めての変化に身体の熱が一気に駆け抜けたのか、深雪は強く声を上げ、大きくのけぞった。これにより変化は完全に終了。深雪の瞳が赤く燃え上がるように光り輝き、深海棲艦としての姿へと至った。
忌雷の寄生による侵蝕に割と近い反応に見えたため、電もグレカーレもこれにはどうしても不安が先立つ。
姿だけで言えば豹変したと言える深雪に、電もグレカーレも唖然とするしかなかった。もしかしたら頭の中まで変わってしまっているのではという恐怖すら芽生える。
しかし、それが杞憂であることはすぐにわかった。
「はぁ、はぁ……え、な、な、なんじゃこりゃあ!? これがあたしだってのかよ!」
成長した身体であっても、中身は何も変わってはいない。赤い光を湛えた瞳であっても、表情からは変化する前の子供のような深雪の性格が見てとれた。
自分の身体に触れながら一喜一憂。思い切り自分の胸を鷲掴みにしてデカくなってる!? と驚愕している姿は、ああこれは深雪だと思わせるには充分すぎて苦笑を誘った。
「深雪ちゃん、す、凄いのです。深雪ちゃんが人間みたいに成長したらこんな感じなのです?」
「お、おう、多分な。あたしも何が何だかわかってないんだけどさ、多分艦娘でも深海棲艦でもあるから、吹雪みたいに身体を変えられる……らしい」
「ミユキってばまだ理解出来てないの!?」
「そんな簡単に理解出来るか! って、お前らそんなに小さかったか!?」
「ミユキがデッカくなってんの! あたし達は駆逐艦の中でもちっさい方なんだから、相対的にちっさく見えても仕方ないの! ってかさぁ、ミユキってば、なんかイケメンになっちゃってさぁ、でもおっぱいはちゃんと大きくなってるし。後から揉ませてもらうからね!」
「アホか!」
手をワキワキさせるグレカーレに本気で嫌がる深雪。戦場の真ん中だというのに漫才のようなやり取りをし出したことで、吹雪は声を出して笑い出す。電も釣られて笑顔を見せた。
「これで準備完了。深雪ちゃんは今、特異点としての力が開花した状態。曖昧じゃなく、理解してその力が使えると思うけど、どうかな」
「……ああ、ハッキリとは言い切れねぇけど、吹雪がやりたいっつった、願いを叶えるってこと、今のあたしならやれると思う。グレカーレの力を、あたし経由で煙幕でぶち当ててやればいいってことだよな」
「そういうこと。そのやり方も」
「ああ、大丈夫だ。ふわっとだけど、なんか教えられてるみたいな感じだ。なんつーか、力の流れみたいなのを感じる」
白く染まった自分の手を見つめながら、握ったり開いたりして感触を確かめる。これまで見てきた子供の身体ではない、スラッと長く伸びつつも筋肉量が増し、やけに力が入る四肢。うっすらと割れた腹筋。ぱっと見で駆逐艦とは思えないくらいに育った各所は、最初からそうだったかのように自由に動く。長さが変わったとしても、それに慣れていない自分がいない。
グレカーレがさりげなくイケメンと称しただけあり、今の深雪には中性的な魅力が詰まっている。だからだろうか、電もグレカーレも、今の深雪に対して惚れ直したかのような表情を浮かべていた。
「私みたいに長くこの場にいたわけじゃないから、使いこなすには時間がかかるかもしれないけど、ここなら私がサポート出来るから、まずはやってみようか」
「おう、目的はあたしが成長することじゃねぇからな。アイツを正気に戻すためだ。グレカーレ、力貸してくれ」
「もっちろん! あたしの願いは、あんなことしてるアイツに元に戻ってもらうこと。それがミユキに出来るなら、あたしの力、喜んで貸すよ」
開花し、心身ともに成長した深雪。花開いた特異点の真なる力によって、近代化戦艦棲姫を救う。
その願いは、必ず叶うことだろう。何故ならここは特異点W。特異点の生まれし場所であり、その力を、優しい願いを、必ず叶える場所なのだから。
開花した深雪の姿は、どちらかといえば南方棲姫のような姿を想像してもらえるとわかりやすいかと。一部違うところは、FSWの秋雲みたいな感じ。ここの深雪はスカートよりもビキニショーツよりもショーパンが似合う。