後始末屋の特異点   作:緋寺

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ステージに立つ覚悟

 妙高と三隈、2人の軍師による作戦が決まり、空母棲姫IIは三隈が発進させた甲標的の餌食となり、足下から爆発。本体にも艤装にも明確にダメージを与えることに成功した。

 

「っあぁあああっ!?」

 

 ここに来るまで、特異点の始末に駆り出されるまで、実戦経験なんて無かったであろう空母棲姫IIは、おそらくコレが初めての重傷。自己修復があり、徐々にダメージは回復していくとはいえ、痛みが無いわけがない。何せ、魚雷が直撃しているのだ。痛々しく両脚を失いかけ、ズタズタになりながらも黒い血で海を染めていた。

 痛覚までシャットアウト出来ているのならば、もっと無謀に行動を起こしているだろう。しかし、戦闘中の言動からして、艦娘ほど体は鍛えられていない()()()である。圧倒的な攻防一体の力をある程度扱えるようにはされていたのだろうが、経験値だけは絶対的に追いつくことは出来ない。素体が本当に天才だったとしても、戦闘経験が無いなら意味がない。

 

「一手。では次をやりましょうか。今なら艦載機も脆いはずですから」

 

 本体よりも、見ているところは艤装。妙高はすぐに戦艦2人に合図を送る。そして、戦艦主砲が放たれると、周囲を回っていたドーム状の障壁が吹き飛ばされる。先程までの強度が嘘みたいになっていた。

 まだ半端、かつ自己修復が続いているところに、外からの衝撃が入れば、これまでの性能など十全に発揮出来るわけがない。その衝撃も本体に伝わり、自己修復に影響を与えるほどに。

 

「舞風ちゃん! 今回のステージはそろそろ締めだよ!」

「最後まで気を抜かずにやらなくちゃね!」

 

 そして、再び息の合った2人、那珂と舞風の接近戦。脆くなった艦載機を踊りながら破壊していく。

 

 それを止めようと守るように意識するものの、艤装の破壊が致命的な影響を与えており、艦載機の動きがかなりぎこちない。

 これまでの規則正しく動き回る障壁は、どうにか壁を形成するかという程度になっており、攻撃時の脆さにまで落ちてしまっているのだから、壁にすらなっていない。戦艦の砲撃を意識してしまっているのだから尚更である。

 

「さぁ、これが最後のファンサービス!」

「しっかり受け取ってよね、お客さん!」

 

 障壁を乗り越え、ついには空母棲姫IIに手が届く場所に。攻撃をしようとしても、妙高のジャミングが効果を発揮し続けているため、撃ったところで見当違いの場所に飛ぶだけ。

 ここまで来ると、空母棲姫IIにも恐怖が芽生える。高次の存在となったのに、今手が届きそうな道の終着点は、間違いなく死である。

 

「や、やめ……」

 

 脚が傷付いた痛みに苦しみ、背後まで近付いた死神の恐怖に恐れ慄き、あからさまな表情を浮かべていた。死にたくないという気持ちをありありと表したそれは、那珂と舞風の攻撃を止めさせるには充分だった。

 

「それじゃあ那珂ちゃんから1つ質問! アイドルに質問コーナーとかあるけど、アイドルからの質問コーナーはなかなか無いよね。斬新かな、かな」

「ファンが多いとコーナー自体難しそうだけど。握手会の時にやってみるとか?」

「あ、それいいね! 考えておこう♪」

 

 目の前に傷付いた者がいても、アイドルとダンサーはノリを変えることは無かった。しかし攻撃してこないということは、やめてほしいという意思を見せれば、それに応えてくれるということかと、空母棲姫IIは逆に驚く。

 だが、その表情は別の理由で歪むことになる。

 

「おんなじことをして、特異点(深雪ちゃん)がやめてって言った時、貴女はどうしますか?」

 

