空母棲姫IIを撃破し、同時に近代化戦艦棲姫が叛旗を翻した。そのおかげで、敵の強力な戦力、カテゴリーYは2人いなくなり、仲間として1人迎え入れることが出来ている。
その近代化戦艦棲姫の砲撃によって、量産され続けるイロハ級が一気に薙ぎ倒されていき、群れの一部は完全に開ける程。深雪の扱う消し飛ばす砲撃とは違う、純粋に力だけで巻き起こした大破壊。それは、黒く塗り潰された場所に白いペンキで一直線を描き殴ったかのような威力であった。
その砲撃は、1発だけでは終わらない。連射というほど速くなくても、即座に再装填され、狙いをまともに定めるまでもなく発射。比較的群れているような場所を適当に撃つだけでも、その威力のせいで敵は勝手に消えていく。掠っただけでも重傷で、直撃すれば残骸すら殆ど残らない。
「さっきも言ったけれど、撃つたびに震えるのはやめてくれないかい。それに、ちょいちょい声も漏れてるよ」
「そ、そう言われてもだな、そうなってしまうのは仕方ないだろう」
時雨が近代化戦艦棲姫を呆れたような視線で見るが、当人は恥ずかしがりながらも仕方ないだろと反論。忌雷に寄生されているせいで、グレカーレと同様の超敏感肌になってしまっている大きな欠点が、こういう時に嫌というほど現れてしまう。
グレカーレ自身はもう慣れているので、こういう場では声を上げるどころか表情も変えないが、今この場でその身体になってしまった近代化戦艦棲姫には、そんな簡単に我慢が出来るわけがない。
「ふぅ……っ」
「そういうのだよ、そういうの。敵を減らしてくれるのはありがたいけどさ」
砲撃を放つ。そして、息を漏らす。これの繰り返し。もうこれは仕方ないことだとして諦めるしかなかった。グレカーレは自分の苦しみを共有出来る相手が出来たからかニコニコである。
「と、とりあえず、だ。次の奴を潰さねぇと」
「それじゃあ、アレになるんじゃないかな」
グレカーレが指を差す方。そこには、イロハ級を量産している新量産空母棲姫の姿があった。周りには全く同じ姿をしたカテゴリーRの量産型がおり、うみどりに向けて艦載機を飛ばし続けていた。
周囲にはイロハ級。そのオリジナルを侍らせ、片方の触手を突き刺せば、もう片方の触手から生成されて生み出される。生まれる速度もそれなりに速く、こうしている間にも次々と強力な深海棲艦が造られ続けている。
「船渠もいるけど、あっちも厄介でしょ」
グレカーレが言う通り、この戦場には船渠棲姫が4体もいる。その4体も現在、延々と建造を続けており、近代化戦艦棲姫の砲撃で木っ端微塵にされた深海棲艦の残骸を使って、既に新たな深海棲艦を生み出した後。どれだけやっても数がなかなか減らないのはこのせい。
故に、今もまた部隊を2つに分けている。新量産空母棲姫に向かう部隊と、船渠棲姫に向かう部隊。そして、船渠棲姫に向かっている中に、やはりというか、神風の姿が見えた。
「神風!」
「ん、深雪ね。こっちは私達が向かうわ。イロハ級が邪魔だからまずは退かしてから……だけど……」
神風は夕立、Z1、梅を連れて向かっている最中。船渠棲姫にはいい思い出が無いため、真っ先に狙いに行こうとしている。一応の温存のために、いつもの刀だけでなく、艦娘らしく主砲なども装備して長期戦の構えで。その準備に少しだけ時間がかかってしまった様子。
だが、通り過ぎようとしたところで深雪の姿を見て、目を見開いた後、近くにいる吹雪の姿も見たことで一応の納得。特異点というのは
「す、少し見ない間に、見違えたわね……」
「おう、これに関しては後から話す。どんな姿になっても、あたしはあたしだ」
「そうね、それが深雪だものね。……独り立ちする娘ってこんな感じなのかしら……」
最後の方は小声だったため、誰にも届くことはなかった。
深雪の変わりようは驚きにしかならず、他の仲間達も目を丸くしていた。特に夕立は、この深雪との演習を思い描いているようで、好戦的な雰囲気がより強くなっているようにすら感じた。
