後始末屋の特異点   作:緋寺

513 / 1162
叛旗

 深雪による特異点の力の行使、グレカーレの力を拡張して煙幕に乗せて放つことで、近代化戦艦棲姫にかけられていた洗脳が解除され、自らで道を選択するように仕向ける。その結果、出洲一派のやり方を身を以て知ることとなった近代化戦艦棲姫は離叛を決意。忌雷に寄生されながらも、『羅針盤』の曲解により正気を保ったまま、その力を持ったまま深雪達の仲間となった。

 忌雷に寄生された者の宿命として、グレカーレと同様に過剰すぎる敏感肌に悩まされることになるのだが、今はまだ戦場。近代化戦艦棲姫は先陣を切ってきた第一の刺客だ。戦いはまだ始まったばかり。

 

「うん、もうさっきの気持ち悪いのはいないよ。いたとしても全部消えてると思うから安心して」

 

 深雪が奮闘している間に、吹雪が近代化戦艦棲姫の艤装の方へと向かい、それに触れることで内部を調査していた。

 先程は本体がそこから降りた後に突如暴走を始めた艤装。一度あることは二度も三度もあると考えていいため、先んじて吹雪が確認していたようだ。

 

 結果として、忌雷はもう仕込まれていなかったらしい。それと、吹雪の力──特異点の力により、艤装は完全に近代化戦艦棲姫の支配下に置かれている。叶えた願いは、『妹の新たな仲間に戦える力を』である。

 生物どころか艤装にまで力が及ぶのは、願いの実の代弁者だから。そういうところも深雪以上の力を持っていると言える。この海域から動けないという大きなデメリットと引き換えだが。

 

「私の可愛い妹を守るために使って」

「ああ、ありがとう。深雪のお姉さんなのかな」

「はい、特異点の吹雪です。ここだけの付き合いになるのでちょっと寂しいけれど、短い間よろしく」

 

 不安なく戦える力を用意してくれた吹雪に感謝し、改めて艤装に跨った。その時に数少ない露出部分の内腿が艤装に触れたことで声を上げかけるが、どうにか我慢した。既に一度素っ頓狂な声を上げてしまっているから、なるべくならもう恥ずかしい思いはしたくないと考えて。

 グレカーレはよく我慢出来るなと羨望の眼差しを少しだけ向けてしまう。それに勘付いたグレカーレは、再び意地の悪い笑みを浮かべるが、流石にここからは弄るのをやめた。自分も表情に出さないだけでかなり苦しい目に遭っているのだ。冷やかせないくらいにその気持ちはわかる。

 

「深雪ちゃん、特異点の力の使い方、これでわかったかな」

「ああ、あたしはあんな感じになるみたいだ。あくまでも煙幕が基本ってことだな」

「みたいだね。私とはかなり違うけど、やれることは似たようなことだから。でも、多用は禁止かな。それ、自分がわかってないだけですごく疲れちゃう力だから」

 

 そもそも身体を変化させるというだけでも、非常に消耗が激しいのだと吹雪は語る。何度も変えれば、その分疲労し、最終的にはその場で立っていられなくなるくらいに。そこに願いを叶える力を行使するのだ。どんどん自分の中にある力を使い込んでしまって、戦場にいるというのに動けなくなってしまっては意味がない。

 吹雪はこの場で何度も姿を変え、何度も願いを叶えているが、それは吹雪だからこそ出来ること。願いの実が存在する特異点Wで、その代弁者たる吹雪が、力を使うだけで倒れるようなことはない。しかし、死なないというわけでは無いため、あれだけの敵が押し寄せてきたらここで耐え切れるかはわからないと苦笑しながら話した。

 1対1なら間違いなく負けない。海中ならば彼岸花の触手もあるため、複数体来られても迎撃はある程度可能。だが、今の近代化戦艦棲姫みたいな敵が湧いて出てきた場合、いくら吹雪でも厳しいどころか圧倒されかねない。

 

「んじゃあ、この戦闘中はこの姿のままの方がいいか?」

「そうだね。元に戻ることで力を使うよりは、今のままで戦って、終わったら戻る方が節約出来ると思うよ。それに、その身体に今のうちから慣れておいた方がいいでしょ。全部大きくなってるんだから」