 何処からか取り出したマイク型探照灯を空母棲姫IIに突きつけて回答を待つ。ニコニコしながら、しかしその目は一切笑っていなかった。回答は聞くまでも無かったから。

 恐怖から口をパクパクさせるだけで終わってしまう空母棲姫II。彼女の考えは非常にわかりやすい。特異点相手ならば何を言っても容赦しない。そこで逃がしてしまったら、後に確実に平和を破壊する魔王へと進化してしまうから。だから、今はまだ害が無くても、今のうちに後顧の憂いを絶つ。

 

「目は口ほどに物を言うってよく言うよね。口に出さなくてもわかっちゃった。ね、舞風ちゃん」

「うん、特異点には何してもいいけど自分は見逃せって感じの顔をしてるね」

「だね。もしかして、ステージに立つ覚悟が無い人だったのかな」

 

 質問はしたが、その答えを受ける前に結論付けた。空母棲姫IIも言うまでもなく敵側の思想に染まっている。特異点はサンドバッグにしてもいいが、自分達は平和の使者なのだから反発は許さないという、非常に自分勝手な考え方を隠すこともない。

 

「最後にちゃんと答えてほしいな。今からでもいい。深雪ちゃんの生き様、こちら側で見てみるなんてどうかな」

 

 最後に情けを見せるのが那珂である。ここまでしていても、命を奪わなくて済むならばその選択をする。駆逐水鬼の時もそうだった。

 あの時は、駆逐水鬼の信念が変わることなく命を奪うことになった。それでも、最期は那珂のファンとなり、しかしもう道が交わることは無いと悟り、()()()()()()ようなものである。

 この空母棲姫IIはどうなるか……いや、考える意味など無かったのだろう。最後の慈悲は、空母棲姫IIには全く意味の無いものだったのだから。

 

「特異点の生き様なんて……見る価値も」

「はい、ありがとうございましたー! 予想通りの回答、面白みも何にもなかったよ」

 

 那珂の砲撃が、空母棲姫IIの両腕を捥ぎ取った。

 

「っぎ、ぎぃいいいっ!?」

「深雪ちゃんは特異点かもしれないけど、今を生きてるんだよね。それをさ、そんな自分勝手な理由で奪おうなんて、おかしいと思わないかな」

 

 修復しかけていた両脚をもう一度撃ち抜くことで、本当に再起不能の状態に。自己修復があるせいで余計に苦しむ羽目になり、痛いのに死なない苦行になる。

 

 さらには、空母棲姫IIの艤装も爆発した。那珂が質問コーナーという名の尋問をしている間に、長門と清霜が砲撃によって破壊していたのだ。艦載機も殆ど力を発揮しない状況、強力な火力を誇る砲撃は、艤装にまで完璧に届いている。

 その時、チラリと見えたのが深海忌雷。艤装内部に仕込まれていたようだが、この砲撃によってそれも木っ端微塵に。これによって、空母棲姫IIは対抗策を完全に失った。

 

 空母棲姫IIはもう、死に向かって歩く以外にすることは無くなった。

 

「後から悪になるなんて、未来が見えるわけないでしょ。根拠もなく、人のこと悪者扱いしちゃダメだよ。それが一番悪いことだからね。それもわからないくらいにされてるなら悲しいことだけれど」

 

 もう動けないこともわかり、那珂と舞風は一礼してそこから離れた。最後、そのステージの中央に置かれた、達磨状態の空母棲姫IIは、自分に向けられる主砲を目に焼き付けることになった。

 もう那珂と舞風は空母棲姫IIに視線すら向けない。背を向け、さよならとも言わずに離れた。その瞬間、長門と清霜の砲撃が空母棲姫IIを呑み込み、この世界から完全に退場させた。

 

 

 

 

「これでひとまず空母が減りました。うみどり側への負担をもう少し減らしたいところですが、またイロハ級が増えてきていますね」

 

 空母棲姫IIと戦っている間に、長門と清霜の一斉射でかなり減らしたはずのイロハ級がまた増えてきている。相変わらず上位個体がそのまま量産され続けているため、それをどうにかするにも一苦労。

 また数を減らすために一斉射の準備をしている戦艦2人だが、あの大技は残弾数を著しく消耗する技。既に一度使っているので、出来ることなら補給をしてからの方がいい。

 