「お姉様、白雲は神風様と共に行こうと思います。あちらの敵軍勢の数も相当なモノ。頭数は多ければ多いに越したことが無いかと思います故」
「だね。あたしもカミカゼに便乗するよ。あたしが始末したいのは、あっちにいるからね」
ここで白雲とグレカーレが深雪と部隊を分かれることを選択。神風達の人数が少々少ないというのもあるが、そこに神風──
さらに言えば、グレカーレには船渠棲姫という存在に因縁がある。前回もそうだが、自分の姉妹の魂が使われているのだ。グレカーレの隠し持つ怒りの憎しみの明確な対象。ここで戦わずして、いつ戦うのか。
「了解だ。でも、その前に補給だけは受けた方がいいかもしれねぇ。時雨は一旦戻るんだろ?」
「ああ、そうさせてもらうよ。さっきからずっと撃たされたからね。頑丈すぎて傷一つついてないけど、僕の弾はそこそこギリギリだ」
嫌味のように近代化戦艦棲姫に言う時雨に、本人は面目無いと苦笑。ここで参戦した近代化戦艦棲姫に対して、神風は少々値踏みするような視線を向けてから、よしと頷く。
「貴女もこちらに来てもらえるかしら。こちらは敵の数が多いから戦艦の手が欲しいわ」
「わかった、私も手伝おう。いくらでも使ってほしい」
「あら頼もしいこと。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうわね」
近代化戦艦棲姫としては、こんな簡単に受け入れられたことの方が驚きなのだが、それは表に出すことはしなかった。今はそれどころではなく、ここでの戦闘をどうにかしないといけない。事情は後から聞くからと神風も今は置いておいている。
「じゃあ、ここからは別行動だ。あたしと電と吹雪であっち、量産してるヤツを叩く。あっちにゃ長門さん達もいるからな。合流してからだ」
「白雲はグレ様と近代化戦艦棲姫様と共に神風様の戦力となります。あちらは姫4人……苦戦は免れぬことでしょう」
「こっちが早く終わったら合流する。そっちも頼むぜ」
「ええ、勿論。競争ってわけじゃないから、気を急かさないこと。いいわね?」
「おうよ。焦って全力出せねぇ方が勝てねぇからな。補給が必要なら一度戻るまであるからさ」
その辺りがちゃんと理解出来ているなら大丈夫だと頷き、すぐにでも行動を起こす。船渠棲姫の方は、新量産空母棲姫の方よりも敵が増えるスピードが速い。すぐにでも行かなければ、近代化戦艦棲姫が殲滅した敵が元通りどころかより多くなってしまいかねない。
「僕は補給を済ませたら、戦況が芳しくない方に増援に向かおうか」
「だな。そこの判断は任せていいか」
「ぱっと見で決めさせてもらうよ。今はどちらが厳しいかがわからないからね」
時雨はいち早く離脱。補給をしてすぐに戻る約束をした。それを見送ると、こちらもすぐに部隊を分断。深雪達は新量産空母棲姫をどうにかするために動き出す。
「っし、行くぜ、電、吹雪」
「なのです! あちらを止めれば、航空戦も楽になるはずなのです!」
「そうだね。うみどり、今戦力が大分あちらに割かれてるみたいだから、あっちの空母をどうにか出来れば、もっと戦力が増やせるよ」
特異点3人が固まって動くことになったが、深雪と電はセットみたいなモノ。そして吹雪は単独行動をしたところで海域全体が見えている上に、行こうと思えばいつでも何処でも行けるため、この部隊がなんだかんだで一番組み合わせは悪くない。
吹雪も今は大人の深海棲艦の姿を取っているため、電だけが少々仲間はずれみたいになってしまっているのだが、それは本人も気にしていない。
「電、あたしはこんな身体になれるようにはなったけど、まだまだ周りを警戒する力とかは足りねぇ。そういうところは、マジで頼りにしてっからさ、頼んだぜ」
「なのです! 背中を預けてほしいのです!」
「いつも通り、な。あたしの背中は基本は電に預けてるよ。これまでも、これからもな」
この深雪にそう言ってもらえるのだ。姿なんて関係ない。今はどうであっても、この絆は切れることはない。