 

 身長は頭一つ分は余裕で伸び、それに伴って手脚も伸びている。身体の変化に伴い艤装も変化しており、艦娘艤装から深海艤装になっているのだから、出力や装備が変わっていてもおかしくない。先程は艤装を使わない手段で戦いを終わらせたのだからわからないが、いざ使ってみたら不都合があるかもしれないのだ。

 そしてもう一つ、深雪の変化に合わせて変化しているものがあった。それが──

 

「お、妖精さんにも影響があるんだな」

 

 深雪のサポート妖精さん。本人をSDにしたような外見であるサポート妖精さんは、深雪と同様、見た目が深海棲艦のように白く染まっていた。制服もそのままコスプレだったからか、今の深雪と同じ黒い深海棲艦の服になっている。SDなので深雪のような成長は見えないものの、変化は充分すぎるほど見て取れる。

 だとしても表情は何も変わっていない。深雪と共に戦うため、自分の姿の変化はすぐさま受け入れ、今もやる気満々にサムズアップ。これからもよろしくと言わんばかりだ。

 

「私がサポートしたことで、オンとオフは自由に出来るようになってると思う。意識的に変えられるから、これが終わった後に練習しておくといいよ。今後も多分使うでしょ」

「……そうだな。同じように忌雷にやられたヤツがいたら、グレカーレと一緒にいる時は同じことをすると思う。そうでなくても、この力があれば救えなかったヤツを救えるようになるかもしれない」

 

 これまでの戦いで犠牲になった者を思い返して、少し苦しそうな表情を見せつつ拳を握り締める。

 この力がもっと早くあったら、いろいろと変わったかもしれない。例えば軍港都市での一件。例えば海賊船での戦い。思い返せば何度も苦い思いをさせられている。

 

「今まではあたしがまだ未熟だっただけだ。でも、これからは違う。特異点として自覚出来たんだ。この力、正しいことに使っていく」

「うん、頑張ってね。今この戦いはお手伝い出来るけど、ここ以外は見守ってることしか出来ないから」

「ありがとな、吹雪。これでみんなをもっと守れる。これまで守ってもらった分、恩を返せるぜ」

 

 ニッと笑う深雪に、吹雪も柔らかく微笑んだ。

 

「いい雰囲気になってるところ悪いんだけど、まだ敵はわんさかいるんだよ。口だけじゃなく手も動かしてくれないかな!」

 

 時雨が愚痴りながらも砲撃を放ち続けていた。海域特攻の力で1発1発が非常に火力が高く纏めて吹き飛ばすことが出来ているものの、イロハ級は当然ながらまだまだいる。それも、この1箇所だけで無くいろいろな場所に散って。

 先陣を切ってきた近代化戦艦棲姫との戦いの最中に、仲間達の第二陣第三陣が合流しては、別の場所のイロハ級を始末し続けてくれているから耐えられているだけ。

 全員が自分の持ち場に必死になっているため、ここで起きたことにはまだ誰も気付いていない。深雪の大きすぎる変貌を見たとき何を思うか。

 

「ならば、私がまず叛旗の一撃を喰らわせるとしよう。せっかくだからね。さよならの祝砲だ」

 

 そう言いながら艤装を動かし、本来なら仲間であったイロハ級の方に向く近代化戦艦棲姫。艤装も吹雪のおかげで完全に操作することが出来るため、ついさっきまで深雪達と相対していた時と同じように戦える。

 

「私は真実に気付いた! 正義は、平和は、お前達には無い! 特異点こそ尊ぶべき存在! 根拠もない悪意を振りまく輩は、ここに居場所などない!」

 

 そして、轟音と共に全力の砲撃。戦艦、それも深海棲艦の姫が放つそれは、時雨の大口径主砲の火力を優に超え、撃ち込まれた瞬間、そこにいる敵を軒並み木っ端微塵にした。

 仲間であるという認識が入ったことで、近代化戦艦棲姫にも海域特攻が乗るようになったのだ。元々凶悪な火力を持つのに、そこに特攻が乗ったら、それはもう一騎当千の超戦力。そして本人がダメコンによって基本無傷を維持出来るというインチキ能力まで有しているのだから、敵からしてみたら手がつけられない。

