敵空母隊の圧倒的な力の前に、制空権を拮抗まで持っていくことが出来ない状況を崩すため、遊撃部隊が根本を崩すために肉迫する。しかし、そこには史上でもあり得ないほどの強い敵の群れが待ち構えていた。
しかし、うみどりにはそんな異常な敵艦隊を相手にしても、慄くようなことはない。仲間達の力を合わせれば、史上最大の敵部隊であっても対処が可能だと確信していた。
その筆頭として戦場に現れたのが、戦艦主砲を搭載した大発動艇を操る清霜である。
「戦艦清霜ぉ! 初陣だぁーっ!」
清霜がその戦艦主砲を後ろから操作すると、砲身が動き出して狙いを定め始める。この場所ならば、真っ先に狙うのはやはり空母棲姫II。しかし、それを妨害しようと、即座に動き出すのは脅威のイロハ級達である。
いきなり現れた
そして、事前に拠点でそういうことをやってきた者がいると聞いていたことを思い出す。海賊船での戦いで既に敗れている深海鶴棲姫に対して、パージした戦艦主砲を浮き砲台代わりにして撃ち放った
「貴女が噂に聞いた頭のおかしい駆逐艦……!」
あちらでは笑い話にでもなっていたのだろうか。だが、実際にその戦術によって強力な戦力がやられているのだから、侮れないことはわかっているはずである。
故に、空母棲姫IIは瞬時にイロハ級を嗾けた。大発動艇の動きなど、艦娘と真正面からやり合うよりも確実に狙いやすいと判断して。レ級やネ級改の火力ならば、掠めただけでも木っ端微塵になるはずだと高を括って。
だが、これもまたあちらに無い情報が火を噴く。無限に対空砲火が行える秋月、どんな能力でもコピー出来るフレッチャーに続き、ここには一定の範囲にいる仲間を凶弾から守る者が存在する。
「清霜さん、相乗りさせてくださいね」
「はーい!」
砲撃が放たれるところで清霜が大発動艇のスピードを一気に落とす。それと同時に、妙高が駆け出し、砲撃を視界に入れながらも大発動艇に飛び乗った。
その時点でジャミングが発動。砲撃はことごとく外れ、清霜の駆る大発動艇は無傷を貫いた。
「さぁ、好き勝手暴れ回ってくれて大丈夫ですよ。この大発も、主任と明石さんの技術の結晶なのでしょう?」
「うん! 戦艦清霜のために開発してくれた、とりあえずは試作品みたいなものではあるけど、シミュレーションも重ねて大丈夫だって太鼓判押されてる改造兵装! その名もぉ──」
妙高のジャミングによって安全が保証されたことにより、清霜は敵陣のど真ん中に腰を据えて真正面の敵に照準を合わせる。そこにいるのは、1体目のレ級。戦艦相応の装甲に加え、小柄なせいで素早ささえ持ち合わせているため、駆逐艦では傷を負わせるのにも一苦労させられる難敵なのだが、今の清霜には関係ない。
何故なら、今の清霜がやれることはほとんどレ級と同じなのだ。大発動艇という本来ならば枷になるような兵装ではあるが、駆逐艦としての性能──魚雷と対空と、戦艦の火力を持ち合わせた艦娘では再現が難しい超兵器。
「戦装大発!」
仰々しく名乗り、そして砲撃が放たれた。搭載された主砲は、よりによって最大級である51cm連装砲。長門ですらコントロールに慣れが必要なその主砲を、駆逐艦が取り扱うのだ。普通なら撃った時点で反動によって転覆、良くても大きな揺れによってその場で止まっていられないくらいだろうが、清霜が操る戦装大発は一味も二味も違った。
戦艦型の艦娘が同じ衝撃を脚2本で支えられるためのシステムが大発動艇側にも組み込まれており、そこからまずバランスの調整がキチンと出来ている状態。とはいえ、人型と違って大発動艇には
戦艦より戦艦を識る者として、砲撃の反動に対してどのようにバランスを取ればいいか、大発動艇に搭載されているならどうコントロールすればその場から動かずに全てをこなすことが出来るかを意識して、時には無意識に蓄積された知識から引き出して、完璧にこなしてしまう。
結果として、この装備は清霜にしかコントロール出来ない専用装備として成立した、完全な特殊兵装と化した。他に大発動艇が扱える艦娘であっても、まともに運用出来ないピーキーすぎる代物である。
放たれた砲撃は真っ直ぐレ級に向かって飛んでいき、そのまま着弾。並の火力では無いため、直撃を喰らったらいくらレ級であってもひとたまりもない。
そしてその程度では砲撃の威力は衰えず、レ級だけでなく周囲のナ級までもを複数体薙ぎ倒していった。
「くぅーっ! これが戦艦の砲撃! 私は今、戦艦として戦場に立ってる!」
自分の放った火力に感動しながら、次弾装填。今ならば無防備であっても妙高のジャミングにより守られている状態。余裕を持って戦える。
戦装大発は清霜が命名。『戦』艦になれる『装』備ということで戦装としたようだが、開発者たる主任や明石的には、武装大発は自衛のための武装だがこちらは自ら戦いに赴くための武装であるため、自ら『戦』場に赴く『装』備という意味でもその名を採用している。
「まだまだ行くぞー!」
「清霜、せっかくだ。私と共に」
「一斉射! やりまーす!」