「長門さん、清霜さん、一度うみどりに戻り、補給をお願いします。少し戦線が下がりますが、確実に進めるためには今ここで補給するべきです」

「すまん、そうさせてもらう。清霜、次の一斉射のために一度下がるぞ」

「りょーかいです! 武蔵さんも補給は大事って言ってたし、ちゃんと戦うためには引き際も大切だって」

 

 妙高の指示に従い、長門と清霜は一時撤退。補給をしてからすぐに戦線に戻ることを約束し、動けるうちに大急ぎでうみどりに戻る。

 だが、それを邪魔するかのようにイロハ級の群れが向かってくる。空母棲姫IIが元々()()()場所も踏みつけるように進軍してきて、ここから逃がさないと言わんばかりに砲撃も放つ。

 

「ちっ、そう簡単に行かせてはくれないか。ギリギリだがどうせ補給に戻るんだ。清霜、一旦撃ち尽くしてしまっても構わん!」

「それしかないよね! それじゃあ、行くぞーっ!」

 

 残弾0になるまで撃ち尽くす覚悟で構える長門と清霜。その撤退を手助けするように、妙高達も砲撃を繰り出す。

 

 だが、ここで流れを変えることが起きる。それは、妙高達の戦場では無い、先陣を切っていた深雪達の戦場。

 

 

 

 

「私は真実に気付いた! 正義は、平和は、お前達には無い! 特異点こそ尊ぶべき存在! 根拠もない悪意を振りまく輩は、ここに居場所などない!」

 

 

 

 

 その高らかな宣言が戦場に響き渡り、同時に放たれた砲撃がイロハ級を次から次へと薙ぎ倒していく。脅威と思われていたイロハ級の中でも上位の個体であろうが、お構い無しに木っ端微塵に粉砕していくそれは、うみどりにいる者では再現不可能な超火力。深雪の消し飛ばす砲撃とも質が違う、ただただ大きな火力による圧倒的な破壊。

 

「うわっ、あれ、近代化戦艦棲姫だ!」

 

 戦艦に詳しい清霜が、その砲撃を放った者を見て少々興奮していた。敵であっても学び続けたことで、あの戦力が今この場で自分達の味方になってくれたことに喜びが隠せていない。

 

「おそらく、深雪達が説得に成功したか何かなのだろう。本来の近代化戦艦棲姫とは、些か姿が違うように見えるが」

「忌雷か何かの影響でしょうか。確かに黒いですが……ん、んん?」

 

 そんな近代化戦艦棲姫の近くに、明らかに見覚えのない存在がいることに気付いた。それが目に入った時、妙高ですら妙な声を上げてしまった。

 

 見た目に関しては戦艦に近い姿。しかし、どう見ても艦種が判別出来ない謎の存在。それは深海棲艦ではあるのだが、記憶にあるどの個体とも一致しない。

 だが、周りの状況とその面影から、考えられることはただ1つである。電や白雲がそこにいるのに、一番重要な存在の姿がそこにいないのだから。

 

「え、あれ、深雪さん……ですか?」

 

 深海棲艦化していても、顔に面影は残っている。深雪が人間としてそのまま成長したらああなるのではないかと思えるような目鼻立ち。やけに良くなっているスタイルは置いておいたとしても、その服装からも私服の深雪を連想させるものがあった。

 

「えーっ、すごいイケメンだよ!?」

「脚長っ、すごく踊れそう!」

「戦艦と同じくらいの身体だぁ!」

 

 三者三様の反応を見せるものの、否定的な意見は1つも出ないのがうみどりメンバーである。

 

「ひ、ひとまず一度合流した方が良さそうですね。次の標的は数が多いのですから」

 

 妙高はどうにかして落ち着き、次の戦いに向けて気持ちを切り替える。深雪については後からちゃんと聞くとして、それよりもやらねばならないことがあるのだから。

 

 

 

 

 空母棲姫IIはこれで終了。次の戦いは新量産空母棲姫を守るように移動している埋護姉妹。

 

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