深雪達特異点組の前に立ちはだかるのは埋護姉妹。深雪は社交辞令的に説得を試みるものの、深雪のことを魔王と呼ぶ
埋護姉妹の行動からして、うみどりを今でも攻撃し続ける敵空母隊の新量産空母棲姫が余程大事のように見えた。そうでなければ、ここまですぐに動いてくることはない。
「やっぱ増やせるってのが重要ってことかよ」
「かもしれないのです。いるだけで敵が増えるのは、こっちとしてもかなり厳しいのです」
埋護姉妹の攻撃を回避しながら、敵の行動をある程度は分析する深雪と電。深雪はそういうタイプではないのだが、今この場でそういうことが出来るのはこの2人のみ。吹雪は艦載機を自在に操りながら、埋護姉妹の能力を分析していた。
「防空艦に艦載機は少し相性が悪いかな」
「はっ、貴様も特異点のようだな。まさか増えているとは思わなかったぞ。だが、特異点であるということは貴様も平和への道を破壊する悪なのだろうさ!」
「うわ、深雪ちゃんだけじゃなく私にもそんなこと言ってくるんだ。本当に初対面なのに、お互い何も知らないのに、勝手に悪人にされたんだけど」
呆れ顔の吹雪だが、あちらは特異点という存在が平和を破壊する悪であると信じて疑わない。深雪のことを魔王と呼ぶが、増えた特異点も同様の扱いをするようである。それが初対面であっても。
埋護姉妹は、特に防空埋護冬姫の方が喧しく罵り続けるタイプ。防空埋護姫は静かに砲撃を繰り返すのみ。しかし、その砲撃に乗っている感情は、防空埋護冬姫と同様に、特異点に対しての敵意と殺意に満ち溢れている。言葉数は少なくとも、思考は姉妹ということで全く同じと見てもいいだろう。
駆逐艦の素体になっているはずの埋護姉妹だが、その実、スペックは航空戦艦である。対空性能が異常に高いのは防空駆逐艦譲りだが、砲撃の威力も、艤装の耐久力も、何かもが戦艦と言えるモノ。しかも魚雷まで扱えるのだから、艦種詐欺と言っても過言ではない。
「厄介だなぁオイ!」
深雪が叫んでしまうのも無理はない。その砲撃の精度は非常に高く、深雪達は砲撃をする暇を与えられず、回避に専念させられることになる。
戦艦と同等な大型主砲にもかかわらず、小回りは駆逐艦と同様。次弾装填もやたらと速く、さらには姉妹の息も合っており、交互に撃ってくるために隙すら作られない。
また、吹雪の艦載機は次から次へと撃ち墜とされていき、あちらに対してダメージどころか近付くことすら出来ていなかった。
「当たらないのです……っ」
それだけならまだ良かった。電が回避の合間に放つ砲撃を、埋護姉妹は避けることなく、
そもそもの砲撃の威力が高すぎるくらいなので、砲撃に対して同じように砲撃を放てば、威力の高いあちらの砲撃の方が勝つ。それはもう仕方ないこと。
しかし、電の高精度な砲撃に対して毎度毎度同じようにぶつけるならば、あちらも同じように高精度でなければ話が繋がらないのだが、明らかにそうとは思えない動きから撃ち墜としていく。
「クソッ、ならあたしがっ」
電より精度は足りないが、威力はずば抜けて高い深雪の消し飛ばす砲撃。大人の深海棲艦の身体を手に入れたことで、その威力は更に上がり、咄嗟に動いて放ったとしても、その威力故に掠めるような位置を飛ぶ。
「甘い、甘いな魔王! 我々にそのような粗悪な攻撃は効きはせん!」
しかし、それすら回避することなく撃ち墜とした。回避すればいいだけの砲撃すらも。
それは、自分の力を誇示しているようにも見えるし、深雪達よりも上の力で心を折ろうとしているようにも見えた。
「……全自動なのかな。要らないのまで撃ち墜としたみたいだし。意識してない方に主砲が向いたね」
「なのです。深雪ちゃんの砲撃、あっちのヒト達をほとんど向いてなかったのに」
この僅かな違和感に気付けるのは、吹雪は勿論のこと電もである。電の確実に命中する砲撃は勿論のこと、少し近くに来ただけの砲撃すらも撃ち墜とすように見えたことで、2人はそれが技術ではなく能力……曲解であることに気付く。
深雪はその辺りは全て任せっきり。気付いてもらえるようなヒントを作るために、回避しながらもなるべく砲撃を放つことで、何がおかしいかを絞っていく。
「魔王と言えど、手段は我々と同じ! ならば問題なく対応出来るわ!」
「……砲撃の威力は高いようですが、それでも問題無いようですね。ならば、こちらの有利は揺るぎません」
吹雪も砲撃に紛れさせて艦載機を嗾しかけているのだが、それもやはり届かない。さも当然のように撃ち墜とされる。防空埋護冬姫が砲撃を墜とし、防空埋護姫が艦載機を墜とす、アイコンタクトのような合図すらしない連携。
しかし相変わらず、本来触れなくてもいいような艦載機まで墜とされたことで、その能力は2人とも同じではないかと判断する。敵の攻撃を自動的に墜とす力と考えていけば、
そして、そのタネにいち早く気付いたのは、電である。
「もしかして、
これなら辻褄は合う。埋護姉妹の意思に関係なく、その砲撃が届く範囲内、意識していれば、敵対するモノから放たれる全てのモノを、自動的に撃ち墜とす。
2人とも同じ力を持っているとすれば、その力で背中合わせに立つことで360度全てを網羅することが出来る。そして、その全てを撃ち墜とし、攻撃を一切合切寄せ付けなくする。
