空母棲姫IIとの戦いは進み、那珂と舞風による妙高のジャミングを活かした接近戦が開始された。
敵艦載機は攻撃をする時は防御才能が格段に落ちるという性質を利用し、真正面から突撃することで攻撃を誘導しつつも、妙高のジャミングによりその攻撃は全て外れ、砲撃などを防御させるまでもなく手が届くところにまで接近。そして、那珂と舞風による踊るような蹴りによって艦載機が粉砕された。
敵の攻撃が飛び交うこの戦場で、当たらないとはいえ真正面から突撃するというのは非常に勇気がいる行動。それなのに、那珂と舞風は一切の躊躇なくそれをこなしてしまっている。
上手く行ったことに安堵しつつも、この2人のその度胸に驚いている。立案したものの、容認してもらえるとは思っていなかったくらいであった。
「さぁさぁ、次も行くよーっ」
「ダンスはもっと速く激しくなっていくからね!」
などと言いながら舞う2人は、ここまで来ると艦載機すら無視して本体へと一気に接近を狙う。那珂は振り付け、舞風はダンスと称して、今度は艦載機ではなくこじ開けた本体に狙いを定めていた。
2人はそれこそライブに参加しているかのように笑顔を絶やさない。主演の
しかし、それは逆にカチンと来ることもある。空母棲姫IIは、それを
「私を、素手で斃そうとでもいうのか!?」
「うーん、ちょっと違うかな。那珂ちゃん達のパフォーマンスを身近で知ってほしいってだけだよ」
「そうそう! たまたまそこに艦載機があるだけだよ!」
攻撃をしてもしても当たらない。まるで艦載機が空母棲姫IIの意思を離れてしまっているみたいだった。その上で、那珂も舞風も踊るようなステップを踏みながら、攻撃を仕掛けてくる艦載機に対して攻撃をお見舞いしていく。
どれだけ近付いてもジャミングのおかげで傷一つ負うことがなく、蹴りを入れた艦載機は、ついさっきまで攻撃を繰り出してきていたモノであるために粉砕。足に対して撃てばと考えたのに、艦載機そのモノが
「そーれっ、ワン、ツー!」
特に激しく動いているのは舞風である。那珂もアイドルとして鍛えられているが、舞風は踊るという行為で常日頃から筋トレし続けているような状態。それが功を奏したか、舞風の行動は力強く、それでいて速い。那珂が1つの艦載機を破壊する間に、舞風は3つ4つと蹴り壊す程なのだから相当である。
「ちっ……攻撃は止める!」
一度攻撃をやめて、状況の立て直しを図ろうとする空母棲姫II。攻撃するから正面突破されるのだと薄々勘付いたか、攻撃そのものをしない選択をした。そもそもが防御しながら消耗を誘う戦い方をしていたのだから、攻撃しないという選択も取るのは当然と言えることだった。
そうなると艦載機の強度は一気に上がり、蹴りでは破壊出来ない程にまで上昇。空母棲姫IIを守るために集結し、その姿が見えなくなるくらいにまで敷き詰められる。
だが、空母棲姫IIはそれでも嫌な予感はしていた。
「そちらに集中しすぎると、こちらが足りなくなるぞ」
「そうそう、私達のこと、忘れないでよね!」
そう、戦っているのはアイドルとダンサーだけではない。ここには、
接近戦を仕掛けてきた2人に集中すれば、遠距離からの大火力が疎かになる。少しでも壁が薄くなれば、戦艦の火力で壁を貫くことが出来る。本体にも影響を与えることも可能になる。いくら強固な障壁であっても、何度も撃たれれば、そしてその壁自体が薄ければ、その衝撃だけは壁を貫く。
「バックダンサーの見せ場も必要だからね♪」
当然、近過ぎれば那珂や舞風にも影響を与えてしまうだろう。故に、砲撃を放つ瞬間、2人は咄嗟に息の合ったバックステップを見せながら爆発に巻き込まれないように撤退。
だが、ただ退くだけではない。接近戦が仕掛けられるくらいに近付いた状態であるにもかかわらず、2人揃って魚雷を放っていた。勿論それは、それだけ至近距離だとしても障壁を潜らせるように海中へ。
「そんなもの!」
魚雷だけはまずいと感じているのか、障壁の一部の艦載機が魚雷をすぐさま破壊。戦艦からの砲撃もシャットアウト。同時に凄まじい爆発が発生するものの、直接的なダメージはしっかりと防いでいる。
とはいえ、魚雷を破壊するために攻撃に転じたことで、防御性能が落ちた艦載機は、全ての爆発の影響で破壊される。それでも層を厚くすることでダメージは無効。多少火傷レベルのダメージを受けたところで、自己修復によって回復してしまう。
「まだまだだよ! 次のナンバーはぁ!」
「もっと激しく、もっと速く!」
それで挫けるような者はここにはいない。止められようが跳ね返されようが関係ない。防御を固めるならば、
ここで素早く行動を起こした那珂と舞風は、撃たれても問題ないことをいいことに、
壁はあくまでも壁だ。ここには空母がいないため、上からの攻撃は全く考えていない。水上機母艦である三隈も、今は砲撃をメインにした装備配置。ここまで水上機を出していないのだから、真上を気にすることなんてない。
「ステージから跳ぶパフォーマンス、ちょっと怖いかなって思ってたけど、こんな景色なら取り入れてもいいかも☆ ファンもいっぱい見えるのは、すっごく気分がいいしね♪」