 

「敵だと厄介極まりないけど、仲間だと心強いよ。でも、さっきのことは謝らないよ」

「謝らなくて結構。あれは私の落ち度だからね。むしろ私の方こそ申し訳ない。あちらのいいように使われてしまっていた」

「わかってくれてるなら構わないよ。自分から何が悪いか理解出来る人間は貴重だからね。僕はその考え方を尊重する」

 

 先程までは口論のぶつけ合いだった時雨と近代化戦艦棲姫だが、改心することが出来たのなら、とやかく言う必要も無いと受け入れた。

 そこはやはり、自分も洗脳された経験があるため、あまり文句ばかり言っていると自分にその言葉が返ってくると自覚しているから。

 

「ただ、砲撃を撃つたびに震えるのと顔を赤くするのはやめてくれ。グレカーレの件で僕も理解してるつもりだけど、君の場合は見た目が見た目だ」

「そ、そうは言われても仕方ないだろっ。何をやっても敏感に反応してしまうんだから!」

「戦闘中に喘がないでおくれよ」

「……善処する」

「そこは断言してくれないかな!?」

 

 こういう皮肉が言えるのならば、時雨もちゃんと近代化戦艦棲姫を仲間として認識しているようだ。近代化戦艦棲姫も居心地が悪いなんてことは無い。時雨のことを仲間として認識し、共に並んで戦える。

 

「よっしゃ、じゃあ、あたし達も改めて行くぜ」

「なのです! 深雪ちゃん、コレって駆逐艦の艤装なのです?」

「どうなんだろうな。使ってみないとわかんねぇ。吹雪みたいに艦載機とかは使えないみたいだし、取り回しはこれまでと一緒だから、多分駆逐艦のなんだろうよ」

 

 変化により影響を受けた艤装にマウントされていた主砲を2つ、変化前と同じように両手に携える。電探も上々、魚雷もいつでも発射可能。

 見た目は変わっても、戦い方は変わらない。消し飛ばす砲撃も健在だ。

 

「お姉様、白雲、感無量でございます。深海に身を堕とされても受け入れてくださったお姉様が、白雲と同じ深海の身をされている。それでも自らを失うことなく、より強く、より美しくなって我々と共に歩いてくれる。それだけでも、それだけでも白雲は……」

 

 そんな深雪の姿に、ずっと感動していた白雲がようやく口を開くことが出来た。今の深雪に最も魅了されていると言っても過言では無いのは白雲だ。元々敬愛していた姉が、自分と同じ深海の姿を持ったというのだから、情緒が乱れるのも無理はなかった。

 

「白雲、ちょっと来い」

 

 そんな白雲を、深雪は片方の主砲を艤装にマウントし、手招きして呼び寄せる。ハッと息を呑んだ白雲は、言われるがまま深雪に近付いた。

 すると、空いている手で白雲の頭を撫でつつ、軽く抱き締めるように引き寄せた。

 

「ありがとな。白雲が凍らせて耐え続けてくれたおかげで、あたしはこうなれた。みんなのおかげであいつを救えたんだ。白雲だってすげぇんだ。だからさ、これからも一緒に歩いていこう」

 

 ニカッと艦娘の時の笑みを浮かべる深雪に、白雲は激しいトキメキを覚え、顔を真っ赤にした。頭から煙を上げているようにすら見えた。

 

「はい、はい、白雲はいつまでも何処までもお姉様と共にあります。隣に在り続けます」

「はは、そんなに気負うなよ。あたし達は、生きて歩き続けるんだ。楽しんでいこうぜ」

「勿論でございます」

 

 白雲も笑みを見せて返した。

 

 

 

 

 戦いはここからまた進む。戦場で新たな仲間を加えることになり、より勢いを増すことになるだろう。

 

 次にどうにかせねばならないのは、敵空母隊。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。