防空艦である姉妹の持つ能力、『防空』の曲解。空飛ぶモノ──
「だとしたら、近くでジャンプするとか止めた方がいいね。浮いてる判定されるかも」
「いや、そうそうそんなことは……っ」
と考えているうちに、埋護姉妹は魚雷を発射。ただの魚雷ならばまだ良かったのだが、これもまた2人が強力な深海棲艦であることを示すかのように、広範囲かつ非常に多くの魚雷が深雪に対して向かってきた。密集状態からして回避は非常に難しい。むしろ
つまり、あちらは深雪に対して『浮け』と言っている。そうなれば能力の範囲内に入るから。
「深雪ちゃん、少し下がってください!」
「衝撃は我慢してね」
それを電と吹雪が破壊していった。跳ばせないようにというのはなかなか厄介なことではあるのだが、深雪に下がらせながらも魚雷を的確に破壊していけば、大きなダメージを回避しながらもあちらの思惑通りには行かせなく出来る。
「っぶね! 悪い2人とも!」
「でもこれで確定したよ。跳んだらダメだよ。艦載機判定されるからね」
「あいよ。嫌な縛りかけられたなクソ」
魚雷の爆発で視界が封じられたものの、それは自動ではなく手動の砲撃で埋護姉妹が蹴散らした。そしてすぐに深雪を見据える。
「配下のおかげで助かったようだな。だが、毎度そう上手く行くと思うなよ!」
「こちらにも仲間はいますから」
そう言いながらも埋護姉妹が手を振るうと、新量産空母棲姫が量産し続けているイロハ級が次々とやってくる。ここで増援まで来てしまったら、回避が非常に難しくなるだろう。
しかも、その敵増援がよりによって増やされた戦艦レ級。その数3体。子供のような無邪気な笑みを携えたその深海棲艦は、3体同時に魚雷を放っていた。埋護姉妹の意思を汲み取っているのか、徹底して深雪を跳ばせようとする魂胆が見え見えである。
「こいつら、あたしを艦載機扱いしようとしてんのかよ!」
「そうすれば確実に斃せるからじゃないかな。させるわけがないけど」
その魚雷は吹雪が徹底的に破壊しつくす。砲撃と雷撃を織り交ぜて、一つの漏れもなく確実に。
しかし、そうしている間にイロハ級は次々と増えていく。こちらに回されるのは凶悪な上位種ばかりなのも厄介極まりない。
1体でも上位種がいれば、それを量産し続けられるのが、新量産空母棲姫の厄介なところ。船渠棲姫の『船渠』は一部ランダムなところがあるが、複製となれば話が変わる。
やはり魚雷性能に秀でているナ級も現れ、途端に戦場が魚雷に埋め尽くされるように。意地でも跳ばせよう、海面から足を離そうとしているのが見え見え。
自分達の能力を正しく理解しているところは評価出来るものの、ここまでしてくると評価よりも先に苛立ちが芽生える。
「ざけんな! お前らの思い通りになるわけがねぇだろうが!」
深雪すらも魚雷を砲撃で破壊するようになっていたが、その度に水柱が立ち、視界を塞いでいく。いくつもいくつも破壊していく内に、埋護姉妹の姿を見失うほどに爆発してしまっていた。
これは危ないと、深雪はすぐさま電の側に寄り、手を繋ぐ。電は息を呑んだものの、それが深雪のモノであることはすぐにわかったので、受け入れて引っ張られ、身を寄せるように砲撃を繰り返す。
「あたしは、ただ平和に暮らしたいだけだぞ。それをぶち壊しに来てるのはお前らだ。生きてるだけで害悪だとか言いやがってな。でもな、あたしはそんなことで歩みを止められるほど繊細じゃあねぇんだよ」
電を軽く抱き寄せた後、その手を銃のように構える。すると、指先から煙幕が湧き立ち、その手を覆い隠す程にまで膨れ上がる。
電もすぐに意図を察し、その手に自らの手を添えて願う。自分は深雪の増幅装置、その力を数倍に引き上げるため、今はその力を貸したいと。
瞬間、深雪の煙幕は更に膨れ上がる。身体を覆い尽くすのにも充分な程に。
「あたしの願いは、仲間が誰も傷つかないことだ!」
それは仲間思いの優しい願い。故に叶う。
膨れ上がった煙幕は壁のように拡がり、水飛沫を全て取り除いた。視界が一気に開け、魚雷も途端に深雪から離れていく。自らの、そして電の身を守るため、そこから移動せずとも攻撃は全て外れるようになった。
質量のある煙幕により、深雪の邪魔をするモノは全て取り除かれる。敵を攻撃するのではなく、自分と仲間を守るために。
その願いは叶い方を見て、吹雪は少しだけ驚いていた。願いの実と直接繋がっている自分と同等、むしろそれ以上の力が発揮されているようにも見えた。
それもそのはず、深雪には電という切っても切れない相棒がいるのだから。2人分の特異点の力は絶大だった。
「くっ……だが、今ならばこちらの方が数で有利だ! 魔王を斃すため、力を結集し」
「ならこっちも増援だよ☆」
埋護姉妹が叫ぶと同時に、周囲のナ級が爆散した。
「合流! 那珂ちゃん、次のステージ入りまーす!」
「ダンサー舞風も負けず劣らずステージイン! 踊るぞー!」
増援として現れたのは、合流予定だった那珂と舞風。その後ろからは妙高と三隈も追ってきていた。長門と清霜は現在補給中。それが終わればまた戦線に復帰する予定だ。
埋護姉妹との戦いは、人数差はあれども徹底して不利というわけでもない。悪い方向には進んでいない。