艦載機すらファンと言い切った那珂は、真上、空母棲姫IIをその壁越しに目視出来た。壁を越えた。
そして、その頭を狙って主砲を構える。ニッコリ笑って、ポーズまで決めて。
空母棲姫IIは、こういった想定外には非常に弱かった。明らかな動揺が見えた。那珂相手の感想はたった1つ、
そもそも近接戦闘を仕掛けてくること自体がおかしな話。海戦で、砲雷撃戦と航空戦が当たり前であり絶対、かつ変えられない真理みたいなもの。故に強固な壁は絶対有利な対策だったはずなのに、それをこんな無茶苦茶な手段で乗り越えようとしてくる。
「やら、せるかぁ!」
だからここで、空母棲姫IIは一皮剥けた。想定外を想定内にするために、より自分を強く守るために、自分の周囲を全て囲うように、ドーム状に艦載機を配置。まだやられていないが、裏に回り込まれた時のことまで考えて、背後すら守るように壁を作り、そしてそれをさらに高速で動かすことでより強力な障壁とする。
跳んでいる那珂では、この障壁を突破することは不可能。撃っても弾かれる。触れても弾き飛ばされるだろう。火力があっても、遠心力まで加わった障壁は、戦艦主砲すら弾き飛ばしてしまうだろう。
「わぁ、これは無理だぁ」
軽く言いながらも、上からやるのは砲撃ではなく雷撃。どれだけ強力な壁となっていたとしても、魚雷ならば突破出来る可能性を考えた。
だが、案の定魚雷も高速回転する障壁には手も足も出ず、壁に触れた瞬間にすり潰されて爆発。その爆風によって、跳んでいた那珂は少し飛ばされた。
それはそれで狙い通り。そのまま落ちたら、今の魚雷と同じように那珂自身がすり潰されていた可能性がある。咄嗟に放ったとはいえ、功を奏した結果となった。
そして空母棲姫IIは考える。砲撃も魚雷も近接戦闘も通用しない今の状態を維持し、直接身体をぶつけに行った方が強いのではないかと。守りながらの攻撃、攻防一体の戦い方。
2人の敵から学んだ、近接戦闘という選択肢。気が狂っていると驚いたものの、その実用性を自分でも見出だしたことで、それを活かそうと考えた。機転を利かせることが出来るのは長所である。
しかし──それを読めない軍師では無い。
「目の前の脅威に対応する力、先を見据えた背面への防御、回転力を加えた障壁の更なる強化……考え得ることは全てやりましたが、それは結局目の前しか見えていない証拠です。やはりあくまでも私達と同じ人間。器用さが並なんですから、それをしたら今まで出来ていたことも出来なくなるでしょう」
那珂と舞風の接近戦に思考が引っ張られて、障壁をより厚くするのは良かった。攻撃時に脆くなるという弱点も、そもそも攻撃せずにそれそのものを攻撃に転化させてしまえばいいと考えるのも悪いことではない。
だが、空母棲姫IIは結局のところ人間の域を脱していない。艦娘のように勉強もトレーニングもしていない、改造によって力を得ただけの一般人なのだ。その力に胡座をかいているわけではなくても、こと戦場においては
目先の脅威に囚われて、本当の脅威に思考がついて行かなくなっていた。長門と清霜の砲撃でも、那珂と舞風の接近戦でもない。ましてや妙高のジャミングでもない。
本当に注意しなくてはいけないのは、この戦況を、常に見続け隙を探っていた者。そしてその者は、つい最近新たな力を得ている。
「それだけ回していれば、視界の確保は難しいでしょうね。でも、魚雷は撃ち抜こうと考えるのでしょう。だから、魚雷は使いません。三隈に与えられたのは……魚雷ではなく、甲標的ですから」
障壁を高速で動かすことで隠れた視界。爆発と爆風で更に見えにくくなった戦場の奥。三隈はこのタイミングを見計らって、甲標的を既に発進させていた。見えないであろう時に。
選ばれし者に与えられる、小型潜水艇、甲標的。魚雷を自ら放つのではなく、妖精さんが操縦する潜水艇から放つという、いわば海中に発艦する艦載機みたいなモノ。それは放つ瞬間さえ見せなければ、確実に虚をつくことが出来る一撃。
三隈の発進させた甲標的は、既に空母棲姫IIの足下まで移動していた。障壁は無い。射撃もない。ドーム状に配置したところで、海中には何も対策が無い。そもそも正規空母である空母棲姫IIに、海中をどうにかする術など存在しない。
「観察からよくわかりました。貴女は力はあれど、器用ではない。そして、艦娘に対しての知識も足りない、ただの人です。妙高さんもそれに気付いてくれました。だから、戦艦の砲撃と同時に、意思を逸らす接近までさせてくれた。壁を厚くさせ、視界も狭くした。全て、三隈に目を向けさせないため。三隈の持つ、甲標的1本のためですね」
「壁が海中に作れないことは一目瞭然でした。だから魚雷は射撃で破壊する。私のジャミングで射撃が無謀であることを刷り込み、那珂ちゃん達の近接戦闘で自分にもそれが出来ると教え、誘導した。見事に乗ってくれましたね。では、三隈さんの甲標的からの一撃、しかと味わってください」
海中、真下から放たれる潜水艇の魚雷は、そのまま真上に向かって突き進み、そして空母棲姫IIの足下で爆発。艤装にも本体にも、明確なダメージを与えることに成功した。