「ふふ、いいねいいね、お姉ちゃんとして、私も鼻が高いよ。電ちゃんがいるから深雪ちゃんはより強く出られるわけだからね。2人はずっとそんな感じで仲良くしててね」
姉というよりは母親みたいな視線の吹雪に苦笑しつつ、当たり前だと2人して返し、今出来る戦いを全力でこなす決意を固めた。
「でも、こっちも一筋縄では行かなそうだね。動いてるよ、あの姉妹」
しかし、特異点3人の行動を妨害するように、新量産空母棲姫を守るために行動を起こしている者がそこにいた。防空埋護姫と防空埋護冬姫の埋護姉妹である。
今この戦場で新量産空母棲姫に最も近付いているのは、この特異点組である。あちらからしてみれば、この戦場での最優先ターゲット。その姿が聞いていた話と違っていたとしても、それが特異点ならば始末しなくてはいけない敵。真っ先に狙いに来るのもわかる。
「それだけアイツが大事ってことかよ」
「なのです……でも、電達だけであの2人をどうにかすることが出来るでしょうか」
「出来るよ。ただ、向こうが何をしてくるかわからない以上、慎重に行かないとね。ほら、いきなり気持ち悪いのを仲間に寄生させたりするくらいだからさ」
言いながら吹雪は艦載機を展開。相手が防空艦であることはわかっているが、牽制のためには最も適した手段。爆撃をするために高く飛ばすわけではなく、それそのものを武器として扱う特殊な戦法を扱うため、艦載機と言うよりは質量兵器である。
そんな吹雪に、深雪は少しだけ待ってくれと制止をかけた。どのような状況であっても、ひとまず対話を試みる。それがうみどりのやり方。話にならなくても、深雪はそのやり方に倣って、まずは埋護姉妹に訴えかける。
「なぁ、戦うのはやめにしないか。お前達はただ駒にされてるだけで騙されてるようなもんなんだぞ」
それは心の底からの訴え。余計な戦いで命が失われるのは、やはり気分のいいことでは無い。それが自分の手で散るのだと思うと尚更だ。絶対勝てると言い切っているわけではなく、互いに傷付くのだって嫌だろうとも。
しかし、埋護姉妹は深雪の発言など聞く耳を持っていない。むしろ、その姿を見て顔を顰める。
「やはり魔王だったか。我々の仲間を誑かし、洗脳まで施すとは、笑止千万!」
「それにその姿……平和を破壊する魔王そのものではありませんか。本性を現しましたね」
「特異点は滅するべき悪だ! 今この戦いで我々の正義が証明された! 仲間を奪い、悪辣な姿を見せたのだからな!」
そんなことを言われたことで、深雪は1つの言葉が頭の中に浮かんだ。だが、浮かんだ時にはそれを吹雪が口にしていた。
「見た目については鏡見た方がいいよ。同じ深海棲艦の姿してるのに、こっちは悪でそっちは正義ってそもそもおかしいでしょ。こちらからしてみれば、そっちが魔王の配下なの。何も無かった綺麗な海を勝手に来て汚して片付けもしない連中の何処が正義なのかな」
吹雪は笑顔を見せながらも苛立ちも隠さない。目の前で
「お前らにとっては、あたしは悪かもしれねぇ。でもな、あたしらにとっては、お前らが悪だ。平和のために海を片付けてるのに、なんでそれをぶち壊されなけりゃならねぇ。吹雪が言う通り、お前ら散らかすだけ散らかして片付けもしねぇだろ。やりたい放題やって、後始末はこっちに任せるとか、何様のつもりだ」
深雪も負けず劣らず口を出す。
「いつもいつも根拠もないのに深雪ちゃんばっかり言われ続けて、電ももう我慢出来ないのです。謝ってほしいのです!」
少し優しめではあるが、電も憤慨。埋護姉妹はそれを受けても怯むことなく、自分の意思を変えることもない。自分達が正義であり、特異点はこの世界に存在してはいけない悪であると、3人を睨み付ける。
「減らず口ばかりだな魔王共! ならばここで、始末してやる。それが我々の目的なのだからな」
「‥……そうかい。じゃあ、かかってこいよ。答えも返せないような奴にゃ、何言ってももう無駄だ。命の奪り合いに持ち込んだのは、あたしじゃなくてお前らなんだからな」
埋護姉妹は折れることはない。ならば、やるべきことはただ一つ。心を折る。