この勢いを見たことで空母棲姫IIはギョッとしていた。量産型とはいえ精鋭であるレ級がいとも簡単に粉々にされ、それだけでなく周囲の仲間達すらも吹き飛ばされている。
それもこれも、こちら側にすら海域特効が乗っているから。吹雪が清霜のことを認識しておらずとも、深雪の仲間であると
そんなことはわからなくても、今は目の前の敵をどうにかすることに専念する。そのため、長門は自らの必殺技と言ってもいい一斉射に清霜を誘った。
長門の持つその力は、戦艦2人による同時砲撃、しかも大火力を惜しみなく使う一斉掃射。1人では隙間が出来てしまうが、2人ならばまさに一掃出来るだけの威力が可能。
本来ならば駆逐艦と共にそれを実行することは不可能。だが、今の清霜は戦装大発により擬似戦艦となっているため、条件を満たすに至った。
「戦艦の醍醐味! 長門さんとの一斉射なんて、夢みたい!」
「ああ、今はその力を有意義に使おうじゃないか。清霜、準備はいいな?」
「勿論! 合わせます!」
だが、それをしようとするならば当然空母棲姫IIが黙っちゃいない。清霜だけでもあの火力を発揮したというのに、本家本元の長門まで同じようにされたら堪ったモノではない。
そのため、自らの艦載機をうみどりではなく目の前の戦艦
しかし、空母棲姫IIはまだその力をハッキリと理解していなかった。何故仲間達の砲撃が清霜に当たらなかったか。そこに不動の状態で、狙いを定めたのに無傷を貫いているのか。
「艦載機であろうと、私の視界の中では好き勝手させません」
妙高のジャミングは、これまででも特に冴えていた。範囲は狭くとも、戦装大発を覆うくらいの範囲は余裕である。隣に立つ長門まで覆い尽くすことも今なら可能。一斉射の邪魔は、妙高の目によって全て封じられる。
艦載機が飛ぼうが、何をしようが、視界の端にさえ入ってしまえばその攻撃は外れる。射撃であっても爆撃であっても、本体による突撃であっても、一切の取りこぼしなく、全てが擦り傷にもならない。
「行くぞ! 主砲一斉射!」
「てぇーっ!」
そうこうしている内に準備が整い、長門と清霜による一斉射が放たれた。前方の視界に入る敵を薙ぎ倒す、圧倒的な火力の壁。
空母棲姫IIもコレにはまずいと思ったか、すぐさま強固な装甲を持つイロハ級、盾持ちのル級などを、自分と新量産空母棲姫だけは守るように配置した。当然回避も忘れない。
「逃がさん!」
「薙ぎ払うよーっ!」
それを見逃さない長門と清霜ではない。本来の狙いは空母棲姫IIなのだ。視界に入るうちは常にそちらに向けて撃ち続ける。
盾にされたイロハ級は次々と木っ端微塵になり、その海は黒く染まっていく。後からここの後始末もせねばならないことは、今は考えないようにしていた。そもそもここで敵を始末すること自体が、後始末作業の第一歩。穢れをこれ以上生み出されないために、その根本を断ち切る。艦載機と同様だ。
「このっ……調子に、乗るなぁ!」
しかし、空母棲姫IIも伊達にここにいるカテゴリーYではない。イロハ級の盾だけでは身を守ることすら難しいと判断したか、攻撃に出していた艦載機を自分の近くまで戻すことで、今度はそれを壁のように密集させて盾にした。何層にも何重にも重ね合わせることで、砲撃を限界まで食い止めようという企て。
事実、盾となったイロハ級により威力が減らされていた砲撃は、艦載機の盾を何層も突き破るものの、空母棲姫IIにまではギリギリ至らず。
「清霜、一度止めるぞ。この場で弾切れまで撃ち尽くすのは控えるべきだ」
「りょーかいです!」
ここで長門は一度一斉射を止める。撃ち続けるのも弾の無駄であり、後々に支障をきたしかねない。このままではおそらく空母棲姫IIの艦載機の盾も貫けるかわからないのだ。
戦艦の、しかも一斉射の火力を以てしても本体を無傷のままに出来る艦載機には、何か仕掛けがあるとしか思えない。それこそ、『装甲』の曲解のような傷付かない仕掛けなどが。
「やってくれる……なんという火力なんだ。駆逐艦のくせに」
「私はもう駆逐艦じゃなーい! 戦艦清霜だー!」
大見得を切る清霜に、長門も妙高も苦笑。だが、それだけの働きをしていることも確かである。
「戦艦かどうかは知らないけど、私はそれだけじゃ終わらない! 特異点の仲間は、ここで始末する!」
あれだけ盾に使っていたのに、まだまだ発艦する艦載機。これまでは自分の艦載機もうみどり強襲に使っていたようだが、眼前の敵をどうにかするために全て自分の近くに呼び寄せたようである。
とはいえ、あまりにも数が多すぎる。どれだけ破壊しても数が減らないまである。
これが空母棲姫IIの能力。『搭載』の曲解。艦載機搭載数限界まで常に艦載機が補充され続ける力。謂わば、秋月の持つ『連射』の曲解の空母バージョン。これがあるため、盾が破壊されると同時に新たな艦載機が発艦して盾になるを繰り返していた。そのせいで一斉射であっても突破出来なかったのだ。
この能力を乗り越えない限り、敵空母隊はうみどりへの攻撃を止めることはない。まずは空母棲姫IIを斃すことが先決である。